離婚における財産分与の種類って?財産分与の対象になる財産の範囲は?財産分与の注意点は?弁護士解説

●財産分与とは何か?

●財産分与せずに離婚することも可能か

●離婚してもすぐ働けないが,財産分与を多くできないか?

●相手が有責の場合に財産分与を多くできないか?

●財産分与の対象になる財産はどこまでか?

●借金の財産分与はどうすべきか?

●財産分与の具体的な方法は?

●財産分与はいつでも可能か?

という悩みはありませんか?

このページでは,離婚の財産分与についてお困りの方に向けて,財産分与の内容や考え方対象財産や具体的方法などについて解説します。

財産分与とは

財産分与とは,離婚の際に,夫婦が婚姻期間中に築いた財産を分け合うことを言います。夫婦の共同生活の中で形成された財産を公平に分配することを目的にした制度です。基本的に,夫婦の収入の差などにかかわらず,財産を2分の1ずつに分け合うことになります。
もっとも,財産分与の対象となるのは,夫婦が婚姻中に共同して形成した財産のみです。財産の中でも,財産分与の対象となるものとならないものが生じ得ます。

財産分与の対象となる財産の例としては,以下のようなものが挙げられます。

財産分与の対象

不動産住宅、土地など
動産車、家具、家電、貴金属など
金融資産預貯金、株式、投資信託など
退職金離婚時点での支給見込額の一部
その他保険、年金などの資産価値があるもの

一方,財産分与の対象外となる財産の例としては,以下のようなものが挙げられます。

財産分与の対象外となる財産

婚前財産婚姻前に個別に所有していた財産
相続・贈与財産婚姻中に一方が相続または贈与により取得した財産

離婚の際に財産分与しないことの可否

財産分与は離婚成立の要件ではないため,財産分与せずに離婚することは可能です。

この点,離婚時に財産分与を請求すると争いになることが明らかであると考え,速やかな離婚を優先するために財産分与を求めず離婚を選ぶ場合もあり得ます。このとき,財産分与を請求しないという意思を表明することが考えられますが,これを「財産分与請求権の放棄」と言います。放棄する場合には,離婚協議書を作成し,その中に記載することが一般的です。
財産分与請求権を放棄した場合,後から財産分与を請求することはできません。一度放棄した権利を再度行使することはできないので,放棄を選択する場合には慎重に判断するのが適切でしょう。

一方,財産分与請求権の放棄をせず,単に財産分与の取り決めをしないまま離婚することも可能です。この場合,事後的に財産分与を請求することもでき,財産分与を請求されればもう一方は応じなければなりません。
ただし,財産分与請求権は,離婚から2年で消滅時効が完成してしまうため,離婚から2年以上経過した時点で請求しても,相手に拒否されてしまう恐れがあります。また,財産分与を後回しにしていると,その間に財産が隠匿されたり費消されたりして,本来得られたはずの財産が得られなくなる可能性も否定できません。
財産分与を行うのであれば,離婚に先立って行うのが適切である場合がほとんどでしょう。

ポイント
財産分与せずに離婚することは可能
財産分与請求権を放棄すると,後から請求できない
離婚後の財産分与請求は2年の消滅時効
財産分与を後回しにすると,財産の隠匿などの恐れがある

財産分与の種類と割合

財産分与には,以下の3つの種類があると言われています。

財産分与の種類
1.清算的財産分与
2.扶養的財産分与
3.慰謝料的財産分与

①清算的財産分与

婚姻期間中に夫婦が協力して築いた財産を公平に分配するという財産分与であり,財産分与のもっとも一般的な方法です。夫婦関係を清算するために,夫婦が二人で作り上げたものを二つに分けよう,ということですね。

清算的財産分与は,基本的に2分の1の割合で分け合うことになります。夫婦間の貢献度に特段の差がなければ,収入額によって割合が変わるわけではなく,妻が専業主婦である場合も2分の1ずつ分与されるのが通常です。ここでの貢献度は,財産の形成に対する貢献の度合いを指しますが,その方法は収入を稼ぐことに限らず,家事労働による内助の功も含むと考えられるためです。

②扶養的財産分与

離婚後,経済的に弱い立場にある配偶者の生活を守る必要がある場合に,その生活を守るための補助の趣旨で行われる財産分与を指します。

扶養的財産分与が行われる例としては,以下のような場合が挙げられます。

扶養的財産分与が行われる場合の例
1.専業主婦(主夫)である場合
2.重大な病気を患っている場合
3.高齢で定職がない場合
4.子が幼い場合

扶養的財産分与は,離婚後に一方の配偶者が安定した生活を送るようになるまでの補助の趣旨で行われるため,一定期間,月々一定の金額を支払う方法で行われることが一般的です。

