
このページでは,男女トラブルの不起訴処分について知りたい方へ,不起訴処分を目指す方法や不起訴処分となった場合のメリットなどを弁護士が徹底解説します。不起訴処分を目指す場合の参考にしてみてください。

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目次
男女トラブルで不起訴を目指す方法
①警察の捜査が開始されないこと
男女トラブルは,いきなり警察が関与することになることの少ない事件類型です。多くの場合,当事者間で問題になり,当事者間での解決が見込まれない場合に一方が警察に相談等を行う,という流れになりやすいでしょう。
この点,警察が捜査を開始することなくトラブルが解決すれば,起訴される可能性はありません。起訴するか不起訴にするか,という判断は,捜査を行った結果として検察官が行うものであって,捜査が開始していない限りは起訴不起訴の判断自体がなされないためです。
そのため,男女トラブルで起訴されないことを目指す最も端的な方法は,捜査が開始されないようにする,ということになります。男女トラブルの捜査は,当事者の一方が警察に捜査を求めたことをきっかけに生じるのがほとんどであるため,具体的には当事者双方が警察の捜査を求めない,という形で解決することが望ましいでしょう。
ポイント
男女トラブルは警察の関与前に当事者間で問題になる
警察の捜査が始まらなければ起訴される可能性もない
②被害者の宥恕を獲得する
男女トラブルは,基本的に被害者が存在する事件類型です。そして,被害者のいる事件では,起訴を希望するか不起訴を希望するか,という被害者の意向が処分に直接の影響を及ぼしやすい傾向にあります。
もちろん,被害者が起訴を希望しない場合の方が,不起訴になりやすいということになります。そのため,被害者から起訴を希望しないという意思を表明してもらうことが,不起訴を目指す極めて有力な手段です。
具体的には,被害者の宥恕(ゆうじょ)を獲得することが適切でしょう。宥恕とは許しのことをいい,被害者と加害者の間で示談を締結する際には,「宥恕条項」という形で被害者の宥恕を条項に含めることが一般的です。
被害者から許しを得た上で,その許しを「宥恕条項」の形にすることができれば,不起訴に至る可能性は飛躍的に上がるでしょう。
ポイント
男女トラブルは,被害者が起訴を希望しなければ不起訴になりやすい
被害者の宥恕=許しが得られれば,不起訴の可能性が大きく上がる
③自首を試みる
男女トラブルで当事者間での解決が困難なケースでは,自首を試みることで処分の軽減を目指す手段も有力です。
自首とは,罪を犯した者が,捜査機関に対してその罪を自ら申告し,自身に対する処分を求めることをいいます。そして,自分からリスクを背負って自首した人に対しては,そうでない人よりも軽微な処分とするのが通常です。自首をする側としては,「自首した方が処分が軽くなる」という効果を期待して自首することが一般的であるとも言えるでしょう。
もっとも,不起訴を実現するための手段としては,被害者の宥恕ほど決定的な意味を持つものではありません。自首をしたからといって必ず処分が軽くなったり不起訴が約束されたりするわけではないためです。自首に関しては,被害者の宥恕が明らかに獲得できない場合の次善策,という位置づけと考えるのがよいでしょう。
ポイント
自首した場合は,処分が軽くなりやすい
もっとも,不起訴に直結するとは限らない
④言い分に争いがある場合
男女トラブルの場合,トラブルの内容について,当事者双方の言い分に争いのあることが珍しくありません。この点,犯罪に該当する行為があったかどうか,という点に争いがあるケースでは,犯罪が存在しない(又は立証できない)という結論を目指すことが有力でしょう。
この場合,まずは相手方に対してはっきりと自身の言い分を伝えることが肝要です。相手は「自分は被害者である」と考えているため,自分の言い分をはっきりさせておかないと,加害者であることを前提に話を進められてしまう恐れがあります。後になって言い分を主張し始めても,軌道修正は困難になりやすいでしょう。
犯罪をしていないとの認識であれば,「私は加害者ではない」と考えていることを,早期にはっきりと伝えるようにしましょう。
犯罪の成否について当事者間で争いのある場合,後は犯罪の立証ができるか,その証拠があるか,という問題になります。そこでは,犯罪がなかったこと,犯罪を立証する証拠が存在しないことなどを,粘り強く説明し続けることが適切です。
ポイント
犯罪の認識がなければ,その認識を早期にはっきりと伝える
