【交通事故解決事例】股関節人工関節で後遺障害8級,併合7級の認定を受け4600万円超を獲得。紛争処理機構で等級認定が覆り増額実現

このページでは,交通事故等の事故被害者が,弁護士の活動により後遺障害等級認定を獲得し,金銭賠償の獲得や増額に成功した解決事例を紹介します。

【このページで分かること】
・実際に交通事故の金銭賠償を獲得した事件の内容
・後遺障害等級のポイント
・金額交渉・増額のポイント
・具体的な争点と解決内容

今回は,人工関節の挿入置換に対して,紛争処理機構への申立てにより後遺障害8級,併合7級の獲得に至った事例をご紹介します。

事案の概要

自転車での通勤中,後続自動車に接触され,転倒。大腿骨開放骨折,鎖骨骨折等を受傷しました。
自動車運転者には任意保険がなかったため,被害者自身が加入する自動車保険を利用して入通院費用を賄っていました。また,通勤中の事故であったため,労災保険も並行して利用していました。

弁護士の相談は,通院治療中の段階で行いました。相談時には,股関節の症状が芳しくなく,人工関節を挿入する可能性が見込まれる状況でした。

法的問題点

本件の主な問題点は,股関節部の受傷に対する後遺障害等級でした。具体的には以下のような問題点が想定されました。

①股関節の受傷と事故との因果関係

本件事故の発生直後における主な受傷は,大腿骨の骨折であったため,股関節の受傷は入院先の病院でもあまり意識されていませんでした。そのような経緯もあり,股関節の症状について初めて診断されたのは,事故から期間が経ってからのことでした。

一般的に,事故から期間が経過した後に初めて診断された傷病については,事故との因果関係の有無が問題になりやすい傾向にあります。事故の直後であれば,事故によって生じた傷病であるという可能性以外に考えにくいですが,事故から期間が経過すればするほど,事故以外の原因が混入する可能性が高まるためです。

本件では,大腿骨の骨折に伴う痛みが症状のメインと考えられていたので,これと近い部位にある股関節の症状は大腿骨との区別が困難な状況にありました。しかし,大腿骨の症状が落ち着いても股関節の痛みが取れないため,病院での検査を重ねたところ,「股関節唇損傷」が明らかになりました。「股関節唇」とは,大腿骨頭と骨盤をつなぐ軟骨組織の一部で,衝撃吸収などの役割を果たしています。この部分に損傷が生じると,足を動かす動作に痛みが伴ったり,股関節がぐらついたりすると言われています。
被害者の股関節付近に生じていた痛みの正体は,大腿骨骨折の症状が落ち着いて初めて,股関節唇の損傷によるものだと判明したのでした。

②股関節人工関節挿入の後遺障害等級

被害者に生じた股関節唇損傷に対する治療としては,股関節に人工関節を挿入することが必要と判断される状態でした。人工関節とは,損傷の生じた関節の表面の代わりをするための人工的な関節をいいます。痛みの原因は損傷した関節にあるため,これを損傷のない関節に置き換えることで,痛みを取り除くことができる治療方法です。

この点,人工関節を挿入した場合の後遺障害等級としては,以下の可能性があります。

等級基準
8級7号1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの
10級11号1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの

具体的な認定基準は,以下の通りです。

等級具体的な認定基準
8級7号人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの
10級11号人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の1/2分の1以下に制限されていないもの

もっとも,人工関節を挿入した場合に,それでも可動域が大きく制限されることはあまり想定されていません。人工関節を挿入すれば痛みは取り除かれ,可動域は十分に取り戻せるのが通常であるためです。
しかしながら,本件の被害者の場合は,股関節の神経に一部麻痺が生じていると見られる状況でした。そのため,人工関節を挿入したものの,股関節の関節可動域に大きな制限の生じてしまっていました。

