【告訴受理解決事例】職場の飲み会後,車内で性的被害に遭った事件の場合 法的問題点や解決方法を弁護士が解説

このページでは,実際に告訴の受理に至った解決事例を紹介します。
(プライバシー保護のため,結論に影響しない範囲で一部実際の内容と異なる場合があります)

【このページで分かること】
・実際に告訴受理がなされた事件の内容
・告訴受理に至るための問題点と対応
・弁護士による告訴受理のポイント

今回ご紹介するのは,車内で勤務先の異性からわいせつ被害に遭った事件です。

事案の概要

職場の関係者で行われた飲み会の後,会社の先輩に当たる加害者から性的行為の被害を受けた事件。被害者は成人女性,加害者は成人男性。

被害者及び加害者を含む多数人での飲食後,少人数での二次会に移るなどしながら,被害者と加害者両名が同席しての飲食を継続していた。
最後の飲食の後,被害者と加害者は業務用ワゴン車内で休憩することにし,被害者が後部座席,加害者が前部座席でそれぞれ仮眠を取った。

仮眠中,前部座席にいた加害者が後部座席に移り,被害者にキスを迫る,身体を触るなどの行為をし始めた。被害者は,突然のことに抵抗できず,加害者のなすがままにされていた。
その後,加害者の行為がエスカレートし,抵抗しない被害者の女性器に手指を挿入してきた。被害者は,被害の拡大を避けるため,やむを得ず拒絶しなかった。

法的問題点

①成立する犯罪

被害者の同意なく性的な行為をすることは,不同意わいせつ罪又は不同意性交等罪の対象となる可能性が考えられます。一般的に,不同意わいせつ罪よりも不同意性交等罪の方が重大事件であり,重い刑罰の対象になることが見込まれます。

この点,女性器に手指を挿入する行為は,不同意性交等罪が成立要件である「性交等」に該当するため,本件は不同意性交等罪に該当することが考えられます。

②犯罪の成否に関する問題点

【「性交等」の有無】

加害者が被害者に行ったとされる各行為については,客観的な証拠がなく,被害者の供述のみがほぼ唯一の証拠となることが見込まれる状況であったため,被害者の主張する「性交等」が本当に存在したのか,問題となる可能性が考えられます。

【同意の有無】

被害者が加害者の行為に対して抵抗しなかったため,被害者が性交等について同意していたのではないか,という問題意識が出てくる可能性が考えられます。女性器への手指の挿入にも抵抗することなく応じている点は,被害者が同意していないと起きない出来事ではないか,との見解が生じ得ると考えられます。

【加害者の故意の有無】

加害者に不同意性交罪が成立するためには,加害者の故意が必要ですが,その内容は「被害者が同意をしていないと認識しているか,同意していなくても構わないと考えていた場合」と整理することができます。そのため加害者目線では,被害者が同意をしているはずだと認識していた場合,犯罪の故意がないとの判断になる可能性が考えられます。

特に,加害者に故意があったかどうかは被害者の供述だけでは分からないことも多く,被害者の言い分を根拠に犯罪の成立を認められるかどうかは非常に難しい問題になり得ます。

問題点の解決方法

①【「性交等」の有無】

「性交等」の有無は,どうしても被害者の供述を根拠とせざるを得ません。もっとも,告訴受理のためには,被害者の供述内容が存在したと立証することは必要なく,その存在が疑われる状況にあれば十分と言えます。なぜなら,実際に立証できるかどうかは,まさに告訴を受理した後捜査すべき事柄であるためです。
そのため,被害者側としては,明らかに犯罪事実(=性交等)がないという判断は不適切である,ということができれば足り,そのために対応を尽くすべきということになります。

この点の解決は,事件の内容に関する被害者の供述を,できる限り具体的に,かつ詳細にするのが非常に有効です。その結果,被害者の供述内容が真実であっても全く違和感はないと捜査機関に納得してもらえれば,告訴の受理ができないという判断にはなりづらいでしょう。

本件では,前部座席にいた加害者が後部座席に移動してきてから,一方的にキスを迫り始め,やがて行為がエスカレートし,最終的には手指の挿入まで至った,という一連の経緯について,具体的かつ詳細に説明をすることで,捜査機関の理解を得ることができました。そのような臨場感あふれる供述は,体験をした人物でなければできない可能性が十分にある,と評価された結果であると考えられます。

