
このページでは,業務上横領事件で警察から呼び出された場合について,適切な対応方法などを弁護士が解説します。
業務上横領事件に関する呼び出しへの対応や今後の見込みを検討するときの参考にご活用ください。

目次
業務上横領事件で呼び出された場合の対応法
①既に被害者側と協議を行っている場合
業務上横領事件は,警察の捜査より前に当事者間で協議の機会が持たれている場合も多いのが特徴の一つです。そして,当事者間での協議の経過・結果は,警察の処理に大きな影響を及ぼしやすいため,警察にとっても重要な情報となります。
そのため,既に被害者側と協議を行っているケースで呼び出しを受けた場合には,警察側にも協議の状況や内容などを共有することが望ましいでしょう。警察は被害者とも連絡を取り合っているため,協議の経過を把握している可能性もありますが,特に被害者から情報共有がなければ,警察が何も知らない可能性も否定できません。
被害者側との協議が進んでいる,解決の見込みが立ちそうであるといった場合には,その旨を警察にも伝えてあげることが賢明でしょう。
ポイント
当事者間での協議の経過は,捜査の進行に影響する
協議に進展が見られる場合には,警察にも情報共有するのが有益
②被害者側と協議を行ったことがない場合
被害者と協議を行ったことがなく,突然警察から呼び出しを受けた事件である場合,まずは自分にどのような疑いが生じているのか,具体的な内容をできるだけ正確に把握することが望ましいです。
業務上横領事件の場合,対象事件がどのような内容か,という理解があいまいだと,事件の内容を勘違いしてしまう恐れも小さくありません。例えば,問題とされている行為(事件)の数が一つか複数か,横領の対象となる財産は何か,損害額はいくらか,といった点は,被害者側に十分な情報のない場合もあり,捜査機関が適切に把握しているとは限りません。
そのため,まずは呼び出しの原因となった事件を正しく把握し,その内容を踏まえて対応方針を検討するようにしましょう。
ただし,捜査機関にとっては秘匿性の高い捜査情報でもあり得るため,必ずしも全ての情報が得られるとは限りません。断片的な情報から推測しなければならない可能性もあり得るところです。
ポイント
呼び出された事件の正確な内容を把握する
捜査機関から必要な情報の全てが得られるとは限らない
③心当たりがない場合
心当たりのない業務上横領事件で呼び出された場合,今後の対応方針を検討する前提として,なぜ自分が呼び出されることになったのか,という点を把握できると有益です。
心当たりのない事件である場合,捜査機関が事件内容や犯人を特定する十分な証拠を持っていないことがうかがわれます。そして,不十分な証拠を埋め合わせるために,関係者を呼び出して話を聞こうとしていることが推測されるところです。
証拠が不十分である,という点が呼び出しにどのような影響を及ぼしているかは,ケースにより様々です。代表的な場合としては,人違いで疑われている,加害者の候補が複数いるため広く話を聞いている,といった可能性があり得るでしょう。
呼び出されることに至った経緯・原因は,その後の方針を決めるための重要な手掛かりになり得るため,できるだけ早期に確認できることが望ましいところです。
ポイント
なぜ自分が呼び出されることになったかを把握する
人違いのケース,加害者候補が多いケースなどがあり得る
④被害者との間で言い分に争いがある場合
被害者の言い分に基づいて呼び出しを受けたものの,被害者の主張と自分の記憶との間にズレがあり,言い分に争いのあるケースも考えられます。業務上横領事件の場合,被害者が事件の現場を目撃している可能性が非常に低く,被害者側で事件の全体像を把握することが困難であるため,主張にズレが生じやすい,という特徴が挙げられるでしょう。
言い分に争いがある場合には,それが犯罪の成立に関係する内容かどうか,という点を明確に理解することが第一歩です。犯罪の成否に影響する争点であれば,疑いに対して否認することとなりますし,犯罪の成否とは関係しない争点であれば,犯罪行為への反省と両立する形で主張する必要があるため,対応方針が大きく変わることになります。
言い分があるとしても,その位置付けを把握しないまま闇雲に主張することにメリットはあまりありません。法的な理解が必要になるため,できれば弁護士に相談等行うことをお勧めいたします。
ポイント
争点が犯罪の成立に影響する内容か,理解するのが第一歩
弁護士に相談等して正しく理解するのが望ましい
業務上横領事件の呼び出しに応じると逮捕されるか
業務上横領事件で呼び出しがなされた場合,呼び出しに応じた際に逮捕される,という流れはあまり見られません。逮捕するのであれば,呼び出しを挟む必要はないため,逮捕状が取得でき次第被疑者の自宅や職場に赴く方が通常でしょう。
