【労災事故解決事例】工事現場で事故被害に遭った後遺障害1級の被害者を弁護し,将来介護費を含め約1億9,000万円の賠償を獲得した事例

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】
・実際に事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

今回は,工事現場における労災事故で後遺障害1級となった被害者を弁護した結果,将来介護費を含めて総額約1億9000万円が獲得された事例を紹介します。

事案の概要

被害者は,大型建物の撤去工事に参加していたところ,重機で引き上げていた重量物が落下し,手足に直撃する事故に遭いました。事故の結果,被害者は両足の膝から下を失うとともに,右手も失うという重大な障害を負いました。

法的問題点

①後遺障害等級

下肢の欠損については,以下の後遺障害等級が考えられます。
(なお,便宜上自賠責保険の認定基準を用います)

両下肢を失った場合の後遺障害等級

等級基準
1級5号両下肢をひざ関節以上で失ったもの
2級4号両下肢を足関節以上で失ったもの
4級7号両足をリスフラン関節以上で失ったもの

本件では,両下肢の膝から下を失っているため,1級の認定が想定されます。

また,上肢の欠損については,以下の後遺障害等級が考えられます。

1上肢を失った場合の後遺障害等級

等級基準
4級4号1上肢をひじ関節以上で失ったもの
5級4号1上肢を手関節以上で失ったもの

本件では,手関節以上を失っており,5級の認定が想定されます。

以上を踏まえると,本件では後遺障害1級の認定が明らかに見込まれる,と言っても差し支えない状況でした。
なお,これらの後遺障害は,要介護の後遺障害とはされていないため,認定基準を満たせば直ちに介護が必要と判断できるわけではありません。ただ,両下肢を失ってしまえば現実的に介護を要する場合が多いため,将来介護費の対象とすることは多く見られます。

ポイント
両下肢の欠損で後遺障害1級
要介護の後遺障害等級ではないが,現実的には介護を要しやすい

②請負関係

被害者は,建築現場の業務中に事故に遭いましたが,この建築現場には複数の会社が介入していました。このうち,被害者の立場はいわゆる孫請け(二次下請)をする会社の所属でした。
この場合,現場業務には「元請」の会社,「一次下請(子請け)」の会社と,被害者を含む「二次下請(孫請け)」の会社がいることになりますが,損害賠償の関係は元請けから二次下請までの各会社との間で生じます。

建築業務に携わる会社は,万一の事故に備えて各種の傷害保険や賠償保険に加入していることが一般的ですが,被害者の場合,直接の雇用関係にある二次下請の会社のみならず,その上位にある一次下請や元請の会社が加入している保険からの給付も受けられる可能性が高い状況でした。
このような保険給付は,交渉などを要せず比較的速やかに行われるものも多いため,漏れなく請求することが被害者の利益のためには非常に重要です。

ポイント
被害者は二次下請の会社に属していた
元請や一次下請の会社の保険給付も受けられる余地がある

③将来介護費

既に解説した通り,下肢の欠損自体は要介護の後遺障害等級とされているわけではありません。しかし,両下肢を欠損した状態では,生活に多大な支障があることは明らかであり,一人で十分な生活を送ることは困難です。
そのため,被害者の十分な救済を図るためには,将来介護費の交渉が不可欠な状況でした。

この点,将来介護費の請求を行うためには,具体的にどのような介護を要したか,という点の主張立証が重要になります。

将来介護の内容には,大きく以下の2種類が挙げられます。

将来介護の種類

1.職業介護
→職業介護人による介護(日額15,000円~20,000円ほど)

2.近親者介護
→家族等による介護(日額8,000円ほど)

一般的な介護の必要性としては,「職業介護を要する場合」「介護を要するが近親者介護で足りる場合」「近親者介護も不要である場合」という区別ができるでしょう。
したがって,近親者介護を要することが立証できなければ,将来介護費の請求は困難ということになります。

ポイント
将来介護には職業介護と近親者介護がある
介護費を請求するには,少なくとも近親者介護は必要と言えることが必要

④労災保険の手続

労災保険は,労働者が勤務中の災害で受傷した場合に損害の補填をする保険ですが,適切に給付を受けるためには必要な手続を行わなければなりません。

本件では,以下の2つの手続が想定されます。

【傷病補償等年金・特別支給金】

療養の開始後1年6か月を経過しても治療が終わらず,その負傷が1級などの上位の後遺障害に該当するものである場合,傷病補償等年金の請求が可能です。
また,等級に応じた特別支給金や特別年金の支給を受けることも可能となります。この特別支給金及び特別年金は,相手方からの賠償とは別に受領できる(損益相殺の対象にならない)ため,被害者への補償として非常に有益なものです。

