このページでは,実際に犯罪被害者が加害者からの金銭賠償獲得に成功した解決事例を紹介します。
(プライバシー保護のため,結論に影響しない範囲で一部実際の内容と異なる場合があります)
【このページで分かること】
・実際に犯罪被害者が加害者から賠償を受領した事件の内容
・犯罪被害者への金銭賠償に至るための問題点と対応
・弁護士による金銭賠償獲得のポイント
今回は,結婚相談所の紹介で知り合った加害者との間で,第三者との不貞行為を秘密にする代わりに性行為を強要された事件を紹介します。
目次
事案の概要
被害者は成人女性,加害者は成人男性。
被害者は,結婚相談所で加害者と知り合った。もっとも,被害者には,当時交際中の男性のほか,勤務先の既婚男性との間に不貞関係があった。
加害者は,知り合った当初から被害者に交際相手や不貞相手がいることを知っており(知った経緯は不明),会うなり被害者の不貞行為を秘密にする対価として自分と性行為をするよう求めてきた。被害者が了承しないでいると,不貞関係を被害者の家族や不貞相手の配偶者に伝えるなどと脅迫してきた。
被害者は,渋々加害者の要求に応じることとし,両者の肉体関係は1か月程度に渡った。
その後,被害者は加害者との関係に耐えられなくなり,本件を警察に相談した。警察は,両当事者から事情を聞くなどした結果,加害者の身柄拘束をせずいわゆる在宅捜査を行う方針とした。
警察への相談後,被害者には加害者代理人弁護士を名乗る男性から連絡があった。弁護士からは,示談をしたいとの話であった。
具体的には,同弁護士から,加害者が被害者に30万円を支払うという内容の提案がなされた。また,加害者は翌週に警察での取り調べを控えており,取調べに応じる負担を避けたいため,翌週までに示談を成立させたいとの話があった。
弁護士からの提示を受けた後,被害者が法律相談の上,当職に金銭請求を依頼した。
問題点
①成立する犯罪
加害者は,被害者に対して,脅迫を用いて性行為を強要しているので,本稿執筆時の法律では不同意性交等罪に該当することが見込まれます(なお,当時は刑法改正前のため不同意性交等罪はありませんでした)。
②金銭賠償を獲得する際の問題点
【脅迫行為の客観的証拠に乏しいこと】
本件は,客観的に明らかな出来事だけを並べると,結婚相談所で知り合った男女が継続的に性行為をした,というのみと評価される可能性もありました。つまり,被害者が犯罪被害を受けたと言えるのは,加害者から被害者に対して脅しというべき言動があったからにほかなりませんが,肝心の脅迫行為については客観的な証拠がない状況でした。
しかも,脅迫行為は被害者の弱みを握って行うという悪質なものであり,悪質な脅しによる性行為の継続的な強要であれば,被害者の損害は非常に大きいと考えられます。一方,脅しがなければ単なる男女間の性行為になりかねないため,脅迫行為の存在を前提とできるかどうかは,金銭賠償を獲得するための非常に大きな問題点でした。
【既に在宅捜査が進んでいること】
本件では,既に被害者が警察に事件を相談し,加害者に対する取調べが実施されているという点に特徴がありました。加えて,警察は身柄拘束をしないで在宅捜査で進める方針を表明しており,簡単に言えば警察のやる気があまり感じられない状況でもありました。
このような状況では,加害者が逮捕や刑罰のリスクを低く見積もってしまい,積極的に示談金を支払うモチベーションが低下してしまう可能性が懸念されました。
【非常に低額の金額提示がされていること】
本件においては,被害者が当職に依頼をする前に,加害者の代理人弁護士から30万円の示談金が提示されていましたが,被害者の言い分を前提にするとあまりに低額な金額提示と言わざるを得ないものでした。被害者の弱みを握り,断れない状況に追い込んで何度も性行為を強要した事件であれば,30万円で示談ができると考えることは通常ないと言ってよいでしょう。
また,加害者代理人弁護士は,早期に示談を成立させたいとかなり強気の姿勢を示しています。取調べの負担を免れるために早く示談をしたい,というのは加害者側の都合でしかなく,これを被害者に伝えれば被害者側の感情面には悪影響しかないことが明らかです。加害者代理人がなぜ強気の金額提示や示談を催促する発言をしているのか,図りかねる状況でした。
問題点の解決方法
①【脅迫行為の客観的証拠に乏しいこと】
本件の最大の懸念点は,脅迫行為の有無が争点になった場合に立証が困難である,ということでした。加害者による脅迫行為は口頭でのみ行われており,裏付けになるものがなかったためです。
そのため,加害者が被害者の不貞関係を脅迫の材料にして性行為を求めた,という点は,当事者間で争いのない事実とすることが重要な状況でした。
そこで,こちらが受任した後,加害者代理人弁護士に対して,最初に事実関係の確認を行うことを求めました。具体的には,「被害者の話や客観的証拠からこちらが確認している事実と,加害者の述べる内容が一致すれば,示談を検討する余地がある。一致しないのであれば,被害者は加害者を許すことができないので,刑罰を希望する」という旨の回答を行うことにしました。
加害者側が示談を希望していることは明らかであったため,示談の前提として被害者と言い分が一致する必要があると分かれば,脅迫行為を認める可能性が高いと想定しての動きでした。
その結果,加害者から,代理人弁護士を通じて「被害者の不貞行為を周囲に知らせないことの対価として性行為を求めた」という事実が表明され,その内容を加害者代理人名義の書面に残すことができました。加害者自身が脅迫行為を認めている証拠がある,という点は極めて重要であり,強気な金銭請求が可能な状態を作り出すことに成功したと言えるでしょう。
