【交通事故解決事例】後遺障害12級獲得後,逸失利益の満額回収で2200万円超の高額賠償にて解決した事例

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】

・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

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事案の概要

被害者が単車に乗車中,片側二車線の幹線道路を直進走行していたところ,左の駐車場から進入してきた四輪車と衝突する事故に遭いました。
被害者は,右上腕を骨折し,主に肩関節の可動域に大きな支障が生じている状況でした。

弁護士には,退院直後の段階でご相談され,その後の対応や解決に向けたお力添えのため弁護活動を受任しました。
相談当時には,過失割合について交渉を行っている状況でした。

法的問題点

①過失割合

単車が道路を直進中に,路外から進入した四輪車と事故になった場合の過失割合は,単車:四輪車=10:90が基本過失割合とされます(【218】図)。
また,現場の道路は「幹線道路」に該当するため,-5%の修正がなされ,単車:四輪車=5:95となることが見込まれる事故態様でした。

「別冊判例タイムズ38号」より引用

もっとも,加害者側は,被害者の速度超過を問題視しているようでした。被害者の単車に速度超過がある場合,時速15㎞以上で10%,時速30㎞以上で20%の修正要素となるところです。
また,被害者としては,自身が被害者であるにもかかわらず自分の方にも過失割合が発生することに納得し難いという意向をお持ちでした。
そのため,被害者及び加害者それぞれが主張する過失について,その根拠の有無を慎重に確認する必要がありました。

ポイント
事故類型から想定される過失割合は5:95
被害者加害者双方に修正要素の言い分がある様子であった

②後遺障害等級

被害者は,骨折の影響で肩関節の動きに制約のある状況でした。これは,「上肢の機能障害」に該当する後遺障害と思われるところです。

上肢の機能障害については,以下の「1」~「4」の等級認定基準が設けられています。

1.「上肢の用を全廃したもの」

等級基準
1級4号両上肢の用を全廃したもの
5級6号1上肢の用を全廃したもの

「上肢の用を全廃したもの」とは,以下の場合を指します。


三大関節(肩関節・肘関節・手関節)の全てが強直(※)している
かつ
手指の全部の用を廃している

※関節が可動性を失い,動かなくなった状態

2.「関節の用を廃したもの」

等級基準
6級6号1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの
8級6号1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの

「関節の用を廃したもの」とは,以下のいずれかの場合を指します。

1.関節が強直したもの
2.関節の完全弛緩性麻痺またはこれに近い状態(※)にあるもの
3.人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの

※「これに近い状態」とは,自動の可動域が10%程度以下になった場合を指します。
(例)健側の可動域が150度の場合,患側の可動域が15度以下であれば関節の用廃となる

3.「関節の機能に著しい障害を残すもの」

等級基準
10級10号1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの

「関節の機能に著しい障害を残すもの」とは,以下のいずれかの場合を指します。

1.関節の可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの
2.人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の1/2分の1以下に制限されていないもの

4.「関節の機能に障害を残すもの」

等級基準
12級6号1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの

「関節の機能に障害を残すもの」とは,以下の場合を指します。

関節の可動域が健側の可動域角度の3/4以下に制限されている場合

なお,関節可動域は,関節ごとに定められる主要運動の測定値を比較します。
肩関節については,以下の通りです。

主要運動及び関節可動域

関節主要運動参考可動域角度
肩関節①屈曲(前方拳上)180度
肩関節②外転(側方拳上)180度

被害者の場合,肩関節の可動域に一定の制限が生じており,その程度としては健側の4分の3以下と評価し得るものと見受けられました。そのため,12級6号の認定可能性が考えられる状況でした。

ポイント
肩関節の可動域制限が問題
患側可動域が健側の4分の3以下で12級の認定可能性あり

③慰謝料

交通事故の慰謝料には,「傷害慰謝料」と「後遺障害慰謝料」があります。そして,それぞれについて自賠責保険の基準=いわゆる自賠責基準と,裁判で用いられる基準=いわゆる裁判基準があります。
保険会社は,一般的に弁護士がいない場合には自賠責基準(また保険会社内部の基準)に沿った金額提示を行いますが,弁護士が交渉を行う場合は裁判基準を念頭に置いた計算を行うケースが大多数です。通常,自賠責基準より裁判基準の方が大きい金額となるため,その差額が弁護士による交渉の成果となりやすいところです。

