●年金分割とは何か?
●まだ働いていても年金分割はあるのか?
●年金分割の対象はどこまでか?
●年金分割の方法は?
●年金分割の流れを知りたい
●分割した年金はいつ受け取れるか?
●年金分割はいつでもできるか?
●年金分割が拒否できる場合はあるか?
という悩みはありませんか?
このページでは,離婚時の年金分割についてお困りの方に向けて,年金分割の内容や方法,具体的な手続の流れなどを解説します。
目次
年金分割とは
年金分割とは,離婚の際に,婚姻中に夫婦が納めた厚生年金の保険料を公平に分け合う制度です。
厚生年金は,会社に勤める従業員(給与所得者)を対象にした年金制度で,その年金受給額は,保険料の納付月数と収入によって異なります。収入が高いほど,納付額も高くなり,年金受給額も高くなります。
そうすると,夫婦の一方に収入が偏っており,もう一方が専業主婦(主夫)である場合には,厚生年金の受給額に夫婦間の大きな差が生じてしまいます。もっとも,婚姻中に納めた厚生年金は,夫婦が共同生活の中から協力して支出したものであるため,婚姻中の納付分に対する年金は,一方のみに受給させると不公平な結論になってしまいます。
そこで,婚姻期間中のに納めた厚生年金に関して,夫婦間で公平に分け合うための制度が年金分割というものです。
なお,国民年金は年金分割の対象とはなりません。国民年金の場合,保険料は収入によらず一律であるため,収入差による年金額の不公平も生じ得ず,年金分割の対象とする必要がないということになります。
ポイント
年金分割は,厚生年金における夫婦間の不公平を防ぐための制度
厚生年金は,収入が多いほど保険料や将来の年金が大きくなる
国民年金は保険料が一律のため年金分割の対象外
年金分割の対象
年金分割の対象となる厚生年金の位置付けを把握するためには,まず年金制度の構造を理解するのが適切です。
年金制度の構造
年金制度は3階建ての構造になっており,それぞれ以下のような内容です。
年金制度の3階建て構造
1階部分 | 国民年金(全員が加入する基礎年金部分) |
2階部分 | 厚生年金(会社員や公務員が加入できる上乗せ年金部分) |
3階部分 | 私的年金(企業年金や個人型確定拠出年金(iDeCo)など) |
このうち,年金分割の対象となるのは,2階部分のみということになります。つまり,年金分割の対象となるのは,会社員や公務員といった給与所得者のみです。
また,年金分割の対象期間は,入社からでなく,勤続と婚姻の重なる期間のみとなります。
年金分割の方法
年金分割の方法には,以下の2種類があります。
年金分割の方法
1.合意分割
2.3号分割
①合意分割
合意分割とは,夫婦間で年金分割の割合を協議し,合意によって取り決める方法です。
婚姻期間中の全ての納付記録があることを前提に,話し合いで分割方法を決定します。ただし,分割割合の上限は50%とされており,これを超える分割はできません。
話し合いで合意に至らない場合には,家庭裁判所の調停や審判で結論を出すことも可能です。審判が行われる場合,通常は50%ずつの割合になることがほとんどであり,協議で決する場合にも現実的には50%ずつとなることが多数でしょう。
ポイント
合意分割は当事者間の協議で年金の分割割合を決めるもの
話し合いで合意に至らない場合は,調停又は審判が可能
通常は50%ずつの分割になることが多数
②3号分割
請求者が第3号被保険者である場合に用いることのできる方法です。
第3号被保険者とは,第2号被保険者の扶養に入っていた人を指します。典型例としては,会社員や公務員の配偶者で専業主婦(主夫)の人が挙げられます。
夫婦の一方が第3号被保険者の場合,双方の合意がなくても年金分割が可能です。
具体的な条件や内容は以下の通りです。
3号分割の具体的内容
1.2008年(平成20年)4月1日以降に第3号被保険者であった場合が対象
2.2008年(平成20年)4月1日以降に離婚している場合が対象
3.2008年(平成20年)4月1日以前の年金支払分は対象外(合意分割が必要)
4.分割割合は必ず2分の1になる
ポイント
請求者が第3号被保険者であれば3号分割が可能
合意がなくても一方的に分割請求できる
2008年4月1以降の分のみを一律2分の1に分割する
年金分割の方法選択
年金分割には,合意分割と3号分割の2つがありますが,具体的に年金分割を求める際には,このいずれを選択するべきかを検討する必要があります。
この点,方法選択の基準としては,「3号分割が利用できるかどうか」という観点での検討が適切でしょう。
例えば,配偶者が会社員で,2008年以前から専業主婦(主夫)をしていた場合,2008年4月以降の分については3号分割が可能です。そのため,まずは2008年4月以降の分に関して3号分割を行うことから検討を開始するのが円滑になりやすいでしょう。3号分割であれば,配偶者の合意なく年金分割が可能であるため,優先的な検討が有益です。
また,3号分割が利用できない範囲が明確になれば,合意分割を請求するかどうか,という選択も行いやすくなります。合意分割は当事者間の協議を要するため,請求者の負担も決して小さくないことから,対象期間の長さや金額の大きさによっては,請求しないとの選択をする方法もあり得るところです。
ポイント