犯罪の成否に争いがある場合,犯罪の立証ができるかが問題になる
男女トラブルで不起訴になる可能性
男女トラブルの事件は,当事者間での解決状況や証拠関係によって不起訴になる可能性が十分に考えられる事件類型です。
①当事者間における解決状況の影響
男女トラブルの場合,当事者間で解決しており,当事者双方(特に被害者)が起訴を望まないのであれば,不起訴になることが通常です。当事者の意思に反して起訴をすることは,当事者のプライバシーを保護する観点からも不適切となりやすく,当事者間で解決した後に起訴されることは考えにくいと言っても差し支えないでしょう。
男女トラブルは,当事者間での解決状況次第で起訴不起訴の判断が決定的に左右されやすい事件類型と言えます。
②証拠関係の影響
一般的な男女トラブルでは,犯罪を直接証明するような客観的証拠が存在するケースがあまりありません。男女間のトラブルはプライベートな場所で発生する性質のものであり,そのプライベートな行為が何かに記録されているケースが少ないためです。
そのため,犯罪を立証できるだけの証拠がなく,事件を起訴することが困難な場合は珍しくありません。証拠関係が乏しい場合には,不起訴になる可能性が高くなりやすいでしょう。
不起訴の意味・種類
不起訴処分とは,検察官が事件を起訴しないとする処分をいいます。不起訴になった事件は,裁判の対象にならず,刑罰が科せられる可能性がなくなるため,前科がつくこともなくなります。
不起訴処分には,以下のような類型があります。
不起訴処分の類型
1.嫌疑なし
捜査の結果,犯罪の疑いがないと明らかになった場合です。真犯人が明らかになった場合などが代表例です。
2.嫌疑不十分
捜査を遂げた結果,犯罪を立証するための証拠が不十分であり,犯罪事実を立証できないと判断された場合です。具体例としては,犯人が特定できない場合などが挙げられます。
3.起訴猶予
犯罪事実は明らかに立証できるものの,犯罪者の年齢や性格,過去の経歴,犯行動機,犯罪後の事情などを踏まえ,検察官があえて起訴をしない場合です。被害者と示談が成立した場合などが代表例とされます。
4.その他の類型
・訴訟条件を欠く場合
→被疑者が死亡した場合,公訴時効が完成した場合など
・罪とならず
→被疑者の行為が犯罪に当たらない場合,被疑者が14歳未満の場合など
なお,犯罪事実が間違いなくある認め事件の場合,不起訴になる手段は基本的に「起訴猶予」を目指す以外にありません。起訴猶予は,検察官から大目に見てもらうという意味合いの処分であるため,認め事件では誠意ある対応を尽くすことが非常に重要となるでしょう。
ポイント
不起訴処分には,嫌疑なし,嫌疑不十分,起訴猶予等の類型がある
認め事件では起訴猶予を目指す必要がある
逮捕と不起訴の関係
逮捕をされてしまった場合でも,不起訴にならないわけではありません。逮捕された事件の最終的な処分が不起訴となって終了することは,数多く見られるところです。一方,逮捕されなかった事件(いわゆる在宅事件)でも不起訴処分になるとは限らず,在宅事件の処分が起訴という場合も珍しくありません。
これは,逮捕が捜査を行う手段の一つであるのに対し,不起訴が捜査の結果なされる処分であることに原因があります。
刑事事件の捜査は,逮捕をするかしないか,いずれかの方法で進行しますが,いずれの捜査手法を取ったとしても,起訴されるか不起訴となるかは同様に判断されることとなるのです。

なお,起訴されやすい事件が逮捕されやすい,という側面はあります。起訴されやすい事件は,類型的に重大な事件であることが多いところ,重大な事件では,重い処分を免れるために逃亡や証拠隠滅をされる恐れが大きいと判断される傾向にあると考えられます。そのため,被疑者の逃亡や証拠隠滅を防ぐための逮捕が必要になりやすいのです。
裏を返せば,逮捕された事件では,不起訴を獲得するにはより積極的な努力が必要となりやすいでしょう。弁護士に相談の上,不起訴を目指すために適切な対応を試みるようにしましょう。
ポイント
逮捕は捜査の手段,不起訴は捜査を終えた後の処分
逮捕と不起訴は両立する
起訴されやすい事件は逮捕されやすい傾向にある,という側面も
不起訴になった場合の効果
不起訴処分となった場合には,以下のような効果が生じます。
①前科がつかない
前科とは,刑罰を科せられた経歴を指しますが,不起訴となった場合には刑罰が科せられません。そのため,不起訴となれば刑罰の経歴=前科がつくことなく,刑事手続が終了することになります。
そして,前科がつかないことには,以下のようなメリットがあると考えられます。
前科がつかないことのメリット
