特別受益とは何なのか?遺留分との関係は?特別受益の争いを回避するには?弁護士が全面網羅

●特別受益とは何か?

●生前贈与を受けた人だけ得をするのは不公平では?

●何が特別受益に当たるのか?

●特別受益と遺留分はどういう関係にあるのか?

●特別受益がある場合の相続分の計算を知りたい

●遺言に沿って贈与された場合の特別受益はどうなるか?

●特別受益を主張できる期間に制限はあるか?

というお悩みはありませんか?

このページでは,相続の特別受益についてお困りの方に向けて,特別受益の意味や内容特別受益が生じる際の計算方法トラブルを未然に防ぐ方法などを解説します。

特別受益とは

特別受益とは,相続人の一人が被相続人からその生前に受けた特別な財産の贈与や利益をいいます。特定の相続人に対する特別受益があった場合,その相続人の受けた利益を相続財産の前渡しとして扱い,その分を相続分から控除することになります。

特別受益を相続財産の前渡しとして取り扱うことによって,相続人間で遺産の分割が不公平になるのを防ぐことができます。

特別受益に当たるもの

特別受益には以下のようなものが含まれます。

1.生前贈与
被相続人が生前に相続人に対して行った贈与。例としては、結婚や生活資金の援助、住宅購入資金の贈与などがあります。

2.遺贈
遺言により特定の相続人に財産を与えること。

3.養育費・学費
他の相続人と比べて特別に多額の養育費や学費を支払っていた場合。

いずれも,被相続人から相続人の一人についてだけ特に経済的な利益が与えられた場合,その利益が特別受益に当たると理解されるものです。

特別受益がある場合の相続分の計算

特別受益がある場合における各相続人の相続分は,以下のステップで計算します。

1.みなし相続財産の計算
相続財産に特別受益分を加えた金額を「みなし相続財産」と言います。

2.各相続人の法定相続分を計算
みなし相続財産を各相続人の法定相続分に応じて分ける方法で,各相続人の相続分を計算します。

3.特別受益分を控除
→特別受益を受けた相続人についてのみ,計算された相続分から特別受益分を控除した金額を相続分とします。

(例)
遺産総額5,000万円,相続人は配偶者と子2名(長男・次男),長男のみ生前に住宅資金1,000万円の特別受益を得ていた場合

1.みなし相続財産の計算

遺産総額:5,000万円
特別受益:長男が生前に受けた住宅資金1,000万円

みなし相続財産
→5,000万円+1,000万円=6,000万円

2.各相続人の法定相続分を計算

配偶者の法定相続分:3,000万円(6,000万円×1/2)
子2人の法定相続分:各1,500万円(6,000万円×1/2×1/2=1,500万円)

3.特別受益分を控除

配偶者の相続分:3,000万円

長男の相続分:500万円(1,500万円-1,000万円)

次男の相続分:1,500万円

遺留分と特別受益の関係

①遺留分と特別受益の区別

遺留分と特別受益は,いずれも被相続人から特別な財産の譲渡が行われた場合に相続人の公平を図るための制度ですが,具体的な内容は大きく異なります。
それぞれの意味は以下の通りです。

遺留分
遺贈や生前贈与によっても侵害されない,相続人の最低限の取り分

特別受益
相続人の一人が被相続人から受けた特別な財産的利益
特別受益があった場合,その分を加味して相続分を計算することにより,他の相続人の相続分が減少することを防ぐ

遺留分は,遺言等によって法定相続分を下回る相続しかできない人でも,最低限受領できる取り分を定めることによって,相続人を保護する制度です。つまり,特別受益が相続分を決定するときの問題であるのに対して,遺留分は相続分通りの遺産分割が行われなかったときの問題である,という整理になるでしょう。

②遺留分と特別受益が関係する場合

特別受益が生じている場合,遺留分も特別受益を加味して計算することになります。そのため,特別受益があれば遺留分の金額にも影響を及ぼすことになります。

(例)
遺産総額5,000万円,相続人は配偶者と子2名(長男・次男),長男のみ生前に住宅資金1,000万円の特別受益を得ていた場合

1.みなし相続財産の計算

遺産総額:5,000万円
特別受益:長男が生前に受けた住宅資金1,000万円

みなし相続財産
→5,000万円+1,000万円=6,000万円

2.遺留分の計算(詳細はこちらの記事を参照)

