交通事故で後遺障害等級が認定されると何がもらえる?計算方法は?注意点は?弁護士依頼のメリットは?専門弁護士が解説

●後遺障害が残ったときにはどんな請求ができるか?

●後遺障害の慰謝料はどのように決まるのか?

●後遺障害の逸失利益とは何か?

●逸失利益の計算方法は?

●逸失利益が発生しない場合はあるか?

●介護が必要な後遺障害が残った場合はどうなるか?

●後遺障害の損害については弁護士に依頼すべきか?

といったお悩みはありませんか?

このページでは,交通事故の後遺障害についてどんな請求ができるか,お困りの方に向けて,後遺障害の損害項目やその計算方法争いになる場合や解決方法などを解説します。

後遺障害に関して請求できるもの

後遺障害等級が認定された場合に賠償請求できる損害としては,以下の内容が挙げられます。

①後遺障害慰謝料

慰謝料とは,精神的苦痛に対する賠償をいいます。後遺障害等級が認定されるほどの障害が残ってしまう場合には,残った障害に対する精神的苦痛が生じるため,その分の慰謝料が発生します。これを後遺障害慰謝料といいます。

後遺障害等級は1級から14級まであり,1級が最も上位の後遺障害等級となります。後遺障害慰謝料は等級に応じて金額が決まり,より上位になるほど慰謝料額も大きくなります。

②逸失利益

逸失利益とは,後遺障害によって労働能力が低下した結果,後遺障害がなければ得られたはずの収入が得られなくなった分の損害をいいます。逸失利益は,もともと収入がなかった場合を除き,後遺障害の損害の中で最も大きな金額の損害になりやすい項目です。特に,若年者であったり収入額の高い人であったりする場合には,その金額が大きくなりやすい傾向にあります。

後遺障害等級によって,労働能力の低下する割合が定められており,等級が上位になるにつれてほどその低下の程度(=労働能力喪失率)が高くなります。そのため,上位の後遺障害等級であるほど逸失利益の金額も大きくなります

③将来介護費

後遺障害が残ったことにより,被害者が介護を要する状況となった場合,その介護のために発生する費用将来介護費といいます。
将来介護費は,一生涯必要となる費用のため,必然的にその金額は非常に大きなものとなります。一方で,介護を要する場合にしか発生しない費用であり,将来介護費が想定されるのは極めて重大な後遺障害等級が認定されたケースに限られます。

将来介護費の金額は,親族が行う近親者介護の場合と,業務として行う職業介護の場合とで変わります。職業介護の方が介護費用の日額が高くなるため,将来介護費の全体額も大きくなります。ただし,職業介護を要するとの判断は,近親者介護を要するとの判断よりもハードルの高いものであることには留意が必要です。

後遺障害慰謝料の計算方法

後遺障害慰謝料は,後遺障害等級ごとにその金額が定められています。
後遺障害慰謝料の計算基準には,大きく分けて自賠責基準と裁判基準があり,自賠責基準よりも裁判基準の方が高い金額が定められています。等級ごとの具体的な金額は以下の通りです。

後遺障害等級【自賠責基準】【裁判基準】
1級1150万円2800万円
2級998万円2370万円
3級861万円1990万円
4級737万円1670万円
5級618万円1400万円
6級512万円1180万円
7級419万円1000万円
8級331万円830万円
9級249万円690万円
10級190万円550万円
11級136万円420万円
12級94万円290万円
13級57万円180万円
14級32万円110万円

逸失利益の計算方法

逸失利益は,収入のうちどの程度の割合が,どの程度の期間失われるか,という計算方法で算出されます。
簡略化すると,「収入の減額分」×「減額期間」となるところです。
例えば,年間100万円の減額が30年続くのであれば,100万円×30=3000万円という具合ですね。

もっとも,将来の減額分も一括で支払われることに配慮する必要があるため,具体的な金額は以下の計算式で計算されます。

後遺障害逸失利益
=「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

以下,各項目の内容について解説します。

①基礎収入

逸失利益により減額してしまう前の収入額を指します。計算の基礎となる収入というべきものです。
通常,基礎収入には事故前年の収入を採用します。事故前年と同程度の収入が将来に渡って得られた可能性が高いとみなし,逸失利益を計算するというわけですね。

事故前年の収入を確認するための資料は,給与所得者の場合は勤務先の源泉徴収票,事業所得者の場合は確定申告書や所得証明書が挙げられます。その他,事故直前から仕事を開始した場合などは,事故直前の収入額をもとに年収を概算する方法を取ることもあります。

②労働能力喪失率

後遺障害によって労働能力が低下した割合を指します。労働能力が低下した割合に応じて,収入額も減少するとみなし,逸失利益を計算します。

労働能力喪失率は後遺障害等級によって決まりますが,具体的な喪失率は以下の通りです。

1級100%
2級100%
3級100%
4級92%
5級79%
6級67%
7級56%
8級45%
9級35%
10級27%
11級20%
12級14%
13級9%
14級5%

