●個人再生とは何か?
●破産でなく個人再生を行うべき場合は?
●給与所得者再生とは?
●給与所得者再生の要件は?
●給与所得者再生の弁済金額は?
●給与所得者再生のメリット・デメリットは?
●給与所得者再生を検討すべき場合は?
というお悩みはありませんか?
このページでは,給与所得者再生の内容や要件,返済金額,小規模個人再生でなく給与所得者再生を検討すべき場合について解説します。
目次
個人再生とは
個人再生とは,債務整理を図る手段の一つであり,借金の減額を認めてもらった上で継続的な返済計画を立てる制度のことを指します。
個人が多額の借金を抱えている場合,債務超過の状態を解消するために用いる可能性のある裁判手続としては,「自己破産」と「個人再生」が挙げられますが,両者の間には大きな差異があります。
「自己破産」は,基本的に債務者が持つすべての財産を換価して債権者に配当し,残った債務を免責することで,経済的にまっさらな状態を作り出す手続と言えます。一方,「個人再生」は,債務者の財産を維持したまま,債務を大きく減額することで,減額後の債務を計画的に返済しながら債務者の経済的な債権を図る手続です。そのため,個人再生では債務者は経済的にまっさらな状態となるわけでなく,引き続き借金を返済し続けることが必要です。
ポイント
個人再生は,借金を減額してもらった上で,その継続的な返済計画を立てる制度
破産と異なり,手続終了後も借金の返済を継続する必要がある
破産でなく個人再生を行うべき場合
個人再生を行っても,破産と異なり借金は免責されないため,破産と個人再生を比較して個人再生をすべき場合が考えにくいようにも思えますが,破産より個人再生を選択すべき場合は存在します。
具体的には,以下のようなケースが挙げられるでしょう。
①借金の返済能力がある場合
自己破産をすると,必要最低限の財産を除き,全ての財産が処分されることになります。その引き換えに債務の免責が見込まれるわけですが,免責までは必要がない場合(=返済自体は継続可能である場合)は,免責よりも財産を失わないことを優先すべきケースもあるでしょう。
借金の返済能力がある場合には,個人再生に必要な再生計画を立てることも可能な場合が多いので,個人再生によって財産の確保をしたまま生活を立て直す手段が有力になるでしょう。
②マイホームがある場合
マイホームを持っている場合,自己破産だと異本的に処分する以外の手段はありません。マイホームは金銭に換価して,債権者への配当に回すべき財産(破産財団)に含まれるためです。
一方,個人再生の場合,住宅資金特別条項(いわゆる住宅ローン特例)を利用することによって,住宅ローンだけはそれまで通りの返済を続けながら生活を立て直すことが可能になります。マイホームを守る利益が大きい場合には,個人再生を選択するのが合理的でしょう。
③免責不許可事由がある場合
自己破産は,最終的に債務の免責を獲得することが最大の目的になります。そのため,自己破産したものの免責されないのでは,自己破産を選択するメリットはほとんどなくなってしまいます。
この点,免責不許可事由がある場合は原則として免責が認められないため,個人再生を選択する方が合理的な場合が多くなるでしょう。
典型例は,ギャンブルが原因で借金に苦しんでいるという場合です。ギャンブルを原因とする債務負担は免責不許可事由に該当するため,自己破産しても免責されない恐れが大きく残ります。そこで,選択が可能な状況であれば個人再生を選択することが有益になりやすいと考えられます。
④資格ある職業の場合
自己破産(得に管財事件)の場合,破産手続開始決定の時点で一定の職業や資格に制限が生じます。士業や金融機関の役員,登録や免許が必要な職業など,その対象は多岐に渡るため,資格ある職業に従事している場合は注意が必要です。
この点,個人再生の場合は,手続中も資格制限が生じません。そのため,仕事への影響なく経済的な立ち直りが可能になるという利点があるのです。
資格ある仕事を継続しながら計画的な借金返済を希望したい場合は,個人再生を選択すべきでしょう。
なお,破産手続開始決定によって資格制限が生じたとしても,同時廃止決定や免責許可決定がなされた場合など,一定の条件を満たせば資格制限はなくなります(復権)。
⑤注意点
上記の各条件を満たす場面では,自己破産より個人再生を選択するメリットの大きい可能性が見込まれやすいです。ただし,同時廃止されるような自己破産とは異なり,手続はより詳細で厳密なものになるため,必要な費用は大きく,期間は長くなりやすいということにはあらかじめ留意しておくのが適切でしょう。
ポイント 破産より個人再生すべき場合
返済能力があり,財産を守りたい場合
マイホームがある場合
ギャンブルで借金を作った場合
資格を失いたくない場合
給与所得者再生とは
給与所得者再生は,小規模個人再生と並ぶ個人再生手続の一つで,安定した収入を見込める給与所得者に限り利用することのできる制度です。
