【交通事故解決事例】後遺障害9級,賠償額2,800万円超を獲得。治療中に失職した後も十分な休業損害の支払を受け続けることに成功した事例

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】
・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

今回は,バイク乗車中に自動車との事故に遭い,二か所に人工関節の挿入置換を要した結果,後遺障害9級,賠償額合計2,800万円超を獲得した事例を紹介します。

事案の概要

信号機のある十字路交差点で,バイクに乗車した被害者が直進走行していたところ,対向の右折四輪車と接触するいわゆる右直事故が発生しました。被害者は,自分の右前方から右折してきた車と自車の間に右足を挟まれる形になってしまったため,主に右足の受傷が大きい状態でした。

被害者の受傷内容は,右骨盤の脱臼骨折,右膝靭帯の断裂,右足甲の骨折等,多岐に渡りました。受傷部に対する手術は複数回に及び,その間に感染症にかかるなどもしたため,被害者は合計で300日を超える入院を要することになりました。

弁護士が法律相談を受けたのは,入通院治療継続中のことで,治療中の対応から最終的な解決までをご一緒するため依頼をお受けすることになりました。

法的問題点

①過失割合

直進二輪車と右折四輪車との間における右直事故は,以下の【175】図の通り,二輪車:四輪車=15:85が一般的な過失割合となります。

「別冊判例タイムズ38号」より引用

そのため,本件の過失割合は被害者15%であれば適正であると考えられ,相手から被害者15%を超える主張が出ないか,という点が問題になると想定できました。
結果,加害者保険会社も被害者15%の過失割合を想定しており,過失割合に問題のないことが確認できました。

ポイント
直進バイク:右折自動車の右直事故の場合,基本的な過失はバイク15%

②治療期間中の生活保障

本件の場合,治療期間が約2年半,うち入院期間が300日以上と,非常に長期の入通院を要することになりました。そのため,事故前に勤めていた勤務先との雇用関係は終了せざるを得ない状況に至りました。

この点,雇用が継続しており,その勤務先の仕事を休業している,という状態であれば,適切な手続を踏めば相手保険から休業損害の受領が可能です。もっとも,勤務先を退職した後については,勤務先の休業が観念できないため,休業損害の支払が受けられないのではないか,という問題意識が生じます。

休業損害に関する事情

雇用契約中勤務先を欠勤しているため,現実の欠勤に対応する休業損害が発生
退職(雇用契約終了)後退職している以上欠勤もないため,休業損害は不発生?

この点,被害者が自分の意思で勤務先を辞めたり,そもそも事故前から退職するつもりだったりすれば,退職後の収入まで加害者側に保障してもらうのは困難でしょう。しかしながら,被害者の退職原因が交通事故にしかない場合,退職をしたからといってその後の休業損害を加害者側が負担しないというのは不公平と言わざるを得ません。

本件の被害者については,交通事故とこれに伴う入通院のため,出勤の見込みが長期間立たず,今後も継続的な出勤が見通せないために雇用契約を終了する,という状況でした。つまり,被害者が退職をするのは専ら交通事故が原因であって,退職後も休業損害の支払を継続してもらうべき(加害者側に生活保障を求めるべき)内容であると判断できる内容でした。

ポイント
休業損害は,退職後には生じないのが原則
ただし,退職原因が専ら交通事故であれば,退職後も休業損害の支払はなされるべき

③後遺障害等級の獲得方法・内容

本件における被害者の後遺障害等級は,9級相当となることがほぼ明らかに見通せる状況でした。

被害者の後遺障害等級

10級:右股関節の人工関節挿入置換
10級:右膝関節の人工関節挿入置換

結論:9級相当

人工関節の挿入置換は,その内容が明白であるため,不必要な処置であったような例外的な場合を除き,後遺障害10級の認定が想定されます。今回は,股関節と膝関節の2か所に人工関節の挿入置換があったため,最終的な結論も9級であることが見通しやすい内容でした。

そうすると,その後遺障害等級を獲得する手段については,柔軟な検討が可能となります。

そもそも,後遺障害等級を獲得するには,自賠責保険会社に所定の請求手続を行うことが必要ですが,具体的な手続の方法は以下の二通りです。

後遺障害等級認定を目指す手続

1.事前認定
加害者の保険会社が必要な書類等を収集・提出する方法

2.被害者請求
被害者自身が必要な書類等を収集・提出する方法

また,各方法のメリット・デメリットについては以下のように整理されます。

方法メリットデメリット
事前認定後遺障害診断書だけ主治医から取り付けて提出すれば,あとは保険会社がすべて進めてくれる保険会社は,必要な書面以外は何も提出してくれない
被害者請求必要書類以外にも,自分の主張に関わる書類を自由に添えて提出することができる提出書類の取得や作成を自分でしなければならないため,手間が多い

本件では,被害者請求に際して発生する手間や弁護士費用を考慮した場合に,これを避けて事前認定を行う方が被害者にとって有益であると判断しました。そのため,手続選択について弁護士から必要な説明を行い,弁護士費用を含む各種負担の軽減を目的に事前認定を選択することとしました。

