●交通事故加害者が無保険だった場合,どうすべきか?
●自分の保険を確認する場合,何を確認すべきか?
●被害に遭ったのに自分の保険を使うのはおかしくないか?
●相手が無保険の場合に注意すべきことは何か?
●加害者無保険の場合は弁護士に依頼すべきか?
というお悩みはありませんか?
このページでは,加害者が無保険の交通事故でお困りの方に向けて,加害者が無保険の場合にすべき対応や確認,弁護士依頼のメリットデメリットなどを解説します。
目次
相手無保険時の対応策①相手本人への請求
交通事故の被害に遭った場合,多くは加害者が加入する自動車保険の担当者が対応し,その保険会社から金銭を受領する,という流れになります。
しかしながら,保険担当者の取り扱いが受けられるのは,加害者が任意保険に加入している場合のみです。加害者が任意保険に加入していない場合には,自動車保険の担当者が対応することもなければ,保険会社が賠償額を案内したり支払ってきたりすることもありません。
そのため,相手が任意保険に入っていない場合,被害者自身が積極的に金銭を請求し,獲得することが必要となります。
この点,最も直接的な手段は,加害者本人への請求です。
そもそも,任意保険は加害者本人の代わりに金額交渉や支払を行う立場です。そのため,代わりになる任意保険がない以上は,原則通り本人に請求する,という動きが一般的と言えるでしょう。
しかし,相手本人への請求には,回収リスクが付きまとう点に注意が必要となります。
加害者本人が任意保険に入っていないのは,保険料の負担が困難(又は避けたい)など,経済的な理由のある場合がほとんどです。そのため,相手本人に損害賠償を請求しても,支払う能力がないと開き直られてしまい,回収が十分にできない場合も少なくないのです。
また,加害者本人が律儀に対応し続けるとの期待もできないことが多く,なかなか連絡がつかなかったり,急に連絡が取れなくなったりといったトラブルが生じることも多く見られます。
被害者としては,可能な限り加害者本人への請求という手段は避けて解決したいところです。
ポイント
任意保険は相手本人の代わり
無保険の場合は代わりがいないため,本人への請求が原則
もっとも,適切な対応が期待しづらく避けたいところ
相手無保険時の対応策②自賠責保険への請求
相手が任意保険に入っていなくても,自賠責保険に入っていれば,自賠責保険金の請求はできることが通常です。
前提として,自動車保険には自賠責保険と任意保険の2種類があります。そして,自賠責保険は被害者への最低補償を行う強制加入の保険,任意保険は自賠責保険で補償しきれない部分を補償する加入任意の保険という違いがあります。
自動車保険の種類
種類 | 役割 | 加入のルール |
自賠責保険 | 被害者への最低限の補償を行う | 法律上強制加入 |
任意保険 | 自賠責保険で補償できない範囲を補償 | 加入するかは任意 |
自賠責保険の場合,支払われる保険金の内容が明確に定められており,交渉の余地はありません。裏を返せば,請求さえすれば特段の交渉をしなくても定められた保険金を受領することが可能であるため,交通事故被害者の被害が全く補填できない,という問題を回避する役割を持つ保険でもあります。
そのため,加害者が任意保険に入っていない場合には,まず加害者の自賠責保険から自賠責保険金を回収することを目指すのが有力です。
ただし,自賠責保険金は,あくまで被害者を救済するための最低補償を内容とするものです。被害者が被った損害の規模とは関係なく,支払の金額は決まっているため,被害者の損害のすべてをカバーできるわけではない点に注意が必要です。
一般的に,自賠責保険金額は被害者の損害総額を下回ることになりやすいため,損害の一部を円滑に回収する手段,という理解が適切でしょう。
ポイント
任意保険がなくても自賠責保険からの回収が可能
自賠責保険金額はあらかじめ明確にルールが定められている
被害者の損害総額をカバーできるわけではない
相手無保険時の対応策③自分の保険の利用
