
このページでは,痴漢事件の逮捕に関して,刑事弁護士が徹底解説します。逮捕の可能性はどの程度あるか,逮捕を避ける方法はあるか,逮捕された場合に釈放を目指す方法はあるかなど,対応を検討する際の参考にしてみてください。

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目次
痴漢事件で逮捕される可能性
痴漢事件は,逮捕される可能性が十分にある事件類型です。
痴漢事件の代表例としては,走行する電車内や,駅構内,商業施設内などの階段・エスカレーター等で,被害者の臀部に触るものが挙げられます。これらは,各都道府県の迷惑防止条例に違反する行為として罰則の対象とされ,俗に痴漢事件と呼ばれます。
この痴漢事件は,現行犯で問題になることが多く,逮捕される場合も現行犯逮捕が非常に多い類型です。事件が現行犯で問題になった場合,被害者の保護や被疑者の逃亡防止のため,その場で逮捕の形を取るメリットが大きくなりやすいのです。
逮捕の種類・方法
法律で定められた逮捕の種類としては,「通常逮捕」「現行犯逮捕」「緊急逮捕」が挙げられます。それぞれに具体的なルールが定められているため,そのルールに反する逮捕は違法ということになります。逮捕という強制的な手続を行うためには,それだけ適切な手順で進めなければなりません。
①現行犯逮捕
現行犯逮捕とは,犯罪が行われている最中,又は犯罪が行われた直後に,犯罪を行った者を逮捕することを言います。現行犯逮捕は,逮捕状がなくてもでき,警察などの捜査機関に限らず一般人も行うことができる,という点に特徴があります。
典型例としては,目撃者が犯人の身柄を取り押さえる場合などが挙げられます。犯罪の目撃者であっても,他人の身柄を強制的に取り押さえることは犯罪行為になりかねませんが,現行犯逮捕であるため,適法な逮捕行為となるのです。
ただし,現行犯逮捕は犯行と逮捕のタイミング,犯行と逮捕の場所のそれぞれに隔たりのないことが必要です。犯罪を目撃した場合でも,長時間が経った後に移動した先の場所で逮捕するのでは,現行犯逮捕とはなりません。
なお,現行犯逮捕の要件を満たさない場合でも,犯罪から間がなく,以下の要件を満たす場合には「準現行犯逮捕」が可能です。
準現行犯逮捕が可能な場合
1.犯人として追いかけられている
2.犯罪で得た物や犯罪の凶器を持っている
3.身体や衣服に犯罪の痕跡がある
4.身元を確認されて逃走しようとした
ポイント
現行犯逮捕は,犯罪直後にその場で行われる逮捕
捜査機関でなくても可能。逮捕状がなくても可能
②通常逮捕(後日逮捕)
通常逮捕は,裁判官が発付する逮捕状に基づいて行われる逮捕です。逮捕には,原則として逮捕状が必要であり,通常逮捕は逮捕の最も原則的な方法ということができます。
裁判官が逮捕状を発付するため,そして逮捕状を用いて通常逮捕するためには,以下の条件を備えていることが必要です。
通常逮捕の要件
1.罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由
→犯罪の疑いが十分にあることを言います。「逮捕の理由」とも言われます。
2.逃亡の恐れ又は罪証隠滅の恐れ
→逮捕しなければ逃亡や証拠隠滅が懸念される場合を指します。「逮捕の必要性」ともいわれます。
通常逮捕の要件がある場合,検察官や警察官の請求に応じて裁判官が逮捕状を発付します。裁判官は,逮捕の理由がある場合,明らかに逮捕の必要がないのでない限りは逮捕状を発付しなければならないとされています。
ポイント
通常逮捕は,逮捕状に基づいて行う原則的な逮捕
逮捕の理由と逮捕の必要性が必要
③緊急逮捕
