●交通事故で訴訟をすべき場合について知りたい
●ADRとは何か?訴訟と何が違うか?
●訴訟やADRはどのくらいの期間がかかるか?
●訴訟のリスクやデメリットを知りたい
●交通事故の訴訟は弁護士に依頼すべきか?
というお悩みはありませんか?
このページでは,交通事故の訴訟やADRについてお困りの方に向けて,交通事故で訴訟をすべき場合,ADRの手続,訴訟やADRのメリット・デメリットなどを解説します。
目次
交通事故で訴訟に至る場合
交通事故の損害賠償に関する問題が訴訟に至る場合は,簡単に言えば交渉不成立との結論になった場合です。そして,交渉不成立と判断するのが被害者側であるか加害者側であるかによって,訴訟の内容に若干の差異が生じます。
示談不成立と判断した側 | 訴訟の内容 |
被害者 | 損害賠償の請求 |
加害者 | 債務(一部)不存在の確認 |
被害者側が交渉を断念して訴訟を行う場合,その希望する請求額を裁判所に認めてもらうことを目指して訴訟提起します。これは,損害賠償請求の訴訟となります。
一方,加害者側が交渉を断念して訴訟を行う場合,加害者側が認める以上の支払は必要ないはずである,という主張を内容とする訴訟になります。これは,債務の不存在確認の訴訟となります。
もっとも,これらは同じ紛争を当事者それぞれの目線で訴訟にしているという違いしかないため,訴訟における争点や解決方法はほとんど同様になるでしょう。
ADRとは
ADR(Alternative Dispute Resolution 代替的紛争解決)とは,裁判外の紛争解決手続を言い,裁判を通じずに交通事故事件を解決するための制度です。
ADRは,示談交渉は難しいものの,訴訟までは希望しないという場合の中間的な解決方法,というべき位置付けの手続です。訴訟とは異なり,担当者が間に入って和解のための仲介を行う制度であるため,ADRを用いた場合には基本的に話し合いによる合意を目指すことになります。
ADRの基本的な流れは以下の通りです。
①法律相談 | 電話又は面談で相談を受け付ける |
②和解あっせん | ADR機関が間に入って和解の協議を行う |
③審査 | 和解が成立しない場合,ADR機関が結論を出す |
交通事故のADRには,主に「交通事故紛争処理センター」と「日弁連交通事故相談センター」の二つがあります。いずれも和解あっせん及び審査の対応が可能です。
なお,審査の結果結論をだすことを「裁定」と言いますが,裁定案を拒否すると訴訟に移行することになります。
訴訟とADRの違い
訴訟とADRは,いずれも交渉が奏功しない場合に紛争解決を目指す手続ですが,以下のような違いが挙げられます。
【項目】 | 【訴訟】 | 【ADR】 |
手続の形式 | 法律の定めに従う | 柔軟な取り扱いが可能 |
関与する人 | 裁判所(裁判官) | あっせん担当弁護士 |
解決のスピード | 長期間を要しやすい | 訴訟よりは短期間になりやすい |
費用 | 訴訟費用や弁護士費用等が発生 | 申立て無料 |
公開性 | 公開の法廷における審理 | 非公開の手続 |
賠償額 | 遅延損害金や弁護士費用を加算 | 遅延損害金や弁護士費用は通常加算しない |
強制力 | 法的拘束力があり,履行を強制させられる | 合意内容の強制力はない |
基本的な差異としては,訴訟だと厳格な手続で一定の費用が発生するものの,解決内容に強制力がある,ADRだと柔軟な手続で費用なく実施できるものの,解決内容に強制力はない,という区別ができるでしょう。
一部例外はありますが,裁判所の判断を求めるときには訴訟,協議の場を求めるときにはADRを利用するのが有力な選択になりやすいです。
訴訟やADRにかかる期間
訴訟もADRも,第三者を交えた紛争解決手続のため,手続に期間を要するものとなります。ただし,一般的には訴訟の方がより長期間を要することになりやすいでしょう。
一般的な解決期間の目安には,以下のような違いがあります。
訴訟 | ケースによって1年を超えることも多数 |
ADR | 3~6か月程度が多い |
手続の選択に際しては,長期間の手続を許容できるか,という点も踏まえての検討が望ましいです。
ポイント
ADRは第三者の弁護士が間に入って和解の仲介をする手続
ADRは訴訟より短期間・柔軟・安価な手続だが,賠償額に限りがあり強制力がない
訴訟はケースにより年単位,ADRは3~6か月ほどの期間がかかりやすい
訴訟やADRのメリット
訴訟やADRの最も大きなメリットは,交渉が奏功しなかった場合にも適正な賠償額を受領することが可能である,という点です。
交渉の場合,合意のできる金額や条件は相手方の判断によって左右されます。相手方の主張が明らかに不合理であっても,相手方にその主張を撤回して対応を改める意思がなければ,適正な内容での解決はできません。
この点,訴訟やADRでは,客観的で公正な判断のできる第三者が介入するため,相手方の不合理な主張が原因で適正な結果が獲得できない,ということが生じません。訴訟やADRを利用した場合の結論は,少なくとも客観的に見て不合理でない内容となることがみこまれます。
また,訴訟やADRを用いるメリットとしては,示談交渉よりも賠償金額が大きくなる可能性がある,という点が挙げられます。
交渉では,訴訟などの手続を行っていないことを理由に,訴訟で認められ得る最大額での合意を行うことは通常ありません。これは,訴訟での最大額(いわゆる裁判基準)の金額は裁判で必要な立証を尽くし,裁判所が被害者の主張を全面的に認めた場合に初めて認められる金額であるため,と説明されます。訴訟の負担なく,訴訟での必要な立証を尽くしていない状況下では,裁判で全て立証されたのと同等の金額は支払われない,というわけです。
