【交通事故解決事例】後遺障害手続の認定手続中に弁護士が介入し,適切な修正で併合9級獲得,賠償額2400万円超となった事例

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】

・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

事案の概要

被害者は,単車に乗って走行中,十字路交差点を青信号に沿って直進しようとしたところ,対向の右折四輪車とのいわゆる右直事故に遭いました。なお,被害者の単車は相当程度の高速走行であった可能性が高いとのことでした。

この事故で,被害者は左足に複数の骨折をし,3か月近くの入院を要しました。
その後も長期間の治療を要したものの,足関節に大きな運動制限があって正座が困難であるなどの支障が残りました。また,下肢には大きな傷跡も残った状態でした。

弁護士へのご相談を実施されたのは,事故から約1年半後,後遺障害に関する申請手続中のことでした。後遺障害診断書を相手保険に提出し,いわゆる事前認定の結果を待っている中,今後の対応に関する話を聞きたい,とのご希望でした。

法的問題点

①後遺障害等級(関節可動域)

被害者の場合,足関節の可動域制限が生じているとのことでした。
この点,関節可動域制限に関する後遺障害等級には,以下の基準が設けられています。

等級基準
10級11号1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
12級7号1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの

「関節の機能に著しい障害を残すもの」とは,以下のいずれかの場合を指します。

1.関節の可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの
2.人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されていないもの

「関節の機能に障害を残すもの」とは,以下の場合を指します。

関節の可動域が健側の可動域角度の3/4以下に制限されている場合

そして,関節可動域は,関節ごとに定められる主要運動の測定値を比較して確認されます。

下肢の主要運動

関節主要運動参考可動域角度
股関節①屈曲・伸展125度・15度(合計140度)
股関節②外転・内転145度・20度(合計65度)
ひざ関節屈曲・伸展130度・0度(合計130度)
足関節屈曲(底屈)・伸展(背屈)45度・20度(合計65度)
「屈曲+伸展」「外転+内転」の合計値を比較

足関節の主要運動

被害者に関しては,左の足関節と右の足関節を比較し,後遺障害等級の認定基準を満たしているか,という点が問題になるところです。

しかしながら,被害者の後遺障害診断書上,足関節の可動域は,左右を比較しても後遺障害等級の認定基準を満たすものではありませんでした。
そのため,現状では関節可動域制限が後遺障害として認定される可能性はない状況と言わざるを得ませんでした。

ポイント
関節可動域は,3/4以下又は1/2以下の制限が必要
後遺障害診断書上の測定値が基準になる

②後遺障害等級(醜状)

被害者の下肢には,大きな傷跡が残っている状況でした。そうすると,醜状障害の認定対象になる可能性が考えられます。

この点,下肢の醜状障害については,以下の後遺障害等級認定基準が設けられています。

等級基準
12級相当下肢の露出面に手のひらの大きさを相当程度超える瘢痕を残し,特に著しい醜状であると判断されるもの
14級5号下肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すもの

手のひらの大きさを相当程度超える瘢痕」とは,手のひらの3倍程度以上の大きさの瘢痕を指すとされています。

また,認定基準として用いられる「露出面」とは,以下の範囲を指します。

下肢の「露出面」
股関節から先(足の背部まで)

以上の通り,下肢の股関節から先の範囲に手のひら大以上の醜状が残るケースでは,醜状障害の等級認定が考えられます。被害者に関しても,手のひら大以上の醜状が残っているように見受けられました。

しかしながら,被害者の後遺障害診断書には,醜状に関する記載が全く見当たりませんでした。この場合,他の資料等から特に醜状の損害がうかがわれる場合を除き,醜状障害が認定の対象となることは考えにくく,醜状障害は判断の対象にすらならない可能性が見込まれる状況でした。

ポイント
下肢の醜状障害の認定可能性がある状況
しかし,後遺障害診断書に醜状が明記されていなければならない

③過失割合

本件では,被害者の過失割合が20%であることを前提に相手保険の対応が進んでいるようでした。
交通事故では,物損の解決を治療中に済ませることも多数ありますが,本件でも物損は解決済みであり,その解決時にも20:80の過失割合とされていました。

もっとも,本件は単車と四輪車の右直事故であるところ,直進単車と対向右折四輪車との右直事故は,基本過失割合が15:85とされます(【175】図)。

「別冊判例タイムズ38号」より引用

そうすると,被害者の過失割合は,基本過失割合より5%だけ不利な内容となっています。そのため,20%の過失割合を前提に解決するのが適切かどうかは,具体的な検討が必要な問題でした。