【傷害慰謝料】

ケガを負ったことや入通院を要することに対する慰謝料です。主に入通院期間や実通院日数を基準に計算されます。

自賠責基準の計算方法

①対象日数「総治療期間」と「実通院日数×2」のいずれか小さい日数
②日額1日6,100円
③計算方法①対象日数×②日額=自賠責基準の金額

任意保険基準の計算方法(一例)

任意保険基準の慰謝料

裁判基準の計算方法 別表Ⅰ(重傷)

裁判基準の慰謝料

本件では,被害者の治療費だけで自賠責保険の支払限度額120万円を大きく超えていたため,任意保険基準と裁判基準との比較をすることが見込まれます。
この点,被害者の通院期間は約9か月であったところ,通院9か月の傷害慰謝料は,任意保険基準が82万円,裁判基準が139万円となります。両者の間には50万円以上の差があり,傷害慰謝料に交渉余地があると見込まれることが分かります。

【後遺障害慰謝料】

後遺障害慰謝料は,後遺障害が残存することに対する慰謝料で,その金額は等級ごとに定められています。自賠責基準と裁判基準の比較は以下の通りです。

後遺障害等級【自賠責基準】【裁判基準】
1級1150万円2800万円
2級998万円2370万円
3級861万円1990万円
4級737万円1670万円
5級618万円1400万円
6級512万円1180万円
7級419万円1000万円
8級331万円830万円
9級249万円690万円
10級190万円550万円
11級136万円420万円
12級94万円290万円
13級57万円180万円
14級32万円110万円

後遺障害12級の場合,自賠責基準が94万円,裁判基準が290万円であり,200万円近くの差があります。後遺障害慰謝料についても,交渉の余地があることが見込まれます。

ポイント
傷害慰謝料は任意保険基準と裁判基準の差を交渉
後遺障害慰謝料は自賠責基準と裁判基準の差を交渉

④後遺障害逸失利益

後遺障害等級が認定された場合,損害の項目として後遺障害逸失利益が発生します。後遺障害逸失利益は,後遺障害によって労働能力が低下したことにより,被害者に生じる収入減少を金額計算したものです。

後遺障害逸失利益は,以下の計算式で算出されます。

後遺障害逸失利益
「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

【基礎収入】

基礎収入は,事故前年の収入額を基準にするのが通常です。事故前年の収入額を特定する方法としては,給与所得者(会社員等)であれば源泉徴収票,事業所得者(個人事業主等)であれば確定申告書を用いるのが一般的とされます。

【労働能力喪失率】

労働能力喪失率は,後遺障害によって労働能力が失われた割合を指し,その程度は等級によって定められています。

1級100%
2級100%
3級100%
4級92%
5級79%
6級67%
7級56%
8級45%
9級35%
10級27%
11級20%
12級14%
13級9%
14級5%

後遺障害12級の場合,14%とされるため,計算に際しては「0.14」となります。

【労働能力喪失期間】

労働能力が失われる期間を指しますが,原則として67歳までの期間とされます。67歳に至る前に労働が終了するケースでは,その年齢までの期間を用いることが考えられます。

この点,保険会社は,一般的な給与所得者の定年が60歳であることを踏まえ,60歳までの期間を用いて金額提示をすることが少なくありません。もっとも,あくまで原則は67歳までの期間であるため,60歳までに限定するのは例外的な取り扱いという位置づけに過ぎないと理解するのが適切でしょう。

ポイント
本件の原則的な逸失利益は
「事故前年収入」×「0.14」×「67歳までの期間に対応するライプニッツ係数」

弁護士の活動

①過失割合

本件では,幹線道路の修正を踏まえた過失割合が5:95であるところ,これをさらに修正すべきかどうか,という点が問題となりました。
この点,特に相手が主張する被害者の速度超過を考慮すべきかが主な問題となるところです。

【加害者の主張】

加害者は,被害者の速度超過を指摘していましたが,その根拠は加害者の体感のみでした。ドライブレコーダー映像を踏まえても,時速15㎞以上の速度超過が分かるということはなく,客観的根拠に乏しいと判断しました。
そのため,加害者側の主張する速度超過の修正は端的に拒否するという姿勢を取ることとしました。

【被害者の主張】

被害者としては,具体的な修正要素の主張こそないものの,自分では避け難い事故であったため,自分が無過失になる余地がないか,という問題意識をお持ちの状況でした。そのため,弁護士においては具体的な修正要素の主張が可能か,検討を試みることとしました。

