損害賠償命令制度は犯罪被害を受けたときに有用か?どうすれば利用できるのか?被害者の負担は大きいのか?刑事弁護士による解説

●損害賠償命令制度について知りたい

●自分は損害賠償命令制度を利用できるのか?

●損害賠償命令制度と通常の民事訴訟の違いは?

●損害賠償命令制度に従って支払った加害者は刑が軽くなるのか?

というお悩みはありませんか?

このページでは,犯罪被害の損害賠償命令制度についてお困りの方に向けて,損害賠償命令制度の内容や特徴損害賠償が支払われた場合の刑罰への影響などを解説します。

損害賠償命令制度とは

損害賠償命令制度とは,刑事手続において,被害者が加害者に対して損害賠償を求めるための制度です。この制度を利用することで,被害者は,民事訴訟を起こさなくても刑事裁判の結果を利用して損害賠償請求を行うことが可能になります
また,損害賠償命令が申し立てられた場合には,刑事事件の判断を行った裁判所によって扱われるため,より迅速な審理が期待できる制度でもあります。

この損害賠償命令制度は,犯罪被害者が金銭賠償を請求する際の大きな負担に配慮する目的で,2007年に新設されました。
日本の制度上,民事裁判と刑事裁判は別々に行われる必要があり,犯罪被害者は,刑事裁判とは別に民事裁判を自ら提起するのでなければ,金銭賠償を求めることができないのが原則です。また,民事訴訟では,金銭を請求する被害者の方が,加害者の責任を立証しなければならい立場にあるため,訴訟の内容に関する被害者の負担も大きなものです。

このような取り扱いでは,被害者の救済が困難となり,泣き寝入りを強いられる被害者が増えてしまうことを踏まえ,被害者による損害賠償請求を容易にするための手段として損害賠償命令制度が設けられました。

制度が利用できるケースには限りがありますが,制度を利用すれば,比較的軽微な負担で,比較的短期間で,被害者の加害者に対する損害賠償請求が可能になります。

ポイント
損害賠償命令制度は,犯罪被害者が刑事裁判の結果を利用して損害賠償請求する制度
軽微な負担で,比較的短期間での金銭請求が可能

損害賠償命令制度の特徴 ①対象事件

損害賠償命令制度の対象となる事件は,被害者に多大な損害が発生する一部の事件に限定されています。具体的な内容は以下の通りです。

損害賠償命令制度の対象事件

①故意の犯罪行為により人を死傷させた罪又はその未遂罪
(例)殺人罪,傷害致死罪,強盗致死罪,不同意性交等致死罪など

②一定の性犯罪
=不同意わいせつ罪,不同意性交罪,監護者わいせつ罪,監護者性交等罪又はその未遂罪

③逮捕罪・監禁罪

④略取・誘拐・人身売買の罪
=未成年者略取及び誘拐,営利目的等略取及び誘拐,身の代金目的略取等,所在国外移送目的略取及び誘拐,人身売買,被略取者等所在国外移送,被略取者引渡し等の罪又はその未遂罪

⑤上記②~④の罪のほか,その犯罪行為に②~④の罪の犯罪行為を含む罪
(例)強盗・不同意性交等罪など

これらの事件は,その被害者に身体的・精神的損害が生じていない可能性が考えにくく,かつその損害から救済する必要性が特に高いことから,損害賠償命令制度の対象とされています。

損害賠償命令制度の特徴 ②申立できる人と申立方法

【申立てができる人】
被害者又はその一般承継人(権利義務を一括承継する人。相続人など)

【申立ての方法】
申立書を提出して行う

申立書の記載事項
①当事者及び法定代理人
②請求の趣旨
③訴因(当該刑事裁判で審判の対象とされた事実)
④その他請求を特定するに足りる事項

要求される記載事項は,一から民事訴訟を行う場合よりも非常に少なくなっています。
特に,刑事裁判の結果を用いることが前提となっているため,対象事件の特定が求められていない点で,被害者の負担が非常に軽くなっています。