ポイント
基本過失割合は15:85
弁護士介入前の解決は20:80とされている

④逸失利益

後遺障害等級が認定される場合,後遺障害逸失利益が問題となります。後遺障害逸失利益は,後遺障害によって労働能力が低下したことにより,被害者に生じる収入減少を金額計算したものです。

後遺障害逸失利益は,以下の計算式で算出されます。

後遺障害逸失利益
「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

具体的な金額交渉においては,「労働能力喪失率」と「労働能力喪失期間」が争点になる場合が多く見られます。本件でも,「労働能力喪失率」「労働能力喪失期間」のそれぞれが争点となり得る状況でした。

【労働能力喪失率】

本件で被害者に見込まれた後遺障害等級は,以下の内容でした。

被害者に見込まれる後遺障害等級

・足関節の機能障害(可動域制限)10級
・下肢の醜状障害12級
併合9級

このうち,可動域制限は労働能力に直接影響を及ぼすものですが,醜状障害は必ずしも労働能力に影響を及ぼすものではありません。醜状が残っても労働能力が変化するわけではないためです。裏を返せば,醜状障害は労働能力が下がらなくても認定される後遺障害と理解されています。
そのため,このようなケースでは,可動域制限のみが労働能力を低下させているものと評価し,10級相当の労働能力喪失率を採用することが考えられます。

労働能力喪失率

1級100%
2級100%
3級100%
4級92%
5級79%
6級67%
7級56%
8級45%
9級35%
10級27%
11級20%
12級14%
13級9%
14級5%

実際の検討に当たっては,醜状障害の影響の有無を個別に確認することが必要です。

【労働能力喪失期間】

労働能力喪失期間は,労働能力の喪失が収入減少をもたらす期間を指します。基本的には,収入を得ている間(=労働ができる間)が労働能力喪失期間となります。
そして,特段の事情がない場合,症状固定から67歳までの期間が労働能力喪失期間とされるのが原則です。一方,67歳までの期間とすることが不適切な事情がある場合には,個別の内容を踏まえて検討することになります。

この点,被害者はまだ若く,労働できる期間を具体的に特定することが困難な状況でした。そのため,被害者の立場としては,原則的な67歳までの期間を採用するのが有益と思われます。
一方で,一般的な給与所得者(会社員)の場合,60歳が定年となり,60歳で労働を終了する,というケースが多く見られます。これを当てはめると,60歳までの期間を対象とするのが適切そうであり,保険会社も同様の発想を取ることが少なくありませんが,被害者にとっては有益な結論ではありません

そのため,被害者の労働能力喪失期間をどのように主張すべきか,検討を要する問題でした。

ポイント
労働能力喪失率に醜状障害を含められるか
労働能力喪失期間は60歳までか,67歳までか

弁護士の活動

①後遺障害等級(関節可動域)

本件では,まず適切な後遺障害等級の認定が得られるよう修正を行う必要がありました。具体的には,提出された後遺障害診断書を基準に等級認定されるわけにはいかない状況ということができます。
この点,後遺障害診断書に形式的な不備があったことを踏まえ,弁護士から相手保険に,後遺障害診断書の不備を訂正する旨申し入れ,診断書の回収を図りました。不備があれば,結局は訂正しなければならないため,訂正自体は適切な動きでもあります。

その結果,後遺障害診断書が認定手続に回される前に回収することに成功し,今度は適切な可動域の測定値が記載されるよう弁護士が確認しながら,改めて後遺障害診断書の作成を医療機関に依頼しました。

再測定の際の測定値は,患側の可動域が健側の2分の1以下であり,後遺障害10級の基準を満たしていることが確認できました。

ポイント
後遺障害診断書を訂正のため早期に回収
再測定の上,等級認定基準を満たすことを確認

②後遺障害等級(醜状)

醜状障害についても,後遺障害診断書の訂正が必要な状態でした。具体的には,そもそも記載されていない,という状態を改める必要がありました。

基本的に,後遺障害診断書で指摘されていない障害が等級認定されることはありません。後遺障害等級認定に該当するかどうかは,まず後遺障害診断書の内容から検討項目をピックアップすることになるためです。

そのため,後遺障害診断書の回収後,関節可動域の記載とあわせて,下肢の醜状についても大きさの測定と診断書への記載を依頼しました。
訂正の結果,被害者の下肢に手のひら大を大幅に超える大きさの瘢痕が残されている事実と矛盾しない内容の後遺障害診断書となりました。

