【交通事故解決事例】後遺障害14級9号認定後,交渉開始から1か月足らずの間に200万円超の増額回収を実現。スピード示談の事例

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】
・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

今回は,後遺障害14級の賠償額交渉を弁護士が受任し,1か月に満たない短期間で200万円を超える増額解決に至った事例を紹介します。

事案の概要

被害者は,自転車に乗車中,信号のある十字路を青信号に従って走行していたところ,右方から赤信号を看過して十字路に進入してきた自動車に衝突される事故被害に遭いました。
この事故によって,被害者は頸椎捻挫,腰椎捻挫等を受傷し,約半年間の通院治療を要しました。その後,頸椎捻挫後の神経症状に対して後遺障害14級9号が認定され,加害者の保険会社から賠償額の提案を受けた段階で弁護士への相談をご希望されました。

なお,被害者はパートタイマーの兼業主婦という立場であり,弁護士への相談前には,相手保険との間で仕事や主婦業に関する話をしたことがない,とのことでした。
ちなみに,家事ができずに困ったなど,主婦業への影響を考慮した賠償額を保険会社が提案する場合,前提として被害者の職業や家族構成を確認する必要があります。なぜなら,主婦業をしている立場であるかどうかは,職業や同居家族を確認しなければ判断できないためです。

弁護士への相談時に被害者が保険会社から受けていた賠償額の提示内容は,総額約123万円というものでした。

ポイント
後遺障害14級9号認定済み
保険会社から約123万円の賠償額提示済み
被害者はパートタイマーの兼業主婦

法的問題点

①休業損害

【休業損害の有無】

専業主婦またはパートタイマーの兼業主婦が交通事故に遭った場合,収入に対する影響は限定的ですが,その分,主婦業に対する影響が非常に大きく生じます。そのため,主婦が被害者の場合には,主婦業(家事労働)の休業損害が発生すると考えられています。

しかし,保険会社の提示内容は,被害者の家事労働に関する休業損害を一切考慮していないものでした。そもそも,被害者が兼業主婦であることも,被害者の同居家族の有無・内容も,保険会社は確認を取っておらず,家事労働に関する休業損害を検討する意思が見受けられない状況でもありました。

主婦の交通事故被害に関して,休業損害は無視できない規模の金額になることが少なくありません。保険会社としては,あえて休業損害の点に触れないことで損害賠償の負担軽減を目指したのであろうと想像されますが,被害者にとっては休業損害の計上をしないメリットはありません。
被害者に休業損害が発生しないという特別な事情も見受けられなかったため,弁護士からは適正な休業損害を請求すべき状況と理解されました。

【休業損害の金額】

主婦業(家事労働)に関する休業損害の金額は,いわゆる自賠責基準の場合だと,以下の金額になります。

家事労働の休業損害(自賠責基準)

【日額】6,100円
【日数】実通院日数

家事労働は,会社員の労働などと異なり,何日の休業を要したかを特定したり,どのような損害があったかを金額換算したりすることが困難な分野です。そのため,休業日数は実通院日数と同じ日数であるとみなし,日額を6,100円と定めることで,機械的な計算をできるようにしたのが自賠責基準の計算方法です。
自賠責基準の金額は,機械的に算出できなければ保険の運用ができないため,実際の休業の程度に関わらず,一律で「6,100円×実通院日数」という形が取られます。

なお,自賠責基準には支払の上限額が定められています。傷害部分は合計の限度額が120万円のため,治療費で120万円が発生していれば休業損害はゼロとなります。自賠責基準の計算式は,自賠責限度額の範囲内でのみ意味を持つものなのです。

一方,裁判基準と呼ばれる計算基準では,以下のような計算を行うことが通例です。

家事労働の休業損害(裁判基準)

【日額】(事故前年の女性平均賃金(年収))÷365
【日数】休業を要した日数

日額は,女性の平均年収を365日で割る方法で算出するのが通常です。具体的な金額は事故発生の年にもよりますが,日額は概ね1万円を超える水準になることが多く,自賠責基準よりも高額になりやすいところです。

一方,日数に関しては,定まった特定方法がなく,個別の内容・状況に応じて検討しなければならないところです。どのような家事分担であったか,事故によってどのような家事がどの程度の期間できなかったか,という点などを総合的に考慮の上,被害者側と加害者保険会社の間で協議することが一般的です。
この点,自賠責基準で「休業日数=実通院日数」としている以上,休業日数を実通院日数とするべきとも思えますが,「休業日数=実通院日数」としなければならない法的な根拠はありません。あくまで,自賠責基準は自賠責が支払う保険金額の計算方法を定めているだけであり,被害者の損害額を定めているわけではないからです。そのため,日額を裁判基準に改めて,日数は自賠責基準と同じ実通院日数にしたいと思っても,それを加害者側が了承する必要はないという結論になるでしょう。

