【告訴受理解決事例】SNSで知り合った後,ラブホテルへ同行させられた事件の場合 事件の特徴を踏まえた対応方法を解説

このページでは,実際に告訴の受理に至った解決事例を紹介します。
(プライバシー保護のため,結論に影響しない範囲で一部実際の内容と異なる場合があります)

【このページで分かること】
・実際に告訴受理がなされた事件の内容
・告訴受理に至るための問題点と弁護士の対応
・弁護士による告訴受理のポイント

今回紹介するのは,SNSで知り合い,実際に会うことになった異性から強引に性的関係を求められた事件です。

事案の概要

SNS上のいわゆるマッチングアプリで知り合った男女の間での事件。被害者は成人女性,加害者は成人男性。

SNSでチャットによるやり取りをした後,一度実際に会うこととなった。被害者の自宅近所に加害者が車で訪れ,近所の飲食店で食事をする予定であった。
当日,予定通りに食事をしたところ,加害者から引き続き一緒にいることを提案され,被害者は了承した。加害者の提案で,加害者の車に同乗し,運転されるがままに移動した。その後,飲食店及び被害者方から相当程度距離のあるラブホテルに駐車され,加害者からラブホテルへの同行を促された。被害者は,自力で帰宅する手段もなく,断ることで加害者に激高されることを防ぐため,応じることにした。

ホテルの客室内では,加害者からキスを迫られたり,乳房を揉まれたりした。被害者は,「まだ早い」「今日はちょっと」などと言ってその場を穏やかにやり過ごそうとしたが,加害者が性的行為をやめることはしなかった。
被害者が加害者から受けた主な行為は,キスされる,乳房を手で触られる,加害者の性器を手で触らされる,といったものであった。被害者は,加害者が性交(性器の挿入行為)を要求するつもりであると理解したため,「(挿入行為は)今回はやめよう」と伝え,挿入に至ることは防いだ

その後,当事者間で若干の会話などをした上で,加害者の車でホテルを出発。被害者方の近所まで移動し,被害者が下車して解散した。

法的問題点

①成立する犯罪

加害者は,被害者の同意なくキスをする,乳房を触る,自分の性器を触らせるといったわいせつ行為に及んでおり,不同意わいせつ罪が成立すると考えられます。

②犯罪の成否に関する問題点

【意思表明が困難な状態にさせられていたか】

不同意わいせつ罪の成立には,一定の事由によって,被害者が「同意しない意思を形成し,表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあること」が必要とされています。このような状態に乗じてわいせつな行為をした場合に,不同意わいせつ罪が成立します。
本件では,食事の後に両者が合意の上で車での移動をしているため,意思表明が困難な状態にさせていたと言えるのか,問題となり得ます。

【同意の有無】

被害者が加害者と一緒にラブホテルへ入り,客室内では加害者の性的な行為に明確な拒絶を見せなかったため,被害者が加害者との性的行為に同意していたのではないか,との問題が生じる可能性はあります。特に,ラブホテルが性的行為を行うために入る施設である点は,両者合意の上での性的行為であったことの根拠になる,との見解も考えられます。

【加害者の故意の有無】

加害者に不同意わいせつ罪が成立するためには,加害者の故意が必要ですが,その内容は「被害者が同意をしていないと認識しているか,同意していなくても構わないと考えていた場合」と整理することができます。そのため加害者目線では,被害者が同意をしているはずだと認識していた場合,犯罪の故意がないとの判断になる可能性が考えられます。

問題点の解決方法

①【意思表明が困難な状態にさせられていたか】

この問題点については,大きく2つのステップに関する検討を要します。具体的には以下の通りです。

意思表明が困難な状態にさせられていたかを検討するステップ
1.意思表明を困難にする事由があるか
2.意思表明が困難な状態になっていたか

まず,意思表明を困難にする事由は,不同意わいせつ罪を定める刑法に列挙されており,そのいずれかに該当する必要があります。具体的な内容は以下の通りです。

意思表明を困難にする事由
①暴行・脅迫
②心身の障害
③アルコール・薬物の摂取
④睡眠その他意識不明瞭
⑤同意しない意思を形成・表明・全うするいとまがない
⑥予想と異なる事態に直面した恐怖・驚愕
⑦虐待に起因する心理的反応
⑧経済的・社会的影響力による不利益の憂慮

