痴漢事件は自首すべき?メリットデメリットから自首の具体的方法まで弁護士が解説

このページでは,痴漢事件の自首に関して,自首をすべきかどうか,自首のメリット,自首を試みる際の具体的な方法などを弁護士が解説します。自首を検討する際の参考にしてみてください。

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痴漢事件で自首をするべき場合

①現行犯で問題になったケース

痴漢事件は,被害者に発覚しない可能性の考えにくい事件類型であるため,現行犯のタイミングで当事者間のトラブルになっている場合が少なくありません。そして,その事件直後のトラブルから逃れた後である,という場合は自首を検討する必要性が高いと考えられるでしょう。

痴漢事件で捜査されるのは,被害者から捜査機関に被害申告があった場合というのがほとんどです。現実的には,被害者が捜査を希望してアクションを起こせば捜査が始まり,そうでなければ捜査が始まらない,ということが大多数でしょう。
この点,現行犯のタイミングで当事者間のトラブルになっているケースでは,被害者側に声を上げる意思が見受けられるため,被害者が捜査を希望する可能性が高い傾向にあります。そうすると,やがて捜査が開始され,自分が被疑者として特定されることが強く懸念されます。

そのため,現行犯で問題になった痴漢事件では,自首をすることでより大きな不利益を避ける動きが有益になると言えるでしょう。

ポイント
痴漢事件が捜査されるかは被害者の動きによる
現行犯で当事者間のトラブルになった痴漢事件は捜査されやすい

②自分が犯人と特定される見込みがある

痴漢事件の場合,突発的な出来事でもあることから,犯罪や犯人を立証するための証拠が多数残っているということはあまりありません。一般的に想定される証拠としては,以下のようなものが挙げられるでしょう。

痴漢事件の一般的な証拠

・被害者
・目撃者
・現場付近の映像・画像
・駅の入退場記録
・類似事件(余罪)の証拠

この点,一般的に想定される証拠を踏まえて,自分が犯人と特定されることが見込まれる場合は,自首の検討が適切になりやすいでしょう。
例えば,明らかに防犯映像が記録されている場所で事件や事件直後のトラブルが起きた場合,目撃者に面識のある人物が含まれていた場合などは,犯人=自分と結びつく十分なきっかけがあるため,特定される見込みがあるケースということができます。

自分が犯人と特定され,捜査を受けた後では,もはや自首はできず自首のメリットを得ることもできなくなってしまうため,極力早期に自首の検討を行うことが一案です。

ポイント
犯人の特定に至りやすい証拠があるケースでは,自首の検討が有力

③否認事件で自首すべきか

否認事件ではあるものの,自分が疑われている状況にあるため,捜査を受けるより前に自分から自首をする,という動きは考えられるでしょうか。

結論的には,否認事件で自首をするメリットがない,と考えるのが適切でしょう。自首はあくまで自分の犯罪行為を捜査機関に告げる意味合いの行動であるため,否認事件にはなじみません。

もっとも,否認事件ながら自分が疑われているという場合に,先回りをして警察に問い合わせたり相談したりすることはあってよいでしょう。現実にどのような取り扱いを受けられるかは警察の対応にもよりますが,ケースによってはむしろ被害者として警察に捜査を依頼する余地もあるかもしれません。

ポイント
否認事件での自首は不適切

自首とは

自首とは,罪を犯した者が,捜査機関に対してその罪を自ら申告し,自身に対する処分を求めることをいいます。自分の犯罪行為を自発的に捜査機関へ申告することが必要とされます。

また,自首が成立するためには,犯罪事実や犯人が捜査機関に発覚する前でなければなりません。これは,犯罪事実自体が発覚していない場合のほか,犯罪事実は発覚しているものの犯人が特定できていない場合も含まれます。つまり,犯罪事実か犯人のどちらかが発覚していなければ,自首が成立するということになります。

ポイント 自首の意味
自分の犯罪行為を自発的に捜査機関へ申告し,自分への処分を求めること
犯罪事実又は犯人が特定できていない段階であることが必要

自首のメリット

①刑罰の減軽事由に当たる

自首は,刑法で定められているものですが,その定めは「罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは,その刑を減軽することができる。」という内容です。つまり,自首が成立した場合の直接の効果は「刑を減軽できる」ということになります。

