このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。
【このページで分かること】
・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容
目次
事案の概要
被害者が単車を乗車中,直進走行していたところ,前方の四輪車が左折を試みたため,被害者は巻き込み事故に遭い,鎖骨骨折などのケガを負いました。
治療終了後,鎖骨の変形及び肩関節の可動域制限が残ったため,後遺障害併合11級が認定されました。
等級認定の後,相手保険から損害賠償額の提示を受けた段階で,金額の合理性や増額の可能性などに関する弁護士へのご相談を希望されました。
法的問題点
①過失割合
相手保険からの提示内容では,過失割合が被害者20%とされていました。
被害者にも過失割合がある場合,過失割合の分だけ賠償額が減少することになるため,過失割合の数字が適切であるかどうかは十分な確認が必要となります。
この点,直進単車と,先行する左折四輪車の間で発生した巻き込み事故は,基本過失割合が20:80とされています。
「別冊判例タイムズ38号」より引用
そのため,事故態様が上図と同様であり,過失割合を修正するべき事情がなければ,被害者の過失割合を20%とする解決が合理的となりそうです。
②傷害慰謝料
交通事故では,入通院期間に応じた傷害慰謝料という慰謝料が発生します。これは,入院や通院を強いられたことの精神的負担や,治療を要するようなケガを負った苦痛への金銭賠償という性質のものです。
そのため,傷害慰謝料の金額は,ケガが大きいほど高額になり,治療期間が長期に渡る方が高額になることが一般的です。
本件で,被害者は300日(10か月)を超える治療を要していました。この期間は決して短いものではなく,骨折後の回復に時間を要したことが容易に想像されます。
しかし,保険会社から示された傷害慰謝料は32万円と非常に低額なものでした。この金額は,むち打ちで2か月程度の通院を行った場合に合意されやすい慰謝料と同水準であり,受傷内容や治療を要した期間と比較すると十分な金額とは評価し難いものと思われました。
傷害慰謝料が低額となっている大きな要因は,被害者の実通院日数が少なかったためであると見受けられました。骨折の場合,頻繁にリハビリ通院を行うのでなく,月単位で期間を空けて経過観察の通院をする形となることも少なくありませんが,その場合は実通院日数が少なくなりがちです。実通院日数が少ないケースでは,それを根拠に相手保険が低額な慰謝料の提示を行うことが一定数見られます。
ポイント
傷害慰謝料は,受傷内容や通院期間を基準に計算する
実通院日数が少ないことを理由に低額の提示となっていた
③後遺障害逸失利益
後遺障害等級が認定された場合,損害の項目として後遺障害逸失利益が発生します。後遺障害逸失利益は,後遺障害によって労働能力が低下したことにより,被害者に生じる収入減少を金額計算したものです。
後遺障害逸失利益は,以下の計算式で算出されます。
後遺障害逸失利益
=「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」
具体的な金額交渉においては,「労働能力喪失率」と「労働能力喪失期間」が争点になる場合が多く見られます。本件でも,「労働能力喪失率」と「労働能力喪失期間」が争点となることが見込まれる状況でした。
【労働能力喪失率】
被害者の後遺障害は,肩関節の可動域制限12級と鎖骨の変形障害12級で,併合11級でした。この点,可動域制限は労働能力に直接影響を及ぼすものですが,変形障害は必ずしも労働能力に影響を及ぼすものではありません。変形したから労働能力が低下するとは限らないためです。
そのため,このようなケースでは,可動域制限のみが労働能力を低下させているものと評価し,12級相当の労働能力喪失率を採用することが考えられます。
労働能力喪失率
1級 | 100% |
2級 | 100% |
3級 | 100% |
4級 | 92% |
5級 | 79% |
6級 | 67% |
7級 | 56% |
8級 | 45% |
9級 | 35% |
10級 | 27% |
11級 | 20% |
12級 | 14% |
13級 | 9% |
14級 | 5% |
もっとも,本件では12級相当の14%でなく,11級相当の20%で計算された逸失利益が提示されていました。そのため,労働能力喪失率に関しては有益な内容になっていると思われました。
【労働能力喪失期間】
労働能力喪失期間は,労働能力の喪失が収入減少をもたらす期間を指します。基本的には,収入を得ている間(=労働ができる間)が労働能力喪失期間となります。
そして,特段の事情がない場合,症状固定から67歳までの期間が労働能力喪失期間とされるのが原則です。一方,67歳までの期間とすることが不適切な事情がある場合には,個別の内容を踏まえて検討することになります。
この点,被害者は症状固定時53歳であったところ,相手保険の提示内容では,60歳までの7年間のみが労働能力喪失期間とされていました。一般的な給与所得者は60歳で定年を迎えることから,保険会社の提示では60歳までを労働能力喪失期間とすることが多く見られます。本件でも,特に個別の事情を考慮することなく機械的に60歳までとの計算をしていることが見受けられました。
しかし,被害者の労働能力喪失期間が本当に60歳までに限定されてよいかどうかは,被害者の労働に関する現状や見込みを踏まえて判断することが必要です。そもそも,原則としては67歳までの期間を採用するべきであって,機械的に60歳までと区切ることが当然に認められるものではありません。
