犯罪被害者は加害者に訴訟すべき?損害賠償請求をする最善の方法が知りたい方へ,訴訟・調停と示談との比較方法を弁護士が解説

●犯罪被害の加害者に損害賠償請求をしたい

●調停と訴訟ではどちらが適切か?

●調停や訴訟を提起するときの注意点は?

というお悩みはありませんか?

このページでは,犯罪被害の加害者に対する民事調停や民事訴訟についてお困りの方に向けて,訴訟や調停と交渉との違いメリットデメリットや注意点などを解説します。

犯罪被害者が損害賠償請求する方法

犯罪被害に遭った際,被害者が加害者から金銭を回収する手段は,①任意に支払ってもらうか,②強制的に回収するかのいずれかになります。
そして,①任意に支払ってもらう方法が示談であり,示談をせず②強制的に回収する場合には,裁判所の手続を利用する必要があります。

具体的な裁判手続としては,「民事訴訟」及び「民事調停」の二つが挙げられます。
訴訟と調停は,いずれも民事事件の解決を目指す裁判上の手続ですが,その内容や手続には大きな差異があり,どちらを選択するかはその差異を踏まえた検討が適切です。

ポイント 損害賠償請求の方法
・任意に支払ってもらう=示談
・強制的に回収する=民事調停・民事訴訟

犯罪被害の場合は調停と訴訟どちらが適切か?

民事調停と民事訴訟の違いとしては,以下のような点が挙げられます。

【解決方法】
調停 当事者間での合意を目指します。合意に至らない場合には不成立となります。
訴訟 裁判官の判決により解決します。判決せずとも合意に至れば,合意も可能です。

【手続の進め方】
調停 調停委員が両者の間に入り,双方の意見を聞きながら合意できる内容を模索します。
訴訟 当事者双方が裁判所に主張と証拠を提出し,法的な判断を求めます。

【期間と費用】
調停 比較的短期間であり,費用も安価であることが多いです。
訴訟 調停よりも手続が長期間に渡り,費用も高くなる傾向があります。

上記のような民事調停と民事訴訟の違いのうち,犯罪被害の場合に考慮すべきなのが【解決方法】に関する特徴です。具体的には,加害者が手続に協力しない場合,どのような結果になるかを考える必要があります。

【加害者が協力しない場合の解決】

調停 調停不成立となり何も解決しないまま手続が終了する
訴訟 被害者の請求内容をそのまま裁判所が認め,被害者の請求通りの金額を支払う義務が加害者に発生する

この解決内容の違いは極めて大きなものです。調停であれば,加害者は手続に協力しなくても被害者への支払をする必要はありませんが,訴訟の場合には手続に応じなければ被害者の言う通りの支払を強制させられることになります。そのため,加害者が応じることが見込まれやすいのは,明らかに訴訟の方であると言えるでしょう。

犯罪被害の場合,加害者の誠実な対応が期待できない場合も珍しくありません。加害者の不誠実な対応を許さないためにも,調停ではなく訴訟を選択する方が適切であると理解するべきでしょう。

ポイント 調停と訴訟
調停は合意を目指す手続であり,加害者が協力しなければ解決せず終了
訴訟は判決をもらう手続であり,加害者が協力しなければ請求通りの判決が得られる
加害者の協力が得られない可能性を踏まえると,通常は調停より訴訟の方が適切

以下では,示談でなく民事訴訟を選択する場合のメリットとデメリットについて解説します。

民事訴訟で請求するメリット ①刑事処分が軽減されない

示談の場合,加害者の立場としては刑事処分を軽減させるために行うこととなります。示談書を捜査機関に提出するなどして,示談をした事実を踏まえた刑事処分を求めるのが一般的です。

しかし,民事訴訟で金銭を請求した場合,訴訟の結果,加害者に支払の義務が生じたとしても,刑事処分を軽減させる効果は基本的にありません。そもそも,民事訴訟の結果が出るのは,刑事処分が決まった後であることが大半であるため,民事訴訟の結果を刑事処分に反映させる余地自体のないことがほとんどでしょう。