もっとも,業務上横領事件の場合,一通りの捜査をして嫌疑が固まった段階で逮捕をする運用も一定数見られます。この点は,業務上横領事件の大きな特徴の一つと言えます。
そのため,呼び出されたからといって逮捕されないのだ,と高をくくってしまうことなく,慎重な対応を尽くすことが求められます。
ポイント
呼び出しに応じた際に逮捕される,という流れはあまり見られない
嫌疑が固まった段階で逮捕されることは一定数ある
業務上横領事件で警察が呼び出すタイミングや方法
①被害申告がなされた段階
業務上横領事件の場合,被害者からの被害申告が行われた段階で,まず呼び出して話を聞く,という流れになることが一定数あります。このような取り扱いになるのは,比較的証拠に乏しく,関係者の話を捜査の手掛かりにしようとしている場合が多いでしょう。
このような呼び出しは,比較的初期段階で行われやすく,被害申告の内容を確認してからそれほど期間を空けずに行われることが多く見られます。また,複数の関係者を呼び出した後,それぞれの供述を確認した段階で,整合しない点などを確認するため再度呼び出されることもあるでしょう。そのため,呼び出しが何度かなされる可能性にも留意することが望ましいです。
②被害者側から一通りの情報を得た段階
被害者側から被害申告があった場合,被害者側に一定の物的証拠があれば,まずその内容を確認する捜査から始まるのが通常です。そして,被害者側から一通りの証拠提出を受け,疑いの内容を確認した段階で,呼び出しへ移るケースは多数見られます。
これは,既に得た情報と呼び出した後の話の内容を照合する目的であることが一般的でしょう。
このような呼び出しの時期は,物的証拠の量や内容によっても大きく異なるため,目安を設けることが非常に困難です。ただ,あまりすぐに呼ばれることは多くないので,概ね被害申告の数か月後,といったスパンで考えておくとよいかもしれません。
③証拠の提出を求める際
業務上横領事件では,加害者側にのみ提出可能な証拠があるケースも少なくありません。そのため,捜査機関からは,捜査に必要な証拠の提出を求める目的で呼び出されることも一定数あります。
このような呼び出しは,取り調べが一通り行われた後であることが通常です。取調べの内容を踏まえて,必要と判断された証拠の提出を求める,という流れが一般的でしょう。
具体的なタイミングとしては,最後の呼び出しから1週間~1か月程度の時期が目安になり得るでしょう。取調べのタイミングで,証拠を持参する期日をあらかじめ決める場合も考えられます。
④押収物を還付する際
業務上横領事件は物的な証拠が比較的多く,捜査の終了後には還付(返却)しなければならないものも一定数あります。例えば,金銭の流れをたどるために預金通帳やキャッシュカードを押収することは少なくありませんが,これらは捜査の必要がなくなった段階で還付せざるを得ません。
押収物は,それ以上捜査をする必要がなくなった後に還付されるものです。そのため,押収物還付のための呼び出しは,捜査の最終盤であることが一般的です。場合によっては,検察での起訴不起訴の処分がはっきりした段階で還付の呼び出しを受ける可能性もあり得るでしょう。
業務上横領事件の呼び出しに応じたときの注意点
①件数や金額の認識が相違している可能性
捜査機関は,被害者側の主張を念頭に捜査を行うことになります。そのため,被害者側が事件の件数や被害金額を正しく把握できていなかった場合,捜査機関も同様に件数や金額の認識を誤っている可能性がある点に注意が必要です。
この場合,まずは自分の認識している事実関係を正しく捜査機関に伝え,捜査を尽くしてもらうことが適切な対応になるでしょう。自分から裏付けとなるものが提出できれば最善ですが,それができなくても問題はありません。
もし,捜査機関から言い分の根拠がなければ信用できない,と言われても気にする必要はありません。刑事事件の場合,捜査機関側が犯罪の立証をできるか,という点のみが問題であり,呼び出された方が何かを立証する義務を負うことはないためです。
②自発的に話すべき内容の範囲
業務上横領事件の場合,被害者側が把握しておらず,加害者側にしか分からないという情報も少なくありません。そのため,呼び出しに対して自発的に話す内容をどうすべきか,判断の難しいことも多い事件類型と言えます。
この点,自発的に話す内容の範囲を決める場合には,その内容以上に供述が一貫して前後矛盾がないことを重要視することをお勧めします。なぜなら,噓偽りなく話していることは,その話が真実であること,信用できることの重要な根拠とされやすいためです。
