このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。
【このページで分かること】
・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容
今回は,追突事故被害によるヘルニアの受傷で,異議申立てにより14級の認定を獲得した解決事例を紹介します。
目次
事案の概要
赤信号にて停止中の被害車両に加害車両が追突する形で事故が発生しました。被害者は主に首と腰の痛みに悩まされており,半年近く通院を継続したものの,症状は残存し続けました。
約半年が経過した段階で,通院先にてMRIを撮影したところ,首と腰にヘルニアの症状があるとの指摘を受け,弁護士への法律相談をご希望されました。
弁護士の相談時には,既に通院先での後遺障害診断書作成の予定も設けられており,通院治療は終了が見込まれている状況でした。被害者の悩みも後遺障害等級の点にあり,申請に際して弁護士のサポートをご希望の状況でした。
法的問題点
①ヘルニアと交通事故との因果関係
ヘルニアとは,体内の臓器や組織が本来あるべき場所から逸脱して飛び出した状態を指し,首や腰で問題になるのは「椎間板ヘルニア」と呼ばれるものであることが通常です。
脊椎の間には椎間板というクッションとなる軟骨がありますが,椎間板が圧迫されて飛び出してしまい,神経を圧迫する状態にあるのが椎間板ヘルニアと呼ばれる状態です。
もっとも,このヘルニアは,一般には外傷のみから生じるとは理解されておらず,交通事故で判明したヘルニアの原因は,交通事故前から存在していたと判断されることが非常に多く見られます。
ヘルニアが生じていても,直ちに痛みなどの自覚症状が現れるわけではなく,事故によってヘルニアの箇所に刺激が生じた結果,自覚症状が現れるに至った,という場合が非常に多くあるのです。
ヘルニアの原因が交通事故の原因でない場合,その問題は後遺障害等級の判断にダイレクトな影響を及ぼします。MRIなどの画像でヘルニアが確認でき,ヘルニアに伴う神経症状が出ていたとしても,ヘルニアが事故によって生じたのでないのであれば,ヘルニアは後遺障害等級の根拠にはならない,という結論になってしまいます。
実際に,このような判断でヘルニアがあっても後遺障害等級が非該当との結論になるケースは枚挙に暇がありません。ヘルニアが生じている事故では,ほとんどの場合で因果関係が大きな問題になります。
②神経症状に対する後遺障害等級
神経症状に対する後遺障害等級としては,以下の内容が挙げられます。
等級 | 認定基準 |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
また,その具体的な判断基準としては,以下のように整理されています。
12級13号 | 症状が医学的に証明できる場合 (画像所見などの他覚的所見によって客観的に認められる場合) |
14級9号 | 症状が医学的に説明できる場合 (他覚的所見はないものの,受傷内容や治療経過を踏まえると症状の存在が医学的に推定できる場合) |
つまり,画像所見などの客観的な所見で第三者が判断できる場合には12級の認定可能性があり,そのような客観的な所見がない場合には14級の認定を目指す,ということになります。
この点,ヘルニアの場合,MRIで客観的に確認できれば12級の認定が得られそうにも思えますが,残念ながらそれほど簡単な話ではありません。ヘルニアがあっても,直ちに事故と因果関係があるとは認められないため,客観的な画像所見があることに加え,それが外傷性のヘルニアであることがわかる根拠も指摘できなければ,12級の根拠とすることは困難と理解されます。
ヘルニアが外傷性であると分かる場合というのは,主に新鮮なヘルニアが画像に現れている場合です。しかし,追突事故で早期にMRI撮影を行うケースはあまり多くはなく,本件でも事故から半年ほど経過し,通院治療の終了に差し掛かった段階で初めてMRIが撮影され,ヘルニアが判明しました。
そのため,本件で12級を目指すことは非常に難しく,14級を目指すことが現実的であろうと思われる状況でした。
③損害賠償額
交通事故の主な損害賠償の項目としては,慰謝料が挙げられます。
この慰謝料は,入院及び通院の期間に応じて発生する「入通院慰謝料(傷害慰謝料)」と,後遺障害等級に応じて発生する「後遺障害慰謝料」の二つに大きく区別されますが,入通院慰謝料は入通院があれば生じるのに対し,後遺障害慰謝料は後遺障害等級が認定されなければ発生しません。
そのため,後遺障害等級が認定されるかどうかは,後遺障害慰謝料がゼロであるかどうか,という大きな分岐点になるところです。
また,慰謝料の金額は,弁護士の有無で保険会社の対応が変わる主なポイントでもあります。弁護士が金額交渉を行うことで増額するのは,基本的に弁護士が付くとこの慰謝料額について保険会社が増額に応じる運用をしているためです。
もっとも,具体的な増額幅は個別の交渉により異なるため,増額交渉をどのように実施するか,どのような増額結果になるかは,弁護活動によって変化する部分となります。
ポイント
ヘルニアは交通事故との因果関係が問題になる
外傷性のヘルニアか判断できない場合は14級を目指す
慰謝料額の交渉は弁護士交渉のメインポイント
弁護士の活動