3号分割が可能であるかを確認
合意分割期間は請求するかどうかを個別に検討
年金分割の流れ
①合意分割
合意分割の主な流れは,以下の通りです。
合意分割の流れ
1.「年金分割のための情報提供請求書」を年金事務所に提出する
2.「年金分割のための情報通知書」を取得する
3.夫婦間の協議(合意できなければ調停・審判)を行う
4.「標準報酬改定請求書」を年金事務所に提出する
5.「標準報酬改定通知書」を受領する
1.「年金分割のための情報提供請求書」を年金事務所に提出する
「年金分割のための情報提供請求書」は,日本年金機構のホームページからダウンロードできます。
「年金分割のための情報提供請求書」(日本年金機構)
必要事項を記入の上,請求者の身分証明書や年金手帳,戸籍謄本等を添えて年金事務所に提出します。
2.「年金分割のための情報通知書」を取得する
「年金分割のための情報提供請求書」の提出から数週間以内に,「年金分割のための情報通知書」を受領できることが通常です。「年金分割のための情報通知書」には,年金分割の対象となる範囲や期間に関する情報が記載されています。
3.夫婦間の協議(合意できなければ調停・審判)を行う
合意分割における合意のための手続です。
合意の結果は,後ほど提出するために書面化するのが適切でしょう。
4.「標準報酬改定請求書」を年金事務所に提出する
決定した分割割合を踏まえ,「標準報酬改定請求書」を作成,提出します。書式は,同じく日本年金機構のホームページからダウンロードできます。
「標準報酬改定請求書」(日本年金機構)
「標準報酬改定請求書」に必要事項を記入の上,身分証や年金手帳,戸籍謄本,合意分割の事実を証する書類などを年金事務所に提出します。
5.「標準報酬改定通知書」を受領する
年金分割の結果は,「標準報酬改定通知書」という形で双方に送られます。
すでに年金を受給している場合は,改定請求を行った翌日分から,年金の金額が変更になります。
②3号分割
3号分割の場合,合意が不要であるため,第3号保険者であった方の当事者が一人で金額の変更を請求するのみで足ります。
具体的な手続は以下の通りです。
3号分割の流れ
1.離婚後,「標準報酬改定請求書」を年金事務所に提出する
2.「標準報酬改定通知書」を受領する
書面の提出・受領に関する具体的な流れは,合意分割の場合と同様です。
請求書は,「請求する年金分割の種類」を選択する内容になっているので,「3号分割」を選択の上,必要事項を記入することになります。
年金の受領時期
年金分割の手続が完了した場合でも,年金の受領そのものがすぐにできるわけではありません。年金の受給自体が開始していなければ,現実に年金を受領することはないため,自分に対する年金受給が開始された後に,初めて年金の受給が可能となります。
また,標準報酬の改定は,その効果が遡及(過去に影響)しないため,将来に向かってのみ発生します。年金受給中に年金分割の手続を行った場合,金額が変わるのは請求の翌月分からです。
年金分割が拒める場合
①年金分割しない旨の合意がある場合
夫婦間で事前に年金分割を合意している場合には,その後に年金分割を請求されたとしても,分割を拒むことが可能です。もっとも,年金分割をしない合意は,一方のみに不利益な合意であることがほとんどであるため,真意から合意したのかが問題になりやすい性質のものです。そのため,離婚協議書に明記するなど,合意をした事実の客観的な証拠を残すようにしましょう。
また,年金分割しない旨の合意に関しては,以下の点に注意が必要です。
年金分割しない旨の合意における注意点
1.3号分割しない合意は不可能
→3号分割は,合意によって行ったり行わなかったりするものではないため,3号分割しない旨の合意はできず,もし行ったとしても無効です。
2.年金分割請求権の放棄は不可能
→年金分割の請求権は,相手の配偶者に対する権利でなく,厚生労働大臣に対して行う公法上の権利であるため,放棄することができません。
②請求権の消滅時効が完成している場合
年金分割の請求権は,離婚から2年の経過によって消滅時効となります。消滅時効完成後の請求は,時効が援用すれば拒むことが可能です。
③離婚原因に特殊な事情がある場合
離婚原因が,年金分割請求者の一方的かつ悪質な行為によるものである場合,年金分割(合意分割)に制限の生じる場合があります。
このような事情がある場合は,家庭裁判所の調停や審判を活用し,裁判所の公平な判断を求める手段が有力でしょう。
離婚の年金分割に強い弁護士をお探しの方へ
年金分割は,婚姻期間中の共同生活で生じた財産を公平に分割するための制度ですが,有効に活用できず一方が不利益を被っている場合も少なくありません。
そのため,離婚に際しては検討すべき事項であるものの,経験のない方が十分な検討や対応をするのは容易ではありません。
年金分割については,離婚事件に精通した弁護士へのご相談が適切でしょう。
さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,離婚・男女問題に精通した弁護士が迅速対応し,円滑な解決を実現するお力添えが可能です。是非お気軽にご相談ください。
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