本件では,食事の後,行先も知らないまま加害者の運転する車に同乗し,予期しないままラブホテルに到着した,という経緯があるため,「⑥予想と異なる事態に直面した恐怖・驚愕」に該当することが見込まれます。この要件の具体的内容は,以下のように説明されます。

「⑥予想と異なる事態に直面した恐怖・驚愕」とは
いわゆるフリーズの状態、つまり、予想外の又は予想を超える事態に直面したことから、自分の身に危害が加わると考え、極度に不安になったり、強く動揺して平静を失った状態をいいます。

次に,意思表明が困難な状態になっていたか,という点については,少なくとも告訴受理の段階では,意思表明困難という被害者の供述に一定の合理性があれば足りるでしょう。明らかに犯罪が成立しない場合でない限り,告訴の受理を拒むのは法的に問題があるため,被害者の言い分が明らかにおかしい内容でなければ差し支えないと言えます。

ポイント
予想外の事態で意思表明が困難な状況にあった
実際に意思表明が困難であった,との主張は一定の合理性があれば足りる

②【同意の有無】

同意の有無との関係では,同意があった可能性をうかがわせる事情について,その合理的な理由を一つ一つ指摘していくことが肝要です。

本件では,被害者が自らの意思で加害者の車に乗り,一緒にラブホテルへ向かったという点が,被害者の同意の存在を推測させる事情になる可能性が考えられます。一緒にラブホテルへ行くということは,性行為をするつもりであったのではないか,ということです。
もっとも,被害者は行き先を把握しないまま加害者の車に同乗しただけであって,ラブホテルへの同行に同意したというわけではありませんでした。そのため,一緒にラブホテルへ行ったというのは,被害者の意思でそうなったわけではなく,行先がラブホテルであることを加害者から隠されていたからということになります。この場合,結果的に被害者が加害者とともにラブホテルへ移動したとしても,それによって同意があると断じるわけにはいかないでしょう。

また,両者が実際に会うまでのSNS上でのやり取りに,会った際に性行為をする気持ちがあることが見受けられる事情が全くありませんでした。事前に性行為を予定して会う場合には,SNS上で性行為に関するやり取りをしていることがほとんどですが,それが見られなかったという点は被害者に同意がなかったことの根拠になり得る事情と言えます。

以上を踏まえ,被害者が同意をしていなかった可能性が十分あると理解されたことにより,告訴受理が実現したと考えられます。

ポイント
一緒にラブホテルへ行ったことは,同意があったことの根拠になる場合もある
本件の被害者はラブホテルへ行くとは思っていなかった可能性があるため,同意があったとは判断できない

③【加害者の故意の有無】

加害者の目線では,ラブホテルに行こうと思って車に乗ることを提案したところ被害者が応じ,ラブホテルに到着した後も被害者がその場を去るなどしなかったことから,被害者が同意しているものと誤解した可能性があるか,問題になり得るところです。

この点,以下のような事情が見受けられます。

・移動前
加害者は事前にラブホテルへ行くつもりであることを告げていないため,被害者がラブホテルへの同行を承諾していない可能性は十分に把握できたはずです。

・到着後
被害者方から距離のあるラブホテルへ連れて行ったのは,被害者に断りづらい状況を作る意味があった可能性があり,被害者が断れなかったからといって加害者が誤解するとは限りません。

・客室内
被害者はキスされたり乳房を触られたりすることを嫌がっており,少なくともその時点で被害者に同意がないと分かった可能性があるはずです。

以上を踏まえると,加害者に故意があった可能性も十分にあり得る内容と考えるべきであって,加害者の故意が認めづらいことを理由に告訴受理を拒むことは不合理と言えます。

結果

警察に告訴が受理された結果,加害者に対する捜査が実施されるに至りました。

弁護士によるコメント

マッチングアプリで知り合った男女の場合,性行為を前提に会うケースも少なくないため,被害者の希望する告訴が適切な告訴なのか,犯罪の問題でなく当事者間の感情的なトラブルに過ぎないのか,という点は慎重な判断になりやすいところです。
特に本件では,ラブホテルに同行しているという事情があり,ホテル内でケンカをしただけである場合との区別も必要だったと思われます。

この点,事前に性行為を想定したやり取りがなかったこと,当日も被害者がラブホテルに移動するとは思っていなかった可能性があること,客室内でも嫌がる動きを見せ,結局性交(=性器の挿入行為)に至らなかったことなど,犯罪である可能性を示す根拠を積み上げることによって,告訴の受理に至ったと考えられます。

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