小規模個人再生と給与所得者再生を極めて単純に比較した場合,以下のような内容になるでしょう。
小規模個人再生と給与所得者再生の簡単な比較
小規模個人再生
=収入の条件が優しく,借金の減額幅が大きいが,債権者が反対するとできない場合がある
給与所得者再生
=収入の条件が厳しく,借金の減額幅は小さいが,債権者の反対があってもできる
相違点 | 小規模個人再生 | 給与所得者再生 |
収入条件 | 〇優しい | ×厳しい |
借金の減額幅 | 〇大きい | ×小さい |
債権者の反対 | ×影響し得る | 〇影響しない |
給与所得者再生は,小規模個人再生よりも対象者が限られていますが,決して条件がいい(優先して利用したい)手続ではありません。イメージとしては,小規模個人再生が選択できない場合に,給与所得者にだけいくらか条件の悪い個人再生手続が残されている,といったところでしょう。
個人再生ができず財産を差し押さえられたり自己破産を強いられたりするよりも,給与所得者再生をした方が有益である,という意味合いのものと考えられます。
ポイント
給与所得者再生は,小規模個人再生ができない場合の受け皿的手続
給与所得者に限り,いくらか条件の悪い個人再生手続がもう一つ残されているという位置づけ
給与所得者再生の要件
給与所得者再生の基本的な要件は,小規模個人再生との比較で確認すると明快でしょう。
①収入・支出の条件
収入面の条件として,小規模個人再生と給与所得者再生に共通する要件は以下の3つです。
共通する要件
1.支払不能のおそれがあること
2.継続した収入の見込みがあること
3.住宅ローン以外の借金総額が5,000万円以下であること
小規模個人再生の場合は上記のみですが,給与所得者再生ではさらに以下の2つの要件が必要となります。
給与所得者再生に特有の要件
4.収入の変動幅が小さいこと
→過去2年間の収入に20%以上の変動があると利用できません。
5.過去7年以内に個人再生手続やハードシップ免責(※)を申し立てていない
→直近に再生手続を行った事実のないことが必要です。
※ハードシップ免責
再生計画の認可後,事情の変更によって計画通りの返済が困難になった場合,返済金額の4分の3以上を返済済みであれば,残りの借金の支払義務を免除してもらえる制度
給与所得者再生に特有のこれらの要件は,給与所得者であるにもかかわらず安定した収入がない場合に再生手続を認めない,という趣旨のものです。
給与所得者再生は,給与所得者が安定した収入を継続して獲得することに注目し,収入の安定した給与所得者に限って個人再生手続(=継続返済による経済的立ち直り)を認めたものです。そのため,上記「4」及び「5」の要件を満たさないような不安定な経済状況の場合には,対象とするべきでないという制度になっています。
②職業形態
給与所得者再生は,その名の通り給与所得者に限り利用できる制度です。
一方,小規模個人再生の場合,個人であれば給与所得者でも事業所得者でも利用が可能です。給与所得者のみ両方利用できる,という制度になっています。
③債権者の賛成
小規模個人再生は,債権者の賛成多数でないと再生計画が認可されません。具体的には,以下のような要件があります。
小規模個人再生における再生計画案の可決条件
①反対する債権者数が全体の2分の1以下であること
②反対する債権者の債権総額が全体の2分の1以下であること
(①と②の両方を満たすことが必要)
一方,給与所得者再生にはこのような債権者に関する要件がありません。大口債権者の反対が見込まれる場合には,小規模個人再生でなく給与所得者再生を選択する手段が有力になります。
ポイント 給与所得者再生の要件
収入の安定が必要
職業は給与所得者のみ
債権者の賛成が不要
給与所得者再生の弁済金額
給与所得者再生の弁済金額は,以下の3つのうち最も大きい金額となります。
給与所得者再生の弁済金額
①最低弁済額
②清算価値
③可処分所得の2年分
①最低弁済額
最低弁済額とは,個人再生手続で借金を縮減してもらったとしても,最低限返済しなければならない金額として法律が定めた金額です。具体的には,借金の総額に応じて以下の通り定められています。
最低弁済額の一覧
借金総額 | 最低弁済額 |
100万未満 | 全額 |
100万円以上 500万円未満 | 100万円 |
500万円以上 1,500万円未満 | 借金の総額の5分の1 |
1,500万円以上 3,000万円未満 | 300万円 |
3,000万円以上 5,000万円未満 | 借金の総額の10分の1 |
最低弁済額は,最低額を100万円とし,借金の総額が大きいほど減額幅が大きくなる形が取られています。借金額が限定的な場合は5分の1,借金額が大きい場合は10分の1に減額されることとなります。
②清算価値
清算価値とは,必要最低限の財産以外のものをすべて処分した時に得られる金額を言います。まさに,手持ちの財産を清算したときの価値,ということですね。
