
このページでは,特殊詐欺事件で警察から呼び出された場合について,適切な対応方法などを弁護士が解説します。
特殊詐欺事件に関する呼び出しへの対応や今後の見込みを検討するときの参考にご活用ください。

目次
特殊詐欺事件で呼び出された場合の対応法
①基本姿勢
特殊詐欺事件で呼び出しを受けた場合には、まず「本罪」と「余罪」を区別して検討することが適切です。本罪とは、実際に呼出しを受けた対象事件のことをいい、余罪とは、本罪以外の事件のことを言います。
本罪と余罪の区別が重要であるのは、本罪と余罪とで対応方針を変えるべき場合が少なくないためです。例えば、捜査機関には本罪だけ証拠がそろっているが余罪は発覚していない、という場合、本罪と余罪の両方を全部認めて話すことも、本罪と余罪の両方を否認して認めない態度を取ることも、ともに不適切になりやすいでしょう。本罪だけ証拠がそろっている状況であれば、本罪は認める姿勢が適切ですが、発覚していない余罪の情報提供をするメリットはあまりありません。
特殊詐欺事件の捜査は、取調べでどのような発言がなされるか、という点が大きな影響を及ぼしやすい傾向にあります。そのため、対応方針を誤らないための整理として、本罪と余罪の区別を明確にすることをお勧めします。
ポイント
本罪と余罪の区別を明確にする
本罪と余罪とで対応方針を変えるべき場合が少なくない
②認め事件
認め事件の場合、基本的には事実をありのまま告げることが適切です。特に、共犯者に関する情報を分かる限りで提供し、事件の全容解明に向けた協力姿勢を取ることができれば、刑事処分の軽減に向けた有益な事情となり得るでしょう。
また、自分の役割が比較的小さなものであれば、自分の具体的な役割の内容を正しく把握してもらうことも目指すべきです。例えば、詐欺事件そのものの計画に関与しているかどうか、詐欺事件の具体的な内容をどのように理解していたか、という点は、共犯者間の役割や立場に大きく影響しやすいため、整理して伝えられることが適切です。
ポイント
事件の全容解明に向けた協力姿勢を取る
自分の役割が小さいことを正しく把握してもらう
③否認事件
否認事件の場合、まずは具体的な争点を明らかにすることが適切です。なぜ否認をするのか、犯罪が立証できるかどうかのポイントはどこか、という点を、捜査機関に理解してもらうことが、否認事件で適切な結果を目指す第一歩になります。
特殊詐欺事件の場合、否認事件では以下のような争点が見られます。
否認の特殊詐欺事件における争点の例
1.故意
→アルバイト名目などで、詐欺事件と知らずに関与させられた、という主張。
2.犯人性
→自分が犯人であるかどうか、という問題。人違いであると主張するケース。
3.責任の有無
→脅迫され、強制的に関与させられていたという主張。
ポイント
争点を明らかにすることが対応の第一歩
特殊詐欺事件の呼び出しに応じると逮捕されるか
特殊詐欺事件の場合、呼び出しに応じて出頭した際に逮捕される、というケースも一定数見られます。これは、元々逮捕する目的であった場合に、警察から逮捕に向かうのではなく、被疑者の方から警察に来てもらって逮捕する、という動きを選択した場合です。
通常、逮捕する場合には、証拠隠滅のきっかけを与えないよう、警察が被疑者の自宅などに突然訪れ、そのまま逮捕する運用が多く見られます。ただ、特殊詐欺事件では、共犯者との捜査の前後といった捜査上の状況や、遠方である場合などを踏まえ、被疑者に自ら出頭してもらった上で逮捕に踏み切るケースも少数ながら見られるところです。
一方、逮捕するかどうか判断未了の状態で呼び出しを行い、呼び出しへの応答を踏まえて逮捕する、というケースはあまり見られません。裏を返せば、呼び出しへの応対を誤ったから逮捕される、ということにはなりにくいため、呼び出しへの対応を過度に不安視することはお勧めしません。
ポイント
元々逮捕目的である場合、呼び出した上で逮捕を執行するケースはある
呼び出しへの対応が原因で逮捕されるケースは生じにくい
特殊詐欺事件で警察が呼び出すタイミングや方法
①事情を知っている可能性があると考えたとき