刑罰が減軽される場合,基本的には言い渡される刑罰の上限が2分の1になります。そのため,自首によって刑罰が減軽されると,自首がなかった場合に比べて最大でも半分の刑罰までしか科せられません。

なお,「刑を減軽することができる」という定めは,任意的減軽と呼ばれます。これは,減軽することも減軽しないこともできる,というもので,自首したから必ず減軽の対象になるわけではありません。この点の最終的な判断は裁判所に委ねられますが,自首が刑罰の重みに大きく影響することは間違いありません。

ポイント
自首は刑の任意的減軽事由

②逮捕が回避できる可能性が高まる

被疑者が自首をした事件では,その被疑者を逮捕する可能性が非常に低くなることが一般的です。それは,逮捕の必要性が大きく低下するためです。

逮捕の要件には,「逮捕の理由」と「逮捕の必要性」があるとされています。

逮捕の要件

1.罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由
→犯罪の疑いが十分にあることを言います。「逮捕の理由」とも言われます。

2.逃亡の恐れ又は罪証隠滅の恐れ
→逮捕しなければ逃亡や証拠隠滅が懸念される場合を指します。「逮捕の必要性」ともいわれます。

この点,自首をする人物は,自分の犯罪事実を自発的に捜査機関へ告げ,その事件に関する刑事処分を受けるきっかけを自ら作っています。そのため,自分から捜査や処分を求めている人が逃亡や証拠隠滅をすることは考えにくいと言わざるを得ません。
そうすると,自首がなされた事件は,類型的に逃亡や罪証隠滅の恐れ(逮捕の必要性)が低いため,逮捕を回避できる可能性が高くなるのです。

逮捕の回避は,自首を試みる場合の大きな目的の一つと言えます。自分から捜査機関に犯罪を打ち明ける対価として,逮捕を避けてほしいと申し出る試みである,ということもできるでしょう。
ただし,必ず逮捕が防げるというわけではありません。自首をしたとしても逮捕せざるを得ないような重大事件であれば,自首は刑罰の軽減を目指して行うべきことになるでしょう。

ポイント
自首したケースは逮捕の必要性が低いと判断されやすい

③示談の可能性が高まる

被害者のいる事件の場合,自首をした被疑者自身が加害者であることが明らかです。そのため,被疑者ががさらに処分の軽減を図ろうとする場合,示談の試みが非常に大切となります。なぜなら,被疑者の刑事処分は,被害者の意向を可能な限り反映したものになるためです。
示談によって被害者の許しが得られた場合,許したという被害者の意向を反映して刑事処分を軽減することがほとんどでしょう。事件によっては,被害者が加害者の刑罰を希望しない,という意向を表明すれば,事実上不起訴が見込まれると言えるケースも少なくありません。
それだけ,示談の成否は刑事処分を決定的に左右し得るものです。

この点,被害者としては,加害者が自首をしたのか,警察に特定されて捕まったのかによって,示談を受け入れる気持ちが生じるかどうかに大きな違いが生じます。自首した場合の方が,被害者が示談を受け入れる気持ちになりやすいことは明らかです。
そのため,自首という行動は,その後の示談が成立する可能性を高めるという大きなメリットももたらすものと言えます。

ポイント
自首した場合の方が,被害者に示談を受け入れられる可能性が高くなる

④不起訴の可能性が高まる

自首した場合,刑の任意的減軽事由となりますが,これは刑罰を受けることを前提としたお話です。受ける刑罰が半減する可能性がある,というわけですね。

この点,自首が処分を軽減させるのは,決して刑罰が科せられる場合のみではありません。そもそも刑罰を科すかどうか,つまり起訴するか不起訴にするか,という局面でも,自首は処分を軽減させる事情として考慮されます。それは,自首をすることで刑事責任を軽くすべき,という考え方がこの局面にも当てはまるためです。

事件によっては,自首の有無で起訴不起訴が分かれるケースもあり得ます。自首以外に不起訴の判断を促せる事情がなかったとしても,自首を考慮して不起訴になる場合があり得るのは,自首の大きなメリットでしょう。

