●逮捕されると国家資格に影響があるか?
●不起訴になれば国家資格への影響はないか?
●どんな刑罰を受けると国家資格がなくなってしまうか?
●自分の国家資格について確認する方法が知りたい
●国家資格がある場合の刑事事件は弁護士に依頼すべきか?
といった悩みはありませんか?
このページでは,刑事事件の国家資格への影響についてお困りの方に向けて,刑事事件と国家資格の関係や,国家資格への影響を避ける方法などを解説します。
目次
逮捕と国家資格の関係
刑事事件の国家資格に対する影響は,それぞれの資格に関する法律で定められていますが,逮捕されたことを理由に国家資格を失う定めはないため,逮捕されても国家資格に影響の生じることはありません。
そのため,国家資格との関係では,逮捕されるかどうかよりも,最終的にどのような処分を受けるのかという点が重要な基準になります。
不起訴処分の場合の国家資格への影響
刑事事件では,捜査機関が捜査を遂げた後,検察官において起訴又は不起訴の処分がなされます。起訴された場合には,裁判所で刑罰を科すかどうかの判断に移りますが,不起訴の場合にはその判断に移ることなく手続が終了します。そのため,不起訴処分になれば刑罰をうけることはありません。
そして,国家資格に関する法律は,資格者が一定の刑罰を受けたことを要件に国家資格への影響が生じるとの定めになっています。そのため,不起訴処分になったケースであれば,国家資格への影響が生じることはありません。
ただし,懲戒処分の可能性に注意が必要となる場合はあります。公務員はその代表例ですが,刑罰を受けなかったとしても,職務に支障を来すような非違行為があれば,別途懲戒処分の対象となるリスクは否定できません。
懲戒処分を受ける場合,最も重大なものは懲戒免職,つまり職を失うという処分になるため,この場合には不起訴処分であっても仕事への影響が出てしまうことになります。
もっとも,懲戒処分は刑事処分の重さに比例して重くなるのが通常であるため,不起訴処分となったにもかかわらず懲戒処分で職を失うというのは,非常に例外的な場合に限られるでしょう。
ポイント
逮捕で国家資格に影響が生じることはない
不起訴処分で国家資格に影響が生じることはない
懲戒処分の対象になる可能性は否定できないが,非常に例外的
刑罰の程度と国家資格との関係
刑罰を受けた場合,国家資格に影響の生じる可能性がありますが,どの程度の刑罰によってどの程度の影響が生じるかは,それぞれの資格によって異なります。というのは,国家資格の場合,その資格を得られる条件や資格を失うケースなどについて,個別の法律にそれぞれ定められているためです。
そのため,具体的なケースで国家資格にどのような影響が見込まれるかは,個別に確認する必要がありますが,具体的なチェックポイントや確認手順を以下解説します。
国家資格と刑罰との関係 チェックポイント①対象になる刑罰の程度
まず,どのくらい重い刑罰であれば資格に影響を及ぼすのか,という点をチェックする必要があります。よくある定め方としては,以下のようなものがあります。
①罰金以上の刑 | 対象:罰金刑,執行猶予,実刑 |
②禁錮以上の刑 | 対象:執行猶予,実刑 |
③禁錮以上の刑 特定の犯罪類型では罰金以上の刑 | 基本的な対象は執行猶予、実刑 職務に関係する事件では罰金以上も対象 |
特に,その国家資格が罰金刑でも影響の生じるものなのか,特定の犯罪類型の場合だけ罰金刑が対象になるものなのか,など,罰金刑が絡むかどうかは大きな区別の目安になるでしょう。
国家資格と刑罰との関係 チェックポイント②絶対と相対
国家資格に影響を与える場合,懸念されるのは資格を失うことですが,「絶対に失う」か「失うことがある」のかは資格により異なり,チェックが必要です。
チェックポイントとしては,こちらの方がより重要です。
絶対に失うのであれば是が非でも刑罰を避ける必要がありますし,失うことがあるという定めであれば,必ずしも刑罰を避けなければならない,というわけではなくなります。この差異は非常に重大です。
なお,「絶対に失う」という場合を「絶対的」欠格事由,「失うことがある」という場合を「相対的」欠格事由といいます。
絶対的か相対的か,という区別は確実にチェックするようにしましょう。
ポイント
対象となる刑罰は,罰金以上・禁固以上・特定の犯罪類型のみ罰金以上とする場合のいずれかが多い
刑罰の国家資格への影響には「絶対的」と「相対的」がある
国家資格と刑罰との関係 確認手順
法律を読む機会がないと,条文が羅列される中で必要な情報を確認することは容易ではありません。そこで,以下では国家資格と刑罰の関係について,個別の資格に関する定めを確認するための基本的な手順を解説します。
①自分の国家資格と関係する法律を見つける
まずは,該当する法律を特定する必要があります。もっとも,医師であれば医師法,弁護士であれば弁護士法など,その特定自体は特に難しくないことが多いでしょう。一般的には,その資格の名称が法令名に含まれていることが多く見られます。
中には,保育士について児童福祉法に定められているなど,資格の名称と法令名が一致しない例もありますが,業務に関係のない名称の法令であることはないと考えてよいでしょう。
②資格が与えられない場合の定めを見つける
国家資格に関する法律には,資格が与えられない場合に関する定めが設けられています。
資格が与えられない要件に該当してしまっていれば,もし受験に合格などしても,資格を取得することができません。
例えば,医師法では,4条に以下のような定めがあります。
次の各号のいずれかに該当する者には、免許を与えないことがある。
一 心身の障害により医師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの
二 麻薬、大麻又はあへんの中毒者
三 罰金以上の刑に処せられた者
四 前号に該当する者を除くほか、医事に関し犯罪又は不正の行為のあつた者
医師の場合,上記4つ場合のいずれかに当たると,他の条件を満たしていても免許を与えられないことがあることになります。
③資格を失う場合も同じルールであることを確認する
国家資格に関する法律では,資格を失う場合の定めを設けるとき,資格が与えられない場合の定めを流用するのが一般的です。資格を与えられないのか失うのかは,資格を得た前後の違いしかないため,そのルールは概ね共通します。
そのため,資格が与えられない場合の定めを確認できた場合には,資格を失う場合も同じルールであることを確認するのが円滑です。
同じく医師の場合を例に挙げると,医師法7条1項に以下のような定めがあります。
医師が第四条各号のいずれかに該当し、又は医師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる。
一 戒告
二 三年以内の医業の停止
三 免許の取消し
若干付け加えられてはいますが,基本的には4条のいずれかに該当する場合に免許取り消しを含む処分をすることができる,というルールになっています。4条は免許が与えられない場合の定めなので,免許を取り消すときのルールも概ね共通していることが分かります。
ポイント 確認手順
①該当する法律を特定
②資格が与えられない場合の定めを確認
③資格を失う場合も同じルールを用いていることを確認
刑罰による国家資格の影響一覧
資格制限の生じる刑罰の程度とその効果を基準に分類し,以下に一覧にして紹介します。
(厳密には資格に該当しないものも含みます)
①「罰金刑以上」で「相対的に」資格を失う場合
【対象資格】 | 【制限の内容】 |
医師 | 取消又は3年以内の停止 |
歯科医師 | 取消又は期間を定めて停止 |
獣医師 | 取消又は期間を定めて停止 |
保健師・助産師・看護師 | 取消又は3年以内の停止 |
薬剤師 | 取消又は3年以内の停止 |
②「禁錮以上」で「絶対的に」資格を失う場合
【対象資格】 | 【対象期間】 |
公認会計士 | 刑の執行終了後3年までの間 |
司法書士 | 刑の執行終了後3年までの間 |
行政書士 | 刑の執行終了後3年までの間 |
社会保険労務士 | 刑の執行終了後3年までの間 |
税理士(※) | 刑の執行終了後5年までの間 |
国家公務員 | 刑の執行終了までの間 |
地方公務員 | 刑の執行終了までの間 |
教員・校長 | 刑の執行終了後3年までの間 |
保育士 | 刑の執行終了後2年までの間 |
建築士 | 刑の執行終了後5年までの間 |
宅地建物取引業者 | 刑の執行終了後5年までの間 |
宅地建物取引士 | 刑の執行終了後5年までの間 |
建設業の許可 | 刑の執行終了後5年までの間 |
土地家屋調査士 | 刑の執行終了後5年までの間 |
不動産鑑定士 | 刑の執行終了後3年までの間 |
中小企業診断士 | 刑の執行終了後3年までの間 |
業務管理主任者 | 刑の執行終了後2年までの間 |
取締役・監査役・執行役 | 刑の執行終了までの間 |
③「禁錮以上」で「相対的に」資格を失う場合
【対象資格】 | 【対象期間】 |
古物商許可(※) | 執行後5年までの間 |
通関業許可(※) | 執行後3年までの間 |
警備業者・警備員(※※) | 執行後5年までの間 |
特定保険募集人(※※※) | 執行後3年までの間 |
※※ 開始段階では「絶対的」にできない
※※※ 登録前では「絶対的」に登録拒否
④特定の事件類型に限り「罰金刑以上」で「絶対的に」資格を失う場合
【対象資格】 | 【対象となる法令】 | 【対象期間】 |
税理士 | 国税・地方税関係法令,税理士法 | 執行後3年までの間 |
社会保険労務士 | 労働社会保険諸法令 | 執行後3年までの間 |
建築士 | 建築士法又は建築に関する罪 | 執行後5年までの間 |
古物商許可(※) | 窃盗・背任・占有離脱物横領・盗品等罪 | 執行後5年までの間 |
国家資格がある場合の刑事事件は弁護士に依頼すべきか
国家資格がある場合の刑事事件は,その刑事処分の重さが直接資格に影響を及ぼす恐れが大きくあります。そのため,弁護士に依頼し,できる限り刑事処罰の回避や軽減を目指すのが適切でしょう。
また,自分の資格が失われる可能性があるのか,失われるのはどのような場合なのかは,やはり自身での確認が困難ではあるので,弁護士に依頼し,専門的なアドバイスを受けながら方針を決めるのが適切です。方針を誤れば,結果的に国家資格への影響が生じ,動いた意味がないという事態にもなりかねません。
刑事事件に強い弁護士をお探しの方へ
国家資格がある場合,資格の内容によっては刑事処分を若干軽減するだけでは問題解決にならない場合があります。
刑事処分の見通しは,刑事手続の初期段階で立てる必要があるので,国家資格への影響も初期段階で検討しなければなりません。
個別の資格に応じた具体的な対応については,刑事事件に精通した弁護士への相談・依頼が適切でしょう。
さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,500件を超える様々な刑事事件に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内することができます。
早期対応が重要となりますので,お困りごとがある方はお早めにお問い合わせください。
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