このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。
【このページで分かること】
・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容
目次
事案の概要
被害者が,車道脇を自転車で直進走行し,信号のある十字路交差点を青信号に従って通過しようとしたところ,対向から右折で交差点に進入した単車と衝突する事故が発生しました。互いに渋滞する車列をすり抜けるように走行していたため,相互に相手の発見が遅れた,という事情がありました。
事故の結果,被害者は主に顔面を受傷し,額は数十針も縫うケガとなりました。1年以上に渡る通院治療を尽くしたものの,額に線状痕が残り,顔面の醜状障害として後遺障害12級の認定を受けました。
その後,相手保険から賠償額の提示を受け,金額の合理性や増額余地の有無などを確認するために弁護士への相談を希望されました。
法的問題点
①過失割合
保険会社の提示では,被害者の過失割合が10%とされていました。
被害者にも過失割合がある場合,過失割合の分だけ賠償額が減少することになるため,過失割合の数字が適切であるかどうかは十分な確認が必要となります。
この点,信号のある交差点で,双方ともに青信号に従っていた場合,直進自転車と対向右折車(四輪車・単車とも含む)の間で発生した交通事故では,基本過失割合が10:90とされています(【249】図)。
「別冊判例タイムズ38号」より引用
そのため,実際の事故態様が上図と同様であり,過失割合を修正すべき事情がなければ,被害者の過失を10%とする解決が合理的と思われます。
ただし,信号のある交差点での対向車間の事故においては,信号表示が問題になり得ることに注意が必要です。互いが交差点に入った時の信号表示が本当に青信号であったか,進入後に信号が変わっていないか,という事情によって,過失割合が変動する可能性も低くはないためです。
②傷害慰謝料
交通事故では,入通院期間に応じた傷害慰謝料という慰謝料が発生します。これは,入院や通院を強いられたことの精神的負担や,治療を要するようなケガを負った苦痛への金銭賠償という性質のものです。
そのため,傷害慰謝料の金額は,ケガが大きいほど高額になり,治療期間が長期に渡る方が高額になることが一般的です。
本件における被害者の通院期間は,1年を超えるものでした。その期間や後遺障害が残るほどの受傷であったことを踏まえると,慰謝料は決して低く見積もられるべきではないと考えられます。
しかし,相手保険の金額提示では,傷害慰謝料が35万円とされていました。これは,1年を超える通院を要したケースとしては非常に低額と言わざるを得ないものでした。しかも,35万円という提示に特段の理由は見受けられず,漫然と低額の提示をしているようでした。
そのため,傷害慰謝料については,根拠ある金額での解決が適切であり,重要な交渉対象となることが想定されました。
ポイント
傷害慰謝料は,ケガの程度や通院期間を主な基準として計算する
傷害慰謝料の提示額35万円は,受傷内容や治療期間を踏まえると非常に低額
③後遺障害慰謝料
後遺障害等級が認定された場合,傷害慰謝料とは別に,後遺障害慰謝料が発生します。これは,将来に渡って後遺障害が残存することに対する精神的苦痛を対象とする慰謝料です。
後遺障害慰謝料は,後遺障害等級によって金額が定められていますが,12級の場合,自賠責基準の金額が94万円,裁判基準の金額が290万円とされています。
後遺障害等級 | 【自賠責基準】 | 【裁判基準】 |
1級 | 1150万円 | 2800万円 |
2級 | 998万円 | 2370万円 |
3級 | 861万円 | 1990万円 |
4級 | 737万円 | 1670万円 |
5級 | 618万円 | 1400万円 |
6級 | 512万円 | 1180万円 |
7級 | 419万円 | 1000万円 |
8級 | 331万円 | 830万円 |
9級 | 249万円 | 690万円 |
10級 | 190万円 | 550万円 |
11級 | 136万円 | 420万円 |
12級 | 94万円 | 290万円 |
13級 | 57万円 | 180万円 |
14級 | 32万円 | 110万円 |
本件では,自賠責基準に沿って94万円の提示がなされており,いわば最低額というべき提示内容でした。
保険会社が自賠責基準で提案を行うのは,その金額で合意ができれば自社の負担なく解決ができるためです。一方,被害者としては,自賠責から自分で回収しても同額が受領できる以上,相手保険とその金額で合意するメリットがほとんどありません。
後遺障害慰謝料についても,十分な増額交渉が必要であると判断される状況でした。
