【交通事故解決事例】後遺障害の被害者請求を早期に実施したことで減額回避。スピード弁護が最大額の賠償獲得を実現した事例

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】
・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

今回は,事故後意識を失った状態であった高齢者に関し,迅速な弁護活動によって最大額の受領を実現した事例を紹介します。

事案の概要

90歳の被害者は,自転車の乗車中に自動車と衝突する事故に遭い,脳挫傷,肩や肋骨の骨折,全身の打撲等,極めて重大なケガを負いました。被害者は,事故発生から意識のない状態が続いていたため,被害者から事故状況を聞き出すことはできませんでした。
事故態様に関しては,被害者が片側一車線の道路の路肩を走行していたところ,後続の自動車と接触した事故のようである,との情報が得られましたが,その正確さは不十分なものにとどまりました。被害者が歩道を走行していたのか路肩を走行していたのか,どのような経緯で車道に進入したのか,なぜ接触が回避できなかったのか,という点について,明確な情報は得られないままでした。

また,自動車側の保険会社は,意識を失って入院中である被害者の入院費用の支払を拒んでいました。このような対応は,通常,被害者側に大きな過失があると考える場合に取られるものであり,相手方やその保険会社が,被害者の過失を相当程度大きく見積もっていることが推測される状況でした。

被害者自身が弁護士に依頼することは困難であるため,被害者の唯一の子である男性が,弁護士への相談・依頼を希望されました。

法的問題点

①過失割合

交通事故の損害額は,過失割合によって大きく異なります。それは,損害額を被害者と加害者の過失割合に応じて負担し合うことになるためです。

例えば,被害者に総額1,000万円の損害が生じているとして,被害者の過失がゼロであれば,1,000万円の損害は全て加害者が負担すべきということになります。全ての損害が加害者の落ち度によって生じているためです。
一方,被害者と加害者の過失がともに50%であれば,加害者に全ての損害を負担させるのは公平ではありません。被害者にも50%の過失がある以上,被害者に生じた損害の50%に当たる500万円は被害者が負担すべきであって,加害者に請求ができるのは1,000万円のうち500万円のみという結論になります。

本件では,被害者自身から事故状況が聴取できず,事故を撮影した映像もなかった上,加害者の主張する内容も明確には把握できなかったため,過失割合を特定しづらいという難点がありました。ただ,加害者の保険会社が被害者の入院費用の支払を拒んでいることは,保険会社が被害者の過失を相当程度見積もっていることの十分な裏付けになる事情ではありました。

被害者の家族を通じて収集できた情報を踏まえると,過失割合にはいくつかの仮説を立てることは不可能ではありませんでした。

【仮説1.進路変更の場合】

自転車と車が同一方向に走行していたところ,自転車が何らかの事情で進路変更を試み,その際に車と接触した,という場合です。過失割合は,前方に障害物があったかどうかによって区別されますが,障害物はなかったという前提で仮説を立てます。

この場合,以下の【307】図に従い,基本過失割合は自転車:自動車=20:80,自転車が高齢者のため「-10」の修正がなされ,自転車:自動車=10:90という過失割合が想定されます。

「別冊判例タイムズ38号」より引用 以下同じ

【仮説2.路外からの侵入の場合】

自転車が路肩を走行していたという点が不正確であり,実際は路外の駐車場などから自転車が車道へ進入した,という場合です。

この場合,以下の【300】図に従い,基本過失割合は自転車:自動車=40:60,自転車高齢者のため「-10」の修正がなされ,自転車:自動車=30:70という過失割合が想定されます。

【仮説3.横断自転車の場合】

路肩を走行中の自転車が,何らかの理由で車道を横断して対向車線側に移ろうとした場合です。また,自転車が路肩でなくさらに外側の歩道を走行しており,その後車道を横断しようと試みた,という場合も含まれます。

この場合,以下の【310】図に従い,基本過失割合は自転車:自動車=30:70,自転車高齢者のため「-10」の修正がなされますが,この場合には自動車側から「直前横断」の主張がなされるのが多数であるため,直前横断によりさらに「+10」の修正がなされ,結果的には自転車:自動車=30:70という過失割合が想定されます。