また,醜状障害の等級認定は,判断する調査事務所での目視を依頼することで,より具体的な調査をしてもらうことが可能です。申請手続に際しては,対面での面談を希望するとともに,面談には弁護士が同席することを予定する運びとしました。

ポイント
醜状の存在を後遺障害診断書に明記
面談の実施を申し入れ,弁護士の同席を予定

③過失割合

本件では,基本過失割合が被害者15%とされるところ,相手保険との物損の解決では被害者20%とされていました。その理由については,被害者側の速度超過があったことや四輪車右折後の事故(=既右折)であることを考慮してのもの,ということでした。

もっとも,被害者に速度違反がある場合は,被害者の過失が+10%,既右折である場合も同じく被害者+10%と,5%を超える修正の対象となるため,過失割合としては中間的な解決を図ったものであることが分かりました。
そして,速度違反や既右折の有無については,被害者にもはっきりした記憶がないものの,修正要素が全く存在しなかったと主張できるかどうかは分からない,という不安定な状況であることも分かりました。

この場合,あくまで15%を主張して争うことも有力な手段ですが,争いが深刻化したときにより不利益な結果(25%以上の過失割合)になる危険も抱えることになります。そのため,いったんは過失割合に関する主張をするか判断を保留し,他の損害項目を含めた全体の金額次第で検討する方針を取ることとしました。

過失割合を争うかどうかということ自体を明らかにしないことで,後からどちらの選択肢を取ることもスムーズにできるという利点を優先しました。

ポイント
過失割合を争うことにはメリットデメリットともにありそう
争うかの判断を保留することに

④逸失利益

【労働能力喪失率】

本件の被害者に関しては,醜状障害が仕事に影響するという事情は特に存在しない状況でした。被害者は成人男性であって,特に顔面の醜状が影響を及ぼす職に就いていなかったことから,醜状障害を逸失利益の対象とすることは難しい可能性が高い状況と思われました。

そのため,醜状障害を除き,可動域制限の10級のみを前提とした労働能力喪失率を採用することとしました。

【労働能力喪失期間】

労働能力喪失期間については,原則通り67歳までの期間を採用するべきという主張を強く行う方針としました。

そもそも,原則として67歳までの期間とするのが労働能力喪失期間の運用である以上,特段の事情がない限りは67歳までの期間で計算をするのが適切です。確かに,60歳で定年を迎える人も少なくありませんが,「60歳で定年になるかもしれない」という一般論は,67歳までの期間を採用するべきという原則に反した例外的な結論とする根拠にはなり得ないはずです。そうなれば,ほとんどすべての会社員について60歳までとするべき,という結論になりかねないためです。

そこで,弁護士からは,60歳以降の仕事を行うことが可能であるという一般論を指摘の上,端的に67歳までの期間を労働能力喪失期間とすることを求める交渉を実施しました。

ポイント
労働能力喪失率は,10級を前提とした数字に
労働能力喪失期間は67歳までとすることを求めた

活動の結果

上記の活動の結果,被害者には足関節の機能障害10級,及び下肢の醜状障害12級で,併合9級の認定がなされました。

また,労働能力喪失率は10級を前提とした27%,労働能力喪失期間は67歳までの期間を前提に逸失利益の計算をすることで合意しました。

最終的には,2,400万円を超える賠償金額を獲得するに至りました。
なお,早期に円満な解決が見込まれたため,過失割合については20%を争わないこととしました。

ポイント
後遺障害は見込み通り併合9級
過失割合は20%にて解決
労働能力喪失率は10級相当,労働能力喪失期間は67歳まで

弁護士によるコメント

本件は,後遺障害等級認定の手続中に弁護士が介入する,という点に特徴のあったケースでした。
後遺障害等級認定に対しては,不服があれば異議申立てなどの手続が取れますが,やはり最初の申請,認定が最終的な結果のベースになることは間違いありません。最初の申請時の内容と整合しない異議申立てをしても,結果が伴う可能性はあまりないため,最初の申請を適切に行うことが極めて重要です。

この点,被害者の方におかれては,後遺障害診断書の提出後,速やかに弁護士に相談を実施され,迅速な案内を受けたことが適切でした。弁護士への相談や依頼が遅ければ,適切な等級認定を得るチャンスが失われていた可能性が高いでしょう。

後遺障害等級が見込まれるケースは,弁護士への依頼でご自身の利益につながる場合が特に多いものです。等級認定が見込まれる場合や,等級認定を目指す場合には,弁護士への相談を活用されて損はないと考えます。

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