●遺留分とは何か?
●遺留分が問題になるのはどんな場合か?
●遺留分侵害額請求とはどうすればいいか?
●遺留分の主張をする期間の制限は?
というお悩みはありませんか?
このページでは,相続における遺留分の問題でお困りの方に向けて,遺留分の内容や問題になる場面,遺留分の主張をする方法や注意点などを解説します。
目次
遺留分とは
遺留分とは,一定の相続人に法律上認められた最低限の取り分のことをいいます。
被相続人は,遺言によって相続財産の分割方法を定めることができ,また生前贈与や遺贈という方法で相続財産を他者に渡すこともできますが,このような被相続人の希望によっても,遺留分を侵害することはできず,遺留分を侵害された相続人は取り戻すことが可能です。
もっとも,遺留分は,一定の相続人の生活を保障するための最低限の取り分にとどまるため,遺留分が得られる権利者やその割合は限定されています。
遺留分が問題になる場合
①遺留分の権利者
法律で相続人としての地位が認められているのは,①配偶者,②子,③直系尊属,④兄弟姉妹ですが,そのうち遺留分権利者は①配偶者,②子,③直系尊属のみです。④兄弟姉妹は,法定相続人ではあるものの遺留分を有しません。
もっとも,直系尊属に法定相続分が生じるのは,子がいない場合のみです。そのため,子がいる場合には直系尊属に法定相続分がなく,最低限保障すべき遺留分もありません。
遺留分が問題になるのは,配偶者,子,直系尊属のうち,法定相続分がある者の遺留分が侵害された場合,ということになります。
②遺留分の割合
遺留分の割合は,二段階の計算で特定する必要があります。
遺留分の割合を計算する二つの段階
1.総体的遺留分
2.個別的遺留分
1.総体的遺留分
相続財産全体のうち遺留分の対象となるのはいくらか,という問題です。この総体的遺留分は,誰が相続人になるのかによって変わります。
a.直系尊属のみが相続人の場合
→親や祖父母といった直系尊属のみが相続人の場合,総体的遺留分は相続財産全体の3分の1となります。
b.「直系尊属のみが相続人の場合」以外の場合
→配偶者や子が相続人である場合(配偶者と直系尊属が相続人の場合も含む),総体的遺留分は相続財産全体の2分の1となります。
2.個別的遺留分
個別的遺留分は,それぞれの相続人の遺留分を指します。これは,総体的遺留分のうち,それぞれの相続人がどれだけの割合を遺留分として有するのか,という問題です。
この点,個別的遺留分は,総体的遺留分に各相続人の法定相続分を掛け合わせる方法で算出されます。つまり,総体的遺留分を相続財産全体と見立て,法定相続分に応じて分け合うような形をとっているわけですね。
3.遺留分の簡易な計算方法
各々の遺留分は,基本的に「法定相続分の半分」と理解することが可能です。ただし,相続人が直系尊属のみである場合だけは,「法定相続分の3分の1」ということになります。
4.遺留分一覧
法定相続人 | 総体的遺留分 | 配偶者 | 子 | 直系尊属 |
配偶者のみ | 1/2 | 1/2 | ||
配偶者と子 | 1/2 | 1/2×1/2=1/4 | 1/2×1/2=1/4 | |
配偶者と直系尊属 | 1/2 | 1/2×2/3=1/3 | 1/2×1/3=1/6 | |
配偶者と兄弟姉妹 | 1/2 | 1/2 | ||
子のみ | 1/2 | 1/2 | ||
直系尊属のみ | 1/3 | 1/3 | ||
兄弟姉妹のみ | なし |
なお,子と直系尊属の遺留分は,同じ立場の人が複数人いる場合,上記の割合をさらに均等割りすることになります。例えば,「子のみ」の場合,遺留分は1/2ですが,子が2人いればそれぞれの子の遺留分は1/4ずつとなります。
遺留分侵害額請求とは
遺留分権利者は,自身の遺留分が侵害されている場合に,これを取り戻すことが可能です。遺留分権利者が侵害された自分の遺留分を取り戻す請求を,「遺留分侵害額請求」といいます。
生前贈与や遺贈によって遺留分が侵害されていれば,遺留分侵害額請求によって,遺留分が侵害された限度でその損害額を金銭賠償するよう求めることができます。
(例)
相続財産1,000万円,相続人は子がA,Bの2名のみである場合
遺言でAの相続分900万円,Bの相続分100万円と定められていたとき
A,Bともに遺留分は250万円あるため,遺言によって遺留分が150万円侵害されている
→BがAに対して150万円の支払いを求める遺留分侵害額請求が可能
遺留分侵害額請求の方法 ①協議
遺留分侵害額請求の方法は裁判手続に限定されていません。そのため,まずは当事者間での協議を試み,直接の解決を試みるのが最も円滑です。
相手に遺留分の侵害があることを伝えた上で,支払の意思があるかを確認するのが適切でしょう。
協議で解決ができる場合は,その解決内容を書面に残しておくことが適切です。遺留分侵害額請求は,請求された相手にとってはメリットのない話であるので,解決内容を相手に守らせるためには相手を強制させられるような書面の裏付けがあるべきでしょう。
念を押す場合は,公正証書の形で書面化することも有力です。適切な方法で公正証書を作成すれば,相手が約束を守らなかった場合に公正証書に基づいて強制執行が可能になります。