そのため,労働能力喪失期間については具体的な検討や交渉の余地があるものと思われました。
ポイント
労働能力喪失率は有益な内容と思われる
労働能力喪失期間は交渉の余地がありそう
弁護士の活動
①過失割合
過失割合については,本件の事故態様における基本過失割合と整合する20%の提示であったため,弁護士の方では,過失割合の修正要素に当たる事情の有無を確認することとしました。
修正要素とは,基本過失割合をそのまま採用することが不適切な事情を指し,事故類型ごとに修正要素とされるものが定められています。左折四輪車の巻き込み事故であれば,左折車がウインカーを出していない(合図なし),左折前に徐行していない(徐行なし)といった事情が,単車側の過失を減少させる修正要素となり得ます。
もっとも,本件では特段の修正要素が確認されませんでした。そのため,過失割合については20%を了承する前提で金額交渉を実施することとしました。
ポイント
過失割合については修正要素の有無に注意
本件では修正要素がないとの結論に
②傷害慰謝料
傷害慰謝料は,特に理由を示すことなく金額提示がされていたため,相手保険の提示内容に合理的な根拠が見受けられない状況でした。そうすると,被害者側が相手保険の提案を了承する理由もないということになります。
弁護士からは,相手保険の提示金額では了承が不可能である姿勢を毅然と示すとともに,いわゆる裁判基準を念頭に置いた金額以外には合意の余地がないとのスタンスを強く示すことにしました。
また,被害者は,骨折後の治療に際して,鎖骨バンドと呼ばれる固定器具を数か月間使用し続けるなどの負担を余儀なくされ,骨の癒合がなされるか不安定な期間を過ごしたという経緯もあったため,これらの事情を踏まえた主張も行うこととしました。具体的には,実通院日数が少ないことが被害者の精神的苦痛を低下させる事情とは言えず,かえって通院治療では改善しない(=患部を固定し続けるしかない)という状況を強いられた精神的苦痛を考慮すべきとの主張を合わせて行うこととしました。
ポイント
裁判基準を念頭に置いた金額以外では合意が不可であることを毅然と主張
慰謝料の根拠として,長期間骨折部の固定を強いられたことを指摘
③逸失利益
【労働能力喪失率】
労働能力喪失率については,相手保険の提示が11級相当の20%とされており,被害者にとって最も有益な内容であったため,そのまま採用することとしました。
【労働能力喪失期間】
労働能力喪失期間については,相手保険の提示が60歳までという短期間であったため,これを改めることを求める交渉を実施しました。
前提として,被害者の労働状況や後遺障害の影響を確認することとしました。
被害者は,作業療法士の仕事をしており,日常生活の機能改善を図るリハビリテーションの対応を主な業務としていました。そして,リハビリテーションに伴って必要となる補助などの力仕事に,後遺障害の影響が強く生じていることが分かりました。
業務に必ず発生する力仕事への悪影響は,被害者が労働を継続する限り生じし続ける重大なものであり,不用意に労働能力喪失期間を限定するべきではないと判断できました。
また,60歳以降に労働が予定されているか,という点についても具体的な確認を行いました。この点,被害者の場合には,そもそもの定年が60歳ではなく63歳であること,被害者の希望によって67歳までの就業も可能であることが確認できました。
そのため,被害者の労働能力喪失期間を60歳で区切ることには全く根拠がなく,原則である67歳までの期間を採用すべきであると主張する方針を取りました。
活動の結果
慰謝料及び逸失利益について,弁護士より相手保険との交渉を試みたところ,慰謝料についてはいわゆる裁判基準満額,逸失利益は67歳までの期間を採用するという当方の請求通りの解決に至りました。
その結果,従前の提示額約740万円に対して,約1180万円での合意となり,440万円を超える増額に至りました。合意額は,裁判を行った場合の請求額に匹敵する水準でした。
なお,交渉で裁判基準の満額が獲得できることはほとんどないため,本件は特に交渉が奏功した結果であったと言えるでしょう。
また,弁護士への依頼から賠償金の受領に要した期間は約1か月半であり,満額合意と早期解決を両立する結果にもなりました。
弁護士によるコメント
本件は,慰謝料と逸失利益のそれぞれに一定の交渉余地があり,かつ相手保険の主張に明確な根拠が見受けられないというものでした。この場合,根拠のない主張を受け入れる意思はない,という点をまず明確に示すことが有力な進め方になりやすいでしょう。
本件でも,弁護士から毅然とした主張を行うことから開始したことにより,こちらのスタンスが相手保険にはっきりと伝わり,早期の高額解決につながりました。
また,本件の特筆事項として,相手保険の満額回答が挙げられますが,この点にも毅然とした請求方針が影響したと思われます。具体的な根拠を添えて毅然と主張したことで,保険会社はこちらが訴訟を辞さないであろうことを感じ取ったため,満額回答をしてでも早期に交渉で解決しようとした,と考えられます。
金額の主張に根拠があるか,どのような根拠を主張すべきか,といった点は,まさに弁護士が交渉に際して重要視すべき点であり,弁護士以外には検討が困難なことでもあります。金額交渉に際して弁護士依頼をしていただくことの有益さを改めて確認する事件となりました。
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