●養育費が支払われなくなってしまったらどうすればいいか?
●養育費を強制的に回収する手段はあるか?
●養育費の取り決めを公正証書にしていると何が違うか?
●給与はいくら差し押さえられるのか
●給料の差押えは毎月行わないといけないのか?
という悩みはありませんか?
このページでは,養育費の支払いが滞ったときの対応でお困りの方に向けて,養育費の支払が滞った場合の対処法や,具体的な回収手段,手続などを解説します。
目次
養育費が滞った場合に検討すべきこと
養育費は,長期間に渡って月々一定の金銭を支払う内容になるため,途中で支払いがされなくなったり,連絡が付かなくなったりしてしまう恐れが非常に大きい傾向にあります。特に,面会交流のできない非監護親の場合,将来に渡って律儀に養育費を支払い続けるモチベーションを自分で維持できる人は決して多くないため,養育費の支払いが滞った場合の対処は予め検討しておくのが望ましいでしょう。
実際に養育費が滞った場合には,以下のような点の検討が適切です。
養育費が滞った場合の検討事項
1.相手方(義務者)と連絡が取れるか
2.相手方(義務者)の財産が特定できるか
3.金銭を強制的に回収できる状況か
①相手方(義務者)と連絡が取れるか
支払が滞った場合の最初の対応手段は,相手方への任意の請求になることが一般的です。できることであれば,煩雑で時間のかかる手続を取ることなく,相手方から自発的に支払続けてもらうことが最も円滑でしょう。
そのため,まずは相手方と連絡を取ることができるか,連絡先が把握できるか,という点の確認,検討を行うのが望ましいです。
②相手方(義務者)の財産が特定できるか
相手が任意に支払わない場合,強制的に回収する必要が生じ得ますが,その場合,回収のあてになる目ぼしい財産の特定ができているかどうかは重要な問題になります。対象財産の見通しが立っているかどうかは,強制的な回収に踏み切るかどうかの判断にも影響を及ぼすため,できるだけ早期の確認,検討が望ましいでしょう。
強制的な回収のあてになる財産としては,やはり金銭が最も適切でしょう。売却などの手続を要せず,直ちに確実に回収できるためです。具体的には以下のような財産の確認が有益になりやすいところです。
確認すべき相手方の財産の例
預貯金
→金融機関は特定できていることが望ましい
給与
→勤務先を特定できていることが望ましい
③金銭を強制的に回収できる状況か
金銭を強制的に回収するためには,強制的に回収する権限のあることが必要です。具体的には,判決で認められた,調停が成立したなど,強制執行を行う根拠が必要であり,通常は文書化されています。このように,強制執行の法的な根拠が文書化されたものを「債務名義」と言います。
債務名義には,一般的に以下のような種類があります。
一般的な債務名義の種類
判決 | 裁判所が下した判決で、債務者に対して支払いを命じるもの |
決定・命令 | 裁判所が出した決定や命令で、支払い義務を認めたもの |
調停調書 | 家庭裁判所や民事調停で成立した調停内容を記載した調書 |
和解調書 | 裁判所での和解が成立した場合の和解内容を記載した調書 |
公正証書 | 公証人が作成した文書で、債務者が支払い義務を認め、強制執行を受け入れる旨が記載されているもの |
強制執行のためには債務名義が必要となるため,債務名義があるかどうかを確認する必要があります。
養育費が滞った時の対応 ①催促
養育費が滞った際は,まず,相手の支払を促すために催促することが一般的です。催促の方法は,電話やメールなど,最も便宜なもので差し支えないでしょう。
単に忘れていただけであったり,その月だけ速やかに支払えない事情があったりした場合には,簡単な催促のみで解決することも考えられます。
電話やメールなどの催促が到着しているにもかかわらず相手方が支払に応じない場合には,催促をした事実が客観的に証明できる手段で再度催促をしましょう。具体的には,「内容証明郵便」の利用が適切です。
内容証明郵便は,郵便局が郵便の差出人,受取人,内容,日時を証明してくれるもので,内容証明郵便で催促すれば,遅くともそのタイミングで送付したという事実が明らかにできます。
また,より形式の整った請求手段であるため,相手方に養育費の支払いを怠ることのリスクを感じさせる手段にもなり得ます。
養育費の支払が遅滞している場合,民法上は債務不履行に当たるため,遅滞するごとに遅延損害金が追加で発生します。相手方としては,支払を怠れば怠るほど支払金額が大きくなることを意味するので,遅延損害金をあわせて請求する意思を表明することで,より強く支払を促す手段も有力でしょう。
ポイント
養育費の支払いが滞った場合,まずは催促から
最初は電話やメールでも可,応じなければ内容証明郵便で
遅延損害金の請求意思を表明する手段も有力
養育費が滞った時の対応 ②催促に応じない場合
催促をしても養育費が支払われない場合には,強制的な回収手段を検討する必要が生じます。
判決や調停,公正証書といった債務名義があれば,相手の意思に反してその財産から強制的に金銭の回収が可能です。もっとも,いきなり強制執行するのでなく,裁判所を通じた他の手段での解決を試みることも考えられます。
催促に応じない場合の具体的な手段としては,以下のような手続が挙げられます。
【履行勧告】
家庭裁判所の手続で決まった金銭の支払義務が守られない場合,家庭裁判所がその義務を履行するよう勧告することができます。これを「履行勧告」と言います。
履行勧告は,手続としては勧告(勧めること)にとどまるため,強制力はありません。履行勧告が無視されたとしても,養育費の支払を強制することはできない,ということになります。
履行勧告は,「より大きな不利益が生じる前に払ってください」というメッセージと理解するのが適切でしょう。
【履行命令】
