このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。
【このページで分かること】
・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容
今回は,後遺障害11級認定後の金額交渉を受任し,2か月弱の活動期間で500万円の増額解決に至った事例を紹介します。
目次
事案の概要
被害者が軽トラックを運転し,カーブを描く緩やかな上り坂を走行していたところ,対向車がカーブを曲がり切れずセンターオーバーし,衝突する事故が発生しました。現場は山間部の降雪地帯で,当時も積雪及び降雪があったことが影響し,下り坂を走行していた対向車がハンドル操作を誤って事故に至りました。
事故の結果,被害者は頸椎部を脱臼し,約20日間の入院の後,約2年に渡る通院治療を要しました。ただ,後遺障害の残存を避けることはできず,脊柱の変形障害について11級が認定されました。
相手保険会社からは,11級の認定結果とともに損害賠償額の提示が送られてきましたが,その金額はちょうど500万円というものでした。
弁護士は,被害者が相手保険会社から金額提示を受けた段階で,その妥当性や交渉の余地に関して被害者からの相談をお受けしました。依頼者は,増額できるなら希望したいが,長期間を要するやり方は期待しないというご意向でした。本件の治療が長期間に渡ったこともあり,今後の解決は短期間で進めたい,との希望を強くお持ちでした。
ポイント
11級認定済み,500万円の賠償額提示済み
依頼者は早期解決を強く希望
法的問題点
①休業損害
被害者は,60代の兼業主婦で,相手保険からはパート勤務の休業損害として計算された金額を受領している状況でした。しかしながら,パート勤務をしている兼業主婦の場合,パートの休業損害よりも主婦業(家事労働)の休業損害の方が大きな金額となることが多数です。
そのため,被害者に関しては家事労働の休業損害を請求するのが適切と判断される状況でした。
ただ,家事労働の休業損害が具体的にいくらなのか,という点は容易に判断できません。具体的には,休業日数が何日であるかを特定することが非常に困難です。
被害者の2年以上に渡る治療期間の中では,家事が全くできなかった日もあれば,ある程度の家事ができた日も少なくないはずです。そんな被害者の休業日数が何日かは,客観的に示す方法がないため,交渉である程度合理的な水準を見出すほかないところでした。
ポイント
被害者はパート勤務の兼業主婦
主婦業(家事労働)の休業損害を計算するのが適切
もっとも,家事労働の休業日数は不明
②後遺障害部分の提示額
相手保険の提示内容のうち,後遺障害部分(「後遺障害慰謝料」及び「後遺障害逸失利益」)の合計額は,331万円という内容でした。これは,たまたまこの金額になっているのでなく,提示額を331万円とするために計算方法を調整しています。
後遺障害11級が認定された場合,自賠責保険から331万円の保険金が支払われるのが通常です。本件でも,11級に対する自賠責保険金は331万円と計算される状況でした。そのため,相手保険はあえて後遺障害部分の合計額を331万円と算出することによって,自社の負担なく後遺障害部分を解決しようとしているのです。
しかも,相手保険会社の提示は,「本来の計算だと331万円を下回るが331万円まで引き上げる」という内容になっていました。保険会社の意図を把握せずに提示内容を眺めると,金額を引き上げてもらっている分有益と考えてしまいそうです。
しかし,弁護士目線では相手保険の計算は全く適正額ではなく,増額余地が大きく残っている状況でした。弁護士においては,後遺障害部分を331万円とする提案は了承できないことを前提に交渉を行う方針を取るのが適切と判断できました。
なお,この後遺障害部分については,交渉をすることで減額してしまうリスクが全くありません。なぜなら,相手保険が了承しなくても331万円は自賠責保険から支払われるためです。
その意味で,相手保険は後遺障害部分について最低額の提示をしていると評価することもできるでしょう。
ポイント
後遺障害部分の提示額は自賠責保険金額と同額
保険会社が自社の負担を避ける目的で同額に設定している