加害者に十分な刑事処分を科してもらいつつ,加害者からの金銭賠償を獲得したいという場合には,示談でなく訴訟での金銭請求が有力です。

民事訴訟で請求するメリット ②裁判所の適正な判断を求められる

示談によって決定する賠償金額は,当事者間で合意ができる限りはいくらでも問題ありません。裏を返せば,合意ができない限り,適正な金額であっても支払ってもらうことはできないということになります。
そのため,加害者側が不当に低い金額でなければ合意しないというスタンスだと,その不当に低い金額を超える賠償を示談で獲得することは困難です。

一方,民事訴訟において,相手が不当に低い金額でなければ支払わないと主張した場合,最終的には裁判所が支払うべき金額を決め,加害者に強制します。そのため,相手が不当に低い金額を主張したとしても,その金額を超える適正な賠償を獲得できる,ということになります。

加害者の主張する金額が了承できない場合には,民事訴訟を通じて裁判所の適正な判断を求める手段が有力でしょう。

民事訴訟で請求するデメリット ①空振りに終わる場合がある

民事訴訟は,裁判所が金額を決めて強制力を与えてくれる一方,その強制力を利用するあてとなる財産がなければ,結果的に金銭を回収することができません。訴訟をし,裁判所に請求を認めてもらったとしても,それが空振りに終わる場合がある,ということになります。

示談の場合は,加害者も示談成立のために金銭を用意し,場合によっては家族の力を借りるなどして必死に支払うのが通常です。そうでなければ,加害者の目的である刑罰の軽減が実現できないためです。
一方,民事訴訟の場合,加害者に金銭をかき集めるメリットが乏しく,家族に支払を求めることもできないため,加害者に目ぼしい財産がなければ金銭を受領できずに終わるリスクが生じます。

民事訴訟で請求するデメリット ②金銭以外は請求できない

民事訴訟で請求することができるのは,法的に請求できる権利のあるものだけです。犯罪被害の場合には,法律の根拠は「不法行為に基づく損害賠償請求権」,つまり金銭を請求する権利であるため,民事訴訟で請求できるのは金銭のみとなります。

示談の場合は,当事者間で合意できる限り,どのような請求を行っても問題ありません。犯罪被害に関する示談では,現場になった駅を利用しない,被害者の住所近辺に立ち入らないなど,金銭以外の義務を負わせることも可能です。
一方,民事訴訟で駅の利用禁止や住所近辺の立入禁止を求めたとしても,その請求は裁判所によって退けられるほかありません。法的に請求する権利がない以上,やむを得ない結論ということになります。

民事訴訟の注意点

民事訴訟を行う場合,以下のような点に注意するのが望ましいでしょう。

①加害者の個人情報が必要であること

民事訴訟を行う場合,加害者を特定するための個人情報を把握する必要があります。訴訟の当事者となる加害者が特定できなければ,訴訟自体が行えないためです。
具体的には,氏名と住所の把握が必要になりやすいでしょう。

もっとも,住所に関しては,分からなかったとしても訴訟の提起が可能です。勤務先が分かっていれば,就業場所送達という方法で勤務先を送り先にできますし,所在が何も分からない場合には,公示送達(裁判所の掲示板に掲示してもらう方法)によって送達したと同様の扱いをしてもらえます。
しかし,現実に金銭を回収しようとした場合,加害者の情報が把握できていないと財産に対する強制執行が困難です。引き当てになる財産もその特定の仕方も把握できず,結果的に訴訟が空振りに終わる可能性が高くなります。

②長期間を要しやすいこと

民事訴訟では,概ね1~2か月に1回程度の頻度で期日が行われ,期日のたびに双方の主張が提出されることになりますが,トータルすると年単位に及ぶ手続になることも決して珍しくありません。金銭の請求を試みてから回収できるまでに長期間を要しやすいという点には,十分な注意が必要になるでしょう。

犯罪被害に強い弁護士をお探しの方へ

犯罪被害を受けたとき,加害者へ金銭賠償を請求する手段として訴訟や調停を行うのが適切かどうかは,非常に難しい問題です。
もっとも,示談をするか訴訟や調停をするかは,示談交渉の局面で検討する必要がある場合も多く,検討する期間にあまり余裕はない可能性もあります。

さいたま市大宮区の藤垣法律事務所は,刑事事件の経験豊富な弁護士が,専門的な知識・経験を踏まえて,犯罪被害にお悩みの方への最善のサポートを提案することができます。
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