③可処分所得の2年分
可処分所得とは,いわゆる手取りの給料から最低限の生活費を差し引いた金額を指します。言い換えれば,給与総額から税金や保険料などを差し引き,さらに最低限の生活費を除いた残額ということになります。
個人再生前の可処分所得の2年分を基準とするのがこの弁済金額です。
一般的な計算方法は,以下の通りです。
可処分所得2年分の計算方法
{(「2年分の収入」-「2年分の税金等」)÷2-「1年分の生活費」}×2
つまり,2年分の収入から2年分の税金などを引いたものを半分にして1年分の「収入-税金等」の平均を出し,その金額から1年分の生活費を引けば1年分の可処分所得が計算できるため,これをさらに2倍する,ということになります。
④金額の比較
①最低弁済額,②清算価値,③可処分所得の2年分の3つを比較すると,一般的には以下のような大小関係になりやすいです。
弁済金額3基準の一般的な比較
高額
「③可処分所得の2年分」
「①最低弁済額」
「②清算価値」
低額
例えば,1,000万円の借金がある年収450万円の給与所得者の場合,計算の一例としては以下のような内容が考えられます。
例:借金1,000万円,年収450万円の独身男性の場合(めぼしい財産はない)
「③可処分所得の2年分」
={(「2年分の収入」-「2年分の税金等」)÷2-「1年分の生活費」}×2
≒{(900万円-200万円)÷2-「200万円」}×2
=150万円×2
=300万円
「①最低弁済額」
=1,000万円×1/5
=200万円
「②清算価値」
必要最低限の財産しか有していなければ,ほぼゼロとなるでしょう。
【金額の比較】
高額
「③可処分所得の2年分」=300万円
「①最低弁済額」=200万円
「②清算価値」=0円
低額
なお,借金額が非常に大きかったり,扶養家族が多いため生活費が大きかったりすると,「③可処分所得の2年分」が「①最低弁済額」を下回る可能性も否定はできないところです。
小規模個人再生と給与所得者再生の優先関係
個人再生手続である小規模個人再生と給与所得者再生は,一定の給与所得者であればいずれも選択可能であることが多く見られますが,一般的には小規模個人再生を優先して選択すべきと考えられます。
その最大の理由は,弁済金額の点で小規模個人再生の方が有利であるためです。
給与所得者再生の弁済金額は,以下のいずれかのうち最も大きい金額でした。
給与所得者再生の弁済金額(①~③のうち最も大きい金額)
①最低弁済額
②清算価値
③可処分所得の2年分(最も高額になりやすい)
一方,小規模個人再生の弁済金額は以下の通りです。
小規模個人再生の弁済金額の弁済金額(①~②のいずれか大きい金額)
①最低弁済額
②清算価値
つまり,小規模個人再生では,「③可処分所得の2年分」が弁済金額とされないため,その分弁済金額が小さくなる可能性があるわけです。もっとも,「①最低弁済額」が「③可処分所得の2年分」より大きい場合,いずれの手続でも弁済金額は最低弁済額になりますが,どちらの手続でも同額になるというだけであり,給与所得者再生の方が有益ということにはなりません。
給与所得者再生のメリット
給与所得者再生の最大のメリットは,債権者の反対があっても利用できるという点にあります。小規模個人再生は債権者の反対が多数だと利用できないため,この点が給与所得者再生の特徴的な利点と言えるでしょう。
そのため,給与所得者再生のメリットが現れるケースとしては,以下のような場合が考えられます。
給与所得者再生のメリットが現れるケース
過半数の債権者から個人再生手続を反対されている
最も大口の債権者から個人再生手続を反対されている
給与所得者再生のデメリット
小規模個人再生と比較した給与所得者再生のデメリットを列挙すると,以下の通りになるでしょう。
給与所得者再生のデメリット(小規模個人再生との比較)
1.弁済額が高額になりやすい
2.収入の要件が厳しい(収入の安定が必要)
3.給与所得者しか利用できない
以上のデメリットが具体的に意識される場合は,まず小規模個人再生の利用を検討するのが有益ということになります。
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給与所得者再生は,一定の給与所得者が利用できる個人再生手続です。
もっとも,小規模個人再生と比較して債務者にとって有利であることはあまり想定されないため,個別のケースで本当に給与所得者再生が適切であるかどうかは,専門的な知識・経験を持った弁護士との十分なご相談をお勧めいたします。
さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,借金問題に精通した弁護士が迅速に対応し,円滑な解決に向けたお力添えをすることが可能です。
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