③慰謝料的財産分与

慰謝料の意味を含める趣旨で,あえて一方に有利な内容とする財産分与を指します。
財産分与も慰謝料も,最終的には金銭(金額)の問題になるため,両者を区別してそれぞれ検討するよりも,合わせて一挙に解決した方が円滑である,という観点から行われるものです。

慰謝料の支払と慰謝料的財産分与の違いが現れるのは,金銭以外で慰謝料相当額を支払う場合です。
慰謝料という形を取る場合,金銭以外での支払は困難ですが,慰謝料的財産分与の場合は金銭である必要はありません。住宅や車など,金銭以外の財産を慰謝料代わりに多く分与するという形で支払うことも可能であるため,慰謝料問題の解決方法により幅が生まれることになります。

ポイント
清算的財産分与は,共同財産を原則2分の1で分け合う
扶養的財産分与は,経済的に弱い立場への補助を含む
慰謝料的財産分与は,慰謝料を含む趣旨で一方に有利な財産分与をする

財産分与の対象財産

財産分与の対象となる財産は,夫婦の共有財産と位置付けられるものです。共有財産とは,婚姻中に夫婦が協力して形成した財産を指します。
具体的な内容としては,以下のようなものが挙げられます。

【現金・預金】

婚姻中に貯めた金銭は,その預金名義にかかわらず,夫婦の共有財産であり,財産分与の対象となります。これは,一方が専業主婦(主夫)であっても変わりません。夫婦の一方だけにしか収入がなくても,婚姻中に貯めたものである限り,財産分与の対象と判断されます。

【動産・不動産】

婚姻中に購入したものである限り,夫婦の共有財産であり,財産分与の対象となります。
もっとも,以下のような点に注意が必要です。

1.特有財産による支払が含まれている場合
特有財産とは,一方配偶者の固有の財産を言います。結婚前から持っていた預金や,結婚後に相続した財産などが代表例です。これらの財産を頭金にして住宅ローンを組んだ場合など,特有財産による支払が含まれている場合,その支払に対応する部分は財産分与の対象とするべきでなく,分与の割合に影響が生じ得ます。

2.オーバーローンである場合
主に住宅ローンの場合,ローンの残債と住宅の現在価値を比較すると,ローンの残りの方が高いことがあります。このように,ローン残債が住宅の価額を上回ってしまうことを,オーバーローンと言います。
オーバーローンのケースでは,その住宅に財産価値がないため,財産分与の対象とすることは基本的にできません。この場合,一般的にはローンの名義人である方が支払を継続し,住宅に居住し続けることが多いでしょう。

【保険】

婚姻中に加入した各種の保険については,解約返戻金が生じる限り,その解約返戻金相当分が財産分与の対象になります。
婚姻より前に加入した保険については,その後の婚姻中にも加入を続けて保険料を支払っていた場合に,婚姻期間分の解約返戻金が財産分与の対象になります。

もっとも,子どものための保険については,解約を希望せず,加入し続けたいと考えるケースもあり得ます。典型例は学資保険などですね。
この場合には,双方が合意する限り,解約せず財産分与の対象としないことも可能です。子どものための保険を解約しない場合,一方が保険料を支払い続けますが,これを養育費の支払い(の一部)とみなす形を取ることが多く見られます。

【退職金】

退職金には,以下の二つの側面があると言われています。

退職金の性質
1.賃金の後払い
2.功労に対する報償

つまり,退職金にも賃金(給与)の支払いという意味があるため,給与と同じく財産分与の対象になるのが通常です。
具体的な取り扱いは,支払いがすでになされているかどうかによって,以下のように異なります。

①既に支払われている場合

婚姻期間と勤労の期間が重複している部分について,財産分与の対象となります。勤労していた期間のうちどのくらいの割合が婚姻期間に相当するかを計算し,金額を案分することが一般的です。
ただし,財産分与の対象となる婚姻期間は,同居の上で生活を営んでいた期間に限られます。別居中の期間については,退職金が得られたことに対する配偶者の貢献がないと考えられるためです。

②これから支払われる予定の場合

現実の支払がなされていないため,支払が確実である場合に限り,確実に支払われる金額の範囲で財産分与の対象となります。
支払が確実であるかどうかは,以下のような事情を踏まえて判断します。

支払が確実であるかの判断要素
就業規則における退職金規定の有無
・退職金規定における金額や計算方法の定め
・退職金の支給実績
・定年退職までの残り期間
転職歴の有無や内容,期間
・会社の経営状況