交渉しても減額リスクはなく,保険会社の提示は最低額と言える
③後遺障害逸失利益
後遺障害等級が認定された場合,「後遺障害慰謝料」及び「後遺障害逸失利益」という二つの損害が主に発生しますが,このうち「後遺障害逸失利益」がどの程度発生するかは,後遺障害の具体的内容によって大きく異なり得るところです。
本件の場合,被害者の後遺障害は脊柱の変形障害でした。つまり,体の中心を通る脊柱が一部変形しており,これを後遺障害として認定する,というものです。そして,脊柱の変形障害は,逸失利益が発生するのか,という問題が生じる後遺障害の一つでもあります。
後遺障害逸失利益は,後遺障害があると労働能力が減少することで収入減少に至るため,その収入減少を補償する,という性質のものです。そのため,後遺障害によって労働能力が減少することが大前提になっています。
ただ,脊柱が変形すると直ちに労働能力が失われてしまうかは必ずしもはっきりしません。このような後遺障害の場合,等級認定されても逸失利益はない,というケースが生じうるのです。
相手保険の後遺障害部分の提示額は,非常に小さいものであったため,逸失利益を主張すれば反論がなされることを想定する必要があります。そこで,逸失利益の存在を主張する根拠を明確にしておく必要がありました。
ポイント
脊柱の変形障害は逸失利益が生じるか明らかでない後遺障害
被害者に逸失利益が生じる理由は明確にすることが必要
④早期解決の方法
被害者は,できるだけ早期に本件のやり取りから解放されたい,という希望を強く有していました。そのため,最大額の賠償を獲得するよりも,解決のスピードと両立する範囲で可能な限りの賠償額を獲得することが望ましい状況でした。
スピーディーな解決を目指す場合,方法は交渉が明らかに適切です。交渉以外では訴訟やADRが挙げられますが,いずれも数か月~年単位で期間を要する解決方法となってしまいます。
一方で,交渉での早期解決には,相手の同意も不可欠です。つまり,相手にとっても早期解決が有益である,という場合に限り,交渉で早期解決ができるということになります。そのため,弁護士の交渉に際しては相手保険に早期合意のメリットを感じさせる必要がありました。
ポイント
解決方法は交渉であるべき
交渉で早期解決をするには,相手にとっても早期解決が有益であることが必要
弁護士の活動
①休業損害の請求内容
休業損害に関しては,互いに胸を張って主張立証することが困難な状況でした。なぜなら,一方で休業がゼロでないことは明らかであり,もう一方で休業が長いと客観的に立証することはできないためです。休業損害が少ないという主張も多いという主張も,根拠が伴わないものにならざるを得ません。
このような場合,一定の合理性ある水準を示し,交渉の叩き台とする方針が有力です。本件では,「入院期間は毎日100%の休業,通院期間は毎日30%の休業」と設定し,休業損害の叩き台とすることにしました。
この数字そのものに根拠はありませんが,一定の合理性がないわけではありません。合理性の根拠は以下の通りです。
休業損害の叩き台(割合的請求)の合理性
1.類似の計算方法を取った裁判例がある
→設定の仕方は裁判所の考え方に近いものである
2.後遺障害11級の労働能力喪失率が20%である
→治療終了時には20%の休業が生じていると理解される
当然ながら,この計算がそのまま合意内容となるとは限りません。むしろ,交渉の基準になる一定の目安を設ける目的が大きいところです。
実際,本件の休業損害は,上記請求を目安にしながら合意額を調整することとなりました。
ポイント
通院期間中の休業損害は,毎日30%の休業が生じたと仮定して請求
一定の合理性ある叩き台を示すことで,交渉の目安を設定した
②後遺障害に関する請求
被害者の後遺障害は脊柱の変形障害ですが,変形そのものが逸失利益を発生させるとの主張は難しいと言わざるを得ません。脊柱が変形しても直ちに主婦業ができなくなるわけではないためです。
しかし,被害者には,変形障害に伴って首や手指の痛み,しびれなどが生じており,それらの症状は変形障害に含まれる障害として認定する,との判断がなされていました。そして,首や手指の痛み,しびれといった症状は,明らかに被害者の家事労働に影響を及ぼす性質の障害です。
