離婚における婚姻費用とは?別居してれば請求できる?いつどうやって請求すべき?婚姻費用で損をしたくない人のための完全ガイド

●婚姻費用とは何か?

●婚姻費用はどんな場合に請求できるか?

●婚姻費用の請求方法を知りたい

●婚姻費用の金額は?

●婚姻費用はいつから支払ってもらえるのか?

●離婚後でも婚姻費用は請求できるのか?

●自分に離婚原因がある場合でも婚姻費用を請求できるか?

という悩みはありませんか?

このページでは,離婚時の婚姻費用についてお困りの方に向けて,婚姻費用に関する制度や請求方法請求できる期間や条件などを解説します。

婚姻費用とは

婚姻費用とは,夫婦が婚姻関係にある間に必要となる生活費用を指します。具体的には以下のような費用が含まれます。

婚姻費用の例

生活費食費、衣料費、光熱費、住居費などの生活に必要な基本的な費用
教育費子供の学校教育にかかる費用(学費、教材費、習い事の費用など)
医療費夫婦や子どもの医療費や保険料
娯楽費家族での外出や旅行、趣味にかかる費用
その他家事代行サービスや介護費用など、家庭の事情に応じて必要となる費用

婚姻費用は,夫婦である限り双方に分担する義務があり,それは夫婦が別居していても変わりません。もっとも,別居中の夫婦の場合,一方が他方配偶者のために積極的に婚姻費用の分担を申し出ることは考えにくいでしょう。
そのため,離婚事件で主に婚姻費用が問題になるのは,離婚前であるものの夫婦が別居している場合です。

婚姻費用が請求できる場合

離婚事件で婚姻費用を請求できるのは,以下の条件を満たす場合です。

①別居中であること

同居中の夫婦の場合,婚姻費用の分担を金銭の支払という方法で行うことは想定されていません。婚姻費用の負担は,共同生活を継続する方法によって行われるのが通常であるためです。そのため,婚姻費用分担請求ができるのは,夫婦が別居している場合に限られるのが原則です。

なお,家庭内別居と言える場合であれば,婚姻費用の分担請求ができる余地も考えられますが,完全な別居と同視することは容易でないため,現実的には難しいことが多く見られます。

②義務者に収入があること

婚姻費用を請求する側を権利者,支払う側を義務者と言いますが,婚姻費用分担請求ができるのは,義務者に収入がある場合に限られます。

婚姻費用分担請求の根拠は,義務者が配偶者や子に対して「生活保持義務」を負う点にあります。生活保持義務とは,自分と同じ水準の生活を保障する義務を言い,具体的にどの程度の生活を保障すべきかは,義務者の収入によります。
この点,義務者が無収入であり,将来に渡って収入を得る見通しがない場合,義務者の生活水準は無収入を前提としたものにならざるを得ません。そうすると,いかに生活保持義務を負っていたとしても,その義務の内容として婚姻費用という金銭の支払を求めることは困難であり,収入の見込みがない配偶者に婚姻費用分担請求はできないという結論になります。

③権利者が婚姻関係を破綻させた立場にないこと

自分の不貞行為が原因で夫婦関係が継続できなくなり別居に至ったなど,権利者として請求する側にのみ婚姻関係破綻の原因がある場合には,自ら夫婦関係を壊して別居しておきながら婚姻費用を請求する,という不合理な状態になります。このような場合,権利濫用または信義則違反とみなされ,請求が認められない可能性が非常に高くなるのが一般的です。

ポイント 婚姻費用分担請求の条件
別居している(家庭内別居は厳しいことが多い)
相手に収入がある(又は収入の見込みがある)
相手に婚姻関係破綻の原因がある

婚姻費用の請求方法

婚姻費用の請求方法は,概ね以下のステップで検討するのが通常です。

請求方法
1.交渉
2.調停
3.審判

①交渉

まずは夫婦で話し合いを行って,合意を目指すのが通常です。
婚姻費用の金額,支払の方法などを交渉し,合意できれば,その内容に沿った婚姻費用の分担が可能になります。

交渉で婚姻費用について決める場合は,その内容を確実に書面化することが重要です。当事者間での話し合いは,その結果が公的な記録には残らないため,書面化を怠ると後から言った言わないの争いが蒸し返された際に問題が生じます。実際に話し合いで解決したとしても,その証拠が残らず,立証する手段がなければ,後から紛争化した場合に,合意したはずの婚姻費用の請求が困難になりかねません。