【年金】

確定拠出年金や個人年金(個人が私的に契約する年金保険等)といったものについては,夫婦の共同財産から掛け金を拠出するため,財産分与の対象になります。
また,企業年金については,退職金と同じく賃金の後払いという性質を持つため,同様に財産分与の対象となります。

一方,厚生年金については,婚姻期間中における保険料の納付実績に応じた「年金分割」の対象となり,財産分与の対象とはなりません。
なお,年金分割されるのは厚生年金のみであり,国民年金は年金分割の対象とならない点に留意が必要です。これは,厚生年金の金額が収入額によって変動することを踏まえ,夫婦間の収入差による不公平を防ぐための制度が年金分割であるためです。

※年金分割についてはこちらの記事もご参照ください

借金の財産分与

借金などの債務も,夫婦が共同生活の中で要したものであれば,共同の債務であり,財産分与において考慮すべき対象になります。
現実的には,財産にプラスもマイナスもある場合は,プラスがマイナスを上回る限り,プラスの財産からマイナスの分を差し引いて,残額を財産分与の対象とするのが一般的でしょう。

もっとも,夫婦の一方が,自分だけのために個人的に借り入れた借金については,財産分与の考慮対象とはされません。財産分与の対象とならない借金としては,以下のようなものが挙げられます。

財産分与の対象とならない借金
独身時代の借金
ギャンブルのために生じた借金
一方が個人事業で作った借金

これらの借金は,婚姻中の共同生活は無関係のものであるため,配偶者に負担させることなく離婚後も一方が個人的に返済していくことになります。

財産分与の方法

財産分与の方法は金銭であることが一般的ですが,決して金銭で分割する必要があるわけではありません。
車や自宅などの現物で渡すことも可能ですし,一方が車や自宅を持つ代わりにもう一方が金銭を受領するという方法も考えられます。もちろん,車や自宅などの財産を売却し,換価した金銭を分割することも可能です。

このような財産分与の方法を決定する具体的な取り決め方としては,以下の流れが通常です。

財産分与の具体的な取り決め方
1.まずは夫婦間の協議(話し合い)による解決を目指す
2.協議がまとまらない場合,調停での解決を目指す
3.調停が不成立の場合,裁判での解決を目指す

協議→調停→裁判という流れであることは,離婚自体の方法と同様です。財産分与のみを独立して解決するのでなく,離婚に伴って解決することを目指すのが一般的です。
なお,離婚後の場合には,「財産分与請求調停」という調停の利用が可能です。調停で合意ができなければ,裁判所に「審判」をしてもらうことが可能です。

財産分与の際の注意点

財産分与を実際に行う場合には,以下の点に注意をするのが適切でしょう。

①財産の特定が複雑又は困難である可能性

財産分与は,分与すべき財産をすべて特定できていることが前提です。そのため,財産を隠匿されていたり,特定に漏れがあったりすると,適切な財産分与は困難となります。
財産が多岐に渡っている場合や,一方だけが管理している大きな財産がある場合は,弁護士に依頼するなどして適切な財産の特定と財産分与を行うのが適切でしょう。

②解決内容を書面化することの重要性

財産分与を協議で行う場合は,その解決内容を書面化するようにしましょう。特に,将来に渡って継続的に支払を行うことを内容とする場合は,途中で支払いが滞った場合に備えて,財産の差押えなどを行う準備もしておくことが望ましいです。
協議で解決内容が決まった際には,公正証書の形で書面化することによって,将来のトラブルに備えることをお勧めします。

財産分与の期間制限

財産分与を請求できる期間には,離婚時から2年以内という制限があります。この期間を経過した後の財産分与請求は,債権の消滅時効を援用されてしまうと適法に拒まれてしまいます。
基本的には,財産の隠匿や消費などのリスクを避けるためにも,離婚にあわせて財産分与を行うのが望ましいでしょう。

離婚の財産分与に強い弁護士をお探しの方へ

財産分与は,離婚後の生活のため非常に重要であり,対応を誤ると本来受け取れるはずのものが受け取れず,将来に渡って受け取る機会を失ってしまう可能性があります。
事前に想像していたよりも財産分与の対象になる財産は多岐に渡ることが多いので,トラブル化を防ぐためにも,離婚の財産分与に際しては弁護士への相談が適切でしょう。

さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,離婚・男女問題に精通した弁護士が迅速対応し,円滑な解決を実現するお力添えが可能です。是非お気軽にご相談ください。

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