【交通事故解決事例】高次脳機能障害を含む併合7級で増額交渉し,逸失利益の丁寧な主張で3,800万円を超える増額を実現したケース

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】
・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

今回は,高次脳機能障害で後遺障害7級の認定を受けた被害者の金額交渉を行い,3,800万円を超える増額を獲得した事例を紹介します。

事案の概要

被害者は自転車で直進走行していたところ,四輪自動車が左折に際して後方確認を怠ったまま交差点に進入したため,左折巻き込みの被害に遭いました。
被害者は,頭を強く打って頭蓋骨骨折等の重大な傷害を負い,2か月以上の入院を余儀なくされました。その後,1年半を超える通院治療を受けたものの,高次脳機能障害が残存し,後遺障害7級の認定を受けるに至りました。

被害者は,加害者の保険会社から過失割合10%,賠償額約3,537万円との提示を受けた後,金額の妥当性や増額余地の有無などの相談を希望され,弁護士の法律相談を行いました。

ポイント
高次脳機能障害にて後遺障害7級認定済み
過失割合10%,賠償額3,537万円の提示済み

法的問題点

①過失割合

同一方向に進行中の直進自転車と左折四輪車による巻き込み事故は,以下の【289】図または【290】図により,自転車の過失は10%または0%となります。

「別冊判例タイムズ38号」より引用

自転車の過失は,先行する四輪車を追い抜く形で交差点に進入した場合に10%となりますが,逆に四輪車が後方から追い越して左折してきた場合には0%になる,ということです。
そして,相手保険は自転車に10%の過失がある旨主張しており,上記【289】図を前提としていました。

ただ,被害者に話を聞いてみると,決して四輪車が前にいたとは限らないことが分かってきました。被害者自身は,事故で頭を強く打っており事故状況の記憶が定かでありませんが,車を追い抜いた記憶は特にないと説明していました。一方,車は前にいたと主張しているようですが,ドライブレコーダーはなく,主張の客観的な証拠は見受けられませんでした。
そうすると,被害者に10%の過失があるとの立証は十分にできていない可能性があり,過失割合に一定の交渉余地があるものと判断できました。

もっとも,被害者が事故態様を説明できる状況にないため,あまり強気に過失ゼロを主張できるわけでない点には注意が必要でした。

ポイント
直進自転車対左折四輪車の巻き込み事故は,自転車の過失0~10%
どちらが前にいたかによって過失割合が異なる
本件ではどちらが前にいたかが不明

②逸失利益

本件では,明らかに逸失利益がメインテーマでした。それは,被害者が一級建築士の資格を持って安定した収入を得ていた立場にあったためです。
逸失利益は,将来の収入減少を損害として計算するものであるため,事故前の収入額は逸失利益の金額に直接影響します。本件の被害者は,事故前に1200万円近い年収があり,7級という後遺障害の重さと相まって,逸失利益は相当な金額になる可能性が高い状況でした。

この点,相手保険会社は,後遺障害逸失利益も一定の金額を計上していましたが,その内容は複数の問題点を抱えたものでした。また,弁護士が逸失利益を請求するに際しては,慎重に検討しなければならない点も複数ありました。

【保険会社の提示内容の問題点】

相手保険の提示には,以下のような問題点がありました。

提示内容の問題点

1.労働能力喪失率35%としている

2.労働能力喪失期間60歳までと定めている

「1.労働能力喪失率を35%としている」点

労働能力喪失率は,後遺障害によって労働能力が低下する割合を数値化したもので,具体的な喪失率は後遺障害等級により定められています。
等級ごとの具体的な労働能力喪失率は,以下の通りです。

1級100%
2級100%
3級100%
4級92%
5級79%
6級67%
7級56%
8級45%
9級35%
10級27%
11級20%
12級14%
13級9%
14級5%

上記の通り,後遺障害7級の逸失利益は56%であり,35%は後遺障害9級の場合の数値です。しかし,相手保険会社は労働能力喪失率35%を主張していました。
その背景には,「被害者の労働能力にそれほど影響していないのではないか」という考え方があったようです。ただ,漠然とした推測で逸失利益を減額されるのは明らかに不適切であり,相手保険会社にはそれ相応の主張立証を要求して差し支えないと判断される内容でした。