ポイント
本件は9級相当となることがほぼ明らかな状況
弁護士費用や手続負担を回避するため,あえて事前認定を選択

④後遺障害逸失利益

被害者は,症状固定時55歳という年齢でした。そして,事故当時は会社員として勤務しており,治療中にその会社を退職した,という経緯がありました。

この場合,後遺障害等級が認定された場合の逸失利益について,計算方法に争いの生じることが想定されます。それは,一般的に定年とされる60歳を近年のうちに迎えるためです。

後遺障害逸失利益は,後遺障害による労働能力の喪失が収入減少を引き起こすことを踏まえ,その収入減少に対する補償をするものです。そうすると,そもそも収入がない状態であれば,逸失利益はゼロとなるべきです。
そして,定年後は仕事がなく,収入もないことが一般的であるため,定年以降に後遺障害逸失利益は発生しないのではないか,という問題が生じるというわけです。

法律的な運用では,後遺障害逸失利益が生じる一般的な期間は67歳までとされるため,被害者目線では67歳までの逸失利益を請求したいところです。一方,実際に67歳まで労働をして収入を獲得し続ける立場ではなければ,67歳までとするのは不適切だ,という反論を受けることは避けられません。

そこで,被害者の後遺障害逸失利益は,何歳までを対象期間として計算すべきであるか,という点について慎重な検討を要する状況でした。

ポイント
後遺障害逸失利益は,後遺障害による収入減少への補償
もともと収入がなければ,後遺障害逸失利益はゼロになる
一般的な定年とされる60歳以降は,逸失利益の有無が問題になりやすい

弁護士の活動

①休業損害の解決

休業損害については,退職後も加害者保険会社に支払いを継続してもらうため,弁護士にて必要な対応と交渉を尽くしました。
具体的には,以下のような対応を行うこととしました。

休業損害に関する対応

1.退職理由が専ら交通事故にあることを勤務先に書面化してもらう
2.退職がなければ見込まれていた収入額とその根拠を書面化する
3.医師の所見としても速やかな業務復帰が不可能であることを示す

以上の対応を通じて,「勤務先を退職したのは,交通事故のために勤務できない状況が長期間続いている点が唯一の原因である」という事実を説得的に示し,退職後も休業損害の支払いを続けるよう保険会社に求めました。

その結果,休業損害は継続的に支払われることとなり,入通院中の被害者の生活保障は約束される結果に至りました。

②後遺障害等級

後遺障害等級については,事前認定の結果,想定通り9級の認定となりました。認定された等級,内容ともに事前の予定と相違ないものであったため,速やかに金額交渉へ移行することとしました。

ポイント
後遺障害等級は,事前認定により負担を避けつつ希望する9級認定

③後遺障害逸失利益の交渉

後遺障害逸失利益に関しては,まず,被害者の勤務先で予定されていた定年や再雇用のルールを確認することとしました。そうすると,被害者の勤務先は,60歳定年となるものの,65歳まで再雇用が可能とされており,実際にも65歳までの再雇用を選択する例が大多数であることが分かりました。

そのため,65歳まで期間を後遺障害逸失利益の対象とする解決を目指し,相手保険との交渉を実施することとしました。
もっとも,根拠なく主張するのでは解決が難しいため,以下のような根拠資料の作成・提出も並行して行いました。

後遺障害逸失利益に関する根拠

1.勤務先の定年・再雇用に関するルール(就業規則)を示す
2.被害者の勤務先では65歳までの再雇用が常態化していることを示す
3.就業規則を踏まえ,定年後の具体的な想定収入額を算定

以上の対応を通じて,65歳までの期間は収入の継続が見込まれていたことを説得的に示し,相手保険会社の理解を得る試みを行いました。

活動の結果

上記の活動の結果,治療期間中の休業損害1,000万円超,治療終了後の賠償額1,800万円超,合計2,800万円超の賠償を獲得するに至りました。

なお,休業損害は治療期間中の全日について支払が得られ,後遺障害逸失利益については65歳までの期間を対象とする当方の主張がそのまま採用されました。

弁護士によるコメント

本件では,右足に大きなケガを負った被害者が,入院中に度重なる感染症の被害にも遭うという状況下で,入院期間が非常に長期に渡ったという特徴がありました。
入院期間が長期に渡ったことで,勤務先への復帰が困難になってしまい,治療の終わりが見えない中で仕事だけを失った,という不安定な状況を強いられてしまいました。
そこで,まずは治療期間中の生活を支えるための休業損害の交渉が急務だったと言えますが,休業損害の問題が速やかに解決できたのはとても有益なことでした。

また,後遺障害逸失利益に関しては,必要な根拠を提出の上,根拠に沿った請求を行うことで,比較的円滑な合意・解決に至ることができました。この点については,退職後でありながら協力的な対応をしていただいた勤務先の存在も非常に大きく,被害者と勤務先との信頼関係が解決に導いてくれたと指摘することもできそうです。

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