さらに,本件では,可動域制限に関してもう一つ問題点がありました。それは,「他動」であれば股関節は動けてしまう,という点です。
関節可動域の測定には,自分で動かす「自動」と,人に動かしてもらう「他動」があり,可動域制限は基本的に「他動」の値を基準に判断されます。もっとも,被害者は人工関節を挿入の上,神経麻痺で股関節を動かせない状況のため,人が動かそうと思えば股関節は動かせる(痛みを訴えてストップさせることがない)のです。
そのため,被害者の関節可動域制限は,「自動」で判断されるべきであることを示す必要がありました。

ポイント 股関節に関する法的問題点
股関節の受傷と交通事故との因果関係
股関節人工関節の等級が10級か8級か(可動域制限があるか)

③その他の部位の後遺障害等級

被害者は,股関節以外にも複数のケガがあったため,以下のような等級認定が見込まれる状況でした。

被害者に見込まれた主な後遺障害等級
・肩関節の可動域制限 10級~12級
・鎖骨骨折後の変形障害 12級
・大腿骨骨折後の神経症状 12級

弁護士の活動

①自賠責保険への被害者請求

弁護士においては,症状固定後,まずは自賠責保険への被害者請求を実施し,望ましい等級認定の獲得を目指しました。交通事故の後遺障害等級は,基本的に自賠責保険(及び損害保険料率算出機構)の判断が尊重されることになるため,自賠責保険への被害者請求に際しては,万全の手続を取ることが重要です。

被害者請求に当たっては,弁護士の判断で以下の対応を試みました。

【診療録(カルテ)の検討】

交通事故の解決に当たって,弁護士が医療機関から診療録を取り付けることは珍しくありません。もっとも,無計画に,闇雲に取り付けても特に意味はないため,何のために取り付けるのか,という目的意識が非常に重要となります。

本件では,股関節の損傷と事故との因果関係が大きく問題になり得る状況であったため,「股関節の症状は事故が原因である」ことを示すための証拠資料として,診療録を活用することを目指しました。
具体的には,以下のような点の確認を試みました。

診療録の検討事項
1.股関節の症状を早期の段階から訴えていること
2.股関節の症状に関する検査結果が早期に出ていること
3.事故から股関節唇損傷の診断までの間に,股関節を怪我する原因がないこと

検討の結果,弁護士においては,主に股関節の自覚症状に関する指摘を丁寧に拾い,根拠資料として提出することとしました。

【医療照会の実施】

被害者の股関節の治療をご担当された主治医の先生から,因果関係及び可動域制限の原因に関する医学的なご意見をいただくことを目指しました。
被害者の治療をご担当された先生は,大変ありがたいことに非常に協力的な先生であったため,まず面談を実施し,先生の生の意見をお聞きしました。先生からは,積極的なご意見をいただける見込みが立ったため,その内容を医療照会という形で書面化し,先生のご協力をお願いしました。

先生からは,医療照会書の作成にも快くご協力をいただくことができ,事故と股関節唇損傷に因果関係が認められること,被害者の可動域制限は神経麻痺の結果生じたものであることなどについて医学的意見を獲得しました。

ポイント
診療録を詳細に検討し,事故と怪我との因果関係の立証資料とした
医療照会を通じて,争点に関する医学的意見を獲得した

②自賠責保険に対する異議申立て

自賠責保険への被害者請求を実施したところ,その結果は目標とする併合7級ではなく併合9級というものでした。目標の等級に至らなかった原因は,問題視していた「股関節唇損傷と事故との因果関係」でした。自賠責では因果関係が否定され,股関節について後遺障害等級の認定対象とはならなかったため,他に10級及び12級が認定されていたことから,併合9級という結果になったのでした。

この結果は不服であったため,自賠責保険への異議申立てを実施しました。
自賠責保険の後遺障害等級認定結果に不服がある場合,異議申立てという手続で再度の判断を求めることが可能です。もっとも,同じ機関が判断することになるため,ただ異議申立てをするのみでは結果が変わる可能性はほとんどありません。異議申立てに際しては,新たな根拠資料の提出が不可欠となります。

