【交通事故解決事例】後遺障害診断書に記載のなかった脳の障害について検査等を依頼し,高次脳機能障害9級を獲得。2,400万円超の賠償金となった事例

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】

・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

事案の概要

当時小学生であった被害者が,複数人で下校中,横断歩道のない十字路交差点の付近にて,車道を歩いて横断しようとしていましたが,そこに左方から直進してきた四輪自動車が衝突し,事故が発生しました。

被害者を含む2名が受傷しましたが,被害者の被害が最も重く,頭部に強い衝撃を受けた結果,事故後の数日間は意識のはっきりしない状態が続いていました。
その後,幸いにも意識を取り戻し,リハビリなどを通じて改善に努めましたが,1年ほどの通院を経ても脳機能への悪影響が残っている状況でした。具体的には,感情の起伏が激しく制御できない,記憶がうまくできない,簡単な算数の計算に時間がかかってしまう,といった症状が見られました。

弁護士に相談された当時,被害者は別の弁護士に依頼しており,後遺障害に関する手続を予定しているとのことでした。依頼した弁護士の案内で後遺障害診断書の作成を受けたものの,同弁護士からは後遺障害等級認定を受けることは難しいとの案内を受けていました。

被害者の親権者から,後遺障害の見込みや適切な解決方針に関して相談があり,弁護士が対応することとなりました。

法的問題点

①過失割合

本件は,過失割合に大きな争いのある事故でもありました。被害者は,信号のない十字路交差点付近を横断していたとの主張でしたが,相手保険は,交差点上の横断ではなかったことを理由に,直進道路上を被害者が横断したという事故類型であるとの主張をしているようでした。

この点,被害者の主張する事故類型では,基本過失割合が20%となります(【34】図)。

「別冊判例タイムズ38号」より引用 以下同じ

また,被害者が「児童」に該当すること,複数人の下校中であって「集団横断」に該当することを主張していたため,「児童」による-5%の修正と「集団横断」による-5%の修正で,合計10%被害者の過失が低下する主張内容でした。そのため,修正後の過失割合は10:90となります。

一方,相手保険の主張する事故類型は,基本過失割合が30%となります(【33】図)。

また,相手保険によると,被害者の「直前横断」が原因で事故が発生したとのことであったため,「直前横断」により+10の修正,被害者「児童」につき-10%の修正がなされ,修正後の過失割合も30:70との内容でした。

以上から,被害者と相手保険の主張する過失割合には,「10:90」と「30:70」という見解の開きが見られる状況でした。

ポイント
被害者は10:90を主張
相手保険は30:70を主張

②高次脳機能障害

被害者は,事故によって頭部を受傷し,事故後の数日は意識がはっきりしない状況であったため,高次脳機能障害を理由とした後遺障害等級認定の可能性が考えられました。

この点,高次脳機能障害は,事故後に一定期間の意識障害があったかどうかが重要な判断要素の一つとなっています。具体的には,以下の基準が用いられています。

要件具体的基準
①6時間以上のこん睡状態JCS3桁又はGCS8点以下
②1週間以上の意識障害JCS1~2桁又はGCS13~14点

【GCS】(E・V・M 3つの合計値が小さいほど重篤)

【E】開眼
4自発的に眼を開けている
3呼びかけにより眼を開ける
2痛みにより眼を開ける
1眼を開けない
【V】最良言語反応
5見当識あり
4会話はできるが混乱
3発語はできるが不適当
2発声はできるが理解不可
1反応なし
【M】最良運動反応
6命令に応じる
5痛みの部位を認識する
4痛みで屈曲反応(逃避)
3痛みで屈曲反応(異常)
2痛みで伸展反応
1反応なし

被害者の場合には,事故直後のGCSが7点,1時間後にはGCS9点と確認されていることが分かりました。これは,意識障害レベルとして高次脳機能障害の認定基準を満たし得るものであり,具体的に高次脳機能障害の有無を検査等する必要があり得ると考えられます。

また,被害者には感情制御能力や記憶能力の低下など,高次脳機能障害の影響と思われる複数の支障が出ており,等級認定のためにも,その後の生活や成長のためにも,脳機能の障害を正しく判断してもらう必要があると見受けられました。

ポイント
事故後の意識障害は,高次脳機能障害の基準を満たし得る
感情制御能力や記憶能力の低下は,高次脳機能障害の影響と思われる

③現在の代理人弁護士との関係

被害者には,既に依頼をしている代理人弁護士がおり,後遺障害の申請手続を具体的に勧めようとしているところでした。そのため,こちらが依頼を受けるか,現在の弁護士に依頼し続けるかは,被害者の親権者に判断してもらうことが必要となります。

被害者にとっては,現在の弁護士から等級認定が困難と案内されている点が大きなネックになっているようでした。脳機能の障害が疑われる中で,後遺障害等級認定が困難と指摘されれば,疑問を抱くのもやむを得ないところでしょう。