緊急逮捕は,犯罪の疑いが十分にあるものの,逮捕状を待っていられないほど急速を要する場合に,逮捕状がないまま行う逮捕手続を言います。
緊急逮捕は,逮捕状なく行うことのできる例外的な逮捕のため,可能な場合のルールがより厳格に定められています。具体的には以下の通りです。
緊急逮捕の要件
1.死刑・無期・長期3年以上の罪
2.犯罪を疑う充分な理由がある
3.急速を要するため逮捕状を請求できない
4.逮捕後直ちに逮捕状の請求を行う
緊急逮捕と現行犯逮捕は,いずれも無令状で行うことができますが,緊急逮捕は逮捕後に逮捕状を請求しなければなりません。また,現行犯逮捕は一般人にもできますが,緊急逮捕は警察や検察(捜査機関)にしか認められていません。
緊急逮捕と現行犯逮捕の違い
現行犯逮捕 | 緊急逮捕 | |
逮捕状 | 不要 | 逮捕後に請求が必要 |
一般人の逮捕 | 可能 | 不可能 |
逮捕後の流れ
逮捕されると,警察署での取り調べが行われた後,翌日又は翌々日に検察庁へ送致され,検察庁でも取り調べ(弁解録取)を受けます。この間,逮捕から最大72時間の身柄拘束が見込まれます。
その後,「勾留」となれば10日間,さらに「勾留延長」となれば追加で最大10日間の身柄拘束が引き続きます。この逮捕から勾留延長までの期間に,捜査を遂げて起訴不起訴を判断することになります。

ただし,逮捕後に勾留されるか,勾留後に勾留延長されるか,という点はいずれの可能性もあり得るところです。事件の内容や状況の変化によっては,逮捕後に勾留されず釈放されたり,勾留の後に勾留延長されず釈放されたりと,早期の釈放となる場合も考えられます。
逮捕をされてしまった事件では,少しでも速やかな釈放を目指すことが非常に重要になりやすいでしょう。
ポイント
逮捕後は最大72時間の拘束,その後10日間の勾留,最大10日間の勾留延長があり得る
勾留や勾留延長がなされなければ,その段階で釈放される
逮捕による不利益
逮捕をされてしまうと,以下のように多数の不利益が見込まれます。
①社会生活を継続できない
逮捕をされてしまうと,身柄が強制的に留置施設へ収容されてしまうため,日常の社会生活を続けることができません。スマートフォンの所持も許されないので,外部の人と連絡を取ることも不可能です。
そのため,周囲と連絡等ができないことによる様々な問題が生じやすくなります。
また,逮捕後勾留されるまでの間は,原則として弁護士以外の面会ができません。面会によって最低限の連絡を図ろうと思っても,勾留前の逮捕段階では面会すら叶わないことが一般的です。
さらに,勾留後についても,接見禁止決定がなされた場合には弁護士以外の面会ができません。
②仕事への影響
逮捕された場合,仕事は無断欠勤となることが避けられません。その後,身柄拘束が長期化すると,それだけの間欠勤をし続けなければならないことにもなります。こうして仕事ができないでいると,仕事への悪影響を回避することも難しくなります。
また,逮捕によって勤務先に勤め続けることが事実上難しくなる場合も考えられます。
逮捕は罰則ではなく捜査手法の一つに過ぎないため,逮捕だけを理由に懲戒解雇されることは考え難いですが,一方で仕事の関係者に自分の逮捕が知れ渡ると,事実上仕事が続けられなくなるケースも珍しくはありません。
③家族への影響
逮捕されると,通常,同居の家族には捜査機関から逮捕の事実が告げられます。場合によっては,家族が逮捕に伴う各方面への対応を強いられることも考えられます。また,家族にとっては,被疑者が逮捕された,という事実による精神的苦痛も計り知れず,一家の支柱が逮捕された場合には経済的な問題も生じ得ます。
このように,逮捕は本人のみならず家族にも多大な影響を及ぼす出来事となりやすいものです。
④報道の恐れ
