【交通事故解決事例】脊柱変形障害で11級が認定されたものの,逸失利益の有無が問題となった交渉に対処し,330万円超の増額を獲得した事例

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】

・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

事案の概要

被害者が自動車にて通行していたところ,対向の自動車がセンターオーバーをし,被害者の車両に衝突する事故が発生しました。加害者は,居眠り運転に陥った結果,事故を起こしたようでした。

事故の結果,被害者は腰椎の圧迫骨折となり,通院治療等の努力を尽くしたものの,腰椎部の変形が残ることとなりました。治療終了後,腰椎部の変形障害として後遺障害11級が認定されました。

弁護士には,等級認定後,相手保険から賠償額が提示された段階で,金額の合理性や増額余地の有無をご相談されました。

法的問題点

①後遺障害の労働への影響

後遺障害等級が認定された場合,損害の項目として後遺障害逸失利益が発生します。後遺障害逸失利益は,後遺障害によって労働能力が低下したことにより,被害者に生じる収入減少を金額計算したものです。

後遺障害逸失利益は,以下の計算式で算出されます。

後遺障害逸失利益
「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

この点,「労働能力喪失率」がゼロであれば,逸失利益もゼロとなります。労働能力が失われていない以上,収入減少もないのは当然ともいえます。

本件の後遺障害は,腰椎部の変形障害でしたが,変形障害は労働能力を失わせるかどうかが必ずしも明らかではない後遺障害の一つです。変形障害は,変形した事実そのものを後遺障害とするため,身体機能が低下していることを必要としないのです。
そのため,変形障害が認定されたからと言って,直ちに後遺障害逸失利益が発生するわけではなく,労働能力の低下が具体的に生じていなければ逸失利益の請求ができない場合もあり得ます。本件でも,変形と労働能力の喪失にどのような関係があるか,明らかにすることが必要であることが見込まれました。

ポイント
変形障害は必ずしも逸失利益が生じる後遺障害ではない
労働能力の喪失との具体的な関係を指摘することが必要

②基礎収入

後遺障害逸失利益の計算には,「基礎収入」の特定が必要ですが,基礎収入は事故前年の収入を基準とするのが一般的です。事故前年と同程度の収入は事故後も得られ続けた可能性が高いとみなし,逸失利益の計算根拠にすることが通常の運用とされます。

この点,被害者は,今回の交通事故被害に遭う直前に仕事を始めており,事故当時は就業開始から間もない時期でした。そのため,事故前年の収入を基準に基礎収入を定めることが困難な状況でした。また,事故当時の仕事を始めて間もない時期であったため,事故がなければ継続的に仕事を続けていたかも明確とは言い難い状況でした。

このような場合,基礎収入をどのように計算するか,その根拠は何か,といった点が問題になりやすいところです。弁護士においては,少しでも被害者に有益な内容を目指しつつ,相手保険の了承が得られるという,バランスの取れた交渉が求められるケースでした。

ポイント
基礎収入は事故前年の収入を基準とするのが原則
被害者は事故直前に仕事を始めたため,事故前年の収入を採用できない

③労働能力喪失期間

後遺障害逸失利益の計算には,「労働能力喪失期間」の特定が必要です。労働能力喪失期間とは,労働能力の喪失が収入減少に影響を与える期間を言いますが,基本的には労働が継続できる期間を指すと理解されます。
具体的な計算においては,以下のような期間を採用することが一般的です。

一般的な労働能力喪失期間

1.基本的な期間
→症状固定から67歳までの期間

2.67歳以上の場合
平均余命の2分の1

3.67歳までの期間が短い場合
→「症状固定から67歳までの期間」と「平均余命の2分の1」のいずれか長い方

本件の被害者は,「2.67歳以上の場合」に該当するため,平均余命の2分の1を採用することが原則と思われる立場でした。

もっとも,被害者には,元々継続的な勤労が困難な心身の不調があり,その不調から立ち直った直後であった,という事情がありました。本件事故が就業開始直後の事故であったのも,そのためでした。
このような事情を踏まえると,単純に「平均余命の2分の1」という期間を採用していいのか,もっと短い期間と考えるべきではないか,という問題が生じ得ます。弁護士としては,労働能力喪失期間の具体的な主張内容を検討する必要があるケースでした。