この点,当方が状況を確認すると,現在の弁護士との関係では,そもそも高次脳機能障害の等級認定に向けた準備を行っていない可能性が推測されました。というのも,高次脳機能障害の等級認定を受けるためには,必要な検査結果を後遺障害診断書に記載してもらうことに加え,他にも複数の必要書類がありますが,当時は,後遺障害診断書に脳の症状の記載がない上,他の必要書類を一切準備していない状況であったのでした。

そのため,当方からは,当方へ依頼されるかどうかはともかく,高次脳機能障害について等級認定を目指すための必要な動きは取るのが適切であろうことをご案内することとしました。

弁護士の活動

①受任方法

まずは,被害者側が当方に依頼されるかどうかをしっかりと検討してもらうべきであると考えました。そのため,とりあえず脳機能に関する適切な検査を受けていただく目的で,弁護士から通院先の候補をご案内し,検査のための通院を実施していただくこととしました。

検査の結果,やはり被害者には高次脳機能障害特有の症状が見受けられ,適切に後遺障害等級認定を受けるための手段を尽くすべきであるということが判断できました。これを踏まえ,弁護士からは,当方にご依頼された場合の流れや方針を具体的にお伝えし,被害者の親権者に検討を依頼しました。

ご検討された結果,従前の代理人弁護士とは解約の上,当方にご委任される方針を固められました。

ポイント
まずは必要な検査を受けていただき,ご依頼の場合の方針を確定
後遺障害に関する方針を比較の上で弁護士選びをご検討いただいた

②過失割合

過失割合に関しては,そもそも主張している事故態様が異なるところ,その中心的な違いは交差点上(又はその直近)か,交差点上でない場所か,という点でした。
この点,事故に居合わせた他の児童の話や,事故状況に関する両当事者の説明を確認したところ,事故はほぼ交差点上で発生しており,事故発生場所に関する主張は被害者側の言い分が合理的であることが判断できました。おそらく,相手保険は,被害者の感情的な希望を踏まえ,根拠に乏しいながらも過失割合を争ってきたのであろうと推測されました。

そのため,弁護士からは,過失割合は被害者の主張通りにするべきであることを改めて主張するとともに,自社の言い分を維持するのであれば,相応の根拠を添えて主張するよう求めました。
交渉の結果,相手保険が主張を撤回するに至り,過失割合は10:90での解決となりました。

ポイント
過失割合の争いの中心は,事故が起きた場所
交差点上の事故であることの根拠を示し,相手に主張の撤回を促した

③高次脳機能障害

本件では,高次脳機能障害が後遺障害等級認定の対象となるかどうか,という点が結果を決定的に左右する問題と言えました。損害賠償額にすれば千万円単位で変わる可能性も少なくないポイントです。

そのため,弁護士からは後遺障害等級認定のための必要な試みを可能な限り尽くすご案内を実施しました。主な活動内容は,以下の通りです。

後遺障害等級認定のための活動内容

1.対面でのコミュニケーション
→被害者の状態を直に確認し,障害の内容を具体的に把握しました。

2.障害の具体的影響を確認
→障害が具体的な行動に現れたエピソードを可能な限り洗い出しました。

3.専門医への通院・検査
→検査のための通院を改めて行い,診断書の提出に必要な症状の確認を行いました。

4.医師の見解を聴取
→検査結果を確認した医師に見解を聴取し,等級認定を目指す方針を具体的にしました。

5.その他提出書類の内容を検討
→高次脳機能障害の等級認定に必要な他の書類についても,記載内容を詳細に吟味検討しました。

6.後遺障害診断書の再作成
→従前の後遺障害診断書を破棄し,高次脳機能障害の等級認定に適した後遺障害診断書の再作成を依頼しました。

以上を踏まえ,後遺障害の申請に適した書面作成を行い,弁護士にて等級認定手続を進めることとしました。

活動の結果

上記の各活動の結果,後遺障害等級としては高次脳機能障害について9級の認定が獲得できました。高次脳機能障害が等級認定の対象となった点で,被害者にとって非常に有益な認定結果となりました。

また,後遺障害9級を踏まえ,過失割合や各損害額を相手保険と交渉した結果,2,400万円を超える賠償額の獲得が実現されました。

弁護士によるコメント

本件は,セカンドオピニオンとして相談を受けたことが受任のきっかけとなったケースでした。
一般的に,セカンドオピニオンで直接受任まで至るケースはそれほど多くありません。セカンドオピニオンで現在の方針にお墨付きが得られれば,弁護士を変更する理由がないためです。一方,現在の弁護活動や方針に疑問がある場合,その点を漫然と見過ごしてしまえば,取り返しのつかない不利益につながる可能性もあります。

本件の場合,後遺障害診断書の作成後であったものの,その提出前に弁護士への相談を実施されたことがとても適切でした。作成された後遺障害診断書を提出してしまえば,今回と同じ後遺障害等級の認定は得られずに終わった可能性が高いでしょう。
弁護士への依頼中に他の弁護士へ相談することは,心理的に難しいことも少なくありませんが,特に問題が重大な場合には,手続が進んでしまう前に他の弁護士へ相談し,見解を仰いでみることも選択肢に入れてよいのではないでしょうか。

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