このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。
【このページで分かること】
・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容
今回は,通院日数が決して多くない中で後遺障害14級9号の獲得を実現した頸椎捻挫の事例を紹介します。
目次
事案の概要
被害者は,片側二車線の道路の右側の車線をバイクで直進走行していましたが,左側の路肩に一時停止していたタクシーが乗車扱いを終えて発進し,そのまま右側の車線に進入したため,直進走行中の被害者と接触する事故が発生しました。
加害者のタクシーが,被害者のバイクに気づかず,右ウインカーを出したまま右側の車線に進入してきたため,被害者はクラクションを鳴らしながら回避を試みましたが,タクシーがクラクションを意に介さず走行し続けたため,接触は避けられませんでした。
被害者には,事故直後は目立った受傷が見られませんでしたが,事故翌日になって右手のしびれや首の痛みなどが生じるようになりました。医療機関での診断は「頸椎捻挫」というもので,画像上の異常所見は特に確認されませんでした。
なお,加害者のタクシー運転手及び所属するタクシー会社は,被害者側の速度超過を問題視しているという話をしているようでした。
法的問題点
①過失割合
交通事故の過失割合は,事故類型ごとに設けられている「基本過失割合」と,この基本過失割合に加えて考慮すべき事情がある場合の「修正要素」によって決定されます。
そのため,過失割合を判断するためには,まず該当する基本過失割合の有無及び内容を特定し,その上で修正要素の検討をすることになります。
【基本過失割合】
本件は,自動車進路変更時における後続直進単車との事故であるため,事故類型を踏まえた基本過失割合は,以下の【225】図に従って単車:四輪車=20:80となります。
「別冊判例タイムズ38号」より引用
【修正要素】
本件では,加害者側から,被害者の速度超過が主張されているという状況でした。この点,後続直進車の速度超過は,時速15㎞以上の場合に「+5」,時速30㎞以上の場合に「+15」の修正要素に該当します。
そうすると,被害者の速度超過を前提とした場合,被害者の過失は5~15%修正されることになり,25~35%となる可能性があります。
ポイント
基本過失割合は被害者20%
被害者に速度超過があると,被害者の過失は25~35%になり得る
②後遺障害等級
本件の被害者の受傷内容は「頸椎捻挫」であり,画像等の他覚的所見がないものでした。この場合,後遺障害等級としては14級9号の獲得を目指すことになります。
前提として,頸椎捻挫等に代表される神経症状に関し,後遺障害等級としては以下のものがあります。
等級 | 認定基準 |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
また,それぞれの認定基準を満たしているかどうかの具体的な考え方は,以下の通りです。
12級13号 | 症状が医学的に証明できる場合 (画像所見などの他覚的所見によって客観的に認められる場合) |
14級9号 | 症状が医学的に説明できる場合 (他覚的所見はないものの,受傷内容や治療経過を踏まえると症状の存在が医学的に推定できる場合) |
本件では,他覚的所見が認められないため,12級13号の認定が見込めません。そのため,受傷内容や治療経過などを踏まえ,14級9号の基準である「症状が医学的に説明できる」場合と認められるかどうかが問題になります。
なお,むち打ちの後遺障害等級認定については,こちらの記事もご参照ください。
ポイント
神経症状の後遺障害等級としては,12級13号又は14級9号が挙げられる
本件は他覚的所見がないため,14級9号を目指すべき場合に当たる
弁護士の活動
①過失割合の協議
過失割合に関しては,基本過失割合の20:80は了承できるものの,速度超過による過失割合の修正は了承できないと判断しました。なぜなら,過失割合の修正要素は,それを主張する方が具体的な主張立証をできるか,修正要素の存在について当事者間で争いのないことが必要ですが,本件ではいずれも見受けられなかったためです。
本件で相手方が被害者の速度超過の根拠として主張するのは,主に加害者(タクシー運転手)の記憶とドライブレコーダー映像でした。なお,タクシーが相手の場合,その加入している保険はタクシー共済になるのが一般的ですが,タクシー共済を利用するタクシー会社では,自社の担当者が対応する(タクシー共済には自動車保険会社のように連絡窓口となる人がいない)ことが通常です。本件でも,加害者の勤務先であるタクシー会社の担当者が,弁護士との連絡窓口に入っていました。
弁護士がタクシー会社担当者と連絡を取ったところ,タクシーのドライブレコーダー映像が確認できるとのことであったため,タクシー会社に訪問し,直接ドライブレコーダー映像の確認を行いました。タクシー会社としては,映像から被害者の速度超過が推測できるとの主張でしたが,弁護士が直接確認すると,その主張は非常に抽象的であるという判断ができました。