ポイント
原則は「症状固定から67歳までの期間」又は「平均余命の2分の1」
本件では,被害者に元々心身の不調があった

弁護士の活動

①後遺障害の労働への影響

変形障害の労働に対する影響に関しては,まず弁護士にて被害者の具体的な状況を確認することとしました。そうすると,被害者が始めた介護施設の清掃業務は,一定の肉体労働が伴うため,腰椎部の変形障害が影響して長時間の継続が困難になってしまった(休憩を取らなければならなくなった)ということが分かりました。
変形障害によって被害者の仕事により多くの休憩が必要になってしまったのであれば,それは変形障害による労働能力の喪失(低下)と考えるのが適切です。

そのため,弁護士からは,被害者の具体的な業務内容や,事故前後の業務の処理方法,休憩の取り方などを具体的に指摘し,変形障害によって逸失利益が発生することを主張立証しました

ポイント
変形によって仕事を長時間続けられなくなった
休憩が多く必要になったのは,労働能力の喪失と評価すべき

②基礎収入

基礎収入については,概ね以下のいずれかの計算方法が候補として想定されました。

基礎収入の候補

1.雇用契約書の内容を踏まえた計算
2.年齢別平均賃金

この点,本件では「2.年齢別平均賃金」を採用することとしました。その理由としては,以下の点が挙げられます。

年齢別平均賃金を採用した理由

1.雇用契約書からの収入計算が容易でない
→パートタイマーであったため,具体的なシフトに大きく左右されてしまう
→仕事の開始から間もない時期だったため,勤務日数の平均も分からない

2.雇用契約書からの計算が低額になる恐れ
→計算方法によっては平均賃金を下回る恐れがあった
→平均賃金を下回る計算が不合理かどうかが判断できない

3.平均賃金であれば金額の幅が生じない
→平均賃金は該当する金額を引用するのみであり,金額が争点にならない

以上を踏まえ,被害者の基礎収入は年齢別平均賃金とする,という内容の合意を目指し交渉することとしました。

ポイント
契約書から試算するか,平均賃金を採用するか
契約書からの試算が有益になりづらく,平均賃金を採用

③労働能力喪失期間

労働能力喪失期間については,原則通り平均余命の半分の期間とするか,それよりも短い期間を採用するか,という問題を検討する必要がありました。

弁護士においては,まず現在の心身の状態を確認し,それまで就業が困難であった事情が再発する可能性があるか,調査することとしました。そうすると,被害者の就業を困難にしていた事情は既に解消されており,医師の見解としても問題なく就業継続が見込まれる状態だったということが分かりました。
そのため,事故前に就業ができずにいた状況を重視して労働能力喪失期間を短く見積もる必要はないと判断することができました。

以上を踏まえ,弁護士からは,被害者の心身の状態が就業の継続に支障のないものであったことを具体的に示し,原則通り「平均余命の2分の1」を労働能力喪失期間とすべきことを主張しました。
結果,労働能力喪失期間については「平均余命の2分の1」を採用する内容での合意となりました。

ポイント
被害者は「平均余命の2分の1」の期間の労働が可能であったことを立証

活動の結果

以上の活動の結果,従前の提示額が約370万円であったのに対し,合意した賠償額は約700万円となり,330万円を超える増額となりました。

逸失利益に関しては,基本的に弁護士の主張が全面的に受け入れられる結果となり,被害者の救済が実現されました。

弁護士によるコメント

本件は,仕事を開始した直後の事故における後遺障害逸失利益が問題となりました。後遺障害逸失利益は,仕事を続けていれば得られたであろう収入を対象とする損害のため,仕事の継続が見込まれることを前提としており,「事故がなければ本当に仕事を継続していたか」という疑問が生じる場合には争点が生じることも少なくありません。

被害者の場合,自身の心身の都合で長期間仕事ができておらず,やっと仕事が開始できた矢先の事故という事情がありました。被害者の中では,十分に仕事ができるまで回復した状態で仕事を開始したにもかかわらず,「本当に仕事を続けられる状態だったのか」と指摘されるのは心外だったのではないかと思います。

弁護士としては,そのような被害者の立場を可能な限り結果に反映することで,被害者の救済を図ることが最大の目標となります。そのためには,被害者の状況を具体的に把握し,具体的な交渉を行う必要があるところです。

被害者の方におかれては,できる限り詳細な,具体的な内容を含めて弁護士に相談を試み,最適な解決策を検討されることを強くお勧めします。

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