例えば,1級は労働能力喪失率が100%となるため,基礎収入額の100%,つまり全額が収入額の減少とみなされます。また,14級は労働能力喪失率が5%のため,基礎収入額の5%が収入額の減少とみなされることになります。

このように,「基礎収入」×「労働能力喪失率」によって後遺障害による年収の減額分を計算することができます。

③労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

労働能力喪失期間 

労働能力喪失期間とは,労働能力の低下が生じる期間を指します。逸失利益の計算では,私たちが労働能力を有するのは67歳までとみなされるのが一般的であるため,労働能力喪失期間は,原則として以下の期間となります。

労働能力喪失期間
=67歳-症状固定時の年齢

症状固定時に30歳であれば37年,50歳であれば17年ということになります。

もっとも,症状固定時に67歳の間近であったり,67歳以上であったりすると,上記の計算式では適切な期間を割り出すことができません。そのため,「67歳-症状固定時の年齢」と平均余命の半分を比較し,後者の方が長い場合には後者を労働能力喪失期間とします。
そのため,厳密な計算式は以下の通りとなります。

労働能力喪失期間
=「67歳-症状固定時の年齢」か「平均余命の半分」のいずれか長い方

ライプニッツ係数

「年収の減少分」と「労働能力喪失期間(年数)」が分かれば,これらをかけ合わせれば逸失利益が計算できるように思えます。
例えば,年収500万円,労働能力の喪失10%,喪失期間5年であれば,以下の計算で逸失利益が出せそうです。

500万円×10%×5年
=50万円×5年
=250万円

これは,毎年50万円ずつ,5回に分けて受領するのであれば,適正額に近い可能性が高いでしょう。
しかし,症状固定後に一括で250万円を受領するとなると,利息の分だけもらい過ぎているという問題が生じます。

法律上,金銭は利息を生むものと理解されています。本稿執筆時の法定利率は年3%であるため,100万円は1年後に利息3%を含む103万円の価値になっている,というのが法律の理解です。
そのため,将来受け取るはずだったものを今受け取る場合,受け取った時点から本来受け取るはずだった時点までの利息の分だけ,早く受け取った方が得をしているという考え方になるのです。

そのため,一括で支払う場合,この期間の利息(中間利息)を差し引いた金額を支払うのが適切ということになりますが,この中間利息を差し引くために用いられる数字が「ライプニッツ係数」です。

ライプニッツ係数は,利息と年数によって定められますが,年利3%を前提とした5年のライプニッツ係数は「4.5797」です。これは,年利3%の場合に5年分を一括受領するのであれば,4.5797年分を受領すると5年後にちょうど5年分の金額になっている,という意味になります。
したがって,年収500万円,労働能力の喪失10%,喪失期間5年であれば,中間利息を考慮した逸失利益の金額は以下の通りになります。

500万円×10%×5年ライプニッツ
=50万円×4.5797
2,289,850円

まとめ

逸失利益は,「収入の減額分」×「減額期間」で計算される
収入の減額は,「基礎収入」×「労働能力喪失率」
減額期間は「労働能力喪失期間」
一括でお金を受け取ると利息の分だけ多すぎるため,利息分を差し引いて計算するための数値が「ライプニッツ係数」

逸失利益が発生しない場合

後遺障害等級が認定されても,逸失利益が発生しない場合があります。主なケースは以下の通りです。

①収入がない場合

もともと収入がなく,家事労働者でもない場合は,労働能力が失われることによる収入減少がないため,逸失利益が発生しません。
典型例としては,退職後の人や労働のできない人が挙げられます。

②労働能力の喪失がない場合

後遺障害が残っても,それが労働能力を喪失させないものである場合には,収入の減額がないとみなされるため,逸失利益は発生しません。

問題になりやすいのは,醜状障害と呼ばれるものです。醜状障害は,傷跡が残ったことを後遺障害として認定するものを指します。
醜状障害は,傷が残ってしまうことを対象としますが,傷が残ったからといって必ずしも労働能力が低下するわけではありません。そのため,醜状障害が認定されたとしても,労働能力の喪失はないと判断されることがあります。

もっとも,醜状障害だからといって労働能力の喪失がないわけではありません。営業職やモデル,外見を活かした接客業など,醜状障害が労働能力に影響する職種では,労働能力の喪失があるとの理解が通常です。また,それ以外の職業であっても,傷跡が残ったことに伴って痛みやしびれがあるなど,労働能力の低下につながる他の症状があれば,その症状を根拠に労働能力の喪失があると判断することも少なくありません。

③収入の減少がない場合はどうか

逸失利益が収入減少への補償であることから,収入の減少が全くない場合に逸失利益が発生するかは問題になり得ます。
もっとも,収入減少がなかったとしても直ちに逸失利益の発生が否定されるわけではありません。

収入減少がなかった場合,その理由には様々な可能性があります。本人が業務時間を増やして何とかパフォーマンスを保っている,周囲の協力のおかげであるなど,労働能力の喪失を埋め合わせる努力の結果である場合には,逸失利益がないと判断するのは不適切な結論になってしまいます。