ポイント
後遺障害等級が認定されると,等級に応じた後遺障害慰謝料が発生する
相手保険の提示は自賠責基準であったため,増額交渉の余地がある内容
④後遺障害逸失利益
後遺障害等級が認定された場合,損害の項目として後遺障害逸失利益が発生します。後遺障害逸失利益は,後遺障害によって労働能力が低下したことにより,被害者に生じる収入減少を金額計算したものです。
後遺障害逸失利益は,以下の計算式で算出されます。
後遺障害逸失利益
=「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」
この点,「労働能力喪失率」がゼロであれば,逸失利益もゼロとなります。労働能力が失われていない以上,収入減少もないのは当然ともいえます。
そして,顔面の醜状障害は,必ずしも労働能力を失わせるものとは考えられていません。顔面に醜状が残ったとしても,直ちに労働ができなくなるわけではないからです。
そうすると,顔面の醜状が全く労働に影響しないと考えるならば,労働能力喪失率はゼロ,逸失利益もゼロ,という計算になってしまうため,逸失利益の有無が争点になり得ます。
本件では,相手保険による逸失利益の提示が130万円という金額でした。一定の逸失利益を認めているようですが,実際はそうではありません。これも,後遺障害慰謝料と同じく,自賠責保険から出る金額をそのまま計上しているというのみです。
後遺障害12級に対しては,自賠責保険から総額224万円の保険金が支払われます。このうち,慰謝料は94万円であるため,残りの130万円を逸失利益として計上している,というわけです。
このような提示を行う保険会社のメッセージとしては,「逸失利益はないと考えている」というものであると想像されます。本件の醜状障害のように,後遺障害の類型として逸失利益が発生しない可能性があるものだと,保険会社がこのようなスタンスを示してくることは決して珍しくありません。
弁護士としては,逸失利益についてどのような解決を目指すべきか,検討が必要な問題でした。
ポイント
顔面の醜状は逸失利益が生じるかどうか明確でない
相手保険の提示は自賠責基準と同額であった
弁護士の活動
①過失割合
過失割合については,まず,基本過失割合の確認を行いました。
この点,被害者から事故状況の聴取をしたところ,相手保険が被害者の過失10%の根拠とした事故態様に間違いがないことが確認できました。そのため,基本過失割合が10%となる点は了承することが適切な内容でした。
また,信号がある場合,信号表示に争いの生じることがあり得ますが,双方の交差点進入時,及び衝突時のそれぞれについて,互いの対面信号が青色表示であったことにも争いがないと確認が取れました。
そのため,過失割合については10%を了承し,争わない方針とすべきである旨が判断できました。
なお,本件は,渋滞中の車列の間をすり抜けるように交差点に進入したという事情があり,被害者が相手の単車を確認するのが遅れたきっかけにもなっているため,この点を過失割合に反映させるかどうかは問題となり得るところです。
しかし,本件の場合,互いに渋滞をすり抜けて走行しているため,相手の確認が遅れた原因は双方にあると考えられる状況でもありました。このような場合に過失割合を争おうとすると,相手からの強い反発が見込まれ,解決が困難となる場合も否定できません。争った場合の結果も不透明であることから,過失割合を争うことにあまり合理性がないと考えられる内容でした。
そのため,本件では渋滞があった点を過失割合の主張に反映させないことを選択し,早期円満な解決を目指しました。
ポイント
基本過失割合の根拠となった事故態様が一致することが確認できた
信号表示は互いに青であったことに争いがないと確認できた
②傷害慰謝料
傷害慰謝料については,被害者の受傷結果や通院期間を踏まえると,100万円を超える増額可能性があり得るものと見受けられました。そして,相手が低額な提示をしていることに特段の根拠がないという特徴も見受けられました。
そこで,弁護士からは,一般的に根拠があるとされる裁判基準を踏まえた金額提示の上で,相手保険の提示が根拠に基づかない低額な水準であることを指摘するとともに,低額な金額提示を維持するのであれば,その具体的な根拠を示すよう求める方針を取ることにしました。
相手の提示額に根拠が見受けられない場合は,まず相手の根拠の指摘を求めるのが端的です。そもそも,低額の提示をするのであれば,相応の根拠を添えて行うべきであって,正しい対応を求めたのみである,という言い方もできるでしょう。相手が交渉に必要なステップをちゃんと踏んでいないのであれば,まずはそのステップを踏んでから,初めてこちらが検討する順番となるべきです。
