
このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。
【このページで分かること】
・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容


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目次
事案の概要
被害者が歩行中,信号及び横断歩道のある十字路交差点を,青信号に従って横断歩道上を通る形で直進しようとしたところ,同一方向を走行中の四輪車が左折を試み,巻き込み事故が発生しました。被害者は,左の頭部を強く地面に打ち付け,頭蓋骨骨折と脳内の出血が見られる状況でした。
その後,入通院治療が継続されましたが,被害者には「てんかん」の症状が確認され,てんかん発作を防ぐための内服薬を要する状況となりました。
弁護士には,治療継続中にご家族からご相談がありました。今後の適切な対応について相談をされたいというご希望でした。
法的問題点
①過失割合
本件の被害者の過失割合はゼロであることが想定されます(【12】図)。

「別冊判例タイムズ38号」より引用
そもそも,横断歩道は「歩道」であるため,歩行者が最優先されるべき場所です。そのため,横断歩道を通行中の歩行者が交通事故に遭った場合,歩行者には原則として過失が生じないと考えるべきことになります。
本件でも,他に被害者の過失の根拠となる事情がない限り,被害者の過失はゼロと判断すべき状況でした。
ポイント
横断歩道上の歩行者は過失ゼロ
②後遺障害等級
被害者には,頭部の強い受傷の結果,「てんかん」の症状がみられる状況でした。てんかんとは,脳の中枢神経が損傷したことにより,神経細胞に異常が生じ,発作が発生する障害です。発作の頻度や程度に応じた後遺障害等級の定めがあります。
てんかんに関する後遺障害等級認定基準
等級 | 基準 | 具体的な要件 |
5級 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 1ヶ月に1回以上の発作があり、かつその発作が転倒する発作等(※)であるもの |
7級 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 転倒する発作等が数ヶ月に1回以上あるもの又は転倒する発作等以外の発作が1ヶ月に1回以上あるもの |
9級 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの | 数ヶ月に1回以上の発作が転倒する発作等以外の発作であるもの又は服薬継続によりてんかん発作がほぼ完全に抑制されているもの |
12級 | 局部に頑固な神経症状を残すもの | 発作の発現はないが、脳波上に明らかにてんかん性棘波(きょくは)を認めるもの |
てんかんの場合,てんかんの頻度,てんかん発作の内容(転倒する発作か),てんかん発作を服薬継続により抑制できるか,という点から等級認定基準が設けられ,類型化されています。
被害者の場合,てんかんの発作は内服薬によって抑えることができる状況ではあったため,等級認定基準に照らすと9級の認定可能性が考えられる状況でした。
ポイント
被害者には服薬で抑制可能なてんかん発作が生じていた
てんかんについて後遺障害9級が見込まれる状況
③休業損害
被害者は,高齢の専業主婦で,配偶者と二人暮らしをしている立場でした。そのため,主婦としての家事労働に休業が生じており,休業損害の請求が考えられる状況でした。
この点,休業損害は以下の計算式で計算されます。
休業損害
=「日額」×「休業日数」
休業損害の日額は,主婦の場合,平均賃金を用いる形を取る運用が広くなされています。平均賃金には,全年齢のものと年齢別のものがありますが,高齢者の場合には年齢別の平均賃金を用いることが通常です。高齢者の年齢別平均は,全年齢の平均よりも低額になりますが,高齢者の家事能力の限界を踏まえ,このような取り扱いとされることが一般的と言えます。
一方,休業日数をどのように計算するかは,非常に難しい問題です。会社員のように出勤・欠勤が分かりやすい立場とは異なり,一部だけ家事を行ったり,逆に一部だけ家事ができなかったりと,割合的に休業していることが一般的です。しかも,実際に休業したかどうかを根拠づけるものは客観的に存在せず,自己申告によるほかないことも少なくありません。
そのため,被害者の休業損害に関しては,その休業日数をどのようにすべきかが大きな問題でした。
ポイント
主婦の休業損害は,休業日数の特定が難しい問題になりやすい
④後遺障害逸失利益
後遺障害等級が認定された場合,主婦業(家事労働)に関する後遺障害逸失利益の発生が見込まれます。
後遺障害等級が認定される場合,損害賠償額が最も大きくなりやすい項目は「後遺障害逸失利益」です。後遺障害逸失利益とは,後遺障害に伴う労働能力の低下によって収入が減少する分を損害として計算したものをいいます。後遺障害等級が認定される状況では,労働能力がそれ以前より制限されるため,得られたはずの収入が得られなくなったと評価され,逸失利益が発生するということです。
この点,後遺障害逸失利益は,以下の計算式で算出されます。
後遺障害逸失利益
=「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」
被害者の場合,夫と二人暮らしの専業主婦であったため,事故前にはどの程度の家事をしていたのか,後遺障害によってそれがどのようにできなくなったのか,という点を具体的に主張立証することが望ましいと思われる状況でした。
家事労働には様々な内容や家庭内での分担があるため,一口に主婦と言ってもそれぞれの主婦が行う家事の中身は様々です。特に,子育てをしている状況にないため,被害者が担っていた家事の内容は個別に明らかにすることが適切です。
ポイント
主婦の後遺障害逸失利益は,主婦業の具体的な内容を踏まえての検討が適切
弁護士の活動
①等級認定の獲得
被害者については,てんかんに関する後遺障害等級の獲得を目指すべき状況であったため,てんかん発作の具体的内容や状況を資料化することとしました。
具体的には,被害者の方及びご家族の協力を得て,発作の時期や発作が生じたときの具体的な症状を記録化しました。そして,これを踏まえて主治医の見解を仰ぎ,後遺障害診断書上にてんかんの症状を記載していただく方法を取りました。
被害者のてんかんは,内服薬があれば抑えられるものの,定期的に意思に反した挙動を示すものであることがわかりました。弁護士においては,そのようなてんかん発作の内容を詳細に示すとともに,発作が事故後に特有の出来事であることを明らかにすることを目指しました。
その結果,てんかんについては後遺障害9級の獲得に至りました。
ポイント
てんかん発作の時期や具体的内容を記録化
②休業損害の主張内容
休業損害については,被害者の症状が事故から症状固定にかけて徐々に軽減していくことを踏まえ,休業の程度を段階的に低減させる計算方法を採用しました。
具体的なイメージは,以下の通りです。
本件における休業日数の計算方法
時期 | 休業の程度 |
入院中 | 100% |
その後100日 | 80% |
101~200日 | 60% |
201~300日 | 40% |
301日~症状固定 | 35% |
下限を35%としているのは,被害者に後遺障害9級が認定されているためです。後遺障害9級の労働能力喪失率は35%であり,症状固定時以降は労働能力が35%失われているとみなすべき,という点を踏まえると,35%を下回る休業を想定する必要はないと考えられました。
症状固定のイメージ