一方,協議で解決が見込まれない場合は,請求内容を書面化するようにしましょう。具体的には,配達証明付きの内容証明郵便を利用して,相続の開始から1年以内に請求したことが書面に残る形を取るのが適切です。
これは,遺留分侵害額請求権の消滅時効が争点にならないようにするための重要な動きになります。
遺留分侵害額請求の方法 ②調停
協議が奏功しない場合は,裁判所に遺留分侵害額請求調停を申し立て,調停での解決を目指します。この調停は,相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てる方法で行うことが可能です。
調停では,裁判所を介して当事者間での合意による解決を試みます。自分の主張が適切である場合は,裁判所(裁判官又は調停委員)から相手方への説得を期待することもできるでしょう。
調停で合意に至った場合は,合意内容を書面化した調停調書が作成されます。相手が調停調書の内容に反して支払を拒んだ場合は,調停調書を根拠に強制執行をし,相手の財産から金銭を回収することが可能です。
遺留分侵害額請求の方法 ③訴訟
遺留分侵害額請求調停が不成立となった場合,請求するには遺留分侵害額請求訴訟の提起が必要となります。この訴訟は,請求者の住所地を管轄する地方裁判所や簡易裁判所に提起することが可能です。
訴訟の局面では,証拠によって請求内容が証明されるか,という問題になります。証明を要する具体的な事項はケースによりますが,遺留分計算の前提となる相続財産の範囲の特定が難しい場合は多く見られます。特に,相続人間で相続財産の範囲に争いがある場合には,自分の主張の根拠となる客観的な証拠を収集・提出することが必要になるでしょう。
訴訟において,和解や判決によって支払が認められた場合,これに反して相手が支払を拒んでも,和解や判決を根拠に強制執行が可能です。
遺留分侵害額請求の注意点
遺留分侵害額請求権は,2019年7月の民法改正でルールの変わった部分でもあるため,利用時には以下のような点に注意が必要です。
①相続の発生時期
遺留分減殺額請求の対象となるのは,2019年7月1日以降に発生した相続です。2019年6月30日以前に発生した相続については,民法改正前の「遺留分減殺請求」の対象となります。
②解決(支払)方法
遺留分侵害額請求の場合,侵害方法にかかわらず侵害額を金銭で支払う方法により解決することになります。これは,民法改正前の「遺留分減殺請求」が現物返還を原則としていたこととの極めて大きな違いです。
不動産のような大きな財産を現物返還をすると,結局その後どのように遺産分割するか,遺留分をどのように確保するのかという点が何も解決しないままになってしまい,円滑な解決が困難になってしまいます。そのため,民法改正後の遺留分侵害額請求では,金銭での解決とすることで遺留分問題の端的な解決を可能にしたというわけです。
③対象となる生前贈与の範囲
遺留分侵害額請求の場合,対象となる生前贈与の範囲は相続開始前10年以内のものに含まれます。つまり,15年前や20年前の生存贈与を理由に遺留分侵害額請求をすることはできません。
民法改正前の遺留分減殺請求では,対象となる生前贈与に制限はないとされていましたが,あまりに古い生前贈与が問題になると,いつまでも遺留分問題が解決しないため,法律関係が不安定になりかねないという問題がありました。
そこで,遺留分侵害額請求では対象となる生前贈与を像族開始前10年以内と制限することとしています。
遺留分侵害額請求権の時効
遺留分侵害額請求権は,以下の消滅時効の対象になります。
遺留分侵害額請求権の消滅時効
1.相続が開始したこと
2.自分の遺留分が侵害されていること
「1」と「2」の両方を知った日から1年以内に請求しない場合
また,相続の開始や遺留分の侵害を知らなかった場合でも,相続開始から10年が経過した段階で遺留分侵害額請求ができなくなります。この期間制限は「除斥期間」と呼ばれます。
さらに,遺留分侵害額請求権を行使すると,請求者は金銭を請求する権利を獲得することになりますが,この金銭債権は,遺留分侵害請求権とは別に消滅時効の対象となります。具体的には,遺留分侵害額請求を行ってから5年が経過すると,遺留分侵害額請求によって得られた金銭債権について消滅時効が完成してしまいます。
時効については,「遺留分侵害額請求権の時効」と,「遺留分侵害額請求権を行使して得られた金銭債権の時効」それぞれに注意することが肝要です。
ポイント 時効
相続の開始と遺留分侵害を知ってから1年
相続の開始から10年
遺留分侵害額請求によって得られた金銭債権は,侵害額請求の日から5年
相続問題に強い弁護士をお探しの方へ
遺留分は,遺産分割によって不当に不利益な結果になる人が出ないよう設けられた,セーフティネットというべきものです。
自身の遺留分が侵害されている場合は,この制度を活用して適切な請求を行うべきですが,内容や方法は専門的知識を要するため,弁護士へのご相談が有力でしょう。
さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,相続問題に精通した弁護士が迅速に対応し,円滑な解決を実現するお力添えが可能です。是非お気軽にご相談ください。
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