このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。
【このページで分かること】
・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容
事案の概要
被害者が単車に乗車中,信号表示のある交差点を赤信号に従って停止していたところ,対面から赤信号を看過して直進走行してきた四輪車がセンターオーバーし,被害者に衝突する事故が発生しました。加害者は,てんかん発作を起こしてしまい自動車の制御が困難な状態に陥っていました。
被害者は,大腿骨骨折及び下腿骨骨折等の被害に遭い,3年近くの治療を要する大けがを負いました。治療を尽くしたものの,下腿骨の骨折部は偽関節化し,硬性補装具や杖がなければ満足に歩行することもできない状態でした。
弁護士には,約三年の治療後,後遺障害等級認定を控えた段階で弁護士に相談されました。主治医から近日中の症状固定を予定している旨を告げられたため,その後の対応に関するご相談・ご依頼を希望されてのご相談でした。
法的問題点
①請求方法の選択
被害者は,非常に重大な怪我を負っており,下腿骨の骨折部には偽関節が残るにも至っていました。そのため,相当程度の後遺障害が想定されることもあり,損害額は大きくなることが見込まれやすい状況でした。
この場合,加害者(及び加害者加入保険会社)に対する金銭請求の方法をどうするか,慎重な検討が必要となり得ます。
具体的な請求方法の選択肢は,主に「交渉」か「訴訟」か,ということになります。それぞれの特徴や比較は,以下のように整理できるでしょう。
【交渉による請求】
交渉の特徴
1.請求金額
→訴訟と比べて請求金額は小さくなる傾向があります。
2.柔軟性
→双方の合意に基づくため,条件や解決策に柔軟性があります。
→迅速に解決することができる場合が多いです。
3.費用
→訴訟に比べて費用が抑えられることが多いです。
→弁護士を介する場合でも,訴訟よりも費用が低いことが一般的です。
4.当事者間の関係
→双方の関係を比較的良好に保つことができるため,将来的な関係性を重視する場合に適しています。
5.結果の見込み
→交渉の結果は双方の合意によるため,予測可能性が高いです。
交渉のデメリット
・相手方が交渉に応じない場合,解決が難しくなることがあります。
・提示された条件に納得がいかない場合,満足のいく解決が得られないことがあります。
【訴訟による請求】
訴訟の特徴
1.請求金額
→交渉に比べて請求金額が大きくなりやすいです。
2.法的拘束力
→裁判所の判決に基づくため,法的な強制力があります。
→相手方が支払いを拒否した場合でも,強制執行が可能です。
3.公平性
→中立的な第三者である裁判所が判断を下すため,公平な結果が期待できます。
4.先例に沿った合理的解決
→過去の判例に基づく判断が行われるため,一定の基準に基づいた損害賠償が期待できます。
訴訟のデメリット
・訴訟にかかる時間が長くなることが多いです。数ヶ月から数年かかる場合もあります。
・訴訟費用(弁護士費用,裁判所の手数料など)が高額になることがあります。
・判決に不満がある場合,控訴などの手続きが必要となり,さらなる時間と費用がかかります。
・双方の関係が悪化する可能性があります。
【比較一覧】
項目 | 交渉による請求 | 訴訟による請求 |
請求額 | 低い | 高い |
解決の柔軟性 | 高い | 低い |
費用 | 低い | 高い |
時間 | 短い | 長い |
法的強制力 | ない | ある |
公平性 | 双方の合意による | 裁判所の判断 |
関係の維持 | 良好に保ちやすい | 悪化する可能性がある |
交渉は,費用を抑え,迅速かつ柔軟に解決したい場合に適しており,訴訟は,時間や費用のリスクを負ってでも最大限の金額を請求し,公平な判断を得たい場合に適している,という区別ができるでしょう。
ポイント
交渉は最大額でないが迅速解決可能
訴訟は長期を要するが最大額の請求が可能
②後遺障害等級認定
請求方法を交渉とするか訴訟とするか,という点は,後遺障害等級認定を求める方法にも影響を与えることが考えられます。
後遺障害等級認定を求める方法には,「被害者請求」と「事前認定」があり,個別のケースによっていずれを選択するか検討することになりますが,両者の特徴や比較は以下のように整理できるでしょう。
【被害者請求】
被害者請求の特徴
1.被害者主導
→被害者自身が保険会社に直接請求を行う手続
→自賠責保険会社は,被害者から提出された資料をもと等級認定をする
2.手続の自由度
→被害者が自分で必要な資料を収集・提出するため,手続に柔軟性があります。
→被害者が自身のペースで手続きを進めることができます。
3.費用負担・手続負担