しかし一方で,現実に訴訟などで必要な立証を尽くせば,裁判基準の全額を支払ってもらうべきということになります。訴訟やADRを行い,賠償金を減額すべき事情がないとの判断に至った場合,示談交渉で獲得できるよりも賠償金額が大きくなるでしょう。
加えて,訴訟に限るメリットですが,賠償金額として遅延損害金と弁護士費用の請求を追加で行うことが可能です。
遅延損害金は,利息に該当するものです。交通事故の損害賠償は,民法上の「不法行為」を根拠にするものですが,不法行為に基づく損害賠償は,不法行為時に賠償義務が生じるため,時間を経るごとに利息が加わり,加害者は利息を加えた金額の賠償を要します。
本稿の執筆時では,法定利率が年3%のため,例えば100万円の損害を1年後に賠償する場合だと,103万円の支払が必要になります。
あわせて,不法行為の損害賠償を訴訟で請求する場合,請求額の10%を弁護士費用として上乗せし請求するのが訴訟手続の一般的な運用とされています。100万円の請求を行う場合だと,10万円を弁護士費用として別途請求することが可能です。
遅延損害金と弁護士費用の請求は,訴訟をした場合にのみ発生するものであるため,訴訟のメリットということができるでしょう。
訴訟やADRのリスク・デメリット
訴訟やADRのリスクとしては,まず,交渉よりも賠償金額が小さくなる可能性が挙げられます。
交渉の際に争点があった場合,その争点に対する見解の違いをどのように金額に反映させるかは,当事者それぞれの判断となります。そのため,被害者に不利益な相手方の主張を金銭換算するといくらになるのかは,相手方が自己判断しているに過ぎません。そして,裁判所は,交渉で相手方が主張した金額に拘束されるわけではありません。
そうすると,訴訟で相手方の主張が裁判所に採用されたとき,それを金額に反映した結果は,相手方が交渉で主張していたよりも更に被害者に不利な金額である可能性があります。例えば,交渉で相手が自分の主張を前提とした提案を100万円としていたとしても,訴訟で相手の主張がそのまま認められた結果の金額が50万円になってしまう,ということは十分に考えられるのです。
また,他のリスクとしては,交渉のときにはなかった新たな争点が生じ得る,という点があります。
示談交渉の際には,円満解決を目指す目的で,言い分の全部又は一部を相手には示さないのが一般的です。言い分をあれもこれも突き付けてしまうと,お話合いでの解決に支障が生じやすいためです。全体の金額が合意できるのであれば,あえて言い分の全てをぶつけ合わない方が早期に穏やかに解決できるのが通常でしょう。
しかし,訴訟に至った後は,互いにそのような配慮はしません。そのため,交渉段階では控えていた言い分でも,訴訟では主張するということが多く見られます。
その結果,訴訟段階で初めて相手がぶつけてきた主張を裁判所が認め,交渉段階では予期しなかった理由で不利益な結果になる可能性も否定できません。
さらに,現実的な問題としては,主張立証の負担が重くのしかかるデメリットもあります。
訴訟やADRは,主張した内容が客観的に認められるか,つまり主張した内容が立証できるか,という問題になります。そのため,交渉段階でそれほど厳密に立証を求められなかった内容であっても,訴訟等では根拠に乏しい曖昧な主張では認められません。
厳密な主張立証の負担が生じた結果,立証を尽くすことができなかった場合には,やはり交渉よりも不利益な結論になってしまう可能性があるでしょう。
ポイント
訴訟やADRのメリット
交渉が奏功しなくても適正な賠償を受け取れる
示談よりも賠償金額が大きくなる可能性がある
訴訟では遅延損害金と弁護士費用を追加請求できる
訴訟やADRのデメリット
交渉よりも賠償金額が小さくなる危険がある
交渉のときに生じなかった争点が生じ得る
主張立証の負担が重い
交通事故の訴訟やADRは弁護士に依頼すべきか
交通事故の訴訟やADRについては,可能であれば弁護士に依頼をしたいところです。それだけ,訴訟やADRは交渉よりも手続負担の重いものであり,ご自身での対応に限界が生じやすいでしょう。
もっとも,訴訟やADRが金銭を請求する手続である以上,弁護士に依頼することで金銭的に利益があるのか,逆に損失が見込まれるのかは,非常に重要な問題です。
そのため,弁護士依頼に関しては,個別の具体的な事情を踏まえて利益が見込まれるか損失が見込まれるか,交通事故に精通した弁護士へ十分に相談することをお勧めいたします。弁護士にご相談いただくことで,あり得る可能性やリスク,具体的な流れなどをご案内することが可能です。
ポイント 訴訟やADRの弁護士依頼
依頼することで利益が見込まれるか損失が見込まれるか,弁護士に相談して確認すべき
交通事故に強い弁護士をお探しの方へ
交通事故の訴訟やADRは,どのような対応をするかで結果が劇的に変わる場合が非常に多いものです。
もっとも,個別の事件でどのような対応をすべきかは,内容や争点により様々であるため,交通事故に精通した弁護士へのご相談が肝要です。
さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,1000件を超える数々の交通事故解決に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内いたします。
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