●過失相殺ってどういうことですか?
●過失相殺・過失割合は誰が決めるの?
●過失割合・過失相殺の基準は?
●ぶつけられただけなのに過失相殺されるの?
●過失割合・過失相殺はどのように交渉すればいいの?
●過失割合・過失相殺が話し合いで解決しない場合はどうなる?
というお悩みはありませんか?
このページでは,交通事故の過失割合・過失相殺でお困りの方に向けて,過失割合の意味や判断基準,解決方法などを解説します。
目次
過失相殺とは
過失相殺とは,交通事故において双方に過失がある場合に,被害者に対する損害賠償額から被害者の過失割合に応じた金額を減額する処理をいいます。これは,交通事故における損害の公平分担のための制度です。
例えば,加害者80%被害者20%という過失割合の交通事故があった場合,事故に対して加害者が負う責任は80%の限度となるべきであるため,加害者に損害の全てを負担させるのはかえって不公平になってしまいます。そこで,被害者に対する賠償額から20%を差し引き,加害者の負担すべき80%分だけを賠償させることで,被害者と加害者との公平を保つというわけですね。
なお,過失相殺は,交通事故で発生した全ての損害を対象とします。
人身損害だけでも,治療費や通院交通費,慰謝料,休業損害等の損害項目が挙げられますが,その全てを公平に分担する必要があるため,全ての損害項目を対象に過失相殺を行うことになります。
ポイント
過失相殺は,双方の責任に応じた公平分担のための制度
過失相殺が生じる場合,全ての損害について過失相殺を行う
過失割合は誰がどのように決めるのか
①基本的な考え方
過失相殺は,当事者双方に過失がある場合に,その過失割合に応じて行うことになるため,前提となる過失割合を誰がどのように決めるのかが大きな問題になります。
例えば,事故の発生後,加害者の保険会社から過失割合の話をされ,自分に20%の過失があると言われた場合,これに従わなければならないのでしょうか。
結論的には,相手の主張する過失割合が適切な内容であれば,その過失割合に従って解決すべきです。そこで,適切な過失割合であるか,適切な過失割合をどのように判断するのか,ということが次の問題になります。
この点,過失割合は,過去の裁判例の積み重ねを基に類型化されているため,これに沿って計算された過失割合であれば適切であると考えられます。
例えば,横断歩道上の歩行者と四輪車との交通事故は,基本過失割合が歩行者0%とされています。
(別冊判例タイムズNo.38より引用。以下全て同じ)
一方,横断歩道のない直進道路を横断中の歩行者と四輪車との交通事故は,基本過失割合が歩行者20%とされています。
更に,横断歩道から概ね20~30メートル以内の場所を横断中の歩行者と四輪車との交通事故は,基本過失割合が歩行者30%とされています。
これらは,過去の先例を踏まえて類型化された適切な過失割合として裁判実務で採用されているものであり,実際の事故と同じ類型があれば,この基本過失割合を基準とするのが適切であるということになるでしょう。
②交渉を要する場合
もっとも,どの類型に当たるのか,その類型の中で修正要素に該当するものがないか,といった点は,当事者間で言い分に相違のある場合があります。
例えば,歩行者は横断歩道上と主張しているものの,車側が横断歩道から離れた場所を横断していたと主張する場合,基本過失割合は歩行者の主張では0%,車側の主張では30%となり得ます。また,横断歩道上の歩行者は基本的に過失が0%ですが,直前横断に該当すると修正要素として5~15%の過失が生じます。
このような場合は,まず,当事者間で解決内容が決められないか,交渉を行うことが必要になります。交渉の結果,一方が主張を撤回して譲歩することもありますし,双方が歩み寄って中間的な過失割合で解決することもあります。
③交渉で解決しない場合
過失割合の主張が激しく対立し,交渉での解決ができない場合は,訴訟での解決が必要になります。当事者間での話し合いが奏功しないため,裁判所に判断をしてもらう必要がある,というわけですね。
過失割合は,全ての損害額に影響を及ぼす根本的な争点であるため,この点の主張に開きがある場合には交渉での解決が難しくなりやすい傾向にあります。一般的には,10~20%ほどの開きであれば双方に歩み寄っての解決が十分に見込まれますが,50%を超えるなど被害者・加害者の立場が逆転してしまうほどの開きがあると,交渉で解決できる水準をすり合わせるのは非常に困難になりやすいでしょう。
ポイント 過失割合の決め方
事故類型ごとに過去の裁判例に沿った過失割合を用いるのが通常
言い分に争いがある場合は,まず交渉を行う
主張の開きが大きい場合は,訴訟を要することも
過失割合の判断基準
過失割合については,事故類型ごとに基本過失割合が定められていますが,事故類型の特定は以下の手順で行います。
①交通手段による区別
まずは,当事者双方の交通手段によって類型が分けられます。具体的には,歩行者,四輪車,単車,自転車といったものが挙げられます。
なお,四輪車か単車であるかは,当事者双方が四輪車又は単車である場合には区別しますが,もう一方の当事者が歩行者又は自転車である場合には区別しません。
例えば,対向車の右直事故である場合,過失割合は以下の通りです。
四輪車同士の場合 直進車:右折車=20:80
単車直進,四輪車右折の場合 直進車:右折車=15:85
四輪車直進,単車右折の場合 直進車:右折車=30:70
このように,四輪車か単車かによって過失割合に差異が生じます。
一方,直進の自転車と右折の四輪車による右直事故は,基本過失割合が以下の通り15:85とされます。そして,これは右折車が四輪車でなく単車であっても同様です。
②進行方向による区別
次に,それぞれの進行方向を特定します。