刑事事件は,一部報道されるものがありますが,報道されるケースの大半が逮捕された事件の場合です。通常,逮捕された事件の情報が警察から報道機関に通知され,報道機関はその情報を用いて刑事事件の報道を行うことになります。
そのため,逮捕された場合は,そうでない事件と比較して報道の恐れが大きくなるということができます。
万一実名報道の対象となり,氏名や写真とともに逮捕の事実が公になると,その記録が後々にまで残り,生活に重大な支障を及ぼす可能性も否定できません。
一般的には,重大事件や著名人の事件,社会的関心の高い事件など,報道の価値が高い事件が特に報道の対象となりやすいため,逮捕=報道ということはありませんが,逮捕によって報道のリスクを高める結果が回避できるに越したことはありません。
⑤前科が付く可能性
逮捕と前科に直接の関係はありませんが,逮捕されるケースは重大事件と評価されるものであることが多いため,事件の重大性から前科が付きやすいということが言えます。
逮捕をするのは逃亡や証拠隠滅を防ぐためですが,逃亡や証拠隠滅はまさに前科を避ける目的で行われる性質のものです。そのため,逮捕の必要が大きいということは前科が付く可能性の高い事件である,という関係が成り立ちやすいでしょう。
痴漢事件で逮捕を避ける方法
①現行犯逮捕を避ける場合
痴漢事件では,まず事件現場における現行犯逮捕を避ける必要があります。ひとたび適法な現行犯逮捕が成立してしまえば,その後に身柄を拘束し続けることが正当化できてしまい,ズルズルと釈放から遠ざかってしまうためです。
逆に,最初の段階で適法な現行犯逮捕ができなければ,その後の逮捕は通常逮捕とならざるを得ません。もっとも,逮捕状が必要である点や一般私人にはできない点など,現行犯逮捕にはない複数のハードルが生じるため,逮捕の可能性が大きく下がりやすいと言えるでしょう。
この点,現行犯逮捕を避けるには,とにかく現場にとどまり続けないことが適切です。現行犯逮捕は,犯行と逮捕の間に時間的・場所的なズレがない場合でなければ行うことができないため,現場を離れ,時間を空けることができれば,現行犯逮捕は不可能となります。
ただし,現場を離れる際に別の犯罪に当たる行為をしてしまったり,逃亡の恐れが高いと評価される方法を取ったりするのは逆効果です。「痴漢事件の被疑者が線路に降りて逃走した」というニュースを目にすることもありますが,これはかえって逮捕の可能性を自ら高めてしまっていると言わざるを得ません。
そのため,逮捕を避けるためには,できる限り穏やかな方法でその場を立ち去る,ということを最初の目標にするのが望ましいでしょう。逃亡と評価され得る形は取らず,一方でその場にとどまることは断る,という方針で,まずは現場での現行犯逮捕を避けるのが得策です。
ポイント
現行犯逮捕は犯行と逮捕の場所にズレがあると困難
現行犯逮捕を避けるためにはできるだけ穏やかにその場を立ち去る
②現行犯逮捕されなかった後の場合
事件直後に警察が駆け付け,その後に帰されたなど,現行犯逮捕されなかった場合は,いわゆる後日逮捕(=通常逮捕)を回避することが必要です。
この点,通常逮捕されるのは,被疑者に逃亡や証拠隠滅の恐れがある場合であるため,自分に逃亡の意思も罪証隠滅の意思もない,ということを捜査機関に理解してもらうことが重要になってきます。
具体的には,警察との間で取り調べの予定を設けていればその予定に沿って出頭するなど,可能な限りの捜査協力を行うスタンスが適切でしょう。捜査協力の態度と逃亡・証拠隠滅は,被疑者の動きとして両立しづらいものであるため,捜査協力の姿勢を適切に見せていくことができれば,通常逮捕の可能性は低下しやすいと言えます。