「2.労働能力喪失期間を60歳までと定めている」点

労働能力喪失期間は,後遺障害によって労働能力が影響を受ける期間を言います。基本的には,仕事のできなくなる年齢までの期間がこれに該当し,特段の事情がなければ67歳までが目安とされます

この点,被害者は,症状固定時51歳の会社員であったところ,相手保険の提示は60歳までを労働能力喪失期間としていました。60歳が定年であり,そこで労働も終わりという前提で計算したのでしょう。

ただ,被害者は資格を持って業務をしている立場にあり,定年を迎えた後も意欲次第では仕事を続けることが可能でした。そのため,労働能力喪失期間を60歳までに制限することに必ずしも合理性はない状況と考えられました。
一方で,勤務先の定年が60歳であることは間違いないため,60歳以降にいくらの収入が得られたであろうか,という計算は非常に困難でした。

ポイント
労働能力喪失率を7級の56%でなく9級相当の35%にしている
労働能力喪失期間を67歳まででなく60歳までに限定している

【減収がない点の取り扱い】

相手保険が労働能力喪失率を35%に制限したのは,事故後に被害者の減収がほとんどなかったことを大きな理由としているようでした。確かに,被害者は,重大な高次脳機能障害を伴う交通事故に遭ったものの,直接の減収は休業に伴う賞与の減額にとどまっていました。被害者の収入には,業務内容の成果に応じて生じる業績給もありましたが,業績給はほとんど減少していませんでした。

逸失利益は,後遺障害による収入減少に対する補償であるため,後遺障害があっても収入減少につながらなければ逸失利益はないとの理解もあり得ます
そのため,減収がないことと逸失利益の請求がどのように整合するか,という点は重要な検討事項でした。

ポイント
逸失利益は将来の収入減少を補填するための賠償
収入減少がない場合に逸失利益が請求できるかは問題になり得る

【定年後の取り扱い】

被害者の勤務先や業務内容を踏まえると,被害者が60歳で定年を迎えた後の仕事に関しては,以下のいずれかの可能性が考えられました。

被害者の定年後の仕事

1.勤務先で嘱託社員として再雇用を受ける

2.独立開業して建築士の仕事を続ける

3.定年を機に仕事を終了する

この点,いずれの選択肢も,収入額は定年前より低額になることが見込まれます。特に,仕事を終えてしまえば収入はゼロになるところです。

そのため,事故がなければ被害者が60歳以降得たであろう収入に関しては,明確な主張立証が難しいと思われる状況でした。言い換えれば,60歳以降は事故当時のように年収が1000万円を超える可能性がほぼないため,60歳までとは区別して丁寧に逸失利益の交渉を行う必要がありました。

ポイント
60歳以降は収入が減少していたであろうことがほぼ明らか
60歳までとは別に,逸失利益を丁寧に交渉する必要がある

弁護士の活動

①過失割合の交渉

過失割合については,被害者の過失が10%と立証できていない,ということを前提に,交渉を試みる方針を取りました。
もっとも,過失がゼロであることを立証することも困難であるため,互いに訴訟で争うリスクを回避するという趣旨で,中間的な5%の過失で合意することを目指す交渉を実施しました。

交渉の結果,実際に被害者の過失5%で解決する運びになりました。
5%という成果はそれほどでもないように見えますが,本件の金額にすると数百万円規模の成果であり,被害者への経済的補償にとっては非常に重大な意味を持つ交渉となりました。

ポイント
0%と10%の主張はいずれも真偽不明
中間的な5%での解決を目指し,合意

②労働能力喪失率の主張

相手保険が低い労働能力喪失率を主張している点については,こちらは一切譲歩すべきでないと判断しました。そもそも,7級が認定されている以上,労働能力喪失率は56%とみなすのが大原則であって,相手保険の主張は安易に例外を認めさせようとしているにすぎないためです。

一方で,被害者には収入減少が生じていないという事実もありました。収入減少がないことは,労働能力が減少していないことの根拠になるケースもあり得るため,収入減少していないことと労働能力が減少したことの関係を説得的に示す必要があります

