交通事故で加害者に処罰を望まない場合の対応方法|弁護士の役割まで徹底解説

交通事故の被害に遭われた方は、怪我の治療や示談交渉、加害者の刑事処分など、さまざまな問題に直面します。

とくに、加害者が深く反省している場合、「重い処罰までは望まないが、適正な賠償は受けたい」という複雑な思いを抱えることは少なくありません。

適切な対応を誤れば、処罰意思の表明が賠償に不利に働くのではないかと不安を感じる方もいらっしゃいます。

本記事では、交通事故の被害者が加害者の処罰を望まない場合に、その意思を法的に正確に伝える方法や、被害者自身の賠償問題への影響について詳しく解説します。

この記事の監修者

藤垣圭介

藤垣法律事務所
代表 藤垣 圭介

全国に支店を展開する弁護士法人で埼玉支部長を務めた後、2024年7月に独立開業。
これまでに刑事事件500件以上、交通事故案件1,000件以上に携わり、豊富な経験と実績を持つ。
トラブルに巻き込まれて不安を抱える方に対し、迅速かつ的確な対応で、安心と信頼を届けることを信条としている。

目次

被害者が処罰を望まない意思を伝える具体的な方法と注意点

交通事故の被害者の方が「加害者に重い処罰は望まない」と考える場合、加害者の刑事手続きに影響を与える「宥恕(ゆうじょ)」の意思として法的に扱われます。

この意思を伝える方法は、口頭ではなく、後から証拠となる書面によって行う必要があります。

示談書に「処罰を望まない」旨を記載する

交通事故の損害賠償問題(民事)と加害者の刑事処分(刑事)を同時に解決する最も一般的な方法は、示談書に宥恕の意思を明記することです。

結論、この方法が推奨されるのは、賠償問題が解決したことと、処罰を求めない意思表明が一体となるため、法的な関係性が明確になるからです。

示談書には、「被害者は、本示談をもって加害者による損害の賠償を受け入れたものとし、加害者に対する刑事処罰を求めないことを表明する」といった文言を盛り込めます。

この示談書は、後に検察官が加害者を起訴するかどうかを判断する際、被害者の処罰感情が和らいでいることを示す決定的な証拠として扱われます。

ポイントとして、被害者の方がこの意思を伝えるのは、必ず賠償額(示談金)に納得し、受け取りを確約した後に限定してください。

賠償額が確定する前に意思を伝えてしまうと、後の交渉で不利になる可能性があります。

(参考文献:民法 第709条、刑事訴訟法 第248条)

検察官宛てに「嘆願書(加害者有利)」を提出する

示談書とは別に、被害者の方が個別に加害者の処罰軽減を求める嘆願書を、事件を担当している検察官宛てに提出することも可能です。

嘆願書は、示談の成立とは独立して、被害者の純粋な処罰感情の緩和を直接的に検察官に訴えるための手段となります。

嘆願書には、加害者が事故後に真摯に謝罪や反省をしている点、示談が成立している点などを記載し、「よって、検察官におかれては、加害者に対して寛大な処分(不起訴処分など)を下していただきたい」という旨を明記します。

注意点は、嘆願書に一度署名をしてしまうと、後からその内容を撤回することは困難です。

必ず内容を吟味し、ご自身の処罰感情と賠償額に納得した上で、提出するかどうかを決定するようにしてください。

処罰を望まない意思が加害者の刑事手続きに与える影響

被害者が加害者に処罰を望まないという「宥恕の意思」は、加害者の刑事処分に対して大きな影響を受けます。

宥恕の意思があることは、加害者の刑事処罰が最も軽い処分、すなわち不起訴処分となる可能性を高めます。

不起訴処分となれば、加害者には前科はつきません。万が一、検察官が加害者を起訴したとしても、裁判官は被害者の宥恕の意思を情状として最大限考慮します。

これにより、懲役刑や禁錮刑などの重い実刑ではなく、執行猶予付きの判決や、罰金で済む略式命令となる可能性が高まるのです。

交通事故の処罰を望まない場合の弁護士の役割

加害者に処罰を望まない被害者の方にとって、弁護士に依頼することは、単に賠償金を獲得する以上の大きなメリットがあります。

ここからは、交通事故の処罰を望まない場合の弁護士の役割について詳しく解説します。

適正な賠償額の算定と獲得

被害者側の弁護士の重要な役割は、被害者が受けた損害に見合った、最も高額な弁護士基準(裁判基準)による賠償金を獲得することです。

処罰を望まないという意思とは関係なく、弁護士は保険会社が提示する低額な基準ではなく、裁判実務に基づいた適正な慰謝料額を算定し、交渉によって確実に被害者の利益を守ります。