また,具体的な捜査協力の予定を設けていない場合には,自ら捜査機関の担当者に問い合わせ,取調べなどの捜査に関する日程調整を希望したいことを申し入れるのも一案です。そこで実際に日時が決められるかどうかにかかわらず,捜査協力の態度を示すことは可能です。
ポイント
後日逮捕を避けるには,逮捕しなくても逃亡や証拠隠滅の恐れがないと判断してもらうのことが有益
捜査協力のスタンスを示すことが重要な手段に
③事件発覚前に逮捕を避ける場合
痴漢事件が捜査機関に発覚する前の段階では,後に被害者などが捜査機関に捜査を求めた場合の逮捕を避けることが必要です。痴漢事件は,被害者に発覚していないという場合が考えにくいため,被害者から後日にでも捜査機関に相談などし,捜査が開始されるという可能性は残り続けます。
この点,被害者による捜査機関への被害申告が考えられる場合には,その前に自分から捜査機関に出頭する方法が有力です。つまり,自首によって逮捕の回避を目指すというわけですね。
自首した人物がその後に逃亡や証拠隠滅をする可能性は低いと理解されるのが通常です。そのため,捜査機関から求められて初めて出頭するのではなく,その前に自分から自首ができれば,逮捕の可能性は非常に低くなるということができるでしょう。
ポイント
痴漢事件は,後日でも被害者が捜査機関に捜査を求める場合があり得る
捜査機関に呼び出される前に自首すれば,逮捕の可能性は大きく低下する
痴漢事件の逮捕は弁護士に依頼すべきか
痴漢事件で逮捕を防ぎたい場合には,弁護士への依頼が非常に有力です。
逮捕は,強制的に人の身体を拘束する手続であるため,そのルールや要件が厳格に定められています。そのため,逮捕を回避するためには,逮捕に関する法律の定めを把握した上での対応が適切となります。また,全ての逮捕が法律の定めに沿って行われているわけではなく,厳密には違法の可能性がある逮捕もなされ得るため,違法な逮捕行為を許さない対応も必要です。
しかし,これらの対応は弁護士なしでは困難と言わざるを得ません。当事者が自分で適切に判断して行動に移すというのは,現実的でないのみならず負担が大きくなり過ぎる懸念もあります。
痴漢事件の逮捕に関して適切な動きを取るためには,対応に精通した弁護士に依頼することをお勧めします。
痴漢事件の逮捕に関する注意点
①逮捕を避ける時間的余裕がない場合
痴漢事件の逮捕は現行犯逮捕が多数ですが,現行犯逮捕は事件直後に行われるため,これを避ける時間的余裕がない場合も少なくありません。逮捕までの間に弁護士への依頼を行う,というのも現実的に困難な場合が多いので,事前の回避策を講じられない可能性には注意しておくことが望ましいでしょう。
②逮捕後の釈放も同様に重要
痴漢事件の現行犯逮捕を避ける時間的余裕がない場合など,逮捕を回避できなかったケースでは,逮捕後に少しでも早く釈放されることを目指すのが重要です。
痴漢事件では,逮捕されてもその後早期に釈放される場合が少なくありません。逮捕後に速やかな釈放が獲得できれば,生活への影響は逮捕されなかった場合と同じくらいに小さく収まる可能性が高いでしょう。
痴漢事件の場合,逮捕後に釈放を目指す動きは,逮捕を防ぐ動きに匹敵するほど重要なものである,ということは踏まえておくことが適切です。
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藤垣法律事務所代表弁護士。岐阜県高山市出身。東京大学卒業,東京大学法科大学院修了。2014年12月弁護士登録(67期)。全国展開する弁護士法人の支部長として刑事事件と交通事故分野を中心に多数の事件を取り扱った後,2024年7月に藤垣法律事務所を開業。弁護活動のスピードをこだわり多様なリーガルサービスを提供。