最低限,月々の支払金額,支払方法,支払期限に関しては,書面化の上で両当事者の署名押印をする形を取るのが望ましいでしょう。可能であれば,合意内容を公正証書にすることも有力です。公正証書の場合,

②調停

交渉で合意に至らない場合には,家庭裁判所に調停を申し立てることが考えられます。
この調停は,「婚姻費用分担請求調停」というものになります。調停では,裁判所に仲介をしてもらいながら協議を試み,婚姻費用の分担内容について合意を目指すことになります。

調停を試みる場合は,主に交渉がでは合意に至らない場合ですが,交渉で合意に至らないことが見通せた場合にはできる限り速やかに調停を申し立てることが適切です。それは,婚姻費用の請求ができる期間に影響を及ぼす可能性があるためです。

婚姻費用は,遡って請求することができないため,過去の婚姻費用を含めて請求する内容で調停を申し立てたとしても,過去の分が支払ってもらうのは困難です。そのため,婚姻費用が請求できる期間は,婚姻費用分担請求調停の申立てをした時から,ということになります。
そうすると,調停の申立てが遅れれば遅れるほど,その期間分の婚姻費用は受領できないまま請求権が失われてしまい,別居期間中の生活に深刻な悪影響が生じてしまう恐れも否定できません。
そこで,婚姻費用の請求を調停で行う場合は,できる限り早く申し立てるようにしましょう。

③審判

調停を申し立てても合意ができない場合,裁判所の判断で審判に移行します。
審判では,当事者双方が自身の主張を提出した上で,これらを踏まえた裁判所が婚姻費用の金額を決定することになります。

婚姻費用の金額と定め方

婚姻費用の金額は,夫婦双方の収入,子どもの人数,子どもの年齢などを主な基準に決定することが一般的です。
夫婦間の話し合いで婚姻費用を決める際は,自由に決めることに何ら問題はありませんが,調停や審判では,裁判所が公表している「婚姻費用算定表」の内容を基準に婚姻費用の計算を行うのが一般的です。

婚姻費用算定表は,家庭裁判所裁判官を研究員とする司法研究を通じて作成・公表されるもので,本稿執筆時では令和元年12月23日のものが最新となっています。
新しい算定表は,従来の標準的な算定表の考え方を用いながら,その基礎となる統計資料を更新する形で算定されたものです。税金や物価上昇等を踏まえ,従来のものより婚姻費用が高く算出される内容となっています。

婚姻費用算定表リンク
(表10~表19)

(参考)表10

この算定表の見方は,以下の通りです。

1.横軸が権利者(請求する方)の年収額
2.縦軸が義務者(支払う方)の年収額
3.横軸と縦軸の交わる点に該当する金額が婚姻費用(月額)

(例)

権利者が年収300万円の給与所得者,義務者が年収700万円の給与所得者
夫婦のみで子供がいない場合

表10を用いると,縦軸と横軸の交わる点は6~8万円のため,適切な養育費の目安は6~8万円となります。

婚姻費用の支払期間

婚姻費用の支払が必要となる期間の始期及び終期は,以下の通りです。

始期
請求をした時
終期
婚姻費用分担義務がなくなった時

①婚姻費用分担の始期

始期である「請求をした時」とは,原則として婚姻費用分担請求調停を申し立てた時,とされます。婚姻費用の支払義務が問題になるのは,多くの場合調停が申し立てられた場合ですが,その調停で婚姻費用の支払が義務付けられるのは,調停申立て以降の分のみとなります。

もちろん,請求方法は調停のみではないので,他の方法で請求したことが立証できる場合は,その時点を婚姻費用分担の始期とすることも可能です。
代表例は,調停の申立て前に内容証明郵便を用いて請求した場合です。内容証明郵便は,郵便局がその郵便の存在及び内容を証明してくれる郵便ですが,これにより請求をした時期及び内容が立証できるため,内容証明郵便にて請求した時を婚姻費用分担の始期とすることが可能になるでしょう。
なお,内容証明郵便での請求に際しては,配達証明もあわせて付けることが有益です。配達証明は,名宛人に配達したことを郵便局が証明するもので,請求を受け取っていない,という相手方の言い逃れを防ぐための立証手段になります。