特殊詐欺事件は、組織的な事件であることから、いきなり全容を掴むことは困難になりやすいです。そのため、用いられた口座の名義人やスマートフォンの契約者など、事件に関わった可能性のある人物から事情を聴くことで、捜査の進展を目指す動きは少なくありません。
警察が呼び出す場合も、事件について事情を知っている可能性がある人物の存在が浮上した際、その人物を呼び出して話を聞く、という流れは一定数見られるところです。
このような呼び出しは、捜査の比較的初期段階であることが多く見られます。捜査の糸口を掴むために広く情報を収集している段階であるケースが多いでしょう。捜査担当者から電話連絡を行う方法で呼び出しを試みることが一般的です。
②事件への具体的な関与が特定されたとき
具体的な事件への関与が特定され、果たした役割が分かった段階で、事実関係を取り調べるために呼び出されるケースもあり得ます。この段階では、客観的な証拠がある程度捜査機関の手元にあり、少なくとも個別の被害がどのようにして起きたか、ということは明らかであることが多いでしょう。
このような呼び出しは、呼び出される側にとっては初回の呼び出しであることが見込まれますが、捜査としてはある程度進行した段階であることが考えられます。特殊詐欺事件の場合、呼び出しより前にできる限りの捜査を行って証拠を固める流れになりやすいためです。
③証拠品の提出を求めるとき
特殊詐欺事件の場合、共犯者間でのやり取りや、各人の行動を裏付ける記録など、犯罪立証のため収集するべき証拠が非常に多くなりやすいです。そのため、証拠品を獲得する手段として、関係者を呼び出して証拠品の提出を求めることも行われます。
このような呼び出しは、ほかの証拠収集がある程度尽くされた後の段階であることが多く見られます。物的証拠の収集や関係者への事情聴取が行われた後、その内容に関する証拠を獲得する目的で行われることになりやすいでしょう。
特殊詐欺事件の呼び出しに応じたときの注意点
①共犯者の取調べを先行している可能性
特殊詐欺事件は、組織的・計画的に行われる事件であることから、複数の人物から事情を聴取することが通常です。そのため、自分が呼び出しを受けた段階で、既に他の関係者からも事情を聴いており、供述内容が合致するか確認する目的で呼び出されている可能性がある点には注意することが適切です。
特に、共犯者の取調べが先行して行われている場合には、自分の供述と共犯者の供述とが食い違っており、足の引っ張り合いになるケースも少なくありません。共犯者間で誰がより大きな役割を果たした立場であるのか、という点に関する責任のなすりつけ合いに巻き込まれる可能性は十分に想定しておくことが望ましいでしょう。
②供述調書作成時の留意事項
取調べを行う場合、自分の話した内容が供述調書という書面にされ、供述調書に署名押印を求められる、という流れが想定されます。供述調書の作成が、取調べの基本的なゴールと考えても間違いはないでしょう。
この点、供述調書への署名押印について正しい理解を持っておくことは非常に重要です。署名押印は、供述調書の内容が自分の発言と間違いないという意味のお墨付きとなります。そのため、供述調書の文面について、自分の発言が捻じ曲げられていたり、ニュアンスの異なる表現にされていたりしないか、十分に確認した上で署名押印をしましょう。
また、署名押印は拒否することも可能です。お墨付きを与えられない場合には、毅然と署名押印を拒否することも視野に入れるのが適切です。
③故意を否認する主張の仕方
特殊詐欺事件の場合、自分が詐欺事件に関与しているとは思っていなかった、と故意を否認する主張をするケースもあり得ます。この場合には、「故意」が認められる条件を正しく理解しておくことが非常に重要です。
故意は、犯罪行為をしていたことの認識・認容を言いますが、この認識・認容は、犯罪行為を確信している場合に限られません。自分が犯罪行為をしている可能性を分かっていながら、それでも構わないと思っている場合には、犯罪の故意ありと判断されてしまいます。
特殊詐欺事件では、特にアルバイトのような立場だと、詐欺であることをはっきり知らされてはおらず、詐欺だと確信していなかった場合は少なくありません。しかし、詐欺である可能性が容易に分かる状況で、それでも構わないと思っていたのであれば、故意はあるとの結論になるため注意しましょう。