本件では,上記の方針を取ったところ,保険会社から低額な提示の根拠が示されることはなく,概ね当方の請求に沿った慰謝料額での合意となりました。具体的には,弁護士が交渉を行う場合,裁判基準の80~90%を合意の水準として見込む場合が多いところ,裁判基準の95%に当たる金額での合意となりました。
ポイント
低額な慰謝料の提示は相応の根拠を添えて行われるべき
根拠のない提示に対しては根拠を出すよう求めるのが有力な交渉方法
③後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料についても,弁護士が交渉を行う場合,裁判基準の80~90%を合意の水準として見込む場合が多く見られます。この点,12級の慰謝料の場合,裁判基準が290万円のため,80~90%は232万円~261万円となります。そうすると,提示額の94万円(=自賠責基準)からは概ね150万円前後の増額余地があり,後遺障害慰謝料についても十分な交渉が必要であると想定されました。
この点,後遺障害慰謝料について裁判基準を踏まえた金額で請求できる根拠は,まさにその後遺障害等級が認定されたという事実です。後遺障害慰謝料は,後遺障害等級が認定されるような症状が残ったということを理由に支払われるものであるため,等級認定されれば通常は支払われるべき,ということになります。
裏を返せば,後遺障害慰謝料を減額交渉しようとするのであれば,その等級が認定されたことが不適切である,という内容の主張になるのが通常です。もっとも,これは保険会社の主張としては困難と言わざるを得ません。
そのため,弁護士からは,保険会社の低額な提示を無視する方針とし,端的に裁判基準を踏まえた金額交渉を実施して,相手保険の了承を引き出すことにしました。交渉の結果,傷害慰謝料と同じく,裁判基準の95%に当たる金額での合意となり,一般的な目標額を超える水準での解決に至りました。
ポイント
後遺障害慰謝料は,等級認定されれば他の理由なく支払われるべきもの
④後遺障害逸失利益
後遺障害逸失利益に関しては,まず,後遺障害に伴う労働への影響を確認することとしました。
この点,被害者は介護職に従事していましたが,特に顔面の醜状が仕事への制限をもたらす立場にはありませんでした。顔面の醜状が直ちに労働能力に影響を与えやすい業種としては,モデルや営業職,一部の接客業などが挙げられますが,被害者はそのどれにも当てはまっておらず,醜状障害そのものが労働能力を低下させるとの主張は難しいことが見込まれました。
もっとも,被害者の醜状障害は,額の深い傷を原因とするものであったため,顔面の一部に知覚の低下をもたらすものでもありました。これは,神経症状と呼ばれるもので,局部の神経症状は労働能力に一定の影響があると考える余地がありました。
そこで,弁護士からは,12級相当の労働能力の喪失が,症状固定後5年間低下する可能性があることを主張し,相手保険に逸失利益の増額を求めることとしました。その結果,当方の主張が受け入れられ,症状固定後5年分の逸失利益が支払われる内容での合意となりました。
ポイント
顔面の醜状そのものは労働能力に影響しない業務内容であった
醜状に伴う神経症状を根拠に逸失利益を請求し,合意に至った
活動の結果
各慰謝料と逸失利益の交渉を尽くした結果,従前の提示額約270万円に対して,約580万円での示談成立となり,310万円を超える増額が実現されました。
弁護士によるコメント
顔面の醜状障害は,後遺障害逸失利益の金額計算が難解な後遺障害の一つです。顔面に醜状があっても,身体的な機能が低下するとは限らないため,逸失利益はないのではないか,という発想があるためです。
一方,醜状を残すほどの受傷がある場合,醜状以外にも何らかのダメージが残っており,後遺障害等級はそのようなダメージを含めた認定になっていることがあります。この点を踏まえれば,一定の逸失利益は観念することもでき,逸失利益に交渉の余地があり得ます。
本件では,後遺障害等級認定の中で顔面部の知覚低下を含む認定であることが明記されていたため,これを逸失利益の交渉における重要な根拠の一つとしました。醜状障害に伴うダメージの内容は,単に主張するのみでなく,その裏付けを示す形を取ることで,相手保険の合意を引き出しやすくもなります。
具体的な交渉方法・内容は個別のケースによるため,一律の指摘は困難ですが,一度交通事故に強い弁護士に相談を実施の上で,見解を仰いでみるのは重要なことだと考えます。
弁護士の敷居を決して高く感じる必要はありませんので,一度お気軽にご相談されてみることをお勧めいたします。
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