→被害者が自分で資料を集める必要があるため,場合によっては時間や費用がかかることがあります。
【事前認定】
事前認定の特徴
1.加害者主導
→加害者(または加害者の保険会社)が被害者の損害賠償額を認定する手続
→加害者の保険会社が必要な資料を収集・提出する
2.手続の簡便さ
→被害者は後遺障害診断書の提出をすれば足りるため,簡便になりやすいです。
3.負担の軽減
→後遺障害診断書以外の必要資料は,保険会社が取付の上で提出してくれます。
→文書料の負担や取付の手間を回避することができます。
【両者の比較】
項目 | 被害者請求 | 事前認定 |
手続の主導者 | 被害者 | 加害者(保険会社) |
手続の自由度 | 高い | 低い |
手続の簡便さ | 労力がかかる | 簡便 |
費用負担 | 被害者自身 | 保険会社がサポート |
資料収集 | 被害者自身が行う | 保険会社がサポート |
被害者請求は,保険会社に手続を委ねたくない場合や,必要書類以外にも積極的に書類提出したい場合に適しており,事前認定は,保険会社に手続を委ねても差し支えない場合や,手続の簡便さを重視したい場合に適していると言えるでしょう。
ポイント
被害者請求は,自分で自賠責に提出する手続
事前認定は,保険会社に提出してもらう手続
③持病の影響
被害者は,3年ほどに渡る長期の治療を要していましたが,その大きな原因の一つは,被害者の下肢に感染症が生じたことでした。治療の過程で患部に細菌が侵入し,感染症を引き起こしてしまうと,感染症が治まるまでの間は手術等の治療を進めることができず,その分だけ治療が長期間に渡るのです。
そして,被害者の治療が感染症等で長期化しやすかった理由に,被害者が持病としていた糖尿病が影響している可能性も否定できない状況でした。糖尿病患者は,そうでない人と比べて重度の感染症を起こしやすいと言われており,感染症にかかる確率,感染症が重度になる確率は,いずれも糖尿病によって高くなる傾向にあると言われています。
そうすると,被害者の治療が長期に渡ったのは,ただ交通事故の受傷が重かっただけではなく,糖尿病という被害者側の事情が影響してのことでもある,という主張がなされる可能性を考慮する必要がありました。
ポイント
感染症により治療が長期化
持病の糖尿病が感染症の遠因となった可能性も
弁護士の活動
①請求方法の選択
弁護士では,本件における請求方法を訴訟とする方針を取ることとしました。その理由としては,主に以下のような点が挙げられます。
【請求金額の差】
交渉と比較した場合の訴訟の最大のメリットは,請求できる金額が大きくなりやすいことです。そうすると,その金額の差が大きければ大きいほど,交渉より訴訟を選択する方が有益ということになります。
この点,本件の場合,被害者に生じた受傷内容や見込まれる後遺障害の内容からすると,請求金額が数千万円という規模になることが明らかな状況でした。そうすると,仮に金額が一割違うだけでも,数百万円の差ということになります。これは無視できる金額ではありませんでした。
また,交渉では請求できず訴訟でのみ請求できる損害として,「遅延損害金」が挙げられます。これは,事故から賠償までの期間,被害者の損害が補填されなかったことを損害とみなし,請求金額に応じた利息を加算するというものです。
この遅延損害金は,請求金額が大きいほど,そして事故から支払までの期間が長いほど,高額になるところ,本件では高額請求が見込まれる上,事故から3年物通院を要する長期の問題となっていました。そのため,遅延損害金の金額も軽視できない水準であると考えられます。
以上を踏まえると,交渉と訴訟では請求し得る金額の差があまりに大きく,訴訟で請求するメリットが大きいものと考えられました。
【交渉が難航する可能性】
交渉でも,訴訟と遜色のない水準の金額で早期に合意できるのであれば,必ずしも訴訟を行う必要はありません。しかし,本件では,相手保険が被害者の糖尿病の影響を明らかに問題視していた,という状況がありました。
そのため,交渉で解決しようとした場合でも,糖尿病がどの程度損害の拡大に影響を与えたのかを協議する必要があり,その解決は容易でないことが想定されます。
そうすると,交渉をしても難航する可能性が高く,あえて交渉を選択するメリットが大きくないと考えられました。
【長期間を要しても差し支えない事情】
訴訟の大きな問題点は,解決までの期間が長期化しやすい点です。長期に渡る訴訟の間に,経済的に訴訟維持が難しくなってしまえば,訴訟での満足な解決は望むことが困難になります。
しかしながら,本件では,早期に後遺障害等級の認定手続を行うことができる段階にありました。そのため,後遺障害等級認定を受け,等級に応じた自賠責保険金が受領できれば,当面の金銭的問題は解決することが可能です。