保険会社は、自社の基準で低い賠償額を提示することが多いため、弁護士が介入し、法的な根拠に基づいた請求を行うことで、賠償額を大幅に増額できるでしょう。

加害者への間接的な意思伝達

加害者側から嘆願書の提出や示談交渉を求められた際、被害者の方が直接対応するのは精神的な負担が大きいものです。

弁護士が被害者の代理人となることで、加害者やその弁護人との交渉窓口を一本化できます。

これにより、被害者の方は煩雑な交渉から解放され、治療に専念できるようになるでしょう。

処罰を望まない意思表明のタイミングや形式についても、弁護士が被害者の方の意思を確認した上で、法的に最も適切な方法で加害者側に伝達します。

感情と実利の切り分け

被害者の方は、加害者の反省の度合いを見て「重い処罰は不要」と考える一方で、「怪我や生活の被害に対しては十分な賠償を受けたい」という複雑な思いを抱えます。

弁護士は、処罰感情という感情的な側面と、適正な賠償金獲得という実利的な側面を明確に切り分け、交渉を進められます。

被害者の感情に寄り添いつつも、示談交渉においては法的な基準に基づいて冷静に判断するよう助言し、被害者の方が感情に流されて不利益な示談をすることを防げるでしょう。

交通事故の被害者が適切な解決を目指すための行動ステップ

加害者の処罰を望まない場合でも、被害者の方が適切な賠償を獲得し、事件を円満に終結させるために、以下のステップで行動することが重要です。

ステップ1:まずはご自身の治療と賠償問題の解決を優先する

加害者の刑事処分を心配する前に、何よりも優先すべきは被害者ご自身の怪我の治療と、損害の確定です。

示談交渉は、治療が終了し、将来的な後遺障害の有無が確定した後に行うのが原則です。

損害額が確定していない段階で安易に示談や処罰意思の表明をしてしまうと、将来発生する可能性のある損害について賠償を受けられなくなるおそれがあります。

ステップ2:示談交渉に入る前に弁護士基準の賠償額を把握する

保険会社から示談の提案があったとしても、その金額に安易に合意してはいけません。

示談交渉を始める前に、必ず弁護士に相談し、ご自身の損害が最も高額な弁護士基準(裁判基準)でいくらになるのかを正確に把握しておくべきです。

保険会社は、自社の基準(任意保険基準)や自賠責保険の基準など、低額な基準で慰謝料を提示します。

弁護士が介入し、弁護士基準を適用することで、提示額が2倍~3倍に増額するケースも珍しくありません。適正額を把握することで、交渉で不利になることを防げます。

ステップ3:処罰を望まない意思は「示談書」の署名時に伝える

処罰を望まないという意思(宥恕の意思)は、加害者に対する被害者の方の大きな譲歩の一つです。

この重要な意思表示は、適正な賠償額で示談が成立し、示談書に署名捺印する際に、書面に明記する形で伝えるのが安全で、効果的な行動となります。

先に宥恕の意思だけを伝えてしまうと、加害者側が「処罰回避の目的は達した」として、後の賠償交渉で非協力的になるリスクがあります。

示談書の締結をもって初めて意思を伝えることで、被害者の方の利益を最後まで守ることができるのです。

まとめ

交通事故の加害者に処罰を望まないというお気持ちは、加害者の真摯な反省を受け入れた結果であり、事件の円満な解決を目指す上で重要なことです。

この「宥恕(ゆうじょ)の意思」は、加害者の不起訴処分の可能性を高める、法的に極めて重要な要素となります。

しかし、その意思が被害者ご自身の賠償額を減らすことは原則としてありません。

感情的な面と実利的な面を切り分け、「治療の完了」「弁護士基準の適正な賠償金獲得」を確実に実現した上で、示談書を通じて宥恕の意思を伝えることが、被害者の方にとって最も賢明で、後悔のない解決方法です。

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