相手やその保険に期待ができない場合,自分が入っている自動車保険のサービスを活用して損害の回復を図る手段が有力です。
自動車保険には,自分が加害者になってしまった場合の賠償保険(対人賠償,対物賠償)のほか,交通事故によって自分が被ってしまった損害に対する補償をしてくれるものも含まれていることが通常です。保険の内容により,定まった金額を給付するものから,加害者が支払うべき金額を代わりに支払ってくれるものまで様々ですが,その支払が確実に期待できる,という点が非常に大きな長所と言えます。
相手が無保険の場合,どうしても相手本人の対応や支払能力に依存してしまうことが多いため,自分の保険を活用して相手に依存してしまうというリスクを回避することは,非常に有益な方法と考えてよいでしょう。
もっとも,具体的にどのような保険がどのような役割を果たしてくれるかは,事故が発生する前にはあまり把握していないという場合が多いと思われます。そこで,以下では活用し得る自分の自動車保険について,代表的なものを解説します。
ポイント
自分の保険で被害を補償してくれるものもある
確実に支払を得られることが大きなメリット
活用し得る自分の保険①人身傷害保険
人身傷害保険は,事故によって身体に損害を受けた場合,その損害に対して保険金が支払われる,という内容の保険です。対人賠償保険が事故相手の人身損害への支払の保険とすれば,人身傷害保険は自分の人身損害への支払を行う保険,という区別ができるでしょう。
主な内容は以下の通りです。
人身傷害保険の主な内容
1.補償範囲
事故による怪我,死亡,後遺障害などに対して保険金が支払われます。保険金の額は契約内容に基づいて決まります。
2.補償内容
医療費
→怪我の治療にかかった医療費が補償されます。
休業損害
→怪我によって仕事を休む場合,その間の収入の一部を補償します。
死亡・後遺障害
→事故によって死亡した場合や後遺障害が残った場合に保険金が支払われます。
なお,人身傷害保険からの支払金額は,被害者の損害額とイコールというわけではありません。これは,人身傷害保険金額の計算方法が保険約款によって定められており,支払金額は約款に従うものとなるためです。
多くの場合,人身傷害保険金額は被害者の損害を裁判基準で計算した金額には及びませんが,例外的に裁判基準を上回る金額となるケースもあります。
ポイント
人身傷害保険は,自分の人身損害を補償してくれる保険
支払金額の計算方法は約款に定められている
活用し得る自分の保険②無保険車傷害保険
無保険車傷害保険は,交通事故の際に相手車両が保険に加入していない場合や、相手の保険金額が不足している場合に、自分の人身損害に対して補償を受けられる保険です。
文字通り,相手が無保険車の場合に効果を発揮する保険で,その支払金額は加害者が支払うべき金額となる,という点に大きな特徴があります。
ただし,無保険車傷害保険が利用できるのは,死亡事故又は後遺障害を伴う事故に限られます。後遺障害等級の認定がなされるような重大な事故のみを対象とする代わりに,補償範囲が非常に充実した保険ということができるでしょう。
無保険車傷害保険の主な内容
1.補償範囲
死亡事故又は後遺障害等級が認定された事故における人身損害が対象となります。後遺障害のない事故は補償範囲に含まれません。
2.補償内容
死亡保険金
→事故によって被保険者が死亡した場合に支払われる保険金です。
後遺障害保険金
→事故によって後遺障害が残った場合に支払われる保険金です。
医療費等
→事故による治療費や通院交通費,休業損害等が補償されます。
死亡事故や後遺障害が残る重大な事故の場合には,この無保険車傷害保険の有無を確認することが重要になりやすいでしょう。最も金額が大きくなりやすく,被害者側の救済にとって重大な役割を果たしてくれるためです。
ポイント
無保険車傷害保険は,加害者の支払うべき金額を支払う被害者の保険
死亡事故又は後遺障害等級の認定される事故でのみ利用可能
活用し得る自分の保険③車両保険
