●交通事故が原因で休業した場合の損害は補償されるか?
●休業損害の金額や計算方法が知りたい
●休業損害の請求方法が知りたい
●会社員と自営業ではどう違うか?
●休業損害を支払わないと言われたらどうすればいいか?
●主婦の場合,休業損害はどうなるのか?
といった悩みはありませんか?
このページでは,交通事故の休業損害についてお困りの方に向けて,休業損害の内容・金額・請求方法,休業損害で争いが生じた場合の解決方法などを解説します。
目次
交通事故の休業損害とは
休業損害とは,交通事故によって被害者が仕事を休業せざるを得なくなってしまった場合に,その期間中に得られるはずだった収入の補償をいいます。休業損害は,被害者の生活を維持するために重要な補償であり,治療期間中の生活にも直接の影響を及ぼすものであるため,早期に適切な請求を行う必要のある項目です。
休業損害の計算方法
休業損害は,「(収入の日額)×(休業日数)」で計算されます。具体的な計算方法は被害者の立場によって異なります。具体的には以下の通りです。
①会社員(給与所得者)の場合
【日額】
事故前3か月分の給与を90で割る方法で算出するのが原則です。
交通事故の時点で3か月以上の就業継続がない場合は,上記の方法で計算ができないため,別途収入額の根拠を用いて計算します。具体的には,雇用契約書や事故直前の賃金台帳,給与明細などを用いて,事故当時の給与額を特定することがあります。
【日数】
現実に休業した日数が対象日数となります。有給休暇であっても,有給の日数が減少してしまっている限り,対象となります。
もっとも,休業したにもかかわらず収入減少がない場合,その日については損害が生じていないことになるため,休業損害の対象日数には含まれません。
②自営業(事業所得者)の場合
【日額】
事故前年分の確定申告書における申告所得を基準に,365で割る方法で日額を算出するのが原則です。
開業後間もない場合など,事故前年分の確定申告書が存在しない場合には,事故直前の収入額に関する根拠資料を用いて個別に計算します。各種契約書,入出金が分かる帳簿や預金通帳の履歴など,収入減少を相手保険が理解できるよう,可能な限り詳細に説明することが適切です。
【日数】
実際に休業を要した日数が対象日数となります。
もっとも,休業した日数を客観的に証明できる人や方法があまり存在しないため,一定の期間における実通院日数を休業日数とみなす方法を用いることが多く見られます。
また,実通院日数以上に休業したとの主張をしたい場合は,その根拠を具体的に示すことが必要になります。
③主婦(家事従事者)の場合
【日額】
女性の平均年収を基準に,365で割る方法にて日額を算出するのが原則です。
平均年収は,いわゆる賃金センサス(「賃金構造基本統計調査」の結果)を基に計算するのが一般的です。
【日数】
休業日数の特定や立証ができないため,一定の日数を事故による休業日数とみなす方法で計算するのが通常です。一例としては以下のような方法があります。
①一定期間の実通院日数を休業日数とみなす方法
②休業の程度を段階的に低減させる計算方法
例:事故後1か月は50%の休業,翌月は30%の休業など
ポイント
休業損害の計算は「日額×日数」
計算方法は,会社員・自営業者・主婦それぞれの立場で異なる
自賠責基準の金額計算における特徴
自賠責基準は,独自の計算方法が明確に決まっています。場合によっては,自賠責基準の休業損害額を踏まえて金額交渉することもあるため,計算方法の特徴は押さえておくのが適切でしょう。
立場ごとの計算方法は以下の通りです。
①会社員(給与所得者)の場合
休業損害証明書を用いて,以下の通り計算します。
【日額】(事故前3か月分の給与額合計)÷90
【日数】休業損害証明書上の休業日数
②自営業(事業所得者)の場合
事故前年分の確定申告書を用いて,以下の通り計算します。
【日額】申告所得額÷365(日額が6,100円に満たない場合は,6,100円)
【日数】実通院日数
③主婦(家事従事者)の場合
【日額】6,100円
【日数】実通院日数
休業損害を請求する方法
基本的なステップは以下の通りです。
【①会社員(給与所得者)の場合】
①相手保険への連絡 | 休業損害が発生したことをできるだけ速やかに共有 |
②必要書類の取得 | 相手保険から休業損害証明書の書式などを送付してもらう |
③勤務先への依頼 | 休業損害証明書の記載と事故前年分の源泉徴収票の発行を依頼する |
④相手保険に提出 | 勤務先又は自分から相手保険に郵送する |
⑤内容の確認 | 相手保険にて書面の内容を確認し,金額計算する |