ポイント
保険会社が休業損害を省いて提示していても,適正な休業損害は請求すべき
休業損害の金額計算に際しては,休業日数が問題になりやすい

②後遺障害逸失利益

後遺障害逸失利益は,後遺障害に伴う労働能力の減少が,将来の収入減少をもたらすという内容の損害です。イメージとしては,症状固定後の休業損害と考えてよいでしょう。

休業しなければならない程度は,事故発生の直後が一番大きく,治療や時間経過を経て段階的に減少していくとの理解が一般的です。そして,症状固定(治療終了)の時期になれば,後遺障害等級が認定される場合でない限り休業の必要はゼロとなります。

この点,症状固定時の症状について後遺障害等級が認定された場合,症状固定時にも休業の必要が残り続けているということになります。その具体的な程度は後遺障害等級によりますが,最も重い1級は100%,最も軽いとされる14級では5%とされています。

頸椎捻挫の神経症状で14級9号が認定された場合,5%の休業が症状固定後5年以内の期間に渡って残り続ける,という理解になり,この将来の休業に対する支払が後遺障害逸失利益というものです。

具体的な逸失利益の計算に際しては,休業が将来どのくらいの期間に渡って生じると見込まれるのかを特定する必要があります。後遺障害の影響が大きければ大きいほど影響する期間も長いと理解することになるため,交渉に際しては,後遺障害が家事労働をどのように制限するのか,説得的に示すことが重要になります。

ポイント
後遺障害逸失利益は,症状固定後の休業損害
後遺障害が休業にどの程度の影響を及ぼすのか,という点が重要

③弁護士費用の負担

被害者は,弁護への依頼に当たって弁護士費用の負担を強く懸念していました。被害者は,自家用車を所持していたものの,自動車保険に入っていない状態だったため,弁護士費用が自己負担になることを想定し,これまで弁護士への依頼を検討できないでいた,との経緯がありました。

弁護士の費用を負担する自動車保険のサービスには,「弁護士費用特約」があります。弁護士費用特約は,一定の対象者が自動車事故に遭った際,加害者に対して金銭を請求するための弁護士費用を負担してくれる,というものです。
ただし,弁護士費用特約から支払われる具体的な費用の金額や上限は決まっており,必ずしも弁護士費用全額を網羅できるとは限りません。弁護士費用特約で必要な弁護士費用をすべて賄えるかは,多くの場合,弁護士側の費用設定によって変わります。

被害者は,自動車保険や弁護士費用特約についてあまり分からないでいる,とのことであったため,弁護士費用特約が利用できる状況にないか,という点も弁護士にて確認を進めることとしました。

ポイント
弁護士費用特約は,被害者が加害者に金銭請求するときの弁護士費用を支払ってくれるサービス
弁護士費用の全額をカバーできるかは,多くの場合弁護士側の費用設定による
自分に利用できる弁護士費用特約の有無が分からなければ,弁護士への相談が可能

弁護士の活動

①休業損害の交渉

休業損害については,特段の事情がない限り請求すれば一定の支払が得られるであろうことが明らかな状況でした。ただ,その金額をどうするかは,難解な問題であると想像されました。

そこで,まず,被害者の家事に生じた具体的な休業の内容と程度を,時系列に沿って指摘していただくことにしました。事故直後はどの程度の家事ができなかったか,それが時間経過に応じてどのように回復していったのか,時間経過しても引き続きできなかった家事はどんなものか,といった点を,可能な限り具体的にするよう努めました。

あわせて,被害者がパートタイマーであったことから,パート勤務の休業状況を確認しました。一般的に,兼業主婦でパート勤務の休業が全くなければ,それだけ家事の休業も少なく済んでいるはずであり,逆にパート勤務が長期間できていなければ,家事の休業も多くなってしまっていると理解されやすいです。

弁護士による確認内容

1.具体的な家事の休業内容・程度を時系列に沿って整理
2.パート勤務の休業状況を確認

以上の確認の結果,被害者には事故直後から一定の休業が生じており,時間経過によって回復は見られるものの,症状固定までの間継続的に支障が生じ続けていると判断することができました。
そこで,休業損害の請求に際しては,時間経過に応じて段階的に休業の程度を減少させていく方法で計算することとしました。

具体的な計算のイメージは以下の通りです。

本件における休業損害の計算方法

事故後の期間休業の程度
1日~40日80%
41日~80日60%
81日~120日40%
121日~160日20%
161日~180日10%

被害者の実態を反映する方法として合理的な計算をしつつ,交渉でできる限りの休業損害を獲得するための具体的方法として,本件では上記の計算方法による解決を提案することとしました。