警察が呼び出す主な目的
警察から呼び出しを受ける場合,その目的には主に以下のようなケースが考えられます。
①参考人である場合
参考人とは,特定の事件について捜査の参考とすべき情報を持っているであろう人を言います。具体例としては,事件の目撃者や,被疑者の同僚・友人といった近しい人物,会社で犯罪が起きた場合の従業員などが挙げられます。
参考人の呼び出しは,犯罪捜査のために必要な情報を参考人から教えてもらうために行われるものです。参考人は捜査や処罰の対象となることが想定されていないため,逮捕をされたり前科が付いたりすることは通常ありません。
②身元引受人である場合
身元引受人とは,文字通り被疑者の身元を引き受ける人を言います。身柄を拘束しない事件(=在宅事件)の場合,捜査機関は被疑者の任意の出頭を求めることになりますが,出頭をより確かに見込めるように,適任者を警察署に呼び出し,身元引受人となることを求める取り扱いが広く行われています。
身元引受人は,同居家族(配偶者や親など)であることが一般的です。同居家族に適任者がいない場合は,勤務先の上司や被疑者の依頼した弁護士が身元引受人になることもあります。
身元引受人に対する呼び出しは,通常,被疑者の初回の取り調べが終了した後に行われます。捜査機関から身元引受人に電話連絡がなされ,被疑者を連れて帰ることと身元引受人になることが依頼される,という流れが一般的です。
身元引受人は,被疑者の監督者というのみの立場であるため,呼び出しに応じても逮捕されたり前科が付いたりすることはありません。また,呼び出しに応じなかったとしても特に問題が生じることはありません。
③被疑者である場合
被疑者とは,犯罪の嫌疑をかけられている者をいいます。ニュースなどでは「容疑者」と呼ばれますが,法律的には「被疑者」が正しい呼び方となります。
被疑者を呼び出す目的は,犯人候補として取調べを行うことに尽きます。犯罪の疑いを認めるかどうか,認める場合には具体的に何をしたか,などを確認し,記録化するために,被疑者を警察署へ呼び出します。
被疑者として呼び出される場合,事件の内容や状況によっては逮捕される可能性も否定できません。また,犯罪事実が明らかになれば,刑事処罰を受けて前科が付く可能性もあり得ます。
参考人 | 身元引受人 | 被疑者 | |
呼び出しの理由 | 事件の情報獲得 | 被疑者の出頭確保 | 犯人候補の取り調べ |
逮捕の可能性 | 通常なし | なし | あり |
前科の可能性 | 通常なし | なし | あり |
警察の呼び出しを拒むことは可能か
警察の呼び出しには強制力がありません。そのため,呼び出しを拒んだとしても法的にペナルティを科せられることはなく,その意味では呼び出しを拒むことはどのような場合でも可能,ということになるでしょう。
もっとも,立場によって呼び出しを拒むことにリスクや問題の生じる可能性はあり得ます。
①参考人の場合
参考人は,捜査への協力を依頼されている立場に過ぎないため,呼び出しに応じなかったとしてもリスクを抱えたり問題が生じたりすることは通常ありません。
ただし,「現在は参考人にとどまる取り扱いだが,犯罪への関与が疑われる可能性がある」という状況の場合には,呼び出しに応じないことのリスクが生じ得ます。呼び出しに対して積極的な協力や情報提供を尽くす場合に比べると,呼び出しを拒んで捜査協力を一切しない場合の方が,より強く犯罪の関与を疑われやすい傾向にあるためです。
そして,具体的な犯罪への関与を疑われた場合,今度は参考人でなく被疑者として,呼び出しを受けるなどの捜査が行われる可能性も否定はできません。
そのため,呼び出しを拒むことで犯罪への関与を疑われかねない場合には,拒むリスクが生じ得ると言えるでしょう。
②身元引受人の場合
身元引受人は,犯罪への関与が想定されていない立場の人物であるため,呼び出しを拒むことで犯罪の疑いをかけられるものではありません。
もっとも,同居している被疑者の身元引受人となるよう求められ,これを拒んだ場合,被疑者に不利益が生じる可能性は考えられます。身元引受人が拒んだから逮捕をする,ということはあまりありませんが,所在確認のために警察が自宅に訪れることは珍しくありません。そうすると,周囲の人々に警察と関わっている事実が分かってしまい,私生活に影響を及ぼす恐れがあり得ます。
