このページでは,商標法違反事件の示談についてお悩みの方へ,弁護士が徹底解説します。
示談の方法,内容に加え,当事務所で弁護活動を行う場合の費用も紹介していますので,示談を弁護士に依頼するときの参考にしてみてください。
【このページで分かること】
商標法違反事件の処分は示談で変わるか
商標法違反事件における示談相手は
商標法違反事件で示談をする方法
商標法違反事件の示談金相場
商標法違反事件の示談内容・条項
商標法違反事件の示談で注意すべきこと
商標法違反事件の示談に必要な費用
目次
商標法違反事件の処分は示談で変わるか
商標法違反の事件は,示談が成立することで処分が大きく変わり得る類型ということができます。
そもそも,商標法違反とされる事件は,他人の「商標」に関する権利を侵害するものです。商標とは,主に企業ロゴを指しますが,ブランドイメージの築かれた企業ロゴを勝手に用いてそのブランド力に便乗するような行為が,商標法違反として禁じられています。具体的には,以下のような行為が挙げられます。
商標法違反となる具体的な行為
偽造品の作成・販売 | 企業ロゴを模倣したニセ物を作成・販売する行為 |
類似商標の使用 | 他の商標に似せて作成した商標を使用する行為 |
同一商標の無断使用 | 商標権者の許諾を得ることなく、その商標を使用する行為 |
これらは,商標が持つブランドイメージやブランド力を,第三者が自分の利益とするために勝手に用いるため,商標権を持つ企業などの利益が侵害されてしまう違法行為として罰則の対象となります。
そうすると,商標権を侵害された企業自身が,示談によって商標法違反となる行為を許す場合には,商標権侵害となる行為を処罰する可能性は大きく低下するため,刑事処分の結果に多大な影響を及ぼすことが通常です。
商標法違反で処分の軽減を目指したい場合は,まず示談の検討をすることをお勧めします。
商標法違反事件における示談相手は
商標法違反の事件では,示談を試みることが重要となりますが,誰を相手に示談を試みるかは個別具体的な検討が必要となる問題です。
①商標権者(企業)を相手とする示談
商標法違反は,商標権を持つ企業の権利(商標への信用や財産的価値)を侵害する行為であるため,その企業を相手に示談をするのが最も直接的です。商標権者が商法法違反となる行為を許した場合には,刑事処分は劇的に軽減することがほとんどでしょう。
もっとも,商標権者である企業との示談には,大きな問題が生じやすいところです。それは,企業側の方針として,示談への対応を一律で断っている場合が非常に多い,という点です。
商標権者の立場からすると,商標権侵害について示談に応じるメリットはあまりありません。強いて言えば示談金の受領による経済的な利益が挙げられますが,個人が支払う程度の若干の金銭がブランド力ある商標の権利者にとって大きな利益となることは考えにくいでしょう。特に,商標権侵害の対象となる企業は,規模の大きい著名な企業であることが多いため,その傾向は更に顕著となります。
そのため,企業にとって一つ一つの示談に対処することは損失が大きく,キリがないため,加害者からの示談の申し出を一律で断り,対応の負担を削減していることが大多数なのです。
そうすると,商標法違反で捜査をされている場合,商標権者との直接の示談は,現実的には困難であると考える方が適切でしょう。もちろん,個別の示談に応じてもらえる場合には,可能な限りの示談交渉を尽くすべきところですが,商標権者との示談ありきで考えるのは合理的とは言い難いところです。
②対象商品の購入者を相手とする示談
商標法違反の場合,対象商品の購入者との間で示談を行うことで,処分の軽減を目指すことが考えられます。購入者は,当然ながら商標権者ではないため,商標法違反行為によって商標に関する権利を侵害されているわけではありませんが,刑事処分を検討するにあたっては無視できない存在となります。なぜなら,商標法違反が刑罰によって守ろうとしているのは,商標権者の利益だけではないからです。
商標法違反が保護している利益としては,以下の各点が挙げられます。
商標法違反が保護する利益
1.商標に対する信用や財産的価値
2.商品流通の秩序や,商品を手にする消費者・事業者の利益
商標権侵害によって利益を損なうのは,直接的には商標権者ですが,それだけではありません。その商品が転々流通してしまうと,正規の商標がある商品と誤解して手にした消費者や事業者も,同様に利益を害されてしまいます。
そのため,偽造品などを購入させられた消費者や事業者も,間接的ながら被害を受けている立場にあると言えます。
そうすると,対象商品の購入者も被害者と位置付けられることから,購入者との示談が有力な方法になるのです。
また,対象商品の購入者は,以下のような理由から,商標権者に比べて示談交渉ができる可能性は高いと考えられます。