以上の対応の結果,総治療期間約180日,実通院日数約100日のところ,80日を超える日数分の休業損害で合意するに至りました。

ポイント
休業の実態を丁寧に確認
段階的に休業の程度を設定することで,説得的な休業損害の金額計算を行った

②後遺障害部分の交渉

後遺障害部分に関する保険会社の提示は,いわゆる自賠責基準の金額とほとんど同額でした。
自賠責保険からは,後遺障害14級に対して75万円が支払われますが,加害者の保険会社としては,後遺障害部分の支払が75万円に収まれば,自社負担がなくなる点で最も利益になるため,自賠責基準での提示を行うことが非常に多く見られます。

弁護士が交渉を行う場合,この自賠責基準の提示に対して,適正な金額の請求を行って増額を図る,ということが非常に重要となります。特に本件では,相手保険が被害者の家事労働を全く考慮していなかった点もあり,「後遺障害逸失利益」の増額交渉が要点となる状況でした。

後遺障害逸失利益は,将来の休業損害というイメージの損害であることを解説しましたが,後遺障害逸失利益と休業損害は似た性質の損害であるため,その損害の大きさを立証するための根拠も類似したものになってきます。
つまり,治療中には休業を多く要しており,症状固定後にも同じような休業の継続が見込まれる,ということが示せれば,逸失利益が決して小さくならないことの裏付けにつながるというわけです。

弁護士からは,症状固定前の休業が症状固定後も継続していること,それが後遺障害の影響によるものであることを具体的に指摘することで,後遺障害逸失利益を可能な限り大きい金額とすることを目指しました。この交渉に際しては,依頼者とも十分な打ち合わせを実施し,後遺障害の家事への影響を具体的に整理しました。

以上の対応の結果,後遺障害部分(後遺障害慰謝料+後遺障害逸失利益)の金額は,弁護士が事前に想定していた目標額に達することができました。

ポイント
後遺障害逸失利益の立証は,休業損害の立証と類似する内容
症状固定前の休業が症状固定後も続いていることを具体的に示す

③弁護士費用に関する保険の確認

弁護士においては,依頼者及び家族の弁護士費用特約が利用できないか,確認することにしました。

一般的に,弁護士費用特約が利用できる人は,以下のような立場の人です。

弁護士費用特約が利用できる主な立場

契約者
契約者の同居家族
契約者の別居の子(未婚の場合のみ)
契約自動車の同乗者

また,対象になる事故はいわゆる自動車事故ですが,契約者やその家族が利用する場合,被害者自身がその自動車に乗っている必要はありません。歩行中に自動車と接触した事故であっても,弁護士費用特約の利用は可能です。

本件では,被害者が兼業主婦であることを踏まえ,同居の配偶者の自動車保険を確認することとしました。
配偶者は,本件事故に対してほとんど関与していなかったため,自身の自動車保険を確認する機会がありませんでしたが,弁護士が保険証券等を確認したところ,配偶者の自動車保険に被害者が利用できる弁護士費用特約を発見できました。

そのため,弁護士が配偶者加入の保険会社に問い合わせ,事情や状況を説明の上,弁護士費用特約で対応してもらうよう手続を進めました。
結果,被害者は特に煩雑な対応をすることなく,弁護士費用特約から弁護士費用全額の支払を受けられることになりました。

ポイント
弁護士費用特約は自身が自動車に乗っていなくても利用可能
同居家族の弁護士費用特約は確認をすることが望ましい

活動の結果

以上の活動を尽くした結果,弁護士依頼前の提示額約123万円であったところ,総額約330万円での合意に至り,約207万円の増額が実現されました。
また,この増額交渉に際して発生した弁護士費用は,全額が弁護士費用特約からの支払となり,被害者に弁護士費用の負担が生じなかったため,増額分は全て被害者の利益となりました。

本件では,活動開始から1か月以内で解決に至ることができました。

弁護士によるコメント

本件の被害者は,加害者の保険会社からかなり低額の金額提示を受けている状況でした。もっとも,被害者自身にその事実は分からないので,弁護士に相談しなければ低額であることを知らないまま合意していたかもしれません。その意味では,弁護士への相談が極めて重要なアクションであったということができるでしょう。

また,弁護士費用特約は,交通事故被害に遭わないと利用することがほとんどないため,被害者自身が利用できる状態かどうか分からないままである,ということも少なくありません。しかも,自分以外の人が契約した弁護士費用特約が利用できる場合もあり,逆に自分が契約した弁護士費用特約でも使えない局面があるなど,確認も容易でないことがあり得ます。
そのため,弁護士費用特約の利用ができるか不明な場合は,その点も含めて弁護士にご相談されることをお勧めいたします。

なお,本件は交渉開始から賠償額の獲得までにかかった期間が1か月弱でした。増額幅や要した手続を踏まえると,非常にスピーディーな解決であったと言えます。
もっとも,迅速解決は弁護士だけでは実現できず,ご依頼者の対応あってこそのことです。ご依頼者様自身が,自分の力で迅速解決を勝ち取った事例と言っても差し支えないでしょう。

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