そのため,被害者の了承さえ得られれば,解決が長期化しても具体的な問題は生じにくいことが想定されました。
【解決に要する期間の差】
交渉は,確かに訴訟よりは短期間ですが,賠償額が大きくなるとそれほど早期に解決できるわけではありません。具体的には,保険会社内部の意思決定(決裁)に長期を要することが非常に多く見られます。
そうすると,早期解決を目指して交渉を試みても,結局保険会社に待たされる形で長期化することが珍しくありません。本件でもその可能性が大いに見込まれる状況であったため,交渉を選択しても解決に要する期間にそれほど大きな差の生じないことが想定されました。
ポイント
請求額の差の大きさを重視し,訴訟での請求を選択
交渉を選択してもそれほど早期解決につながらない見込みもあった
②後遺障害等級認定
後遺障害等級認定の方法は,被害者請求を選択することとしました。これは,金銭の請求方法を訴訟とした点と大きく関係します。具体的な理由は,以下のように整理できます。
【自賠責保険金を回収する必要】
訴訟での請求を選択する場合,長期に渡る訴訟が被害者の経済的負担につながらないように配慮することが必要となります。その有力な手段の一つが,被害者請求によってあらかじめ自賠責保険金を回収しておくことです。
被害者には,常に硬性補装具を必要とする偽関節で7級,大腿骨骨折後の症状に対して12級の,併合6級が認定され得る状況でした。そして,この内容で併合6級が認定される場合,自賠責保険からは1200万円以上の自賠責保険金が支払われることになります。
この保険金を回収した上で訴訟に臨むことで,訴訟の長期化が被害者の経済的負担となるのを可能な限り防ぎつつ解決を目指すことが可能になります
【訴訟のために必要な手続】
訴訟の中で,後遺障害等級が争点となる場合,適切な等級を明らかにするため,被害者請求を行う必要が生じやすい傾向にあります。なぜなら,裁判所の運用として,被害者請求に対する自賠責調査事務所の等級認定を尊重するのが一般的であるためです。
本件では,重大な後遺障害等級の認定が見込まれる状況であったため,訴訟に発展すると後遺障害等級自体の争いになる可能性が低くありませんでした。そのため,あらかじめ被害者請求で等級認定を獲得する方が円滑であることが見込まれました。
本件では,以上の点を踏まえ,被害者請求の方法で後遺障害等級の認定を獲得することとしました。
ポイント
訴訟中の経済的問題を回避するため,被害者請求で自賠責保険金を回収
訴訟をするといずれにしても被害者請求を必要とする可能性がある
③持病の影響
被害者の持病である糖尿病が感染症の発症や重大化に影響を与えた可能性は,確かに一般論としては否定できないところでした。しかし一方で,本当に糖尿病と感染症に関係があったと言えるかどうかは,決して明確とまでは指摘できませんでした。
そこで,弁護士からは,主治医の見解などを仰いだ上で,糖尿病が感染症に影響を及ぼしたという具体的根拠がないことを主に主張し,持病の影響で損害額が減少することを防ぐ方針としました。
持病によって損害が拡大した場合,その拡大分を賠償額から差し引くことを「素因減額」と言います。もっとも,素因減額を行うには,素因(=持病)の存在のみならず,それが損害の拡大に影響したことを,相手が立証しなければなりません。そのため,弁護士からは素因減額に必要な立証がないことを強く示すこととしました。
ポイント
持病が損害の拡大に影響したとの立証が不十分であると指摘する方針に
活動の結果
以上の活動の結果,被害者には想定通り後遺障害併合6級が認定されました。
また,自賠責保険への請求及び訴訟での請求により,合計で8900万円を超える賠償を獲得し,解決に至りました。
弁護士によるコメント
本件は,比較的に早期に訴訟の選択をし,賠償金額の最大化を目指したケースでした。
多くの場合,訴訟での解決は数々の負担が重くのしかかるため,交渉で解決する方が被害者側の希望に沿いやすいと思われます。弁護士も,むやみに訴訟を案内するべきではなく,訴訟を行うにあたってはリスク説明を十分に行う必要があるでしょう。
もっとも,本件ではそのリスクを補って余りある増額可能性が訴訟にあり,訴訟での解決を弁護士から案内する方法を取りました。本件の被害者の方は,弁護士の説明にご納得いただき,本心から訴訟をご希望いただくことができましたが,訴訟の負担を踏まえると,迷いながら訴訟に踏み切ることはお勧めできません。
被害者の方におかれては,弁護士から訴訟の案内を受けることがあった場合,想定されるメリットやデメリットについて適切な説明を受けることを強くお勧めします。訴訟の選択は,訴訟での解決が適切であると確信できるかどうかによって判断するのが望ましいでしょう。
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