この点,被害者の場合は,本人の努力や周囲の協力により,何とか仕事の質と収入を保てている,という事情がありました。
高次脳機能障害の結果,業務遂行能力が下がってしまったため,被害者はその分時間をかけて繰り返し確認をすることで,事故前と遜色のない仕事を続けていたのです。また,被害者の事情を知る同僚や上司などの配慮もあり,被害者の業務は事故前より負担の小さい内容としてもらっていることも分かりました。

以上を踏まえると,被害者の収入減少がないのは,被害者の労働能力が保たれているからではなく,本人や周囲が労働能力の減少を懸命にカバーしているからと理解するのが適切です。そうすると,収入減少のないことは労働能力喪失率を低く見積もる根拠にはできないと判断することができました。

弁護士からは,事故前後における被害者の業務状況や,事故後における勤務先の配慮の数々などを丁寧に指摘することで,労働能力喪失率を譲歩しない内容での解決を実現しました

ポイント
低い労働能力喪失率を主張する根拠は,減収がないこと
しかし,減収がなかったのは本人の努力や周囲の協力あってのこと
減収がないことは労働能力が減少していないことの根拠にならないと指摘

④定年後の逸失利益

被害者が60歳で定年を迎えた後の逸失利益は,相手保険の提示通りにゼロで合意するメリットこそないものの,漫然と請求しても合意に至ることは考えにくいため,何らかの合理的な説明が必要でした。

そこで,弁護士においては,被害者の先輩にあたる人の定年後の収入実績を確認することとしました。被害者の先輩の収入実績を,金額計算の参考にするためです。
本件では,被害者と同じく一級建築士として勤務した人の定年後の収入は,それまでの概ね3~7割程度になっている例があると確認できました。そのため,これを踏まえて相手保険と交渉を行うことにしました。

交渉の結果,定年後の逸失利益については,概ね定年前の5割の収入を念頭に計算する方法で合意することができました。
一切の根拠なく大雑把に計算,請求するのでは相手を納得させることは困難でしたが,過去の先例を計算根拠とすることで,説得力ある請求が可能となりました。

ポイント
被害者の先輩にあたる人物の収入実績を参考に交渉を実施
一定の計算根拠があることで,合意に至りやすくなった

活動の結果

上記の活動を尽くした結果,被害者への賠償額7,350万円で合意が成立し,従前の提示額約3,537万円からは3,800万円を超える増額となりました。

なお,賠償額7,350万円の内訳は,被害者の損害合計7,000万円,弁護士費用350万円(損害の5%)というものでした。弁護士が,早期解決の条件として弁護士費用の上乗せを求める交渉を行ったことにより,弁護士費用の支払も含めての合意となりました。
弁護士費用は,訴訟を行わない限り請求できないのが原則であるため,交渉で弁護士費用の支払を引き出した点は特筆事項と言えるでしょう。

弁護士によるコメント

本件は,専門的な職業と安定した高額収入がある被害者の逸失利益が最大の争点でした。内容面で最大の争点となるのみでなく,金額面でも後遺障害逸失利益が大部分を占めるため,逸失利益に関する合意の可否は本件の解決の可否と直結する問題であったと言えるでしょう。

この点,相手保険は,逸失利益が多額になることを防ぐためにいくつかのそれらしい主張をした上で,被害者に一定の逸失利益を提示していました。しかし,弁護士目線では了承すべき内容ではなく,交渉は不可欠です。そのため,提示内容と弁護士が目指す水準の差をどのように埋めるのかが重要な問題となりました。

本件では,被害者の実際の業務内容や環境,能力の変化などを詳細に整理し,それを踏まえた請求を行うことで,相手保険の譲歩を引き出す方法を取りました。このような交渉は,特に訴訟を避けたいと考えている相手保険に有力です。なぜなら,個別の事情を詳細に整理した上での主張は,多くは訴訟に至ったときに行うものだからです。
相手保険が訴訟を避けたいと考えていることを見越して,こちらは訴訟を辞さない姿勢を暗に示すことにより,相手保険の譲歩を引き出す交渉を目指しました。

逸失利益は,後遺障害が伴う事故では最も大きな争点になりやすいものです。逸失利益の解決に際しては,弁護士に個別の事情を十分に把握してもらいながら,適切な解決を目指すことをお勧めいたします。

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