●管財事件とは何か?
●どんな場合に管財事件になるか?
●管財事件の流れは?
●少額管財事件とは何か?
●管財事件を避ける方法は?
●管財事件になる場合は弁護士に依頼すべきか?
というお悩みはありませんか?
このページでは,自己破産で管財事件となる場合についてお困りの方に向けて,管財事件の内容や基準,手続の流れや弁護士依頼の要否などを解説します。
目次
管財事件とは
管財事件とは,自己破産における手続の一つで,破産管財人が選任されて債権者への財産処分(配当)などが行われる場合を指します。
管財事件と対になる手続が同時廃止ですが,同時廃止の場合,債権者に配当するような財産が存在しないため,破産管財人は選任されず,破産手続は開始決定と同時に廃止(終了)することとなります。
一方,破産者(債務者)は債権者に対する一定の支払義務があるのですから,支払に充てられるような財産があるのであれば,同時廃止することは不適切であり,その財産から少しでも債権者への支払をすべきです。このように,主に債権者への配当が問題となる場合に用いられる破産手続が,管財事件と呼ばれるものです。
一般に,管財事件は解決までに要する期間が長く,費用負担も大きいため,破産者目線では可能であれば選択したくない手続と言えます。もっとも,法律上同時廃止の余地がない場合には,管財事件として進める必要があるところです。
ポイント
管財事件は,主に債権者への財産の配当が発生する破産手続
破産者目線ではできれば選択したくない手続ではあり,同時廃止の方が有益
管財事件になる場合
同時廃止とは出来ず管財事件となる場合としては,以下のようなケースが挙げられます。
①一定の財産を持っている場合
債権者に配当すべき財産があるケースです。具体的には,33万円以上の現金,又は20万円以上の価額になる財産がある場合がこれに該当します。
なお,財産が20万円以上かどうかは,売却価格が20万円以上となるかが基準とされます。また,20万円以上の財産であるかは財産ごとに判断されます。財産には,不動産,自動車,保険の解約返戻金,退職金,貸金などがありますが,それぞれの金額を個別に評価することとなります。
②免責不許可事由がある場合
免責不許可事由とは,自己破産の後も債務を免除すべきでない事情を言います。債務者側に不誠実・不合理な行為があり,債務を免除するのが債権者との間で不公平になってしまう場合には,債務を免除せず返済を続けさせるというものです。
現在の裁判実務では,この免責不許可事由に該当することが明らかな場合や,免責不許可事由があるか不明な場合には,管財事件とされます。これは,免責を認めるかどうかを破産管財人に調査・判断させるためです。
免責不許可事由がある場合,免責を認めるかどうかは「裁量免責」するかどうかという判断になります。裁量免責は,文字通り裁量で免責にする,というものです。もっとも,裁量的に免責としてもよいかは,同時廃止のような簡素な手続では判断できないため,裁量免責が問題となるケースは管財事件とされるのです。
③法人代表者又は個人事業主の場合
法人代表者や個人事業主の場合,個人所有の財産のみでなく,事業における売掛金や買掛金などの債権債務を多数有しているのが通常です。そのため,法人代表者や個人事業主の場合は,債権者や債権債務を正しく調査する必要があり,管財事件とされるのが原則となります。
もっとも,形式は個人事業主であるものの,実態は会社員などの給与所得者と変わらない場合,同時廃止となる場合もあります。破産管財人を選任して財産調査を行う必要がないためです。
ポイント 管財事件になるケース
一定の財産があり,債権者へ配当すべき場合
免責不許可事由があり,裁量免責の検討が必要な場合
事業に関する債権債務の調査が必要な場合
管財事件の流れ
管財事件の基本的な流れは以下の通りです。
管財事件の基本的な流れ
1.破産手続の申立て
→必要な書面を裁判所に提出します。
2.裁判所の審査,裁判官の面接
→裁判所が申立ての内容を確認し,破産手続ができるか判断します。
3.破産手続開始決定
→裁判所の確認が済むと,破産手続が始まります。
4.破産管財人の選任・予納金の納付
→破産者の財産を管理・処分するための担当者である破産管財人が選任されます。
管財人の報酬等に充てるため,一定の予納金を納める必要があります。
5.財産の調査・処分
→破産管財人が財産を確認し,適切に処分します。
申立人には管財人から指示がなされたり,面接を求められたりするため,必要な協力をしましょう。
6.債権者集会