逆に,公判を扱う裁判所に予断を持たせないため,記載を求められていない事項を申立書に記載することはできません。

【申立ての時期】
=起訴後から弁論終結までの間

【申立て先】
=事件が係属する地方裁判所

【申立ての費用】
=申立手数料2,000円(一律)

請求金額にかかわらず,手数料が一律で安価になっている点も特徴的な被害者保護の制度です。
一般的な民事訴訟の場合,100万円の請求で1万円,300万円の請求で2万円といった手数料が発生します。

損害賠償命令制度の特徴 ③審理の時期・内容・回数

【審理が行われる時期】
=被告人に対して対象犯罪の有罪判決の言い渡しがあった後直ちに開く

【審理の内容】
①当事者(被害者と被告人とも)を呼び出す
②刑事事件の訴訟記録を取り調べる(必要でないものを除く)
③口頭弁論をしないことが可能
④口頭弁論しない場合には,裁判所が当事者を審尋することができる

【審理期間・回数】
=原則として4回以内の審理期日で審理を終結しなければならない

審理の回数が少なく限られている分,審理の期間も非常に短くなります

損害賠償命令の効果

【審理の結果】
審理を終結した後,「決定」という方法で申立てに対する裁判を行う

【結果に対する不服申立て】
①裁判所が決定書を作成し,当事者に送達する(口頭での告知も可能)
②当事者は,送達又は告知から二週間以内異議申立てができる

【不服申立てがなかった場合】
=適法な異議申立てがなかった場合,損害賠償命令についての裁判は,確定判決と同一の効力を有する
(強制執行も可能となる)

民事裁判に移行する場合

【民事裁判に移行するケース】

①決定に対して異議申立てがなされた場合
②4回以内での審理終結が困難である場合
③申立人(=被害者)が民事訴訟手続で行うことを求めた場合
④相手方(=加害者)が民事訴訟手続で行うことを求め,申立人が同意した場合

【民事裁判に移行した場合の特徴】
=裁判記録が引き継がれる。別途訴訟を提起する必要はない。

損害賠償命令制度に従って支払うと加害者の刑は軽くなるのか

損害賠償命令制度を利用した場合,加害者から被害者に損害賠償の支払いがなされることが見込まれます。
この点,加害者の刑事責任の重さを判断する要素として,被害者への損害賠償を行っているかどうか,というのは非常に重要なポイントとなることが少なくありません。特に,損害に見合った水準の高額な賠償がなされていれば,その事実は加害者の刑事責任を小さくする方向で考慮されることが通常です。
そのため,損害賠償命令制度を利用した場合,その決定に従って金銭を支払った加害者の刑罰は軽くなるのか,という点に疑問が生じます。

この点,実刑となった第一審の後に損害賠償命令制度が利用され,その後に約1000万円の賠償を行った被告人に対して,控訴審で執行猶予付きの判決がなされた事例はあります。これは,第一審の判決後に多額の金銭賠償を行った事実が評価された結果であると言えるでしょう。

一方,他の裁判例では,「自分から支払おうと思えば支払えたのに,それをしないまま判決を受けた」というマイナスの評価を明示したものも見られます。加害者が自分から示談交渉を試みるなど,積極的に賠償を行ったケースとは,明確な区別がなされていると理解してよいでしょう。

ポイント
損害賠償命令を受けて支払いをした場合,刑罰を軽減させる効果が生じることはあり得る
もっとも,自分から進んで賠償をした場合よりは明確に低い評価となる

犯罪被害に強い弁護士をお探しの方へ

損害賠償命令制度は,一定の重大な被害を受けた被害者への配慮として,国が比較的簡単な金銭請求の方法を用意したものです。利用が可能な場合は,損害賠償命令制度を利用の上,簡便な手続で適切な賠償を獲得することが非常に有力でしょう。
いわゆる被害者参加の制度も含め,加害者の刑事処分に参加する手続については,制度に精通した弁護士へのご相談・ご依頼をお勧めします。

さいたま市大宮区の藤垣法律事務所は,刑事事件の経験豊富な弁護士が,専門的な知識・経験を踏まえて,犯罪被害にお悩みの方への最善のサポートを提案することができます。
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