1.資格に対する影響を避けられる
国家資格を用いた職業の場合,前科によって資格制限が生じると,仕事の継続ができない可能性が生じてしまいます。
前科がつかなければ,資格制限は生じず,仕事への悪影響もありません。
2.就職・転職への影響を避けられる
前科のあることは,就職や転職の差異に不利益な事情として考慮されやすい傾向にあります。
前科がつかなければ,履歴書に前科を記載する必要もなく,就職先に刑事事件のことを知られずに済みます。
3.海外渡航の制限を避けられる
前科がある場合,パスポートやビザ,エスタなどの手続に悪影響が生じ,海外渡航が認められない場合があります。
前科がつかなければ,海外渡航の制限が生じる事情もなくなるため,海外渡航を自由に行うことが可能です。
②釈放される
不起訴処分となった場合,身柄拘束されている状況であれば速やかに釈放されます。不起訴処分が出た以上,捜査のために身柄拘束を継続する必要がなくなるためです。
③逮捕されない
不起訴処分とされた事件では,その後に逮捕されることがありません。逮捕は,捜査を行う場合の選択肢の一つであるところ,不起訴処分によって捜査が終了するため,逮捕を行う余地もなくなるからです。
ただし,余罪がある場合には,余罪での逮捕が行われる可能性が残ります。
④取り調べを受けない
不起訴処分によって捜査が終了するため,警察や検察から取り調べを受けることがなくなります。もっとも,不起訴処分は今後の捜査を禁じるものではないため,新しい証拠が発見された場合には捜査が再開され,改めて取調べを受ける場合もあり得るところです。
男女トラブル事件で不起訴を目指す場合の注意点
①該当し得る罪が重大になりやすい
男女トラブルの場合,該当し得る犯罪としては,主に以下の2つが想定されます。
男女トラブルで該当し得る犯罪類型
不同意わいせつ罪
→6月以上10年以下の拘禁刑
不同意性交等罪
→5年以上の有期拘禁刑
いずれも,刑罰としてより軽微な罰金刑の定めがない,という特徴があります。起訴された場合,罰金刑の余地がないため,それだけ重大な犯罪類型と言えます。

また,不同意性交等罪に関しては,原則として執行猶予が付かないという特徴もあります。執行猶予は,3年以下の懲役(拘禁)刑の場合にしかつけられないため,短期が5年とされている不同意性交等罪では付けられないのです。厳密には,法律に定められた減刑をすることで執行猶予を付ける余地もありますが,原則として執行猶予が付かない事件類型であることに留意が必要であるのは間違いないでしょう。
②示談に伴う負担が大きくなり得る
男女トラブルの事件は,示談による解決が有益ですが,示談に際しては示談金や示談条件といった諸々の負担が伴います。そして,男女トラブルの場合,他の事件類型と比べて示談時の加害者の負担が大きくなりやすい傾向がある,という点には注意が必要でしょう。
特に,継続的な交友関係のあった男女間や,立場上の上下関係があった男女間の場合,トラブルより前の時期における精神的苦痛や,今後の生活への影響なども踏まえた交渉になりやすいです。そのため,被害者からはより大きな請求がなされやすく,示談の成立には大きな負担が伴いやすいでしょう。
示談のメリットが極めて大きいため,できる限り示談の成立を目指したいところですが,その対価が相当程度必要になる可能性には注意することをお勧めします。
③客観的証拠に乏しいケースの取り扱い
男女トラブルは,出来事を証明する客観的証拠に乏しいことが少なくありませんが,その場合に犯罪が立証できるかは,まず当事者双方の言い分がどの程度信用できるか,という観点から検討されます。
この点,加害者とされる側の言い分が明らかに不合理であるなど,当事者間の主張の信用性に大きな差があれば,客観的証拠が十分でなくても起訴される可能性はあります。そのため,客観的な証拠がなさそうだからといって,まともな対処をせず放置したり,「どうせ立証できない」と安易に高をくくったりすることはお勧めできません。
罪を犯していない,という否認のスタンスを取る場合には,自分の記憶を整理し,求められれば理路整然と述べられるようにしておきましょう。
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藤垣法律事務所代表弁護士。岐阜県高山市出身。東京大学卒業,東京大学法科大学院修了。2014年12月弁護士登録(67期)。全国展開する弁護士法人の支部長として刑事事件と交通事故分野を中心に多数の事件を取り扱った後,2024年7月に藤垣法律事務所を開業。弁護活動のスピードをこだわり多様なリーガルサービスを提供。