②婚姻費用分担の終期

婚姻費用の分担義務が生じているのは,「婚姻中の夫婦が別居している」ため,婚姻費用を支払う方法で配偶者への生活保持義務を果たす必要があるからです。
そのため,婚姻費用分担の終期である「義務がなくなった時」は,「婚姻中の夫婦」が「別居している」という状態が終了した時を指します。婚姻費用分担義務がなくなる具体的なタイミングは,以下のいずれかとなるのが通常です。

1.婚姻中の夫婦でなくなった場合
=離婚が成立した場合を指すのが一般的です。

2.別居している状態ではなくなった場合
=再び同居することになった場合を指すのが一般的です。

ポイント
婚姻費用の始期は調停申立て又は内容証明郵送時
婚姻費用の終期は離婚成立時又は別居解消時

婚姻費用の減額・増額

婚姻費用の金額は,その金額を決めた際の事情を基準としているため,事後的に事情の変更があった場合,増額又は減額ができないかという問題が生じ得ます。増額や減額が問題になるのは,当時前提としていた収入額か支出額が変わった場合となるのが通常です。

増額又は減額の問題が生じる代表例

1.一方又は双方の大幅な収入減少又は増加(収入が変わった)
2.夫婦の一方や子が大病を患った場合(支出が変わった)

もっとも,事情の変更による増額又は減額は,一度取り決めたものを覆す動きであるため,容易なことではありません。しかも,事情変更の事実及び内容を相手方が知らない場合も珍しくないため,まずは丁寧な事情の説明と協議を行うことが適切でしょう。

有責配偶者の婚姻費用請求

自ら不貞行為に及んで別居の原因を作ったなど,自分が有責配偶者である場合,相手に別居中の婚姻費用分担を請求できるのか,という点は問題になるところです。

この点,自ら別居の原因を作っておきながら,別居中の婚姻費用を請求することは原則的に不適切であると理解されやすいでしょう。
もっとも,婚姻費用の全てが請求できないのか,という点はより詳細な検討が必要です。具体的には,婚姻費用には以下の2つの側面があると言われています。

婚姻費用の二つの側面
1.配偶者の生活費という側面
2.子の養育費という側面

そのため,この両側面について,それぞれ請求の可否や範囲を検討する必要があります。

①配偶者の生活費という側面

基本的に,有責配偶者が自分の生活費を他方の配偶者に請求するのは,不合理であり認められないと考えるべきでしょう。
ただし,有責配偶者が全くの無収入であり,別居後の生活の立て直しに一定の期間が必要な場合,その期間中の生活保障に必要な範囲で婚姻費用を認められることはあり得ます。この場合,その生活保障は婚姻費用という手段でしか実現できないため,夫婦間の生活保持義務の一環として必要最低限の生活費負担を配偶者に求めた,という理解になるでしょう。

②子の養育費という側面

婚姻費用のうち,子の養育費の側面に当たるものは,請求者が有責配偶者であったとしても認められやすい傾向にあります。請求者が有責であるのは,あくまでその請求者個人の事情であって,子が養育されるべきであることに変わりはないからです。婚姻費用を支払う場合,子の養育費の側面に当たる金銭は,子どもに対する義務として支払われるものと理解されるわけです。
そのため,養育費の側面については,子どもの養育が必要である限り発生し,請求が認められることになるのが通常です。

ポイント 有責配偶者の請求
自身の生活費は原則として請求不可
子の養育費に当たる部分は有責であっても請求可能

婚姻費用に強い弁護士をお探しの方へ

離婚が成立するには期間のかかることも多く,その場合に一方の生活を支えるために重要なものが婚姻費用です。
特に,離婚原因のある方が家計を支えていた場合,もう一方が離婚を求めるのは,婚姻費用がなければ容易ではありません。
泣き寝入りを防ぐためにも,婚姻費用については離婚問題に長けた弁護士へのご相談をお勧めします。

さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,離婚・男女問題に精通した弁護士が迅速対応し,円滑な解決を実現するお力添えが可能です。是非お気軽にご相談ください。

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