●寄与分とは何か?
●寄与分が生じるのはどのような場合か?
●寄与分が生じる場合の計算方法は?
●寄与分が生じた結果,遺留分が侵害されてもいいのか?
●寄与分に関する争いを防ぐ手段はあるか?
というお悩みはありませんか?
このページでは,相続の寄与分でお困りの方に向けて,寄与分の意味や計算方法,遺留分との関係やトラブル予防の手段などを解説します。
目次
寄与分とは
寄与分とは,相続人の中で被相続人の財産の維持または増加に特別の貢献をした者がいる場合,その貢献分を考慮して相続財産を分割する制度をいいます。
相続財産の増加に貢献した者がいる場合,その貢献を無視して機械的に相続分を計算するのは,かえって不公平な結果になってしまうため,寄与分として考慮することによって各人の公平を図ることとしています。
寄与分が生じる場合①相続人の一部の寄与分
共同相続人の中に,財産の維持や増加について特別の寄与をした者がいる場合,寄与した分だけその者の相続分を法定相続分より有利な金額にすることができます。この相続人の寄与分を指して「寄与分」ということが通常です。
寄与分が生じる場合②相続人以外の特別寄与料
2019年7月の民法改正によって,相続人以外の親族が相続財産の増加や維持に貢献した場合,その者が相続人に寄与分を請求できる制度が創設されました。寄与をした親族のことを「特別寄与者」,特別寄与者が請求できる金銭を「特別寄与料」と言います。
相続人の寄与分は,あくまで相続人のみを対象としたものであるため,相続人でない親族がどれだけ被相続人のために尽くしていたとしても,寄与分を得られないという問題がありました。
例えば,被相続人である高齢の父が,生前に息子の妻から献身的な介護を受けていたとしても,息子の妻は相続人でないため,寄与分を受領できる地位になかったのです。
そこで,特別寄与料の制度が設けられ,相続人でない親族にも貢献度に応じた公平な相続の余地が生まれました。
なお,特別寄与料の対象となる「親族」は,民法上の親族と同様であり,具体的には以下の通りです。
親族の範囲
1.6親等内の血族
2.配偶者
3.3親等内の姻族
(注意点)
a.血族とは「血縁関係にある者(養親子関係を含む)」をいいます。
b.姻族とは「配偶者の血族又は血族の配偶者」をいいます。
c.直系親族の親等は,血族間の世数を数えます。
d.傍系(共通の祖先がいる)親族間の親等は,共通の祖先までの世数と共通の祖先から下る世数を合算します。例えば,兄弟姉妹は「親まで遡る1親等」+「親から下る1親等」=2親等の血族です。
e.姻族の親等は,配偶者の親等と同一です。例えば,配偶者の甥や姪は,配偶者にとって3親等の血族(「親まで遡る1親等」+「親から下る2親等」)であるため,自分にとっては3親等の姻族となります。また,自分の甥や姪は,自分にとって3親等の血族であるため,甥や姪の配偶者は,配偶者である甥や姪を基準に3親等の姻族となります。
寄与分が生じる場合③遺言で分割内容が決定しない
遺言で遺産の配分がすべて決まっている場合,寄与分が生じる余地はありません。寄与分は相続分の問題(遺言で相続割合が決まっていない場合の問題)にとどまるため,仮に寄与分があったとしても遺言の内容に従うほかないということになります。
なお,本当に寄与分が生じており,被相続人が遺言を残しているのであれば,通常は寄与分を考慮した遺言となっているはずでしょう。遺産相続は,被相続人の意思に沿って行うのが大原則です。
寄与分の計算方法
相続人の一部に寄与分がある場合,各相続人の相続分は以下のステップで計算します。
1.みなし相続財産の計算
→相続財産から寄与分を控除した金額を「みなし相続財産」と言います。
2.各相続人の法定相続分を計算
→みなし相続財産を各相続人の法定相続分に応じて分ける方法で,各相続人の相続分を計算します。
3.寄与分の加算
→寄与分のある相続人についてのみ,計算された相続分に寄与分を加算した金額を相続分とします。
(例)
遺産総額5,000万円,相続人は配偶者と子2名(長男・次男),長男のみ1,000万円の寄与分がある場合
1.みなし相続財産の計算
遺産総額:5,000万円
寄与分:長男の寄与分1,000万円