自発的に情報提供するのであれば,心から真実を話していていると評価してもらうべきです。そのため,話を一貫したものとすることを強くお勧めします。
具体的に述べる内容については,慎重な判断が必要となるため,弁護士と十分に協議の上,専門的な判断を仰ぐのが適切でしょう。
③返済と呼び出しの関係
業務上横領事件は,被害者に経済的な損失を生じさせるものであるため,その損失を埋め合わせるための返済が重要な動きになります。ただ,返済を行ったから呼び出しがなくなる,という関係にないことは,注意しておくのが適切です。
返済は,とても大きな意味を持つ事後的な努力であることに間違いありません。返済しているのとしていないのとでは,刑事処分が大きく変わることも多く,可能な限り返済を目指すのが望ましいところです。
もっとも,返済したという事実は,最終的な刑事処分に影響するものの,捜査を行うかどうかには直接影響するわけではありません。捜査を行った上で,返済したという事実も踏まえて処分を決める,という流れが一般的であるため,注意しましょう。
警察が呼び出す主な目的
警察から呼び出しを受ける場合,その目的には主に以下のようなケースが考えられます。
①参考人である場合
参考人とは,特定の事件について捜査の参考とすべき情報を持っているであろう人を言います。具体例としては,事件の目撃者や,被疑者の同僚・友人といった近しい人物,会社で犯罪が起きた場合の従業員などが挙げられます。
参考人の呼び出しは,犯罪捜査のために必要な情報を参考人から教えてもらうために行われるものです。参考人は捜査や処罰の対象となることが想定されていないため,逮捕をされたり前科が付いたりすることは通常ありません。
②身元引受人である場合
身元引受人とは,文字通り被疑者の身元を引き受ける人を言います。身柄を拘束しない事件(=在宅事件)の場合,捜査機関は被疑者の任意の出頭を求めることになりますが,出頭をより確かに見込めるように,適任者を警察署に呼び出し,身元引受人となることを求める取り扱いが広く行われています。
身元引受人は,同居家族(配偶者や親など)であることが一般的です。同居家族に適任者がいない場合は,勤務先の上司や被疑者の依頼した弁護士が身元引受人になることもあります。
身元引受人に対する呼び出しは,通常,被疑者の初回の取り調べが終了した後に行われます。捜査機関から身元引受人に電話連絡がなされ,被疑者を連れて帰ることと身元引受人になることが依頼される,という流れが一般的です。
身元引受人は,被疑者の監督者というのみの立場であるため,呼び出しに応じても逮捕されたり前科が付いたりすることはありません。また,呼び出しに応じなかったとしても特に問題が生じることはありません。
③被疑者である場合
被疑者とは,犯罪の嫌疑をかけられている者をいいます。ニュースなどでは「容疑者」と呼ばれますが,法律的には「被疑者」が正しい呼び方となります。
被疑者を呼び出す目的は,犯人候補として取調べを行うことに尽きます。犯罪の疑いを認めるかどうか,認める場合には具体的に何をしたか,などを確認し,記録化するために,被疑者を警察署へ呼び出します。
被疑者として呼び出される場合,事件の内容や状況によっては逮捕される可能性も否定できません。また,犯罪事実が明らかになれば,刑事処罰を受けて前科が付く可能性もあり得ます。
参考人 | 身元引受人 | 被疑者 | |
呼び出しの理由 | 事件の情報獲得 | 被疑者の出頭確保 | 犯人候補の取り調べ |
逮捕の可能性 | 通常なし | なし | あり |
前科の可能性 | 通常なし | なし | あり |
警察の呼び出しを拒むことは可能か
警察の呼び出しには強制力がありません。そのため,呼び出しを拒んだとしても法的にペナルティを科せられることはなく,その意味では呼び出しを拒むことはどのような場合でも可能,ということになるでしょう。
もっとも,立場によって呼び出しを拒むことにリスクや問題の生じる可能性はあり得ます。
①参考人の場合
参考人は,捜査への協力を依頼されている立場に過ぎないため,呼び出しに応じなかったとしてもリスクを抱えたり問題が生じたりすることは通常ありません。
ただし,「現在は参考人にとどまる取り扱いだが,犯罪への関与が疑われる可能性がある」という状況の場合には,呼び出しに応じないことのリスクが生じ得ます。呼び出しに対して積極的な協力や情報提供を尽くす場合に比べると,呼び出しを拒んで捜査協力を一切しない場合の方が,より強く犯罪の関与を疑われやすい傾向にあるためです。
そして,具体的な犯罪への関与を疑われた場合,今度は参考人でなく被疑者として,呼び出しを受けるなどの捜査が行われる可能性も否定はできません。