ポイント
自首を理由に不起訴処分が得られる場合もある

自首の方法と流れ

自首を円滑に,効果的に行うためには,適切な手順を踏んで自首することが望ましいところです。適切な自首ができれば,自首のメリットがより早期に,明確に得られるでしょう。

①自首の方法1.警察への連絡

自首は,警察署に直接出頭して行うこともできますが,事前に警察署に電話連絡をすることがより適切でしょう。事前連絡なく出頭した場合,警察側に自首を受け入れる体制や準備がなく,かえって手続が煩雑になってしまう可能性があります。

連絡先=自首をする先の警察署としては,事件の発生場所を管轄する警察とすることが最も円滑になりやすいです。ただ,自分の生活圏と事件の発生場所が遠く離れている場合は,自分の住居地の最寄りの警察署でもよいでしょう。

自首先の警察署

1.事件の発生場所を管轄する警察署
2.自分の住居地を管轄する警察署

また,連絡先は,自首をする事件分野を取り扱う担当課,担当係に行うことが望ましいです。事件を取り遣う部署は事件類型ごとに異なりますが,一般的には以下のような区別が可能です。

事件を取り扱う部署の例

暴行・傷害
→刑事課 強行犯係

詐欺・横領
→刑事課 知能犯係

窃盗
→刑事課 盗犯係

痴漢・盗撮
→生活安全課

児童買春・児童ポルノ
→生活安全課(少年係)

警察に連絡をした際は,事件を取り扱う係に電話を回してもらい,担当部署の電話応対者に自首を希望する旨とその内容を伝えるとスムーズになりやすいです。

なお,事件の概要や自首を希望するに至った経緯などを伝える可能性が高いため,整理して伝えられるよう,事前にメモを作成するなどして伝えたいことをまとめるのが望ましいでしょう。

②自首の方法2.警察への出頭

予定した日時に警察へ出頭します。
出頭した際にまずどこへ行き,どのようにして担当者に話を通してもらうかは,事前連絡の時点で確認しておくことが望ましいでしょう。

出頭後は,警察所で話を聞かれることが想定されます。どの程度の時間,どのような手続を行うことになるのかは事前の想定が困難であるため,当日の予定は終日空けておくことが適切です。

警察の受付から担当者につないでもらうと,担当課の取調室などへ案内されることが一般的です。

③自首後の流れ1.取り調べの実施

自首後は,まず事件の内容や流れについて取調べを受けることになります。自首をより円滑に進めるため,事前の準備に沿って事件の内容をできるだけ詳細に話すようにしましょう。
取調べの内容としては,以下のような事項が想定されます。

自首後の取調べ内容

1.事件の日時・場所
2.事件の具体的な内容
3.事件が発生した理由
4.自首を試みた経緯・理由
5.身上経歴

自首は,自分の犯罪行為を申告して処分を求めるものであるため,対象となる犯罪の内容については,何かを包み隠していると疑われないよう真摯な供述に努めることが有益です。また,反省・後悔の意思や,被害者に対する謝罪の意思が十分に伝わるような対応が尽くせれば,より望ましい内容になるということができるでしょう。

ポイント
自首を受けた警察で取調べが行われる
真摯な供述を心掛け,反省や謝罪の意思が伝わることを目指す

④自首後の流れ2.自首の受理

警察では,取調べで自首をした人から一通りの話を聞いた後,「自首調書」を作成します。
内容や形式は一般的な供述調書と大きく異なりませんが,自首を受理したことを明らかにするため自首調書を作成するものとされています。

自首調書には,事件の概要,本人の身上経歴,自首をした理由や経緯などが記載されます。

ポイント
自首を受け付けた警察では「自首調書」が作成される

⑤自首後の流れ3.逮捕の判断

自首を受けた警察では,取調べの内容等を踏まえ,その被疑者を逮捕するかどうか判断することになります。自首した事件では,被疑者を逮捕する必要は大きく低下すると理解されるのが通常ですが,それでも逮捕の可能性が否定できるわけではありません。

逮捕をするかどうかは,逃亡の恐れや罪証隠滅の恐れを主な基準に判断されますが,自首をしているケースでは自首後に逃亡することは想定されづらいと言えます。そのため,罪証隠滅の恐れがどの程度あるか,という基準が重視されやすいでしょう。
そして,自首を通じて罪証隠滅の恐れがないと判断してもらうためには,以下のような対応方法が考えられます。