そのため,一般的な運用としては,収入減少がないとしても直ちに逸失利益を否定するとの取り扱いはあまり取られていません

逸失利益について注意すべき点

逸失利益の計算について,生じやすい注意点としては以下の事項が挙げられます。

①定年を挟む場合

労働能力喪失期間の終期は67歳が原則であるため,一般的な定年である60歳をまたぐことになりやすいです。
この点,一般的には,60歳を定年とする給与所得者の場合,60歳を境に収入額が変わるため,定年前後で逸失利益の計算を変更するよう求められることがあります。

例えば,60歳までは年収500万円,60歳から65歳は再雇用で年収300万円,65歳で完全に退職,ということであれば,以下のように計算すべきことになります。

【計算例】
①60歳までは年収500万円を前提に逸失利益を計算
②60歳から65歳までは年収300万円を前提に逸失利益を計算
③65歳から67歳までは収入がないため逸失利益不発生

もっとも,65歳以降はほかの仕事をしている可能性も十分にあるため,65歳以上で必ず逸失利益不発生となるわけではありません。

②就労前の年齢である場合

学生など,就労前の年齢である場合,事故前年分の収入がないため,基礎収入をいくらとすべきかが問題になりやすいところです。

一般的には,賃金センサス(平均賃金)を用いて,平均的な賃金を基礎収入とすることになりますが,平均賃金は,性別が男性か女性か,学歴が高卒か大卒かといった事情によってその金額が異なるため,具体的にどの平均賃金を用いるかは個別のケースに応じた検討が必要です。

多くの場合,被害者に不利益のない計算方法が採用されやすい傾向にあります。具体的には,女性より男性の方が平均賃金が高いため,女性の場合には男女計の平均を用いることが多く見られます。また,学歴は大学生であれば大卒の平均を取り,高校生以下であれば進路の可能性が複数あることを踏まえて学歴計を採用するなどされることが多いでしょう。

ポイント
定年前後で収入額が変わる場合は,逸失利益も前後それぞれの収入額を考慮した計算になる
就労前の年齢である場合,基礎収入は平均賃金を用いる

将来介護費の請求ができる場合

将来介護費は,後遺障害等級が認定された場合でも特に介護が必要な後遺障害の場合にのみ発生する損害です。
具体的には,寝たきりなど介護なしで日常生活を送ることが身体的に困難な場合や,脳機能障害が重大であって知的能力面で介護なしの生活が困難な場合が挙げられます。

将来介護費の計算方法

①基本的な計算式

将来介護費は,以下の計算式で算出されます。

将来介護費
=「介護費の日額」×365日×「平均余命に対応するライプニッツ係数」

これは,1年分の介護費を日額×365で出し,これに生涯を遂げるまでの年数を掛け合わせる,という考え方です。もっとも,逸失利益の項目で紹介した通り,利息の分だけ大きな金額を受領することになるのを防ぐため,平均余命の年数そのままでなく,その年数に対応するライプニッツ係数を用いる,ということですね。

②介護費の日額

将来介護費では,その日額が問題になりやすい項目です。

具体的には,職業付添人による介護が必要か,近親者付添人の介護が可能か,という点の区別によって,日額が異なります。
職業介護の場合はその実費(概ね15,000円~20,000円ほど)が日額となり,近親者介護の場合は1日8,000円ほどを日額とみなす場合が多く見られます。近親者介護よりも職業介護の方が日額は大きくなるのが通常です。

後遺障害の損害について弁護士に依頼すべき場合

後遺障害等級が認定された場合には,そうでない場合に比べて損害額が大きく増加するため,基本的に弁護士への相談が適切でしょう。中でも,特に弁護士委任が有力になりやすい場合としては,以下のようなケースが挙げられます。

①後遺障害等級がより上位の場合

後遺障害等級が上位であるほど,その損害額も大きくなります。損害額の大きさは,弁護士に依頼した場合の増額幅の大きさに直結するため,後遺障害等級が上位であるほど弁護士への依頼が有力になりやすいでしょう。

②過失がない又は小さい場合

過失がないか,あったとしても10%程度など小さい場合には,弁護士への依頼によって増額した分が過失相殺によって差し引かれないため,弁護士依頼の利益が大きくなりやすいところです。そのため,過失が小さければ小さいほど弁護士への依頼が有力になるでしょう。

③弁護士費用特約が利用できる場合

弁護士費用特約が利用できれば,弁護士への依頼に必要な費用の負担が大きく軽減されます。法律事務所によっては弁護士費用の負担がゼロになることも珍しくないため,そのような弁護士への依頼ができれば,費用倒れのリスクなく弁護士に依頼ができるでしょう。

交通事故の後遺障害に強い弁護士をお探しの方へ

後遺障害の損害は,金額が非常に大きくなりやすいため,適切な対応ができた場合とできなかった場合の金額面への影響もまた大きくなる傾向にあります。
加えて,他の損害項目にはない独自の争点もあり,解決を図るためには後遺障害に強い弁護士へのご相談をお勧めします。

さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,1000件を超える数々の交通事故解決に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内いたします。
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