ポイント
性交等の根拠は被害者の供述のみにならざるを得ない
被害者の供述が真実である可能性が一定程度あれば足りる
詳細かつ具体的で,体験しなければ供述できない内容であることにより解決

②【同意の有無】

同意の有無との関係では,同意があった可能性をうかがわせる事情について,その合理的な理由を一つ一つ指摘していくことが肝要です。

本件では,被害者が特に抵抗する様子を見せなかった,という点が,被害者の同意の有無について疑問の生じ得る要素になり得ます。同意をする意思がないのであれば,最初から抵抗しているはずではないか,ということですね。
もっとも,抵抗をしなかった理由は,必ずしも同意していたからというのみではありません。実際,本件の被害者としては,男女の力の差を踏まえると,逃げ場のない車内で無闇に抵抗する方がより大きな被害を受ける可能性があると考えてのことでした。
告訴の受理に際しては,同意していなかったという被害者の主張が明らかに不合理でなければ足りるところです。事件当時の流れや被害者の挙動を踏まえて,確かに大きな被害を避ける目的でやむを得ず抵抗しなかった可能性もある,という理解をしてもらえた点が,告訴の受理につながったと考えられます。

また,密室内での行為については,自らの意思で密室まで同行したという事実が,被害者の同意を裏付ける事情と評価される可能性がありますが,本件では現場となった車内に被害者と加害者以外の人物もおり,決して二人きりの密室に同行したわけではない,という点も評価の対象になったことが考えられます。

ポイント
同意があった可能性をうかがわせる事情について,実際の理由を理解してもらえるかが問題
抵抗をしなかったのは同意していたからではない,と十分に説明することが肝要
密室での行為の場合,密室内に他の人物もいた点は評価の対象になる

③【加害者の故意の有無】

加害者に故意があったかなかったかは,被害者には確実な主張立証が困難なところです。
もっとも,そもそも加害者の故意を被害者が立証する必要はなく,立証できるかどうかは捜査の結果判断されるべき事柄です。最終的に故意が立証できることすらも必要ありません。
告訴は,犯罪の立証を捜査機関に求める手続であるため,犯罪の合理的な疑いが存在すれば足りるでしょう。

本件では,確かに加害者に故意がない(=被害者が同意していると誤解していた)可能性はありますが,故意がある(=被害者が同意していないこと,又はその可能性を認識していた)可能性も十分にあり得ます。犯罪の疑いとしては,その可能性が合理的に認められれば十分です。
したがって,加害者に故意があったかどうかという点は,本来,告訴の受理に影響を及ぼすべきでないと考えるのが適切でしょう。

ただし,被害者が積極的に加害者を誤解させる行動を取った場合など,明らかに加害者が誤解しているであろう場合には,告訴の受理に問題の生じることが考えられます。本件ではそのような事情のないことを確認の上,告訴の受理に至ったものと考えられます。

ポイント
故意があったことが立証できる必要はない
故意があった可能性があれば足りる
被害者が積極的に加害者を誤解させた事実がない,という点は必要

結果

警察に告訴が受理された結果,加害者に対する捜査が実施されるに至りました。

弁護士によるコメント

本件では,職場の関係者という交友関係を持つ間柄での事件であったため,単なる交際関係のトラブルなのか,犯罪に当たる事件なのか,という点は問題になり得るところでした。
この点,被害者と加害者の間には職場の先輩後輩という以上の深い関係はなく,男女関係のもつれに警察を巻き込もうとした事件ではないと理解してもらうに至ったことが,円滑な告訴の受理につながりました。

また,従前から加害者が被害者に一方的な好意を寄せていた可能性をうかがわせる事情も多数あり,その事情を具体的に積み上げることで,加害者が自身の性的欲求を被害者にぶつけた事件であるという全体像を明確にできた点も,非常に有益なポイントであったと言えるでしょう。

密室内での性犯罪は,客観的な証拠に乏しい場合が非常に多いため,告訴受理の上で捜査に踏み切ってもらうことに一定のハードルが生じやすい傾向にありますが,弁護士とともに適切な対応を尽くすことで,被害者の方の負担をできるだけ軽減しながら告訴受理を実現することが容易になるでしょう。

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