
交通事故の被害に遭った際,治療が終了してもなお症状が残ってしまう場合には,後遺障害等級認定を受けられる可能性があります。後遺障害等級が認定された場合,受領できる慰謝料額などが大きく変わるため,等級の認定基準を把握することは重要です。
自賠責保険では,1級から14級の後遺障害等級が定められており,それぞれに詳細な認定基準が設けられています。ここでは,後遺障害13級の対象となる症状や認定の基準,認定された場合の慰謝料額などを弁護士が解説します。

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目次
- 1 後遺障害13級の認定基準
- 1.1 【1号】「一眼の視力が0.6以下になつたもの」
- 1.2 【2号】「正面以外を見た場合に複視の症状を残すもの」
- 1.3 【3号】「一眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの」
- 1.4 【4号】「両眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの」
- 1.5 【5号】「五歯以上に対し歯科補綴を加えたもの」
- 1.6 【6号】「一手のこ指の用を廃したもの」
- 1.7 【7号】「一手のおや指の指骨の一部を失つたもの」
- 1.8 【8号】「一下肢を一センチメートル以上短縮したもの」
- 1.9 【9号】「一足の第三の足指以下の一又は二の足指を失つたもの」
- 1.10 【10号】「一足の第二の足指の用を廃したもの、第二の足指を含み二の足指の用を廃したもの又は第三の足指以下の三の足指の用を廃したもの」
- 1.11 【11号】「胸腹部臓器の機能に障害を残すもの」
- 2 後遺障害13級の慰謝料
- 3 後遺障害13級の逸失利益
- 4 後遺障害等級の認定を受ける方法
- 5 弁護士依頼のメリット
- 6 交通事故に強い弁護士をお探しの方へ
- 7 お問い合わせ
後遺障害13級の認定基準
13級の認定基準一覧
1号 | 一眼の視力が0.6以下になつたもの |
2号 | 正面以外を見た場合に複視の症状を残すもの |
3号 | 一眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの |
4号 | 両眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの |
5号 | 五歯以上に対し歯科補綴を加えたもの |
6号 | 一手のこ指の用を廃したもの |
7号 | 一手のおや指の指骨の一部を失つたもの |
8号 | 一下肢を一センチメートル以上短縮したもの |
9号 | 一足の第三の足指以下の一又は二の足指を失つたもの |
10号 | 一足の第二の足指の用を廃したもの、第二の足指を含み二の足指の用を廃したもの又は第三の足指以下の三の足指の用を廃したもの |
11号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残すもの |
【1号】「一眼の視力が0.6以下になつたもの」
後遺障害等級の対象とする視力は,矯正視力を指します。そのため,眼鏡やコンタクトレンズなどを着用した状態の視力を基準に判断されます。
【2号】「正面以外を見た場合に複視の症状を残すもの」
「複視」は,1つの物体が2つに見えることをいいます。主に眼の周りにある筋肉の一部が麻痺して片方の眼球の動きが悪くなることで,物が上下左右にずれて二重に見える状態を指します。
「複視の症状を残すもの」とは,以下の全てを満たす場合を指します。
1.本人が複視のあることを自覚していること
2.眼筋の麻痺等複視を残す明らかな原因が認められること
3.ヘススクリーンテストにより患側の像が健側に比して5度以上離れた位置にあること
【3号】「一眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの」
「半盲症」とは
「半盲症」とは
視野の右半分又は左半分が欠損し,見えなくなってしまう症状をいいます。以下のような種類があります。
同側半盲:両眼の同じ側で半盲が生じる場合
異名半盲:両眼のそれぞれ反対側で半盲が生じる場合
また,視野の上半分または下半分が欠損する場合もあり,「水平半盲」といいます。
「視野狭窄」とは
「視野狭窄」とは
視野が狭くなる症状をいいます。以下のような種類があります。
同心性狭窄:中心部分ははっきり見えるが,周辺部分が見えない