→破産管財人による調査結果や財産状況の説明がなされます。
7.免責審尋
→残った債務を免れさせる(免責する)かどうかの判断がなされます。
8.免責許可決定
→免責審尋で問題のないことが確認できれば,免責が許可されます。
管財事件は,一連の手続に半年以上の期間を想定するケースが多く見られます。申し立ての準備期間にも半年前後の期間を要する例が多いため,全体で1年ほどの期間がかかる手続と見込むのがよいでしょう。
管財事件となった場合の制限
管財事件の対象となった場合,自分の財産は破産管財人が管理・処分するものとなるため,これに伴う諸々の制限が生じます。
具体的には,以下のような内容が挙げられます。
①財産の管理・処分
管財事件では,基本的にすべての財産の管理・処分に関する権限が破産管財人に移るため,自分で勝手に財産を利用したり処分したりすることはできません。
もっとも,差押禁止財産や現金(99万円以下の現金)は,「自由財産」に該当し,文字通り自由な財産に当たるため,自己判断で管理・処分が可能です。「自由財産」の制度は,破産後に生活を継続していけるよう,最低限の財産を管財人の管理外とするものです。
また,自由財産は,破産管財人及び裁判所が認めることで拡張することも可能です。例えば,自動車を運転できなければ生活が成り立たない場合,安価な自動車であれば自由財産の拡張が認められ,継続利用できる場合があり得ます。
②郵便物の制限
債務者宛ての郵便物は,破産管財人に転送されることとなります。これは,債務者の申告していない債権者の有無や把握できていない財産の有無を確認したり,破産手続の妨害行為がなされていないかを監視するための措置です。
この郵便物に関する制限は,破産手続が終了するまで継続することになります。
ただし,速やかに債務者自身が受け取らなければ不利益の生じる可能性がある郵便物は,破産管財人の判断で個別に直接受領できる場合もあります。各種料金の支払いに関する請求書面などが一例です。
③転居制限
管財事件となった後は,破産手続が終了するまで,裁判所の許可なく転居することができません。やむを得ず転居が生じる場合は,事前に裁判所へ理由を告げ,許可を得る必要があります。
④旅行の制限
海外旅行を含む遠方への旅行についても,転居と同じく裁判所の許可が必要です。転居の場合と同じく,事前に裁判所の許可を得ていれば,行うこと自体は可能です。
⑤職業・資格の制限
破産手続開始の決定を受けた場合,手続が終わるまでの間,一定の資格や職業を継続することができなくなります。制限の生じる職業としては,以下のようなものが挙げられます。
破産手続開始決定による職業制限の例
1.一定の士業
→弁護士,公認会計士,司法書士,社会保険労務士など
2.金融機関等の役員
→日本銀行役員,銀行の取締役,協同組合の役員など
3.公的な委員会の委員
→公正取引委員会の委員,教育委員会の委員など
4.登録や免許を要する職業
→宅地建物取引主任者の登録,貸金業の登録,酒類の販売免許など
5.一定の事業の許可
→建設業許可,廃棄物処理業許可,風俗営業許可等
なお,破産手続開始決定を理由に制限された職業や資格は,破産手続が問題なく終了すればその後に取り戻すことが可能です。これを「復権」と言います。
復権の方法には,法律上当然に復権する「当然復権」と,破産者の申立てによって復権する方法のいずれかがあります。免責許可決定がなされれば当然復権の要件を満たすため,免責不許可とならない限りは免責許可決定の確定により復権することになります。
少額管財事件とは
少額管財事件とは,少額の予納金で実施することのできる管財事件を指します。
そもそも,予納金とは,管財事件に際して破産管財人の報酬等に充てるための金銭であり,債務者が負担する必要のあるものですが,一般的な管財事件の予納金は,以下のような水準とされています(東京地裁民事第20部の場合)。
負債総額 | 法人 | 個人 |
5000万円未満 | 70万円 | 50万円 |
5000万円~1億円未満 | 100万円 | 80万円 |
1億円~5億円未満 | 200万円 | 150万円 |
5億円~10億円未満 | 300万円 | 250万円 |
10億円~50億円未満 | 400万円 | 400万円 |
50億円~100億円未満 | 500万円 | 500万円 |
100億円~ | 700万円~ | 700万円~ |
したがって,個人の破産でも最低で50万円の予納金が必要になる,ということになります。この負担は決して無視できません。