⑥支払 | 相手保険から自分の指定口座に振り込む方法で支払われる |
【②自営業(事業所得者)の場合】
①相手保険への連絡 | 休業損害が発生したことをできるだけ速やかに共有 |
②書類の提出 | 事故前年分の確定申告書を相手保険に郵送する |
③追加提出 | 休業の日額や日数について特に主張立証したいことがある場合は,積極的な提出が必要 |
④内容の確認 | 相手保険が内容を確認し,金額計算する |
⑤支払 | 相手保険から自分の指定口座に振り込む方法で支払われる※ |
【③主婦(家事従事者)の場合】
①相手保険への連絡 | 主婦であることを相手保険に通知 |
②必要書類の取得 | 家族構成を通知するための書面などを送付してもらう |
③書類への記載等 | 家族構成の記載や,必要に応じて住民票等の取得をする |
④相手保険に提出 | 書類一式を相手保険に郵送する |
⑤内容の確認 | 相手保険が内容を確認し,金額計算する |
⑥支払 | 相手保険から自分の指定口座に振り込む方法で支払われる※ |
会社員の場合に注意すべきこと
会社員の場合,休業損害証明書で客観的に計算できそうですが,自賠責基準に従って計算するのみだと日額の計算で損をする可能性がある点に注意をするべきでしょう。
自賠責基準の計算方法をおさらいすると,以下の通りです。
【日額】(事故前3か月分の給与額合計)÷90
要するに,1か月=30日,3か月=90日を前提に,3か月分の給与を単純に日割りするということになります。
しかし,この手段だと,仕事が休みの日も含めた日数で割り算をしてしまっており,計算方法によっては金額が小さくなってしまいかねません。
例えば,1か月の稼働が25日,月の給与額が30万円という場合,1日休んだ場合の休業損害は,自賠責基準だと以下の通りです。
【自賠責基準の日額】(30万円÷30日)=1万円
そして,25日全てを休んだ場合,合計の金額は以下の通りです。
(1万円×25日)=25万円
しかしながら,これは実際の給与額30万円より5万円小さくなってしまっています。
このような計算が起きるのは,日額を計算するときには休みの日を算入しているにもかかわらず,日数を計算するときに休みの日を無視しているために生じているのです。
日額の計算に際して休みを算入するのであれば,日数を計算する際にも休みを算入するのが適切です。具体的には,連続した休業中の休日は,休業日数に算入する必要があります。
上記の例では,稼働した25日でなく,その休業中の休日5日も含めた30日を対象日数とすることで,適正な金額計算が可能になるわけです。
一方,1日だけ休んだ場合には,日数の計算で休みを無視しているので,日額の計算でも休みを無視すると適切な計算が可能になります。
具体的には,収入額を稼働日数で割ることが適切です。上記の例では以下の通りになります。
【稼働日数を基準にした日額】(30万円÷25日)=12,000円
以上の通り,自賠責基準の計算結果より,実際には金額が大きくなるべき場合があることには注意をしたいところです。
自営業の場合に注意すべきこと
自営業の休業損害は,休業損害の中で最も争点が生じやすいケースと言えます。争点になりやすい具体的な事項としては,以下の点が挙げられます。
①休業の必要
自営業の場合,休業があったことや休業の必要があったことを証明してくれる第三者がいないため,そもそも休業の必要があったか,という問題が生じる場合があります。
この場合,まずは医学的な休業の指示を受けるのが望ましいでしょう。指示が受けられる場合は,指示書や診断書といった形式で書面化するのが適切です。
医師の指示が得られない場合は,業務の内容やお怪我の業務への支障,休業を要する業務の範囲やその理由などを,できる限り具体的に相手保険会社へ説明し,理解を求めることが重要になります。
②休業日数
一定の休業が必要である場合,その必要な休業日数がどの程度であるかが問題になることもあります。休業が必要としても,1日だけで足りるか1カ月必要であるかなど,具体的な期間は見解に相違が生じやすいところです。
この点,やはり可能であれば医師の指示があると望ましいでしょう。例えば,骨折で骨癒合が不十分である場合には,業務に耐えられる程度の骨癒合が得られるまでは休業を指示してもらう,といった場合があり得るところです。
一方,それが難しい場合には,相手保険会社との粘り強い協議が必要になるところです。自営業の休業損害では自分で主張立証を尽くす必要があることを念頭に,できる限り丁寧な説明や根拠の提出に努めるのが望ましいでしょう。