【過失割合に関するその他の事情】

過失割合の検討を行う場合,刑事記録として作成されている「実況見分調書」の取り付けが広く行われています。実況見分調書は,当事者が立ち会いの上,当事者が指示説明した事故態様を書面に記録したもので,当事者の主張する事故態様を把握するための根拠資料とされます。

ただ,実況見分調書を含む刑事記録の取り付けができるのは,基本的に刑事処分がなされた後です。そして,交通事故に関して刑事処分がなされるのは,早くても数か月後,ケースによっては1年以上経ってからのことにもなりかねません。時間をかけて調査するのであれば,実況見分調書を通じて相手の主張を確認するのも有力ですが,本件では以下で解説するようにあまり時間が残されていませんでした。

ポイント
被害者側の情報を踏まえると,被害者の過失は10~30%になりやすいか
実況見分調書の取り付けは有力だが,取得に時間がかかる

②損害の内容

本件の被害者の後遺障害等級は,1級となることがほぼ明らかな状況でした。事故発生から一貫して意識のない状態が続いており,意識の回復する見通しがなかったためです。そのため,被害者の損害としては,入院に対する慰謝料と,後遺障害1級に対する慰謝料が見込まれやすいところです。

もっとも,被害者は90歳と高齢であり,収入を得る仕事をしている立場にはなかったため,後遺障害に伴う逸失利益(労働能力の喪失による収入減少)は存在しない状況でした。後遺障害等級が認定される場合,金額的にはこの逸失利益が全項目中最も大きな金額になることが通常ですが,収入のない立場の高齢者は例外で,本件でも後遺障害の逸失利益は存在しないことを前提に考慮する必要がありました。

ポイント
後遺障害は1級であることがほぼ明らか。「入院慰謝料」と「後遺障害慰謝料」が生じる
しかし,被害者の立場上「後遺障害逸失利益」は存在しない

③被害者死亡後の損害額

被害者は,事故当時90歳と非常に高齢で,事故がなくても生涯を遂げる時期が遠くはないと見られていました。そこに交通事故で意識不明の重体となり,その生命維持は非常に不安定な状態を強いられ続けていました。

この場合,弁護士としては,死亡前後の損害額の変化を考慮する必要があります。つまり,死亡後では得られる賠償額が小さくなってしまう場合,死亡より前に金銭を回収しなければ,被害者の不利益につながってしまうということです。
しかも,本件では被害者側に一定程度の過失が見込まれるため,死亡前後の比較はいわゆる裁判基準のみでなく,自賠責基準についても行う必要があります。なぜなら,自賠責基準は被害者側にあまりに大きな過失がない限りは過失による金額減少が生じないため,後遺障害逸失利益のない本件のようなケースでは,過失相殺を要する裁判基準よりも過失相殺しなくて済む自賠責基準の方が高額になる可能性も大いにあるからです。

実際に,本件では自賠責保険金の方が高額になりやすいケースと考えられる状況でした。そして,自賠責保険金は,死亡後になると,それ以前の半分に満たない金額しか受領できなくなることが試算できました。

したがって,過失割合の問題は存在するものの,過失割合の検討に時間をかけている場合ではなかったのです。

ポイント
被害者死亡の可能性がある場合,死亡前後で損害額が大きく減少しないか注意が必要
死亡前後での金額変化は,自賠責基準についても検討する必要がある
本件では,死亡後になると自賠責保険金が半分以下になってしまう

④子の依頼を受けて活動できるか

被害者自身が弁護士に依頼できないため,現実的には子が被害者の代わりに動いている状況でした。
もっとも,法律上は,本人の代わりに動くのは成年被後見人と呼ばれる立場の人物でなければならず,子であっても法的には第三者に過ぎません。そのため,法律を厳密に守るのであれば,子を成年被後見人と認めてもらった後に,改めて子から依頼を受けて弁護活動を行うべき,ということになります。