この点,少額管財事件となった場合の予納金は,20万円程度になることが見込まれます。少額管財事件という名の通り,予納金は劇的に減額されることとなります。
もっとも,少額管財事件の対象となるのは,弁護士に依頼をし,弁護士が代理人として申し立てた場合のみです。少額管財事件で予納金を低額に抑えることができるのは,代理人の弁護士が必要な作業の一部を代わりに行うことを前提にしているからであり,弁護士に依頼していなければ少額管財事件とすることができないのです。
そうすると,弁護士費用の負担も別途発生することになりますが,弁護士費用が掛かるから少額管財事件を諦める,という判断をするメリットはほとんどないでしょう。
それは,少額管財事件は通常の管財事件より手続が簡潔であり,早期に終了することが通常であるためです。また,弁護士費用と少額管財事件の予納金を合計した金額は,通常の管財事件の予納金を大きく上回ることが考えにくいので,経済的にも少額管財事件を目指す方が合理的です。
ポイント 少額管財事件
予納金が少額で済む管財事件
手続も簡潔となり早期に終了しやすい
弁護士に依頼していることが条件
管財事件を避ける方法
自己破産の場合,債務者目線では可能な限り管財事件とすることは回避したいと考えるところです。そこで,管財事件を回避する方法を事前に把握しておくことは非常に重要でしょう。
①ギャンブルによる借金を作らない
ギャンブルによる借金を理由とした破産の場合,免責不許可事由に該当するため,原則として管財事件となることが避けられません。
もともとがギャンブルによる借金の場合は避けようがないケースもあり得ますが,ギャンブルと無関係の借金に悩んでいる場合に,加えてギャンブルに手を出すメリットは皆無と言えます。
②偏頗弁済をしない
偏頗弁済とは,特定の債権者だけに優先して弁済を行うことを指します。偏頗弁済は債権者間の公平を損なう行為であって,偏頗弁済によって破産を強いられた債務者を免責するのは不合理であるため,偏頗弁済は免責不許可事由に該当します。
やはり,免責不許可事由があれば管財事件となってしまうため,決して特定の債権者への優先的な返済はしないようにしましょう。
なお,偏頗弁済は犯罪行為でもあります。現実に刑罰が科されるケースは非常に限定的ですが,それほどの重大性ある行為ということは踏まえておくのが適切です。
③価額の大きな財産を取得しない
20万円以上の財産がある場合,同時廃止にはできず,債権者への配当のため管財事件とする必要が生じます。そのため,大きな借金をして高額の財産を購入した,という場合には同時廃止となることは考えにくいでしょう。
不合理に価額の大きな財産を取得する行為は,自ら同時廃止の可能性を放棄することになりかねないため,基本的に避けるべきでしょう。
④弁護士に相談する
個別のケースで,管財事件となりやすいか同時廃止となり得るかは,専門的な判断が必要になりやすいでしょう。また,同じ状況でも,やり方によっては同時廃止とすることができたり管財事件になってしまったりする場合があります。
個別具体的な判断が難しい場合は,破産事件に精通した弁護士へのご相談をお勧めします。
管財事件は弁護士に依頼すべきか
管財事件となる破産事件は,基本的に弁護士へ依頼すべきでしょう。
その最大のメリットは,少額管財事件になる可能性がある,という点です。管財事件となることが避けられない場合には,少しでも短期間かつ少額で終了する少額管財事件での破産を目指すべきです。
少額管財事件とするには代理人弁護士の存在が不可欠ですから,弁護士への依頼が非常に有益であることがよく分かります。
また,場合によっては管財事件とならず同時廃止事件となる余地が見つかることもあり得ます。同時廃止事件となれば,解決のスピードや解決に要する負担が劇的に改善するため,弁護士に依頼の上で同時廃止事件となる可能性をできる限り模索することは有力な手段でしょう。
借金問題に強い弁護士をお探しの方へ
管財事件となるケースは,財産や負債の関係が複雑である場合が多く,自身で適切な対応を尽くすのは至難の業と言えます。円滑な再出発のためにも,弁護士を通じた破産の試みが適切でしょう。
さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,借金問題に精通した弁護士が迅速に対応し,円滑な解決に向けたお力添えをすることが可能です。
お困りごとの際は,ぜひお気軽にご相談ください。
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