家庭裁判所の手続で決まった金銭の支払が滞った場合,権利者が家庭裁判所へ申し立てることにより,家庭裁判所から義務者へ「履行命令」を行うことが可能です。履行命令は,裁判所が一定の期間を定めて義務者に履行を命令し,命令に反した場合には「10万円以下の過料」という行政罰の対象となる恐れがあります。
もっとも,履行命令もまた,支払そのものを強制する効力まではありません。ペナルティを伴う命令によって,支払をより強く促す手続,という理解が適切でしょう。
【養育費請求調停】
調停を利用せず協議で養育費を取り決めた場合には,支払が滞った後に家庭裁判所に別途調停を申し立てることも考えられます。
協議離婚の際に公正証書などで債務名義を確保しなかった場合は,支払を強制するために債務名義を獲得する必要がありますが,養育費に関しては調停を申し立てる手段が最もバランスの取れた方法であることが多いでしょう。
手続もあまり煩雑ではなく,内容的にも両当事者の事情を踏まえた裁判所から個別のケースに合わせた適切な判断を受けることが可能になります。
調停が成立した後は,同様に履行勧告や履行命令の手段もあります。
【民事訴訟】
養育費について取り決めを行った場合,その不払は債務不履行に該当するため,いわゆる民事訴訟として養育費の支払いを求める裁判を提起することが考えられます。
もっとも,民事訴訟によって得られるものは債務名義であるため,民事訴訟が有用であるのは債務名義がない場合に限られるでしょう。また,調停といった家庭裁判所の手続よりも手続や法律問題が難解であることが多いため,あまり積極的に用いる手段ではないことが多いと思われます。
【支払督促】
民事訴訟による債務名義の取得を行う場合,先立って裁判所に「支払督促」を申し立てる手段も考えられます。
支払督促とは,債務者が金銭を支払わない場合に簡易裁判所がその支払を求める手続を指します。債権者の申立てがあり,書面審査でその合理性が確認できれば,裁判所は債務者に支払督促を発します。
支払督促が発せられた場合の流れは,以下の通りです。
支払督促後の流れ
支払督促送達から2週間 | 期間内に債務者の異議申立てあり →訴え提起があったものとみなす(民事訴訟が開始) 期間内に債務者の異議申立てなし →債権者から仮執行宣言付支払督促の申立てができる |
仮執行宣言付支払督促から2週間 | 期間内に債務者の異議申立てあり →訴え提起があったものとみなす(民事訴訟が開始) 期間内に債務者の異議申立てなし →仮執行宣言が確定し,強制執行が可能になる |
支払督促がなされた場合,債務者がこれを無視し続けると,債権者は強制執行が可能になります。また,支払督促に対して異議申立てがあると自動的に民事訴訟へと移行するため,民事訴訟を想定している場合に支払督促を行ってみる手段は有力です。
債務名義がある場合の強制執行
強制執行を行う場合,「債務名義」(=強制執行が可能であることの根拠となる文書)があるかどうかによって,取り得る手続が変わります。
協議離婚の場合,債務名義は公正証書の形で取り付けることになりますが,公正証書がある場合には,公正証書に基づいて端的に強制執行することが可能です。
もちろん,判決や調停などによって債務名義が得られた場合も同様です。
養育費の強制執行は,預貯金や給与債権などに対する「債権執行」を行うことが一般的です。住宅などに対する「不動産執行」も可能ですが,不動産の価額に応じて決して小さくない金額の予納金が必要になる上,換価に時間がかかるため,注意が必要な手続でしょう。
給料の差押え ①可能な範囲
強制執行による回収は,多くの場合預金か給与を差し押さえて行うことになりますが,給与債権については,一般的な強制執行よりもより多くの差押えが認められています。具体的な内容は以下の通りです。
給与債権の差押え範囲
原則 | 給与の4分の1まで |
養育費の場合 | 給与の2分の1まで |
養育費は,子の生活を守るための大切な費用であるため,子を守る重要性を踏まえ,給与の2分の1までの金額を差し押さえることができるとされています。
債権者が把握し得る財産としては,給与債権が最も代表的であるので,給与の差押え範囲が広がっていることは,子どもを保護するために非常に重大な意味を持つことが多いでしょう。
給料の差押え ②将来の給料を差し押さえる方法
養育費の支払給与の差押えを行う場合,直ちに現実に差し押さえられるのは,当月支払分のみです。当月分の給与から,当月分の養育費を回収するという取り扱いになることが通常でしょう。
そうすると,差押えを行った段階では,翌月以降の養育費はまだ請求できる段階になく,給与もまだ差し押さえられる状況にありません。この点,支払期限が訪れていない債権に関しては強制執行できない,というのが法律の原則であるため,翌月以降の養育費については,その支払期限がきた段階で毎月強制執行しなければならないのか,という問題が生じます。
この点,養育費債権に代表されるような「扶養義務等に係る定期金債権」の場合,一部に不履行があれば将来の分についても給与の差押え(債権執行)が可能である,という特例があります。
そのため,一度給与を差し押さえて養育費を回収すれば,それ以降は強制執行の申立てなくとも養育費の回収が可能になります。事実上,将来の給与も差し押さえることができるという理解になるでしょう。
養育費の請求に強い弁護士をお探しの方へ
養育費の支払は,離婚後も相当期間継続するものであり,具体的な支払を支払う側の動きに任せることになるため,支払う側がある時から滞り始める場合も少なくありません。
そのとき,生活に重大な支障が生じることを避けるためには,取り扱いに長けた弁護士に相談・依頼するなどして迅速な請求を行うのが適切でしょう。
さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,離婚・男女問題に精通した弁護士が迅速対応し,円滑な解決を実現するお力添えが可能です。是非お気軽にご相談ください。
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