①被害者請求の実施
交通事故で後遺障害等級認定を目指す場合,自賠責保険に認定を求める手続を行い,調査・判断してもらうことが必要です。そして,認定を求める手続には,以下の二通りがあります。
後遺障害等級認定を目指す手続
1.事前認定
→加害者の保険会社が必要な書類等を収集・提出する方法
2.被害者請求
→被害者自身が必要な書類等を収集・提出する方法
また,各方法のメリット・デメリットについては以下のように整理されます。
方法 | メリット | デメリット |
事前認定 | 後遺障害診断書だけ主治医から取り付けて提出すれば,あとは保険会社がすべて進めてくれる | 保険会社は,必要な書面以外は何も提出してくれない |
被害者請求 | 必要書類以外にも,自分の主張に関わる書類を自由に添えて提出することができる | 提出書類の取得や作成を自分でしなければならないため,手間が多い |
本件では,神経症状という数値で判断できない分野の後遺障害等級認定を目指す試みであったこと,ヘルニアの存在だけがわかっても等級認定には結びつかないであろうことなどを踏まえ,被害者請求の方法で可能な限り丁寧な主張を尽くすことにしました。
被害者請求に際しては,以下のような活動も実施しました。
【医学的意見の獲得】
ヘルニアの原因が交通事故であっても矛盾しないことや,本件事故の内容を踏まえれば自覚症状が重く残存してもおかしくないことなどについて,医師の医学的意見を聴取の上,書面化への協力を依頼しました。
活動の結果,ヘルニアに伴う神経症状の主張を補強する医学的意見の獲得に至りました。
【自覚症状の書面化】
神経症状については,自覚症状の程度・内容が判断の対象とならざるを得ないため,症状そのものをできる限り具体的に示せるよう,被害者の生の声を書面化することとしました。被害者から自覚症状の内容を洗い出してもらい,その内容を踏まえて適宜打ち合わせを重ねながら,現在被害者に残っている症状とその重さを文書にしました。
②異議申立ての実施
以上の準備の上,被害者請求を実施しましたが,結果は非該当(後遺障害に該当しない)というものでした。
本件は必ずしも等級認定が見込めるとまでは言えない内容であったため,非該当の結果は想定内ではありましたが,等級認定の有無ではやはり大きく賠償額が変わることもあり,異議申立てという不服申し立ての手続を試みることにしました。
異議申立ては,同一の内容について再度自賠責保険(及び自賠責損害調査事務所)の調査・判断を求める手続ですが,同じ事柄について同じ場所が判断を行うため,追加の立証資料がなければ結論が変わることはまずありません。
本件では,以下のような追加資料の作成・提出を行いました。
異議申立ての追加資料
1.非該当とした判断の理由と被害者の自覚症状が食い違っていることや,その自覚症状が継続的にあったことについて,根拠を添えて示す書類を作成
2.非該当の判断理由がこちらの提出した医学的意見とも食い違うことについて,医師の意見を獲得し書面化
③異議申立ての結果
このような異議申立ての結果,非該当との判断が覆り,被害者の首及び腰の神経症状についてそれぞれ14級9号が認定されることとなりました。
異議申立てを尽くしたことで,被害者の後遺障害等級は併合14級となりました。
④金額交渉
後遺障害等級認定の結果を踏まえ,相手保険担当者との間で金額交渉を実施しました。
主な項目である慰謝料は,弁護士が交渉を行う場合,裁判で認められ得る最大額(いわゆる裁判基準)の80~90%を見込むものと言われており,90%が一定の目標水準とされやすい傾向にあります。ただ,本件の場合では,他の項目において,被害者側が相手保険に配慮して譲歩していた部分が見受けられたため,これを踏まえて90%を超える水準での合意が獲得できないか,交渉を試みることにしました。
活動の結果
上記の弁護活動の結果,被害者の後遺障害等級は併合14級,被害者に対する損害賠償額は合計345万円(自賠責保険金75万円,任意保険より270万円)となりました。
損害賠償のうち,慰謝料の金額は裁判基準の92~93%ほどの水準という結果でした。弁護士による金額交渉の結果,90%を上回る金額で,端数を切り上げた切りのいい金額での合意となったための増額でした。
弁護士によるコメント
神経症状に関する14級の後遺障害は,後遺障害等級の中でも最も問題になりやすいものです。また,同時に,等級認定の難易度が高い傾向にある類型ということもできるでしょう。
首や腰の神経症状については,他覚的所見を確認することが非常に難しく,ヘルニアのように所見があったとしても事故との因果関係が不明確とされる場合が非常に多く見られます。この場合,等級認定の客観的な根拠に乏しいため,自覚症状の程度を推測させる事情を丁寧に積み上げて,総合考慮の上で14級の認定をしてもらえるよう試みる必要があります。
本件では,追突された車の損傷が相当程度大きく,事故の規模が小さくはなかったと評価できたことや,自覚症状の内容や推移について被害者が詳細な説明を尽くしたことなどが,異議申立ての結果に結びついた可能性が高いと思われます。
なお,むち打ちに関する後遺障害等級認定については,こちらの記事もご参照ください。
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