傷病等級傷病補償等年金傷病特別支給金傷病特別年金
第1級給付基礎日額の313日分114万円算定基礎日額の313日分
第2級給付基礎日額の277日分107万円算定基礎日額の277日分
第3級給付基礎日額の245日分100万円算定基礎日額の245日分

【障害補償年金・特別支給金】

治療の終了後,後遺障害が残った場合,後遺障害1級から7級ではその等級に応じて障害補償年金の請求が可能です(8級から14級は年金でなく一時金のみでの支給となります)。
また,等級に応じた特別支給金や特別年金の支給を受けることも可能となります。この特別支給金及び特別年金は,相手方からの賠償とは別に受領できる(損益相殺の対象にならない)ため,被害者への補償として非常に有益なものです。

障害等級障害補償年金障害特別支給金障害特別年金
第1級給付基礎日額の313日分342万円算定基礎日額の313日分
第2級給付基礎日額の277日分320万円算定基礎日額の277日分
第3級給付基礎日額の245日分300万円算定基礎日額の245日分
第4級給付基礎日額の213日分264万円算定基礎日額の213日分
第5級給付基礎日額の184日分225万円算定基礎日額の184日分
第6級給付基礎日額の156日分192万円算定基礎日額の156日分
第7級給付基礎日額の131日分159万円算定基礎日額の131日分

本件では,生活に介護を要する被害者に代わり,これらの手続を弁護士が対応することとしました。

ポイント
治療が長期化すると傷病補償年金の請求が可能
後遺障害が残ると障害補償年金の請求が可能

弁護士の活動

①請負関係の処理

まず,弁護士からは各社で利用可能な保険の内容を一通り確認することとしました。その結果,それぞれ後遺障害1級を前提とした保険金の支払が可能であり,その総額は8,000万円あまりに上ることが分かりました
多大な損害を被った被害者にまず一定額の受領をしてもらうため,これらの保険金の支払手続を急ぐこととしました。

その後は,各社と個別に協議を行うと解決が困難になりかねないため,代表者の選定を依頼するとともに,その代表者の代理人弁護士と協議する方針を取りました。こうすることで,各社から個別に主張を受けることがなくなり,円滑な解決が可能となりました。

ポイント
各保険から合計8,000万円あまりの給付が受けられることを確認
迅速に保険金を回収することで,被害者の損害補填を実現
その後の交渉は,代表者1名との間で行う形を取った

②将来介護費の解決

将来介護費については,近親者介護の必要性を具体的に指摘することが必要でした。

そのため,被害者及び同居する母と綿密な打ち合わせを実施し,治療中及び症状固定後の介護状況を具体的に整理することとしました。聴取の結果,生活の各局面で母による献身的な介護が被害者を支えていると確認することができました。
弁護士からは,被害者に対する母親の介護状況を詳細に整理して指摘することで,将来介護費の必要が認められるに至りました。また,その日額は近親者介護を終日要する場合の基準額である8,000円となりました。

ポイント
被害者の母による介護の実績を詳細に整理
将来介護費の有無が大きな争点となることを防止

③労災保険の手続

労災保険の各給付に関しては,弁護士が被害者の代理人として申請手続を行った結果,無事に各給付を受けることができました。
被害者自身が具体的な申請を行うことは容易でないため,被害者にとっては弁護士依頼の大きなメリットが生じた一面であったとも言えるでしょう。

活動の結果

上記の活動の結果,被害者には各会社の加入する保険から所定の保険金が支払われるとともに,労災保険にて後遺障害1級が認定され,労災保険からも必要な給付がすべて行われました。
さらに,会社加入の賠償保険から逸失利益及び将来介護費などの支払を受け,その総額(将来の年金を除く)は約1億9000万円となりました。

被害者の方は,バリアフリーに配慮した自宅への転居や介護体制の完備が得られ,将来の生活に対する憂いを解消するに至りました。

弁護士によるコメント

本件は,工事現場における労災事故で,幸いにも一命を取り留めたというものでした。しかし,その受傷は一見して後遺障害1級に該当すると判断できるほど深刻であり,今後の生活保障のためにもできる限りの賠償金を獲得することが重要な状況でした。

特徴的な損害項目としては将来介護費が挙げられますが,どの程度の介護費が生じるかは,必要な介護の具体的内容による面が非常に大きいところです。そのため,請求時にどのような介護を要しているか,その介護は今後も継続的に必要か,といった点を詳細に示すことが解決の近道になります。

本件では,被害者やご家族のご協力をいただけたこともあり,介護の実態を具体的に指摘できたのが円滑な解決につながりました。

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