「直系尊属のみが相続人の場合」に該当しないため,各相続人の遺留分は法定相続分の2分の1となります。

配偶者の遺留分:1,500万円(3,000万円×1/2)
子2人の遺留分:各750万円(1,500万円×1/2)

3.特別受益の控除

特別受益のあった相続人については,特別受益分の遺留分を確保する必要がないため,遺留分から特別受益分を控除します。

配偶者の相続分:1,500万円

長男の相続分:0円(「750万円-1,000万円」がマイナスになるため)

次男の相続分:750万円

問題が生じない場合①遺言で遺産配分を定めている

特別受益が問題になるのは,相続分を計算する局面であるため,相続分に沿った遺産分割の必要がなければ,特別受益の問題自体が生じません。具体的には,遺言で遺産の配分が定められている場合が代表例でしょう。

遺言がある以上は,遺産分割協議や相続分よりも先に遺言に従って遺産を分割する必要がある,というのが原則です。そのため,遺言がある場合には特別受益の問題は生じず,後は遺留分が侵害されているかどうかの話になる,ということですね。

なお,遺留分の算出に当たって特別受益を加味した計算を行う点は,上記の通りです。

問題が生じない場合②被相続人の持戻し免除

特別受益がある場合,特別受益を相続財産からの前払いとみなして,相続財産に組み込んで相続分の計算を行いますが,特別受益を相続財産の計算に加えることを「持戻し」といいます。
この点,被相続人が特別受益について「持戻し免除の意思表示」を行うことで,遺留分を侵害しない範囲で持戻ししないで計算することが可能です。

これまでの例の場合だと,持戻し免除された場合の相続分は以下の通りです。

(例)
遺産総額5,000万円,相続人は配偶者と子2名(長男・次男),長男のみ生前に住宅資金1,000万円の特別受益を得ていた場合

1.みなし相続財産の計算

遺産総額:5,000万円
特別受益:長男が生前に受けた住宅資金1,000万円
持戻し免除:特別受益は持戻しをしない

みなし相続財産
→5,000万円+0万円=5,000万円

2.各相続人の法定相続分を計算

配偶者の法定相続分:2,500万円(5,000万円×1/2)
子2人の法定相続分:各1,250万円(5,000万円×1/2×1/2=1,250万円)

3.特別受益分を控除

配偶者の相続分:2,500万円

長男の相続分:1,250万円(1,250万円-0万円 持戻し免除のため)

次男の相続分:1,250万円

持戻し免除が活用されるのは,特別受益と評価する方がかえって不公平になってしまう場合です。事業の承継に不可欠な財産を譲渡したに過ぎない,という場合などが代表的です。

特別受益を主張する期間の制限

2023年4月の民法改正により,相続開始から10年経過後の遺産分割は具体的相続分(特別受益等を加味した相続分)でなく法定相続分(特別受益等を加味しない相続分)によることとなりました。そのため,相続開始から10年が経過すると,特別受益を主張することができません。

もっとも,以下の場合には例外的に10年経過後も特別受益の主張が可能です。

1.10年の経過前6か月以内に遺産分割を請求できないやむを得ない事由があった相続人が,そのやむを得ない事由の消滅後6か月以内に家庭裁判所へ遺産分割請求したとき

2.相続人全員の合意があるとき

「遺産分割を請求できないやむを得ない事由」に当たる場合としては,被相続人が長期間行方不明になっていたため,死亡の事実が確認できないでいたケースなどが挙げられます。

相続問題に強い弁護士をお探しの方へ

特別受益は,相続財産を公平に分割するための制度ですが,特別受益が生じたことにも一定の理由がある場合が多く,特別受益を加味した解決は容易ではありません。
特に,遺言で相続の内容が定められていない場合,特別受益を含む遺産分割の協議は難航しやすく,相続問題に精通した弁護士への依頼が有力になりやすいでしょう。

さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,相続問題に精通した弁護士が迅速に対応し,円滑な解決を実現するお力添えが可能です。是非お気軽にご相談ください。

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