というのも,速度超過を理由とする過失割合の修正は,速度が時速何キロ超過していたか,というレベルで特定できなければなりません。時速15㎞以上の超過がなければ修正自体が生じませんし,時速30㎞を境に修正の程度も変わるためです。
しかし,本件のタクシー会社の主張は,「いくらか制限速度より速いスピードであると推測される」という程度にとどまる内容でした。走行距離と走行時間から速度を割り出せるわけでもなく,映像に残るバイクの動きが速そうに映る,という趣旨の指摘しかなされておらず,修正要素の立証とは到底考え難いものと判断されました。
そのため,弁護士からは,以下の指摘を行いました。
過失割合に対する指摘の内容
1.タクシーは片側二車線の道路上を路肩から右車線まで一気に進路変更しており,強引な運転行為が見受けられる
2.タクシーの強引な運転行為はあるが,交渉の限りであれば基本過失割合である20%の過失を了承する
3.訴訟に移行した場合は,20%より被害者に有利な過失割合を主張することになる
4.被害者の速度超過に関する主張は一切受け入れない
以上の指摘を踏まえた協議の結果,タクシー会社との間で過失割合20:80の合意に至り,過失割合の問題は解決しました。
ポイント
速度超過の修正は,具体的な速度も含めて主張立証が必要
相手が根拠とするドライブレコーダーを直接確認し,主張の誤りを指摘
基本過失割合に沿った解決を提案し,早期に合意
②後遺障害等級の獲得
後遺障害等級については,14級9号の認定を受けることが目標であったところ,14級9号に関する判断要素としては,以下のようなものが挙げられます。
受傷内容の重大さに関する事情
【事故態様】
→歩行者と大きな車が衝突した,車の速度が速かったなど,被害者の受ける衝撃の程度が大きいと思われる事故態様である場合,事故直後の症状が重いと評価されやすいです。
【事故による物的損害の程度】
→車両の損傷が激しい,多くの部品交換を要するような多額の修理費が発生しているなど,車両への衝撃が大きい内容である場合,事故直後の症状が重いと評価されやすいです。
【事故直後の診断内容】
→事故直後に症状の重大さをうかがわせる診断内容がある場合,症状が重いと評価されやすいです。
【事故直後の画像所見】
→事故直後に神経症状の原因となる画像所見が残っている場合,症状が重いと評価されやすいです。
症状改善のため十分な治療を尽くしたという事情
【治療期間及び実通院日数】
→治療期間が長く,実通院日数が多い方が,等級認定に近づきやすい傾向にあります。一般的には,通院期間6月以上,実通院日数100日以上を要することが目安とされるケースが散見されるところです。
もっとも,長ければ長いほど,多ければ多いほどいいというものではありません。明らかに過剰な診療と評価される治療経過だと,逆に症状とは関係のない理由で(=打算的に)通院したものと評価され,等級認定が得られづらい事情になりかねません。
【治療内容】
→神経ブロック注射など,より症状に対する影響の強い治療を受けている場合,十分な治療を尽くしたものと評価されやすい傾向にあります。具体的な治療方法は主治医とのご相談が適切ですが,可能であれば症状が重いことを把握してもらい,その症状に適した強度の治療を受けるのが望ましいです。
【治療中の症状経過】
→治療期間中にどんな症状が出ていたか,という点が具体的に明らかであれば,それに対する治療も尽くされ,結果的に十分な治療を行ったと評価されやすいところです。例えば,首だけでなく上肢や下肢にも症状が出ているほど深刻な症状だったため,これを踏まえた治療内容に移行した,といった場合が挙げられます。
症状固定時における症状の重さに関する事情
【症状の一貫性】
→診断書やカルテの記載上,事故直後と類似した症状が一貫して残存している場合,その症状は重い物と評価されやすいです。
【症状の常時性】
→症状が残存しているとき,それが動作をしたときに生じるのか,動作しなくても常時生じるのかは大きな違いになります。症状に常時性がある場合,その症状は重いと評価されやすいです。
【神経学的検査の結果】
→神経症状に関する後遺障害等級認定の判断に当たっては,その神経症状の程度を推し量るための「神経学的検査」の結果が参照されやすいです。具体的な検査としては,ジャクソンテストやスパーリングテストといった「神経根症状誘発テスト」が挙げられます。
ジャクソンテスト
頭部を後ろに倒しながら圧迫したとき,肩や上腕,前腕などに痛みや痺れが生じるかを確認する検査
スパーリングテスト
頭を後ろに反らせた状態で左右に傾けたとき,肩や腕,手などに痛みや痺れが生じるかを確認する検査
【画像所見】
→14級を目指す場合には画像所見の指摘は困難ですが,何らかの画像所見が医師の先生から指摘される状況であれば,非常に有力な材料になります。
この点,非常に簡易な判断材料として,通院期間及び実通院日数を基準とする検討が広く用いられています。具体的には,通院期間180日以上,実通院日数100日以上を要した場合,そのような神経症状は14級9号の対象になる可能性が生じる,というものです。