車両保険は,事故によって損傷した自動車の損害を補償するための保険です。対物賠償保険が事故相手の物損を補償するための保険であるとすれば,車両保険は自分の物損を補償するための保険であると区別できるでしょう。
自動車事故が発生した場合,事故車両をどうするのか,という点は必ず生じることになります。特に重大な事故で車両が自走できない場合には,車両をどのように移動させるかという問題も生じかねませんが,車両保険にはレッカー費用の補償も含まれていることが一般的であるため,車両保険を利用することで車両の適切な処理も可能になります。
ポイント
車両保険は,自分の物損を補償する保険
活用し得る自分の保険④搭乗者傷害保険
搭乗者傷害保険とは,自動車に搭乗中に交通事故が発生し、その結果として乗車していた人が怪我をしたり死亡したりした場合に、補償金を支払う保険です。この保険は、運転者だけでなく同乗者も対象となることが特徴的です。
また,搭乗者傷害保険は,一定の条件を満たした場合に,これに応じた定額の保険金が支払われる,という内容になっていることが一般的であり,大きな特徴でもあります。
支払われる金額が決まっているため,早期に受領することが可能になりやすく,事故後の損害を早期に補填するための保険として活用されることが多いものです。
搭乗者傷害保険の主な内容
1.補償の対象
→契約車両に搭乗中の全ての乗車人(運転者および同乗者)
→車両の事故による怪我、死亡、後遺障害など
2.補償内容
死亡保険金
→事故によって死亡した場合に支払われる保険金です。
後遺障害保険金
→事故によって後遺障害が残った場合に支払われる保険金です。
入院・通院保険金
→事故による怪我で入院や通院が必要となった場合の保険金です。日額で支払われることが一般的です。
手術保険金
→事故による怪我で手術を受けた場合の補償金です。
3.支払方法
→定額払いとされることが通常です。
4.メリット
→定額払いのため,迅速に支払われやすく,経済的負担の軽減につながります。
→同乗者も補償の対象となるため,補償の範囲が広い保険です。
搭乗者傷害保険は,迅速な支払いがなされる有益な保険ですが,一方でその金額には限りがあります。搭乗者傷害保険だけで損害のすべてをカバーするのは現実的でないため,とりあえず一定の支払を受ける,という動きに適した保険ということができます。
ポイント
搭乗者傷害保険は,車の搭乗者に定額の支払を行う保険
迅速な支払いが大きなメリットだが,金額には限りがある
被害事故で自分の保険を使うことは合理的か
加害者が保険に入っていない事故では,自分の自動車保険から補償を受けることが有力な手段ではありますが,一方で「なぜ被害を受けたのに自分の保険を使わなければならないのか」という疑問が生じることもあるかと思います。
確かに,一方的に被害を受けたのであれば,その損害に対する支払は加害者の責任で行われるべきであり,被害者が積極的に自分の保険を活用しなければならない,というのは不合理なように感じられるかもしれません。
しかし,被害事故で加害者に任意保険がない場合は,まさに自分の保険が役割を発揮するタイミングである,と理解する方がむしろ適切でしょう。保険は,自分が経済的に大きな損失を被ることがないよう,非常時の支えになってくれることを期待してつけるものです。その非常時は,加害者に保険がない場合も含まれています。
実際,自分の保険の中でも特に補償金額の大きい無保険車傷害保険は,文字通り相手が無保険車であることを前提とした保険です。相手に保険がない時こそ,自分の保険を活用することが望ましいともいえるでしょう。
一方で,加害者に請求しないで保険会社に支払ってもらうと,加害者は支払を免れることができてしまうのではないか,との疑問もあり得ます。しかし,自分の保険を利用しても,決して加害者が支払義務を免れるわけではありません。
保険会社が加害者の代わりに支払った場合,今度は保険会社が加害者に請求する権利を持つことになります。自分の代わりに保険会社が,加害者へ請求する負担を背負ってくれるというわけです。