そこで,変形障害が痛みやしびれをもたらしたことを根拠に,逸失利益の存在を主張する方針としました。
なお,このような主張の場合には注意すべき点があります。それは,痛みやしびれに11級相当の労働能力喪失率が認められるとは限らない,ということです。
骨折後の痛みやしびれといった神経症状は,以下のような等級認定の対象となることが考えられます。
等級 | 認定基準 |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
つまり,痛みやしびれ自体は,12級または14級の認定対象であって,労働能力への影響も12級または14級相当という理解が合理的とも考えられるわけです。
本件でも,12級相当の逸失利益となる可能性を想定しながら,逸失利益を請求することとしました。
ポイント
変形障害により首や手指の神経症状が生じたため,これを逸失利益の根拠に
ただし,神経症状の逸失利益は12級相当にとどまる可能性を踏まえておく
③早期解決のための方策
早期解決のためには,相手保険に交渉での早期解決が有益であると認識させることが必要と思われました。
そこで,弁護士においては,「訴訟で解決すると追加で多くの支払が生じる」と相手保険に認識してもらうことで,早期合意のメリットを感じさせることを目指しました。
一般に,訴訟に至ると,加害者側は「遅延損害金」及び「弁護士費用」を追加で支払うことになるのが現在の運用です。それぞれの内容は以下の通りです。
訴訟における追加の支払
1.遅延損害金
→事故発生から支払い済みまで年3%(本校執筆時)の利息が加算され続ける
2.弁護士費用
→損害額の10%が弁護士費用として加算される
本件では,治療終了時点で事故から2年以上が経過しているため,仮に訴訟をして事故の3年後に解決したとなると,「3%×3+10%」=19%の支払が追加でかかることになります。それ以上に期間を要する可能性も低くないため,訴訟に至ると,相手保険会社は概ね20%程度の金額を上乗せして支払うリスクを背負わなければなりません。
弁護士からは,交渉が奏功しなければ訴訟に移行する可能性を伝えることで,このような追加での支払リスクを相手保険に認識してもらう方法を取りました。
ポイント
訴訟に至ると遅延損害金及び弁護士費用が追加で発生し得る
事故から長期間が経過しているほど,遅延損害金が大きくなる
活動の結果
以上の弁護活動の結果,弁護士の活動前は500万円の提示額であったところ,交渉により1,000万円での解決となりました。
また,弁護活動の開始から賠償金額1,000万円の受領までに要した期間は2か月弱であり,事故の規模や治療期間の長さを踏まえると非常に短期間での決着となりました。
なお,解決内容は,休業損害が弁護士のたたき台を若干下回る水準,逸失利益が12級相当の労働能力喪失率を目安にした金額となりました。
弁護士によるコメント
本件は,交渉による増額と早期解決のバランスを適切に保つことが求められるケースでした。
交通事故の解決は,金額的な規模が大きくなればなるほど時間を要する傾向にあります。重大な後遺障害等級が認定される事故や死亡事故など,一定のケースでは交渉に年単位の期間を要する可能性もあり得るところです。さらに,訴訟などの法的手続に移行すれば,さらに年単位で争いが続き,決着の見えない期間を過ごすことになることも珍しくはありません。
そのため,弁護士としては日頃から早期解決を目指すスタンスが重要となりますが,本件はさらにスピードを重視することが必要でした。長い時間をかけて最大額を目指すより,短い期間で一定の増額ができる方が望ましい,というご希望は,被害者の立場を考えれば無理のないものです。
今回は,スピード解決と両立し得る増額幅の見込みを正確に立て,その見込みをできる限り迅速に実現することが,弁護士の役割であったと言えるでしょう。
交通事故の金銭的解決には,様々なやり方があります。弁護士相談の際には,目指したい解決の形を弁護士と十分に共有することで,より希望に沿った解決方法の提案が受けられるでしょう。
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