そのため,呼び出しを拒むことで犯罪への関与を疑われかねない場合には,拒むリスクが生じ得ると言えるでしょう。
②身元引受人の場合
身元引受人は,犯罪への関与が想定されていない立場の人物であるため,呼び出しを拒むことで犯罪の疑いをかけられるものではありません。
もっとも,同居している被疑者の身元引受人となるよう求められ,これを拒んだ場合,被疑者に不利益が生じる可能性は考えられます。身元引受人が拒んだから逮捕をする,ということはあまりありませんが,所在確認のために警察が自宅に訪れることは珍しくありません。そうすると,周囲の人々に警察と関わっている事実が分かってしまい,私生活に影響を及ぼす恐れがあり得ます。
被疑者が同居の家族であって今後も同居を予定している,という場合には,可能な限り身元引受人としての呼び出しに応じる方が無難なケースが多いでしょう。
③被疑者の場合
被疑者に対する呼び出しは,取り調べを行うための方法の一つとして行われるものです。この点,捜査機関が被疑者の取り調べを行う方法は,逮捕して強制的に行うか,呼び出しをして任意の出頭を求めるかの二択であることが通常です。
被疑者を取り調べる方法
1.逮捕をして強制的に行う
2.呼び出して任意の出頭を求める
この点,呼び出しても任意に出頭してくれないとなると,取り調べをするためには逮捕をするほかない,という判断になる可能性もあり得ます。二択のうち一方がダメであった以上,もう一方の方法が取られるのは自然なことであるためです。
そのため,被疑者として呼び出しを受けた場合,可能な限り応じることが適切になりやすいでしょう。もちろん,あまりに回数が多かったり,あまりに時間が長かったりという場合には,その点の配慮を求めることは全く問題ありませんが,呼び出しを徹頭徹尾拒む,というスタンスを取って被疑者自身が得をすることはあまりないと考えるのが適切です。
ポイント 呼び出しを拒む行動の注意点
参考人の場合,拒むことで事件への関与を疑われないように注意
身元引受人の場合,同居する被疑者への不利益に注意
被疑者の場合,拒んだことで逮捕を誘発する可能性に注意
呼び出された場合に弁護士へ依頼するメリット
被疑者として警察に呼び出された場合には,弁護士に依頼をすることが有益になりやすいです。具体的には,以下のようなメリットが生じます。
①逮捕を回避できる
呼び出しがなされた場合,そのまま逮捕されるというケースも否定できないところです。呼び出しに応じた流れで逮捕されると,その後に弁護士への相談や依頼をすることは困難となり,一定期間の身柄拘束を強いられてしまいます。
この点,呼び出された段階で弁護士に依頼し,弁護士を通じて適切な対応を取ることで,逮捕を回避できる場合があります。具体的に逮捕を回避するための手段は,ケースによっても異なりやすいため,弁護士と十分に相談するようにしましょう。
②不適切な取り調べを防げる
警察に呼び出された際の取り調べは,捜査担当者のやり方によっては違法・不適切なものになる場合もあり得ます。強く恫喝されたり,侮辱的な発言を受けたりと,取り調べがヒートアップするほど精神的苦痛を伴うケースが珍しくありません。
この点,弁護士に依頼をしている場合,捜査担当者による不適切な取り調べは多くの場合で防ぐことが可能です。これは,捜査担当者が,弁護士の目があることに配慮するためです。
不適切な取り調べを行えば,後から弁護士を通じて問題視される可能性があるため,不用意な取り調べは行えない,というわけです。
弁護士の目を光らせる意味でも,呼び出しに際して弁護士に依頼することは有力な手段でしょう。
③前科を防げる
被疑者として呼び出される場合,その後に起訴されて前科が付く可能性を想定する必要があります。被疑者として呼び出されるということは,自分に対して捜査が行われていることが明らかであるため,その先に控える処分に無関心でいるわけにはいきません。
この点,呼び出しという早期の段階で弁護士に依頼することで,適切な弁護活動を尽くしてもらい,前科を防げる可能性が高くなります。被害者のいる事件であれば被害者との示談を目指す,否認事件であれば自分が犯人でないことを主張するなど,個別のケースに応じた適切な弁護活動を通じて,前科を防ぐ試みができるのは大きなメリットになるでしょう。
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藤垣法律事務所代表弁護士。岐阜県高山市出身。東京大学卒業,東京大学法科大学院修了。2014年12月弁護士登録(67期)。全国展開する弁護士法人の支部長として刑事事件と交通事故分野を中心に多数の事件を取り扱った後,2024年7月に藤垣法律事務所を開業。弁護活動のスピードをこだわり多様なリーガルサービスを提供。