みなし相続財産
→5,000万円-1,000万円=4,000万円
2.各相続人の法定相続分を計算
配偶者の法定相続分:2,000万円(4,000万円×1/2)
子2人の法定相続分:各1,000万円(4,000万円×1/2×1/2=1,000万円)
3.寄与分の加算
配偶者の相続分:2,000万円
長男の相続分:2,000万円(1,000万円+1,000万円)
次男の相続分:1,000万円
寄与分が遺留分を侵害した場合の解決方法
寄与分が非常に大きい場合,寄与分が生じたために遺留分が侵害されるという可能性もあり得ます。例えば,以下のようなケースです。
(例)
遺産総額5,000万円,相続人は配偶者と子2名(長男・次男),長男のみ3,000万円の寄与分がある場合
1.みなし相続財産の計算
遺産総額:5,000万円
寄与分:長男の寄与分3,000万円
みなし相続財産
→5,000万円-3,000万円=2,000万円
2.各相続人の法定相続分を計算
配偶者の法定相続分:1,000万円(2,000万円×1/2)
子2人の法定相続分:各500万円(2,000万円×1/2×1/2=500万円)
3.寄与分の加算
配偶者の相続分:1,000万円
長男の相続分:3,500万円(500万円+3,000万円)
次男の相続分:500万円
4.各人の遺留分(詳細はこちらの記事を参照)
配偶者の遺留分:1250万円(5,000万円×1/2×1/2)
長男の遺留分:625万円(5,000万円×1/2×1/2×1/2)
次男の遺留分:625万円(5,000万円×1/2×1/2×1/2)
上記の例の場合,配偶者と次男の相続分は遺留分を下回っているため,配偶者の遺留分が250万円,次男の遺留分が125万円侵害されている状況に至っています。
しかしながら,このような結論になることは,少なくとも法律上は特に問題ありません。遺留分を侵害する寄与分生じてはならない,というルールが存在しないためです。
もっとも,現実に寄与分の金額を決定する際には,他の相続人の遺留分を考慮に入れて行うべきであり,裁判例でも同様の指摘をしたものがあります。そのため,現実的に遺留分を侵害するほど高額の寄与分が生じることはほとんどないでしょう。
寄与分の争いを防ぐ方法①遺言の作成
相続開始後に寄与分の争いを防ぐための最も端的な対策は,遺言を作成することでしょう。
寄与分は,その金額が明確に定めづらく,寄与分を有するはずの相続人や特別寄与料を請求できるはずの親族にとっても,請求の負担が大きくなりがちです。そこで,被相続人としては,貢献度の高い親族への配慮として,遺言で寄与分を加味した遺産の配分を決定することが適切になるであろうことが想像に難くありません。
もっとも,遺言の作成に際しては,内容面で遺留分等に配慮しなければならないほか,形式を誤れば全体が無効にもなりかねません。そのため,具体的な作成方法,内容については弁護士への十分な相談が望ましいでしょう。
寄与分の争いを防ぐ方法②生前贈与
生前贈与とは,文字通り被相続人が自身の生前に贈与を行うことです。多くの場合,被相続人が生前の感謝を込めて,特定の人物に自己の財産を贈与するときに用いられます。
ただ,生前贈与は贈与税の問題が生じるほか,金額によっては遺留分侵害の問題にもなりかねず,慎重な検討が必要な問題です。具体的な生前贈与の検討に際しては,こちらも弁護士へのご相談をお勧めいたします。
相続問題に強い弁護士をお探しの方へ
寄与分は,過去に貢献した相続人や親族のための制度ですが,他の相続人からは分かりづらい場合もあり,争いになることも少なくありません。
金額計算も容易でなく,相続人間の紛争も大きくなりやすいため,寄与分が想定される遺産分割については,相続問題に精通した弁護士へのご相談が適切でしょう。
さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,相続問題に精通した弁護士が迅速に対応し,円滑な解決を実現するお力添えが可能です。是非お気軽にご相談ください。
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