本件では,診療録の検討結果を改めて詳細に整理するとともに,自賠責の判断を主治医の先生と共有し,自賠責の判断内容が主治医の先生の見解と食い違うことを書面化させていただくことができました。

ポイント
自賠責保険の判断に不服がある場合,異議申立てが可能
もっとも,新たな根拠資料を提出しなければ結果は変わらない

③紛争処理機構に対する申立て

異議申立ての結果は,遺憾ながら当初の判断から変わることがありませんでした。この場合,異議申立てに回数制限はないため,もう一度異議申立てを行うことも可能です。もっとも,既に提出できる限りの根拠は提出しており,これ以上異議申立てを繰り返しても結果が好転する見通しは持てませんでした。

そこで,自賠責保険の判断を不服として,「自賠責保険・共済紛争処理機構」に対する申請を行うこととしました。
「自賠責保険・共済紛争処理機構」は,自賠責保険金の適正な支払を図るため,自賠責保険の判断に不服がある者の申請を受けて,その判断の妥当性を審査する機関です。この紛争処理機構への申請は,同一の内容に関して1回しか行うことができず,自賠責保険への異議申立てのように複数回実施することはできません。しかし,本件では,これまでの手続の中でできる限りの根拠は揃えていたため,紛争処理機構を利用して問題ないと判断しました。

念のため,再度主治医の先生と相談の上,異議申立ての結果を踏まえた追加の医学的意見の作成にご協力いただきました。これも医療照会書の形式にし,主治医の先生の意見を添える形で申請を実施しました。

ポイント
自賠責の判断に不服のある場合,紛争処理機構への申請が可能
紛争処理機構への申請は1回きり

活動の結果

①後遺障害等級

紛争処理機構への申請の結果,股関節の症状と交通事故との因果関係について判断が覆り,因果関係があるとする当方の主張が受け入れられました。また,具体的な等級についても,可動域制限が他動運動でなく主に自動運動で生じていたにもかかわらず,10級でなく可動域制限を前提とした8級の認定となりました。

これを踏まえた後遺障害等級は,従前の併合9級から併合7級へと変更され,被害者の救済に結びつく結果となりました。

②金銭賠償の内容

本件では,加害者側に任意保険がなく,また加害者本人は生活保護受給者であったため,経済力のないことが明らかな状況でした。
そのため,被害者自身の加入する人身傷害保険又は無保険車傷害保険での対応を予定することになりましたが,具体的な金額計算の結果,人身傷害保険の方が高額の保険金受領が可能であることが確認できたため,人身傷害保険を通じて金銭の支払を受けることとしました。

最終的には,自賠責保険金1051万円,これを除く人身傷害保険金が3,500万円を超える金額となり,合計で4,600万円超の支払を受けることができました。

ポイント
紛争処理機構を通じて併合7級が認められた
最も支払額の高い手続を選択し,4,600万円超の支払を獲得

弁護士によるコメント

本件は,股関節の受傷に関して,事故との因果関係と人工関節挿入後の可動域制限が同時に問題になるという,同種事例に乏しいケースでした。もっとも,一つ一つの争点を丁寧に分解して具体的に検討することで,いずれの争点についても適正な判断を獲得することが可能であることを示す事例になったと思います。

ただ,これらの争点は必ずしも被害者側に有利な判断がされるわけではなく,判断の難しい性質のものであることは間違いありません。実際,本件では,労働災害であったため労災の後遺障害等級認定も受けましたが,手続を尽くしたものの,結果は併合9級止まりでした。その理由は,因果関係の問題こそクリアできたものの,可動域制限の点について機械的に「他動」の値で判断するとの結論にしかならなかったためでした。

弁護士から,結果が伴うと安易に約束することは決してできませんが,最善を尽くし,ご依頼者の方が少しでも納得して今後の生活に向かっていただけるような活動は,今後も心掛けていきたいと強く感じる機会でもありました。

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