ポイント
休業の程度が割合的に減少することを反映して計算
もっとも,休業の程度は35%を下回らない
③後遺障害逸失利益
被害者のような高齢の主婦の場合,後遺障害逸失利益の一般的な計算式は以下の通りです。
後遺障害逸失利益
=「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」
=「年齢別平均賃金」×「労働能力喪失率」×「(平均余命の2分の1)に対応するライプニッツ係数」
被害者についても,事故前に十分な家事労働の実績があり,後遺障害によってそれが制限されていれば,同様の計算をして差し支えないと考えられます。
そのため,弁護士においては,事故前に被害者がどのような家事を担っていたのかを確認しました。すると,被害者の場合,配偶者が糖尿病を患っている影響で,夫婦間の家事はほとんどすべて被害者が行っていた,ということが分かりました。そして,事故後は家事があまりできなくなってしまったため,子が定期的に両親をサポートする方法で家事を負担するようになっていたことが分かりました。
これは,まさに家事労働の後遺障害逸失利益が支払われるべき状況であるということができるでしょう。
これを踏まえ,弁護士からは逸失利益が認められるべき事情を丁寧に主張立証する交渉を実施しました。
交渉の結果,後遺障害逸失利益については,「年齢別平均賃金」×「労働能力喪失率」×「(平均余命の2分の1)に対応するライプニッツ係数」との計算式で算出された金額満額が支払われることになりました。
ポイント
事故前は被害者の家事分担がほぼすべてであった
事故後は,子に手伝ってもらう必要が生じた
活動の結果
以上の活動を尽くした結果,被害者にはてんかんによる後遺障害9級が認定され,1500万円の金銭賠償がなされるに至りました。


弁護士によるコメント
本件は,高次脳機能障害に関する等級認定を受けられるかどうかが最初のハードルでした。
この点,頭部に重大な怪我を負った事実は明らかであったため,高次脳機能障害の等級認定基準に照らして必要な事情を確認し,資料化することに注力した点が結果につながった可能性が高いでしょう。
高次脳機能障害で等級認定を得る場合,ご本人やご家族のご協力,ご負担がやむを得ず生じやすいところ,被害者の方やご家族からは非常に円滑なご協力をいただくことができ,それが結果に大きく影響したことと考えられます。
金額交渉に際しては,夫婦二人暮らしの専業主婦であったことから,家事労働の具体的な内容や分担といった個別の事情を明らかにしながら,休業損害や逸失利益の交渉を実施しました。被害者の方は,家事のほとんどを負担していたという事情が見受けられたため,被害者の家事分担を丁寧に示すことで,スムーズな交渉での解決に至ったものと思われます。
この点でも,被害者の方やご家族のご対応に支えられての弁護活動でした。
交通事故の解決は,弁護士とご依頼者様の共同作業が不可欠になりますが,弁護士との相性によっては,ご依頼者様の負担(又は負担感)が大きくなることも否定できません。弁護士選びに際しては,共同作業の円滑さを考慮に入れるのも一案かと考えます。
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藤垣法律事務所代表弁護士。岐阜県高山市出身。東京大学卒業,東京大学法科大学院修了。2014年12月弁護士登録(67期)。全国展開する弁護士法人の支部長として刑事事件と交通事故分野を中心に多数の事件を取り扱った後,2024年7月に藤垣法律事務所を開業。弁護活動のスピードをこだわり多様なリーガルサービスを提供。