不規則狭窄:視野の一部分が規則性のない形で狭くなる
「視野変状」とは
「視野変状」とは
半盲症や視野狭窄のほか,視野に異常が生じることをいいます。具体的には以下の内容があります。
暗転:視野の中に暗くて見えない部分が生じるもの
視野欠損:視野の一部が見えなくなる状態
【4号】「両眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの」
「まぶたの一部に欠損を残すもの」とは
まぶたを閉じた場合に、角膜を完全に覆うことができるものの、球結膜(白目)が露出してしまう場合
「まつげはげを残すもの」とは
まつげの生えている周縁の2分の1以上にわたってまつげはげを残す場合
両目について,目を閉じていても白目が露出してしまった場合,又はまつげが半分以上剥げてしまった場合は,13級4号の認定対象になります。
【5号】「五歯以上に対し歯科補綴を加えたもの」
歯牙障害と呼ばれる後遺障害です。歯牙障害は,歯科補綴を加えた歯の数によって等級が認定されます。
「歯科補綴を加えたもの」とは
=現実に喪失又は著しく欠損した歯牙に対する補綴
「著しく欠損した」とは
歯冠部(歯肉より露出している部分)の体積の4分の3以上を欠損したもの
「補綴」とは
歯が喪失したり欠損したりしたところを,クラウン(歯全体を覆う被せ物)や入れ歯などの人工物で補うこと
【留意事項】
①認定対象になる歯の条件
→認定対象となる歯は,永久歯を指します。乳歯や含まれず,いわゆる親知らずも含まれません。ただし,乳歯が欠損したことで永久歯の萌出が見込めない場合は含まれます。
②喪失した歯の数より補綴した義歯の数が多い場合
→喪失した歯牙が大きい場合や歯間が広かった場合など,喪失した歯の数よりも多くの補綴を要した場合,等級の認定は喪失した歯の数によって判断されます。
(例)5本を喪失したが,7本の補綴をした場合,5本の歯科補綴として13級を認定する
③ブリッジなどで失った歯以外を切除した場合
→交通事故で失った歯の補綴に際して,ブリッジを設ける目的などで他の歯を切除した場合,歯冠部の4分の3以上切除していれば,歯科補綴を加えた本数に含みます。
(例)交通事故で3本喪失したところ,両側2本の歯にブリッジを施した場合,5本の歯科補綴として13級を認定する
なお,歯牙障害については,歯科用の後遺障害診断書を用いて主治医の記載を依頼します。

【6号】「一手のこ指の用を廃したもの」
手指の用廃に関する等級です。
「手指の用を廃したもの」とは,以下のいずれかの場合を指します。
1.手指の末節骨の長さの1/2以上を失ったもの
2.中手指節関節又は近位指節間関節(親指については指節間関節)の可動域が1/2以下に制限されるもの
3.親指について、橈側外転又は掌側外転のいずれかの可動域が1/2以下に制限されるもの
4.手指の末節の指腹部及び側部の深部感覚及び表在感覚完全に脱失したもの

(「障害認定必携」より引用)
【7号】「一手のおや指の指骨の一部を失つたもの」
1指骨の一部を失っていること(遊離骨片の状態を含む)がX線写真より確認できるものを指します。
【8号】「一下肢を一センチメートル以上短縮したもの」
下肢の短縮は,上前腸骨棘と下腿内果下端の間の長さを健側の下肢と比較して等級認定を行います。

【9号】「一足の第三の足指以下の一又は二の足指を失つたもの」
「足指を失ったもの」とは,足指を中足指節関節から失ったことを指します。つまり,足指をすべて失った場合を指すことになります。

(「障害認定必携」より引用)
【10号】「一足の第二の足指の用を廃したもの、第二の足指を含み二の足指の用を廃したもの又は第三の足指以下の三の足指の用を廃したもの」
3つの基準が設けられています。
13級10号に該当する場合
1足の第2の足指の用を廃したもの
第2の足指を含み2の足指の用を廃したもの
第3の足指以下の3の足指の用を廃したもの
なお,「第2の足指」は人差し指,「第3の足指」は中指を指します。そのため,「第3の足指以下の3の足指」は,中指・薬指・小指の3つを指します。
「足指の用を廃したもの」とは,以下のいずれかの場合を指します。
1.親指の末節骨の長さの1/2以上を失ったもの
2.親指以外の足指について、中節骨又は基節骨で切断したもの
3.親指以外の足指について、遠位指節間関節又は近位指節間関節で離断したもの
4.親指の中足指節間関節又は指節間関節の可動域が1/2以下に制限されるもの
5.親指以外の足指の中足指節間関節又は近位指節間関節の可動域が1/2以下に制限されるもの