しかし,被害者死亡後に回収できる金額が大きく減少してしまうため,ゆっくりと成年被後見人の手続をしているわけにはいきませんでした。
この点,自賠責保険は,被害者の成年被後見人見込みとして適切な人物であれば,請求者が被害者自身でなくても自賠責保険金の請求を受け付ける運用をしています。この取り扱いを踏まえ,とりあえず自賠責保険金の受領に限り,子の委任を受けて弁護士が活動を行うことに決めました。

ポイント
法的には,成年被後見人が被害者のために弁護士依頼することが必要
自賠責保険は,成年被後見人でなくてもその見込みがあれば請求者として取り扱う
自賠責保険金の請求に限り,速やかに子の委任を受けて活動することにした

弁護士の活動

①自賠責保険への被害者請求

弁護士の方では,まず何より速やかな自賠責保険金の請求を試みました。そのため,具体的には以下のような活動を尽くしました。

被害者請求迅速化のための活動

1.症状固定の判断と後遺障害診断書作成を直ちに行うことを,医療機関に丁寧に相談

2.成年被後見人見込みの子が請求者として被害者請求する予定であることを,自賠責保険会社と事前に打ち合わせ

3.自賠責に作成・提出を要する資料は前倒しで順次取り付け

これらの活動の結果,被害者の存命中に被害者請求が実施でき,自賠責保険から3,129万円の保険金を受領することができました。

②被害者請求後

自賠責保険金を受領した後は,それ以前のような時間の切迫はないため,通常通り実況見分調書の取り付けを試みるとともに,被害者の成年被後見人を選任する手続を進めるなどしながら,加害者側への請求内容を検討していました。

しかし,ほどなくして被害者の方が生涯を遂げられたため,自賠責保険金を超える請求の余地がなくなり,活動は終了することとなりました。

なお,加害者立ち会いの実況見分調書が後に取得できたため,内容を確認してみたところ,加害者側の主張は【仮説3.横断自転車の場合】に該当するものでした。加害者によれば,路肩よりさらに外側の歩道を走行していたはずの自転車が,突然歩道に飛び出して目の前を横断しようとした,という事故態様であったようです。
加害者の主張を踏まえた過失割合は,自転車:自動車=30:70をベースにすると思われますが,加害者保険会社の姿勢を考慮すると,それ以上の被害者の過失を主張するつもりであった可能性も考えられます。

ポイント
迅速な被害者請求により,自賠責保険金3,129万円を獲得
その後の請求を実施せず弁護活動終了
加害者の主張は,被害者の過失30%以上

活動の結果

上記の弁護活動の結果,被害者の後遺障害1級に対する自賠責保険金として3,129万円が支払われ,被害者の死亡後,遺族に相続されることとなりました。

なお,この後遺障害に対する自賠責保険金を受領する以上に金銭を獲得する方法は,本件では結果的に存在しませんでした。被害者の死亡まで手をこまねいていると,回収金額は半分以下に減少してしまうため,スピード弁護が最大額の補償を引き出すに至りました。

弁護士によるコメント

本件は,過失割合の不明確さ,逸失利益がないことによる方法選択の困難さ,被害者本人に意識がないことによる弁護士依頼の難しさなど,複数の異なる問題点に頭を悩ませやすい内容でした。しかし,本件の最も大きな問題は,死亡を待っていられない点にあり,その問題にどれだけ早く気づき,迅速な対応ができるかが極めて重要なポイントになっていました。

一般的な進め方では,まず可能な限り十分な治療を尽くして,過失割合については加害者の刑事処分を待って…と長い期間を費やした後に初めて方針の検討をすることも珍しくありませんが,本件ではそれが許されないという点に,杓子定規では解決できない弁護活動の難解さがあったのではないかと考えます。
また,最大限の金銭回収に至った原動力が,活動のスピードであったという点は,日頃から私が大切にしている活動の迅速さが結果に結びついたものでもあります。そのため,自分の考え方やスタンスが間違っていなかったとの確信を深める大切な機会にもなりました。

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