購入者と示談交渉できる可能性が高い理由
1.特定できている場合が多い
→警察への通報など,捜査のきっかけに関与していることが多い
2.個人又は個人事業者である場合が多い
→商標権者である企業と比べて一律拒否の可能性が低い
3.経済的損害を回復する必要が大きい
→商品の購入によって金銭を失っているため,具体的損害がある
商標法違反の事件においては,商品の購入者との示談によって,できる限り処分の軽減を目指すことが有力な手段でしょう。
ポイント 示談相手
1.商標権者
→直接の被害者
→ただ,一律拒否していることが多く,現実的でない
2.商品の購入者
→間接的な被害者
→示談の可能性があり,示談に処分軽減の効果もある
商標法違反事件で示談をする方法
商標法違反事件における示談は,捜査機関に対して示談を申し入れる方法により行うことが適切です。いきなり被害者側と直接の連絡を取るのではなく,捜査機関の担当者から被害者側に問い合わせてもらい,示談の意向を確認してもらう,という流れを取ることが一般的です。
事件類型的に,加害者が被害者の個人情報を把握している場合が少ないこともあり,被害者の連絡先を獲得するための試みとしても必要な動きになります。
もっとも,捜査機関は,加害者自身に被害者側の連絡先を伝えることは通常しません。そのため,加害者自身が示談を申し入れてきても,被害者との間を取り持つことはしないのが一般的です。
示談の申し入れを行いたい場合は,自分で直接行うのではなく,弁護士に依頼し,弁護士を窓口にして進めることが適切となります。被害者との連絡先の交換も,弁護士限りという形を取ることを約束すれば,捜査機関に間を取り持ってもらうことが可能です。
示談交渉の流れ
1.弁護士が捜査機関に示談したい旨を申し入れる
2.捜査機関が被害者に連絡を取り,示談に関する意思確認をする
3.被害者が捜査機関に返答をする
4.被害者が了承すれば,捜査機関を介して連絡先を交換する
5.弁護士が被害者に連絡を取り,交渉を開始する
商標法違反事件の示談金相場
①商標権者(企業)との示談
商標権者との間では,示談のできることが基本的にありません。そのため,示談金の金額を話し合う,ということもあまりないことが通常です。
この点,金銭の支払いが生じる場合としては,以下のようなケースが挙げられます。
商標権者に金銭を支払う場合
1.金銭の請求を受けた場合
2.加害者側が一方的に金銭を支払う場合
このうち,「1.金銭の請求を受けた場合」は,商標権者が自身に生じた損害を計算し,賠償するよう求めてきたケースとなります。このような請求は,内容の不合理である場合が少なく,金銭を支払う数少ないチャンスでもあるので,可能な限り請求額に沿って応じるのが適切でしょう。
また,「2.加害者側が一方的に金銭を支払う場合」は,商標権者に対応を拒まれたものの,加害者が商標権者の了承なく支払ったという形を取るケースを指します。具体的には,一定の金額を「供託」という方法で法務局に預けることで,商標権者が受領しようと思えばできる状態を作るものです。
供託する場合の金額は,商標権者に生じたであろう損害となりますが,基本的には商標権侵害によって得られた利益を基準とするのが有効でしょう。
ただし,商標権者の意思とは無関係に行うものであるため,処分に具体的な影響がない場合も否定できません。実際に検討する場合には弁護士との十分な相談が適切でしょう。
ポイント
請求を受けた場合は請求額に沿って支払う
一方的に支払う場合は,得られた利益を基準に供託
②商品の購入者との示談
商標法違反事件について,商品の購入者との間で示談を行う場合,その示談金額は商品の価格を基準とすることが一般的です。購入者には,商品の価格を支払わされたという損害が発生しているため,その損害を埋め合わせることがまず必要になるためです。
ただ,購入者に商品相当額を支払うことは加害者側の義務というべきものでもあるため,示談とするには,迷惑料や慰謝料といった名目の金銭を上乗せして支払うことが現実的でしょう。そして,上乗せする金額の目安としては,10~30万円ほどという場合が多く見られるところです。
個別のケースでは,以下のような事情を考慮することが考えられます。
示談金に関する主な考慮事情
1.商品や商標の具体的内容
2.販売時のやり取りの内容
3.購入者側に生じた損害の内容・程度
4.購入者側の感情面
商標法違反事件の示談内容・条項
①一般的な示談条項
【確認条項】
加害者の被害者に対する支払金額を確認する条項です。
【給付条項】
確認条項に記載した金銭の支払をどのように行うのかを定める条項です。
【清算条項】
示談で定めた条項以外には,当事者間に権利義務の関係がないことを定める条項です。清算条項を取り交わせば,その後に相手から金銭を追加請求される可能性は法的になくなります。