上記のうち「1」及び「4」は親指に関する基準であるため,「2」「3」「5」のいずれかに該当する場合,14級8号の認定対象になります。
【11号】「胸腹部臓器の機能に障害を残すもの」
具体的な認定基準は,各臓器ごとに異なります。具体的には以下のような基準が設けられています。
・胃の障害
噴門部または幽門部を含む胃の一部を亡失したもの
・胆のうの障害
胆のうを失ったもの
・ひ臓の障害
ひ臓を失ったもの
・腎臓の障害
1.一側の腎臓を失い,GFR値が90ml/分を超えるもの
2.腎臓を失っておらず,GFR値が70ml/分を超え90ml/分以下のもの
・生殖機能に軽微な障害を残すもの
【男性】
一側の睾丸を失ったもの(睾丸の亡失に準ずべき程度の萎縮を含む)
【女性】
一個の卵巣を失ったもの
後遺障害13級の慰謝料
等級ごとの後遺障害慰謝料
後遺障害等級 | 【自賠責基準】 | 【裁判基準】 |
1級 | 1150万円 | 2800万円 |
2級 | 998万円 | 2370万円 |
3級 | 861万円 | 1990万円 |
4級 | 737万円 | 1670万円 |
5級 | 618万円 | 1400万円 |
6級 | 512万円 | 1180万円 |
7級 | 419万円 | 1000万円 |
8級 | 331万円 | 830万円 |
9級 | 249万円 | 690万円 |
10級 | 190万円 | 550万円 |
11級 | 136万円 | 420万円 |
12級 | 94万円 | 290万円 |
13級 | 57万円 | 180万円 |
14級 | 32万円 | 110万円 |
後遺障害13級の場合,自賠責保険からは57万円の慰謝料が支払われます。また,裁判基準の慰謝料は180万円となります。
後遺障害13級の逸失利益
後遺障害逸失利益は,以下の計算式で算出されます。
後遺障害逸失利益
=「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」
このうち,労働能力喪失率は等級ごとに設けられており,等級が上位であるほど喪失率も大きくなります。
1級 | 100% |
2級 | 100% |
3級 | 100% |
4級 | 92% |
5級 | 79% |
6級 | 67% |
7級 | 56% |
8級 | 45% |
9級 | 35% |
10級 | 27% |
11級 | 20% |
12級 | 14% |
13級 | 9% |
14級 | 5% |
後遺障害13級の場合は,労働能力喪失率が9%となります。
計算例
年収500万円,40歳,13級認定
計算式
=「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」
=500万円×0.09×18.3270(27年ライプニッツ)
=8,247,150円
後遺障害等級の認定を受ける方法
①手続の方法
認定手続は,加害者の自賠責保険会社に所定の書類を提出する方法で行われますが,被害者側と加害者側のどちらが提出するかによって,大きく二通りの手続があります。
1.事前認定
対人賠償保険(被害者の人身損害を賠償する加害者側の保険)が,自賠責保険会社に提出する際の方法です。自社の賠償額を算定するため,事前に後遺障害等級認定を求める手続のため,事前認定と呼ばれます。
2.被害者請求
被害者側が,対人賠償保険を通さずに自ら自賠責保険会社に提出する際の方法です。
被害者が自ら自賠責保険会社への請求を行うため,被害者請求と呼ばれます。
3.両者の違い
両者の主な違いは,以下の通りです。
項目 | 【事前認定】 | 【被害者請求】 |
提出する人 | 対人賠償保険 | 被害者自身 |
提出書面 | 必要書類一式 | 必要書類以外も提出可 |
提出物の収集 | 保険会社が行う | 被害者自身が行う |
②手続の流れ
後遺障害等級認定の基本的な流れは,以下の通りです。
【事前認定の場合】
①症状固定の判断 | 医師の診断などで症状固定時期に至ったことを確認します。 |
②後遺障害診断書の作成 | 主治医の先生へ,後遺障害診断書の作成を依頼します。所定の書式があるため,書式を持参の上で医師の診察や検査を受けるのが一般的です。 |
③後遺障害診断書の提出 | 相手保険に後遺障害診断書を提出します。 |
④事前認定の実施 | 相手保険による自賠責保険への提出を待ちます。 |
⑤後遺障害等級の結果通知 | 相手保険に結果の通知があり,相手保険から被害者側に知らされます。 |