③日額
自営業の休業損害日額については,固定経費を収入に含めて計算することが適切です。
固定経費とは,休業があってもなくても発生する経費をいい,具体的には地代家賃,租税公課,損害保険料,減価償却費といったものが挙げられます。
そもそも,経費を除いて(収入でなく所得の金額を基準に)日額を計算するのは,休業することによって経費も発生しなくなるからです。そうであれば,休業によっても変わらず発生する経費は,日額の計算に含めるべきことになります。
この固定経費がいくらであるかは,確定申告書だけでは分からないので,別途収支内訳書(青色申告の場合は青色申告決算書)を提出するのが適切です。
主婦の場合に注意すべきこと
主婦の休業については,以下のような場合が問題になりやすいです。
①休業日数
主婦の場合,休業の客観的な立証が困難である上,休業自体もあいまいになりやすいため,休業日数が何日であるかが問題になりやすいでしょう。
この点,自賠責基準では実通院日数を機械的に休業日数としますが,主婦休損の計算時に実通院日数を休業日数としなければならない,というルールはありません。自賠責保険金額をそのまま受領するのであれば,自賠責基準に沿った計算で足りますが,以下のような場合には日数計算を検討しなおす必要があります。
①自賠責の上限を超えてしまう場合
→自賠責基準の休業損害がそのまま支払われるわけではないため,相手保険が自賠責基準の計算に従うことが考えにくくなります。
②日額を裁判基準で請求する場合
→主婦の休業損害の日額は,自賠責保険の場合には6,100円ですが,裁判基準で用いられる賃金センサスを参考にするとより大きな金額になります。一例として,令和5年の場合,以下の金額となります。
3,996,500円÷365≒10,949円
そのため,日額を賃金センサスに改め,「10,949円×実通院日数」の休業損害を請求したいところですが,日額を改めたときに休業日数を実通院日数のままにしなければならない,というルールは存在しないため,日数計算を検討しなおす必要が生じます。
②兼業の場合の処理
兼業主婦の場合,勤労時間が概ね週30時間未満のパート勤務であれば,主婦の休業損害が支払われる対象になります。一方,フルタイム勤務の場合,主婦の休業損害の対象とされることはあまりありません。
週30時間未満のパートタイマーであれば,主婦の休業損害の方が金額の大きい場合が通常であるため,主婦を念頭に置いた休業損害の計算が有益になるでしょう。
ただ,短時間のパートタイマーであっても,そのパート勤務の休業がない(又はわずかしかない)場合には,主婦としての休業もあまり必要がなかった,との判断で休業損害の有無や金額に争いの生じる場合があります。
休業損害が支払われない場合
休業損害は,文字通り休業による損害であるため,事故によって休業の損害が発生した場合に限り支払いがなされます。休業損害が支払われない場合としては,以下のようなケースが挙げられます。
①収入減少がない
休業しても収入減少がない場合には,休業による損害がなく,休業損害は支払われません。代表例としては,会社役員や会社代表者が挙げられます。年俸などの報酬制を取っており,休業しても収入額に影響がなければ,休業損害の支払は生じないことになります。
もっとも,会社役員や会社代表者であっても,その報酬の中に勤労の対価の性質を持つ部分があり,その部分が減少する場合には,休業損害が発生します。
②因果関係がない
事故後に休業したものの,休業と事故との間に因果関係がない場合には,休業損害は支払われません。
例えば,事故前から元々休む予定であった,仕事ができる状態であったのに独断で休業した,といった場合が挙げられます。
交通事故の休業損害に強い弁護士をお探しの方へ
休業損害は,請求方法や請求時の提出資料に注意すれば,円滑に適切な金額を受領することは決して難しくありません。
しかし,実際に適切な請求をできる人は多くなく,保険会社との間で迅速な解決ができていないケースが多数見受けられます。
休業損害について保険会社の取り扱いに問題が生じている場合は,一度弁護士にご相談するのが望ましいでしょう。
さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,1000件を超える数々の交通事故解決に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内いたします。
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