被疑者が同居の家族であって今後も同居を予定している,という場合には,可能な限り身元引受人としての呼び出しに応じる方が無難なケースが多いでしょう。
③被疑者の場合
被疑者に対する呼び出しは,取り調べを行うための方法の一つとして行われるものです。この点,捜査機関が被疑者の取り調べを行う方法は,逮捕して強制的に行うか,呼び出しをして任意の出頭を求めるかの二択であることが通常です。
被疑者を取り調べる方法
1.逮捕をして強制的に行う
2.呼び出して任意の出頭を求める
この点,呼び出しても任意に出頭してくれないとなると,取り調べをするためには逮捕をするほかない,という判断になる可能性もあり得ます。二択のうち一方がダメであった以上,もう一方の方法が取られるのは自然なことであるためです。
そのため,被疑者として呼び出しを受けた場合,可能な限り応じることが適切になりやすいでしょう。もちろん,あまりに回数が多かったり,あまりに時間が長かったりという場合には,その点の配慮を求めることは全く問題ありませんが,呼び出しを徹頭徹尾拒む,というスタンスを取って被疑者自身が得をすることはあまりないと考えるのが適切です。
ポイント 呼び出しを拒む行動の注意点
参考人の場合,拒むことで事件への関与を疑われないように注意
身元引受人の場合,同居する被疑者への不利益に注意
被疑者の場合,拒んだことで逮捕を誘発する可能性に注意
呼び出された場合に弁護士へ依頼するメリット
被疑者として警察に呼び出された場合には,弁護士に依頼をすることが有益になりやすいです。具体的には,以下のようなメリットが生じます。
①逮捕を回避できる
呼び出しがなされた場合,そのまま逮捕されるというケースも否定できないところです。呼び出しに応じた流れで逮捕されると,その後に弁護士への相談や依頼をすることは困難となり,一定期間の身柄拘束を強いられてしまいます。
この点,呼び出された段階で弁護士に依頼し,弁護士を通じて適切な対応を取ることで,逮捕を回避できる場合があります。具体的に逮捕を回避するための手段は,ケースによっても異なりやすいため,弁護士と十分に相談するようにしましょう。
②不適切な取り調べを防げる
警察に呼び出された際の取り調べは,捜査担当者のやり方によっては違法・不適切なものになる場合もあり得ます。強く恫喝されたり,侮辱的な発言を受けたりと,取り調べがヒートアップするほど精神的苦痛を伴うケースが珍しくありません。
この点,弁護士に依頼をしている場合,捜査担当者による不適切な取り調べは多くの場合で防ぐことが可能です。これは,捜査担当者が,弁護士の目があることに配慮するためです。
不適切な取り調べを行えば,後から弁護士を通じて問題視される可能性があるため,不用意な取り調べは行えない,というわけです。
弁護士の目を光らせる意味でも,呼び出しに際して弁護士に依頼することは有力な手段でしょう。
③前科を防げる
被疑者として呼び出される場合,その後に起訴されて前科が付く可能性を想定する必要があります。被疑者として呼び出されるということは,自分に対して捜査が行われていることが明らかであるため,その先に控える処分に無関心でいるわけにはいきません。
この点,呼び出しという早期の段階で弁護士に依頼することで,適切な弁護活動を尽くしてもらい,前科を防げる可能性が高くなります。被害者のいる事件であれば被害者との示談を目指す,否認事件であれば自分が犯人でないことを主張するなど,個別のケースに応じた適切な弁護活動を通じて,前科を防ぐ試みができるのは大きなメリットになるでしょう。
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藤垣法律事務所代表弁護士。岐阜県高山市出身。東京大学卒業,東京大学法科大学院修了。2014年12月弁護士登録(67期)。全国展開する弁護士法人の支部長として刑事事件と交通事故分野を中心に多数の事件を取り扱った後,2024年7月に藤垣法律事務所を開業。弁護活動のスピードをこだわり多様なリーガルサービスを提供。