【被害者請求の場合】
①症状固定の判断 | 医師の診断などで症状固定時期に至ったことを確認します。 |
②後遺障害診断書の作成 | 主治医の先生へ,後遺障害診断書の作成を依頼します。所定の書式があるため,書式を持参の上で医師の診察や検査を受けるのが一般的です。 |
③申請書類の準備 | 治療期間中の診断書やレセプト,交通事故証明書などの必要書類を取得し,申請書類に必要事項を記載します。 |
④被害者請求の実施 | 必要書類を自賠責保険会社に提出し,被害者請求を実施します。 |
⑤後遺障害等級の結果通知 | 申請者である被害者又は代理人に直接通知されます。 |
事前認定は,後遺障害診断書を相手保険に提出するのみで足りるため,手続が簡便であるというメリットがあります。一方で,自賠責保険に提出される資料は必要不可欠なもののみであるため,認定に有用な資料を追加で提出したい,という場合には適していません。
一方,被害者請求は,後遺障害診断書以外の提出書面も全て積極的に提出する必要があるため,手続負担が大きくなりやすいところです。しかし,提出できる資料は不可欠なものに限られず,判断に際して考慮してほしい資料や内容を任意に提出できるというメリットがあります。
後遺障害等級のうち,検査結果の数値で認定結果が決まる場合には,事前認定か被害者請求かという手段よりもその検査結果が重要になるでしょう。検査結果が認定基準を満たしている限り,どちらの方法でも差し支えないという結論になります。
一方,認定基準が数値だけでは判断できず,複数の事情を総合的に踏まえる必要がある場合,考慮してもらうべき事情を積極的に提出することが有益になり得ます。この点,必要な診断書等以外の資料を積極的に提出したい場合には,被害者請求の方法を取る必要があります。
そのため,数値で判断が可能な内容かどうかによって,事前認定と被害者請求を適宜選択することが有力でしょう。
弁護士依頼のメリット
①必要な対応を弁護士に任せることができる
交通事故被害に遭った場合,主に相手保険との間でやり取りが必要になり,その内容は多岐に渡ることが少なくありません。そのため,ただでさえ被害に遭って心身のダメージを抱えている中,相手保険への対応でさらに疲弊させられてしまうということが生じがちです。
この点,弁護士に依頼をすれば,その後の必要な対応を全て弁護士に任せることが可能です。弁護士に適切な対応をしてもらうことで,不要な負担を感じることなく解決を目指せるでしょう。
②後遺障害等級認定に必要なことが分かる
後遺障害等級認定を目指す場合,その等級認定基準を満たしていると判断してもらうことが必要になります。そうすると,あらかじめ等級認定基準を踏まえた上で,基準を満たす内容の資料を提出する形で申請を試みることが不可欠です。
しかしながら,等級認定基準を正確に把握することは,交通事故分野に精通していない限りは容易でありません。
この点,弁護士に依頼することで,等級認定基準を踏まえた申請の準備を弁護士に検討してもらうことが可能になります。そのため,後遺障害等級認定のために必要な対応が分かり,適切な申請ができるようになるでしょう。
③慰謝料などの増額が期待できる
交通事故の場合,弁護士が交渉を行うことで,慰謝料などの増額ができる場合が非常に多く見られます。これは,保険会社が,弁護士の有無で慰謝料などの賠償額を異にする運用をしているためです。
弁護士に依頼することで,慰謝料をはじめとした損害賠償額の増加が期待できるでしょう。また,後遺障害等級が認定された場合,後遺障害に応じた慰謝料なども発生するため,弁護士による増額の余地はさらに大きくなることが見込まれます。
交通事故に強い弁護士をお探しの方へ
さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,1000件を超える数々の交通事故解決に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内いたします。
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藤垣法律事務所代表弁護士。岐阜県高山市出身。東京大学卒業,東京大学法科大学院修了。2014年12月弁護士登録(67期)。全国展開する弁護士法人の支部長として刑事事件と交通事故分野を中心に多数の事件を取り扱った後,2024年7月に藤垣法律事務所を開業。弁護活動のスピードをこだわり多様なリーガルサービスを提供。