ただし,通院期間180日以上,実通院日数100日以上であったとしても,直ちに14級が認定されるわけではなく,イメージとしては認定対象となるためのスタートラインに近いイメージでしょう。
しかし,本件の被害者の場合,通院期間は180日強あったものの,諸事情があり実通院日数が60日程度にとどまっていました。そのため,実通院日数は,後遺障害等級認定に対して消極的な材料となっている状況でした。
そのため,弁護士の方では,以下のような事情を強調することにより,実通院日数が多くなくても14級が認定されるべきであることを主張立証することを目指しました。
14級認定を目指すための主張内容
1.事故態様
a.被害者はバイク乗車中であり,四輪車と違って事故の衝撃が直接身体に及ぶ状況であった
b.四輪車進路変更時の後続直進バイクとの事故は,決して受傷が軽くなりやすい事故類型ではない
2.症状の推移
a.被害者の実通院日数が60日程度にとどまっていたのは,やむを得ない事情があったためで,通院が不要だったからではない
b.被害者は治療開始直後から一貫して痛みを訴え続けており,治療をしても改善されない頑固な症状がある
以上の試みをした結果,後遺障害等級は目標としていた14級9号の認定に至りました。
ポイント
頸椎捻挫での14級9号は,総治療期間と実通院日数が重要な判断要素
実通院日数が一般的基準より少なかったものの,14級9号の認定を実現
③損害賠償額の交渉
1.慰謝料
14級の認定を前提とした場合,主な損害項目は「入通院慰謝料(傷害慰謝料)」,「後遺障害慰謝料」,「後遺障害逸失利益」の3点となるのが通常です。本件の場合も同様でした。
この点,「入通院慰謝料(傷害慰謝料)」及び「後遺障害慰謝料」は,弁護士の交渉による増額が生じやすい主な項目でもあります。弁護士がいない場合はいわゆる自賠責基準が採用されやすいものの,弁護士に依頼し,弁護士が交渉を尽くすことで,裁判基準と呼ばれるより高額な金額水準を踏まえた合意が可能となります。
一例として,14級の後遺障害慰謝料の場合,以下のような差異が考えられます。
14級の後遺障害慰謝料
自賠責基準=32万円
裁判基準=110万円
差額=78万円
なお,弁護士が交渉で解決する場合,裁判基準の80~90%が一つの目安になりやすいところですが,90%の99万円であっても自賠責基準とは67万円もの差があります。
2.逸失利益
後遺障害逸失利益(労働能力の喪失による収入減少)については,労働能力喪失期間が主な問題になりやすいところです。
具体的な労働能力喪失期間は,個別の後遺障害や症状の内容によっても異なりますが,14級9号に該当する頸椎捻挫の場合,5年以内の期間を念頭に置く運用が一般的です。加害者保険会社としては,労働能力喪失期間が短ければ短いほど賠償額も小さくなるため,特に弁護士がいなければより短い期間を主張することが広く見られます。
この点,交通事故と縁のなかった人が,突然「労働能力喪失期間2年」と言われても判断基準を持ち合わせていないため,十分に検討しないまま合意してしまう被害者も相当数いるようです。
しかし,弁護士が交渉をする場合にそのような被害者の損失を見過ごすわけにはいきません。労働能力喪失期間は5年間とすることを念頭に交渉を実施する方針としました。
ポイント
慰謝料は弁護士の有無で最も金額が変わりやすい項目
頸椎捻挫による14級9号の逸失利益は,労働能力喪失期間の問題が生じやすい
活動の結果
上記の各活動を尽くした結果,以下の結果が実現されました。
本件の主な結果
1.過失割合20%(加害者の主張を退ける)
2.後遺障害14級認定(目標等級の実現)
3.賠償額合計245万円(労働能力喪失期間5年)
なお,20%の過失割合があることを踏まえると,賠償額は交渉で実現し得る最大限に近い水準であったと考えられます。
弁護士によるコメント
本件は,過失割合について加害者側の中途半端な主張があった,という点に最初の関門がありました。この点については,弁護士が実際の根拠資料を具体的に確認し,加害者側の言い分は法的に認められる余地のない程度の内容であることをはっきり指摘することで,早期解決に至りました。
具体的金額に関しては,後遺障害等級が認定されるかどうか,という点が損害賠償額の大きさを決定づけました。実際には,後遺障害14級を前提に245万円を超える賠償に至りましたが,後遺障害が非該当(等級なし)であれば,賠償額は3分の1にも満たなかったことが見込まれます。
後遺障害等級認定を得るためには,実通院日数の少なさが懸念事項でしたが,バイクの運転中で事故の衝撃が大きかったことや,実際に頑固な症状が残り続けていたことなどを丁寧に示すことで,被害者の後遺障害に対する理解を得られたのが大きな要因だったと考えられます。
頸椎捻挫について後遺障害14級の認定を獲得することは容易でなく,残念ながら非該当を覚悟して行う必要がある,というのが現実ですが,実際に結果が伴うケースも確かに存在するということを伝えてくれる事例だと言えるでしょう。
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