路外から進入してきた車との事故で,加害者に生じやすい修正要素としては,「徐行なし」が考えられます。文字通り,徐行しないまま進入してきた場合を修正要素とするものです。
もっとも,ドライブレコーダー映像上,相手の車両は低速で駐車場内を移動しており,車道への進入直前にも一時停止をしていたことが見受けられました。そのため,弁護士からは,「徐行なし」の主張が難しいことを確認の上,5:95の過失割合での解決を進めることとしました。

ポイント
速度超過の根拠がなく,相手の主張は拒否
被害者に有利な修正要素も,具体的な確認の上で主張困難と判断

②後遺障害等級

本件では,肩関節の可動域が問題となっていましたが,関節可動域は,後遺障害診断書上の測定値を基準に判断されるのが一般的です。そのため,可動域制限について後遺障害等級を獲得するためには,後遺障害診断書上の測定結果が極めて重要となります。

そこで,弁護士からは,被害者及び主治医と問題意識を共有の上,患側の可動域が健側の可動域の4分の3以下と言えるか,ということを明らかにするよう勧めることにしました。その結果,測定値は4分の3を十分に下回る数字であることが確認でき,12級の獲得に十分な後遺障害診断書の作成となりました。

これを踏まえた等級認定の結果,当初の目標通り12級の獲得に至りました。

ポイント
関節可動域は後遺障害診断書の記載内容を基準に判断される

③慰謝料

傷害慰謝料及び後遺障害慰謝料については,弁護士にて裁判基準を念頭に置いた交渉を実施しました。

弁護士が交渉を行う場合,裁判基準の80~90%を目指す交渉が有力と考えられています。裁判基準満額は,裁判を行って被害者の言い分が全て認められた(加害者側の言い分がすべて退けられた)場合に初めて認められる金額であるため,交渉で実現されることは通常ありませんが,裁判基準に近い水準は交渉でも合意されるべき水準として多く用いられているところです。

本件では,裁判基準の90%を合意の目標額として金額交渉を実施したところ,結果としても裁判基準の90%を採用することとなり,十分な慰謝料額に至りました。

ポイント
交渉の目標額は裁判基準の80~90%が目安
90%を目指す交渉を実施し,90%にて合意

④逸失利益

後遺障害逸失利益については,特段の事情がない限り以下の計算を用いるのが適切と思われる内容でした。

目標とする逸失利益
=「事故前年収入」×「0.14」×「67歳までの期間に対応するライプニッツ係数」

この点,保険会社は「67歳まで」でなく「60歳まで」と主張する場合が少なくありませんが,これは60歳までで労働を終えることが明確なケースに限られるべきところです。
そのため,弁護士においては,60歳までに限定する理由が特にないことを被害者の状況を踏まえて指摘し,67歳までの計算が適切であることを主張しました。

交渉の結果,逸失利益は当初の目標と同額にて合意することとなりました。その金額は,12級ながら約2000万円と,高額合意に至りました。

ポイント
労働能力喪失期間は原則通り67歳とする内容で合意

活動の結果

以上の活動の結果,被害者には後遺障害12級が認定されるとともに,約2250万円の賠償額を獲得することとなりました。

慰謝料,逸失利益ともに,弁護士が目標とする金額が実現され,被害者への十分な補償がなされる結果となりました。

後遺障害等級の獲得
弁護士による増額

弁護士によるコメント

本件では,後遺障害等級12級で2200万円を超える賠償額となり,等級に比して非常に高額の賠償となる事例でした。主な要因は,被害者が若い年齢であったことや安定した職に就いていたことで,後遺障害逸失利益が高額になりやすかった点にあると思われます。もっとも,適切な請求や交渉なくこの金額になることは考えにくいため,やはり適切な交渉を尽くすことが大切である,と改めて感じるケースになりました。

また,本件では双方に過失割合の言い分があったところ,主に相手の主張する修正要素を排斥した内容での解決に至りました。修正要素は,修正すべきと主張する側がその根拠を示し,立証しなければなりません。そのため,相手の主張に根拠がない場合や,立証ができていると言えない場合には,修正要素の主張を受け入れる必要はないでしょう。
もちろん,交渉の段階では互いの主張を一定程度反映した中間的な解決も多くありますが,相手が主張している,というだけで安易に譲歩することもまた不合理と考えるべきです。

これらの交渉は,弁護士を通じて行うかどうかで大きく結果が異なりやすいものです。そのため,保険会社との交渉を想定する場合は,一度弁護士にご相談されることを強くお勧めします。

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