具体的には,直進か右折か左折か,という区別と,対向車なのか右や左から来たのか,という区別を行うのが一般的です。
例えば,四輪車同士で直進車と右折車の事故を前提とすると,対向車であれば先ほど紹介した通り直進車:右折車=20:80となります。
これが,対向車でなく右や左から来た場合だと,以下のように過失割合が変動します。
右折車が左方車の場合 直進車:右折車=40:60
右折車が右方車の場合 直進車:右折車=30:70
③道路状況による区別
加えて,事故現場の道路状況による区別を行います。
具体的には,直進道路上か,十字路交差点上か,丁字路交差点かといった道路の形状と,信号の有無(ある場合は信号表示),一時停止規制や優先道路に該当するかといった道路の優先関係を基準に道路状況を区別します。
例えば,直進四輪車同士による信号のない十字路での出会い頭事故である場合,優先関係によって以下のような基本過失割合の差異が生じます。
優先関係がない場合 左方車:右方者=40:60
一方が広路の場合※ 広路車:狭路車=30:70
一時停止規制あり 規制あり:規制なし=20:80
優先関係あり 優先車:劣後車=10:90
(双方が同程度の速度である場合(各図左側の過失割合)を想定)
※広路が狭路の幅員の概ね1.5倍以上ある場合に広路・狭路の関係にあると評価されやすい
過失割合の交渉方法
過失割合の交渉は,両当事者が本件に該当すると考える基本過失割合及び過失の修正要素を判断することから始まります。双方が同じ事故類型だと理解していれば,主張する基本過失割合や修正要素は一致するはずであり,それ以上の交渉は必要になりません。
駐車場などの路外から道路に進入した右折車と直進車との基本過失割合は20:80となりますが,互いにその理解が共通していれば,基本過失割合の争いが生じることはありません。
しかし,事故態様の理解が食い違う場合,それが過失割合に関する主張の差異となって現れます。例えば,上記の例で基本過失割合は20:80となることに争いはないが,右折車が頭出しで待機していたと主張する場合,これは「頭を出して待機」に該当し10%の修正が生じる修正要素のため,右折車側の主張する過失割合は30:70となります。
このとき,直進車の主張(20:80)と右折車の主張(30:70)に差異が生じ,合意をするには交渉の必要が生じます。
具体的な交渉の方法は,双方の主張に根拠があるか,という基準で行うのが一般的です。上記の頭出し待機の主張であれば,具体的にどのような位置でどの程度の時間待機していたのか,その証拠となるドライブレコーダー映像などがあるか,という点が問題になりやすいでしょう。
このような流れで,双方が合意可能な過失割合を協議・検討し,交渉での合意を目指していくことになります。
ポイント 過失割合の交渉方法
①基本過失割合及び修正要素の特定
②双方の見解に差異がある場合,根拠の有無を基準に交渉し,合意を目指す
過失割合が交渉で解決しない場合の対応
過失割合の主張が両当事者の間であまりにかけ離れている場合,交渉では解決しない可能性が見込まれます。この場合は,相手の言い分に沿った金額で合意するのでない限り,訴訟を提起して裁判所の判断を仰ぐ必要が生じます。
過失割合の争いは,個別の損害項目全てに影響する根本的な争いになるため,これが合意できないとなると訴訟での解決を要する可能性が非常に高くなります。特に,双方が自分を被害者側と認識しているなど,被害者・加害者の別が逆転しているケースでは,交渉での合意は現実的に難しいことが多いでしょう。
なお,交渉での合意が困難な場合としては,以下のようなケースが挙げられます。
ここでは,進路変更後に後続車から追突された,という例で見てみましょう。
①事故態様の理解が食い違っている場合
事故態様そのものの理解が食い違っている場合,それを踏まえた過失割合の理解も食い違うことになります。
今回の例では,一方は追突事故と主張するが,もう一方は側面同士が接触した事故だと主張する場合が挙げられます。
②事故態様の評価が食い違っている場合
事実関係は同じ理解をしているものの,その評価の仕方(類型へのあてはめ方)について主張が食い違う場合もあります。
今回の例では,一方は追突事故と主張し,もう一方は進路変更車と後続車との事故と主張するケースがあり得るところです。追突事故では追突された側の過失はゼロですが,進路変更車と後続車との事故であれば追突された側が70%の過失になります。
過失割合の差異
追突事故の場合 0:100
進路変更車の場合 70:30
③少なくとも一方が根拠に基づかない主張をする場合
一方が根拠に基づかない主張をしていると,それが修正されない限り合理的な過失割合での合意は困難になります。この場合は,弁護士や保険会社などが間に入って主張を修正してくれるのでなければ,訴訟で裁判所に正してもらう必要が生じるでしょう。
交通事故の過失割合・過失相殺に強い弁護士をお探しの方へ
過失割合は,判断の基準に明確なルールが定められており,ルールに沿った請求を行うことが必要です。
逆に,相手保険会社の主張がルールに沿ったものでない場合,きちんと反論しなければ,不当な過失割合で解決してしまうことにもなりかねません。
過失割合・過失相殺について疑問がある場合は,交通事故に強い弁護士へのご相談が適切でしょう。
さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,1000件を超える数々の交通事故解決に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内いたします。
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