ポイント
脅迫行為の有無が争点になることを避けるのが適切なケースであった
加害者が脅迫行為を自認するよう促す交渉により,加害者が認めたという証拠を確保した
②【既に在宅捜査が進んでいること】
犯罪被害の示談交渉では,示談すれば捜査を受けなくて済む,という点を加害者の重要なメリットとすることが一般的です。加害者としては,捜査の対象となれば逮捕されるかもしれない,起訴されて刑罰を受けるかもしれない,刑務所に入るかもしれないと考えるからこそ,示談金を積極的に支払って示談で終わらせたいと考えるわけです。
もっとも,本件では警察の消極的な態度が感じられる状況であり,警察は逮捕予定がないことを隠そうともしない対応でした。恐らく,金額交渉の材料として巻き込まれている,と感じていたのだろうと思われます。
そうすると,加害者に高をくくられてしまい,金銭請求の重要な交渉材料が失われる可能性が懸念されました。
ただ,それでも加害者が代理人を通じて示談を申し入れた,という点は注目すべきところでした。つまり,加害者は示談を目指す積極的な必要を感じているということであり,そこには逮捕の可能性を避ける必要も含まれていることが想像されます。
そこで,警察の対応に不満を抱いていた被害者の心情も踏まえ,こちらから警察へ告訴を行うとともに,被害者は加害者の逮捕を希望していることを明確に表明する手段を取ることにしました。
実際に逮捕されるかどうかは警察の判断次第ですが,「被害者は告訴した上で加害者の逮捕まで希望している」と加害者に伝わる形を取ることによって,加害者に高をくくられず,逆に危機感をもって示談交渉に臨ませることを目指しました。
ポイント
被害者が本気で加害者の逮捕や刑事処罰を求めているのであれば,それを行動に移すことも有力
③【非常に低額の金額提示がされていること】
本件で加害者の代理人弁護士が被害者に提示した示談金額30万円は,被害者の弱みを握って何度も性行為を求めた事件の示談金としてはあまりに低額でしたが,その理由は大きく分けて以下の3つの可能性が考えられました。
低額な金額提示の理由として考えられるもの
1.事実関係の認識が食い違っており,争いがある
→加害者の主張する事実関係を踏まえれば,30万円という金額も合理的であるという場合
2.示談不成立でも構わないと考えている
→30万円が不合理な金額であることは承知の上だが,その金額で示談できないならば無理に示談は望まない,という場合
3.本件の適正な賠償額だと考えている
→言い分が食い違ってもおらず,示談を希望する意思はあるが,本件の適正な賠償金額が30万円であると考えている(=適正な賠償額が分かっていない)場合
この点,上記の通り,事実関係の認識に相違がないことは早期に確認できたため,「1.事実関係の認識が食い違っており,争いがある」場合でないことが分かりました。また,被害者に代理人弁護士が入って30万円での合意の可能性がないと告げられた後にも,示談交渉を継続する姿勢が見られたため,「2.示談不成立でも構わないと考えている」場合でもないことが分かりました。
そのため,加害者の代理人弁護士は,30万円を「3.本件の適正な賠償額だと考えている」ということになります。これは,3つの可能性の中でも被害者にとって最も有益なケースと言ってよいものでした。なぜなら,加害者が希望する示談を成立させるためには,30万円が適正な賠償額であるという理解を改める以外に方法がないからです。
以上を踏まえ,こちらからは適正額に関する複数の根拠を示し,当方の理解する適正額からは一切譲歩する意思がないことを明確にして,加害者側の再考を促しました。加害者代理人弁護士の理解度が低いことを踏まえ,より強気の姿勢を示すことで,有利な条件を引き出そうとしたのが奏功したと考えられます。
なお,今回の加害者代理人弁護士は,本件のような事件に対する経験値に乏しい弁護士であったようでした。弁護士にも専門分野があるため,弁護士であるからといって,全ての法的問題について適正な判断ができるわけではない,ということには注意が必要です。本件はそのいい例であったかもしれません。
ポイント 低い金額提示の理由
1.事実関係に争いがある(相手の言い分に従えば適正額)
2.示談成立を強く希望していない(高額になるくらいなら不成立でよいと考えている)
3.本心で適正額だと考えている(適正額の判断を誤っている)
結果
加害者代理人弁護士との間で,加害者から被害者へ500万円の金銭賠償を支払う内容にて示談が成立し,無事同額を受領しました。
最初の提示が30万円であったため,比較すると16倍を超える増額となりました。
弁護士によるコメント
本件は,被害者自身の不貞行為がきっかけであったため,被害者から周囲に相談しづらく,継続的な性行為がなされていました。その後,必死の思いで警察に相談したとのことでしたが,そのおかげで示談交渉が開始することになったのは,被害者にとって幸運だったかもしれません。
示談交渉としては,事実関係に争いがないことを早期にはっきりさせられた点が非常に有益であったと考えられます。事実関係に争いがなければ,加害者が金銭を支払うことは明らかであり,後は金額の話のみになるため,優位な金額交渉が約束される状況になります。
事実関係に争いが生じると立証が難しい,というウィークポイントを相手が知らないうちに,交渉によってそのウィークポイントを消すことができた時点で,増額示談はほぼ見通せる事件になっていたと言えるでしょう。
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