被害者としては,自分でリスクを負って加害者に請求するのではなく,保険から適切な支払いを受けて,加害者との面倒なやり取りは保険会社にお願いしてしまう,という方針が合理的でしょう。
ポイント
被害者が自分の保険を活用することは不合理でない
むしろ,自分の保険が役割を発揮する重要なタイミングの一つ
加害者への請求は保険会社が代わりに行ってくれる
加害者に自賠責保険もない場合
ここまで,加害者に任意保険がない場合の救済方法を見てきましたが,ケースによっては加害者に自賠責保険すらない場合もあり得るところです。
自賠責保険に加入していない車を運行する行為は,事故が発生しなかったとしても犯罪行為であり,許されるものではありません。しかしながら,現実に加害者が自賠責保険未加入であった場合,犯罪だと糾弾しても金銭が受け取れるわけではありません。被害者が自賠責保険金を受領できないという不都合は残ってしまいます。
このような場合に活用するべき制度として,「政府保障事業」が挙げられます。政府保障事業は,被害者が受けた損害を,加害者に代わって国が填補する制度です。この場合,支払の金額はいわゆる自賠責基準に沿って計算されることとなります。
つまり,政府保障事業は,加害者に自賠責保険がない場合に自賠責保険の代わりをしてくれる制度ということができるでしょう。
政府保障事業の制度を活用したい場合は,各保険会社に問い合わせることで必要な書式を取得することも可能です。
ポイント
加害者が自賠責保険未加入の場合,自賠責保険金も受領できない
政府保障事業を利用することで,自賠責保険相当額を受け取ることが可能
加害者無保険の事故で弁護士依頼をすべき場合
加害者無保険の事故で弁護士に依頼すべきかどうかは,個別のケースに応じた具体的な検討が適切な問題と言えます。
前提として,弁護士に依頼する場合,依頼者側にメリットがなければなりません。交通事故被害の場合であれば,弁護士に依頼することで期待する基本的なメリットは,受け取ることのできる金額の増加,ということになるでしょう。
もっとも,加害者無保険のケースでは,弁護士に依頼をしたから増額ができるか,という点が非常に不透明になりやすいです。例えば,加害者本人からの回収を目指す場合は,回収できなかった場合のリスクを考慮する必要がありますし,自分の保険を利用する場合は,内容によっては弁護士の有無で全く金額が変わらない可能性もあります。
そのため,弁護士委任の目的が受領金額の増加ということであれば,事前にその見込みを弁護士と十分に相談し,判断することが望ましいでしょう。
一方,弁護士委任の目的が手続負担の軽減ということであれば,弁護士委任は十分に有力となり得ます。加害者の保険会社が手続を進めてくれない以上,被害者の手続負担は大きくなりやすいため,弁護士に依頼して負担を回避することは有益でしょう。
ただし,この場合には弁護士費用との兼ね合いは十分な確認が必要です。手続負担を避けるためのコストとして見合っているかどうか,慎重に検討することが望ましいでしょう。
いずれにしても,一度弁護士に相談の上,弁護士に依頼する場合にはどのような方法が有力か,案内を受けるのが円滑になりやすいと思われます。
ポイント
増額目的の場合,増額見込みの有無を事前に十分確認するのが望ましい
手続負担軽減が目的の場合,コストと見合っているかを十分に検討したい
交通事故に強い弁護士をお探しの方へ
交通事故被害に遭ったとき,加害者が無保険の場合は加害者本人から賠償金を受領することは現実的に難しい場合が多く見られます。その際には,相手の自賠責保険はもちろん,場合によってはご加入保険から補償を受けることが最も有益な結果になる場合が多いです。
もっとも,保険の確認や方法選択は容易でないため,交通事故に精通した弁護士へのご相談が有力でしょう。
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