逮捕を防ぐための自首の方法

1.時系列に沿った詳細な供述に努める
→隠し事なく供述していると評価してもらえれば,その上で証拠隠滅する恐れがあるとは判断されづらい

2.証拠の持参
→事件の内容に応じて想定される物的証拠を積極的に持参することで,罪証隠滅の余地がないと判断してもらいやすい

自首のやり方によって逮捕されるかどうかに差が生じる可能性もあるため,自首に際しては罪証隠滅の恐れがないと理解してもらうことをできる限り目指すようにしましょう。

ポイント
逮捕の有無は,罪証隠滅の恐れの有無によって判断されやすい

痴漢事件の自首は弁護士に依頼すべきか

痴漢事件の自首は,弁護士への依頼が有益なケースということができるでしょう。具体的には以下のようなメリットが挙げられます。

①逮捕回避の可能性が高まる

自首の基本的な目的は逮捕の回避ですが,同じ自首を試みたとしても,やり方が異なれば逮捕回避の効果がどれだけ期待できるかも変わってきます。
弁護士に依頼することで,逮捕回避によりつながりやすい適切な方法での自首が可能になり,逮捕を回避できる可能性が高くなるでしょう。

②自首をすべき状況かが分かる

自分の中では自首をするべきだと思っていたとしても,客観的には自首が得策とは言い難いケースがあります。当事者の立場にいると,どうしても偏った見方にならざるを得ない上,専門的な知識や経験に基づく判断は困難であるためです。
特に,痴漢事件では,客観的証拠があまり多くならないため,現行犯以外での捜査は容易でなく,事件を客観的に見ると自首を要する状況とは言えない,という場合が少なくありません。

そのため,痴漢事件の自首を検討する場合は,まず刑事事件の知識や経験ある弁護士に相談することで,自首をすべき状況かどうかを確認するのが有力です。弁護士の見通しを踏まえ,本当に自首すべき状況かどうかを知った上で,自首を検討することが可能になるでしょう。

③自首後の弁護活動が迅速にできる

刑事事件は,自首をして終わりではありません。むしろ,自首は捜査のスタートラインであって,自首の内容を踏まえて捜査が開始されることになります。そうすると,自首を行うときには,自首をした後に始まる捜査や,その後の最終的な処分のことも考えておかなければなりません。

この点,弁護士に依頼をすることで,自首の後迅速に弁護活動を始めてもらうことが可能になります。痴漢事件では,被害者との示談が非常に重要ですが,自首とともに示談の試みを開始することで,示談交渉という大切な弁護活動へとスムーズに移ることができます。
また,自首をすることで被害者の感情が和らげば,示談の成功率も高くなるため,自首のメリットがより大きくなっていくことになるでしょう。

痴漢事件で自首をする場合の注意点

①自首をする余地がない可能性

痴漢事件は現行犯で問題になることが一般的であり,痴漢事件における逮捕の多くは現行犯逮捕です。

この点,自首は犯罪や犯人が特定できていない段階でしか行うことができないため,現行犯で事件が問題になっている場合,犯罪も犯人も明らかであって自首をする余地が残っていない,というケースがあり得ます。

自首は,その性質上,自分に対する捜査が始まる前にしかできない動きであるため,現行犯での取り締まりが多い痴漢事件では行う余地のない可能性があることに注意しておきましょう。

②捜査を誘発してしまう可能性

自首は,自発的に自らの犯罪を申告する行為であるため,捜査機関が全く犯罪事実を知らなかった場合,自首によって捜査を誘発してしまう恐れがあります。自首をしなければ捜査が開始されることはなかったにもかかわらず,自首をしたがために捜査を受けることになってしまう,という場合があるのです。

痴漢事件での自首は,「被害者が捜査機関に被害申告すると思う」という想定で行う場合が多くなりますが,実際に被害者が動いているかを事前に知る手段は基本的にありません。そのため,被害者が動いているという想定が思い込みであった場合の自首は,自分で自分への捜査を引き起こす結果になる可能性に注意が必要でしょう。

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