もっとも,商標権者との関係では,清算条項の取り交わしに応じてもらえる場合はあまり多くありません。商標権者の立場からすると,損害のすべてを把握できているとは限らない状況で,「加害者にこれ以上請求しない」という約束をするメリットがないためです。
一方,対象商品が明らかな購入者との間では,確実に清算条項を設けることが適切でしょう。
【宥恕条項】
宥恕(ゆうじょ)条項とは,被害者が加害者を許す,という意味の条項です。
示談が刑事処分に有利な影響を及ぼすのは,基本的にこの宥恕条項があるためです。被害者が加害者を許している,という事実が,刑事処分を劇的に軽減させる要素となります。
ただし,商標権者が宥恕条項に応じることはあまりありません。加害者を許す,という対応は一律拒否していることが多いためです。
一方,購入者との間で示談する場合には,確実に宥恕条項を設けたいところです。購入者への積極的な金銭賠償は,宥恕獲得のためと言っても過言ではないでしょう。
②商標法違反事件で問題となる条項
【販売行為の禁止】
今後の商標権侵害を防ぐため,加害者による販売行為を禁止する条項を設けるかどうか,問題になる場合があります。
今後の販売禁止は,商標権者や商品の購入者にとっては望ましいところですが,加害者にとっては生活に関わる可能性もあるため,個別の検討を要するでしょう。
特に,通常は多数の商品の販売業を営んでおり,今回は一部の商品だけが商標権侵害の問題になった,という場合,他の商品の販売も広く禁止する条項を設けてしまうのは,加害者側の経済活動に対する制限が大きくなり過ぎる危険もあります。
実際の示談交渉で問題となった場合には,経済活動への過大な支障を防ぎながら被害者側とのバランスを保つ交渉が必要になるため,弁護士と十分に方針を協議しましょう。
商標法違反事件の示談で注意すべきこと
①示談が成立しても不起訴とは限らない
商標法違反の示談は,主に商品の購入者との間で行いますが,商品の購入者との間で示談が成立したとしても,直ちに不起訴になるとは限りません。商品の購入者は,商標権者でなくあくまで間接的に損害を受けた立場にとどまるため,購入者の宥恕がすべての解決につながるとは言えないためです。
示談の試みに際しては,不起訴の可能性をできる限り高めるチャレンジの一環として,購入者との示談を試みるという発想が合理的しょう。
②購入者が特定できない場合
捜査のきっかけによっては,購入者が特定できず,現実的に示談が困難な場合も少なくありません。
例えば,インターネット上の販売ページを閲覧した第三者が通報したような場合や,捜査機関のサイバーパトロールで発覚したような場合だと,購入者がいるかどうか,購入者がいた場合に誰か,ということは分かりません。そのため,示談を試みようと思っても困難である可能性があり得ます。
購入者との示談が可能であるのは,購入者が商品を確認して犯罪が発覚した,という場合に限られることに注意が必要でしょう。裏を返せば,購入者との示談が可能であるという状況は,商標法違反の事件の中でも対応手段のある恵まれた状況ということができるかもしれません。
③余罪が多数ある場合
特に事業として多数の販売行為をしている場合,商標法違反の余罪が多数あるケースもあり得ます。そのようなケースでは,特定の事件で購入者と示談が成立しても,他の事件との関係では処分の軽減につながらない点に注意が必要です。
示談相手が商品の購入者である場合,示談が処分に影響するのは,その商品に関してのみであるため,全体として不起訴になるためには,すべての商品の購入者と示談を行う必要があります。もっとも,そのような示談は現実的でない場合も少なくないため,実際の対応方針は弁護士との綿密なご相談を強くお勧めします。
商標法違反事件の示談に必要な費用
藤垣法律事務所で商標法違反事件の弁護活動を行う場合,必要な費用のモデルケースとしては以下の内容が挙げられます。
①活動開始時
着手金 | 33万円 |
実費相当額 | 1万円 |
合計 | 34万円 |
一般的な在宅事件では,34万円のお預かりにて活動の開始が可能です。
②弁護活動の成果発生時
不起訴処分 | 33万円 |
示談成立 | 22万円(※) |
出張日当・実費 | 実額 |
活動の成果が生じた場合に限り,55万円(実費日当を除く)の費用が発生します。
③示談金
商標法違反事件の場合,購入者との関係では10~30万円の示談金が目安として想定されます。
④合計額
上記①~③の合計額が必要な費用負担となります。
目安となる費用総額(30万円で示談成立+不起訴の場合)
弁護士費用:34万円+55万円=89万円
示談金:30万円
計:119万円
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