被害届って法的にどんな意味?被害届の提出の流れは?提出後はどうなる?受理してもらえないことがあるのはなぜ?被害者目線の徹底解説

●被害届とは何か?

●犯罪被害を受けた人が被害届を出すにはどうすればいいか?

●被害届を受理してくれないのはどういう場合か?

●被害届を提出した後の流れは?

●一度出した被害届は後からなかったことにできるか?

●被害届を出したい場合は弁護士に依頼すべきか?

というお悩みはありませんか?

このページでは,犯罪被害を受けた場合の被害届の提出についてお困りの方に向けて,被害届の意味や提出方法提出前後の流れなどを解説します。

被害届とは

①被害届の法的根拠

被害届とは,犯罪被害に遭った人が警察に対してその被害を報告するための文書です。警察が犯罪捜査を行う場合,この被害届の受理をきっかけに開始されることが非常に多く見られます。その意味で,被害届は刑事手続に関して非常に重要な地位にあるということができるでしょう。

もっとも,被害届というものについて法律の定めは特にありません。つまり,被害届という書面は法律にルールや根拠のある書面ではない,ということになります。
被害届については,犯罪捜査規範61条に以下のような定めがあります。

犯罪捜査規範61条
1項
警察官は、犯罪による被害の届出をする者があつたときは、その届出に係る事件が管轄区域の事件であるかどうかを問わず、これを受理しなければならない。
2項
前項の届出が口頭によるものであるときは、被害届(別記様式第6号)に記入を求め又は警察官が代書するものとする。この場合において、参考人供述調書を作成したときは、被害届の作成を省略することができる。

犯罪捜査規範とは,警察官が犯罪の捜査を行う際の基本的な指針やルールを定めた規範を言います。警察の捜査活動が適正に行われるようにするために、具体的な手続きや方法、倫理的な基準などを詳細に定めた規範ですが,あくまで警察の内部的な規則に過ぎません。そのため,国民がこの内部規則に基づいて「被害届」と呼ばれる書面の受理を要求することはできません。
要するに,被害届は,警察に受理する義務がなく,国民が警察に受理を求める権利もない性質のものである,という理解になるところです。

②被害届を提出したときの効果

被害届については,法律の定めがないため,被害届を受理した場合の取り扱い方法についても特段のルールはありません。捜査を始める義務も,捜査を始めるときの手続に関する規則もなく,被害届を受理した後にどうするかは警察の判断にならざるを得ません。

もっとも,現実的には,合理的な内容の被害届を受理した場合には,警察署の担当課にて捜査が開始されるのが通常であるため,被害届の提出を行うことには十分な意味があると考えてよいでしょう。

ポイント
被害届という書面に関する法律の定めはない
被害届が提出された場合に法律上の効果が発生するわけでもない
もっとも,現実的には被害届の受理により捜査が開始される

被害届を提出する方法

①提出時期

被害届の提出時期に関するルールは特にありませんが,提出は犯罪被害を受けたあと早ければ早いほど望ましいでしょう。

被害届を受けた警察が捜査を行う際,犯罪事実や犯人を特定するための証拠が手に入るかは非常に大きな問題となります。この点,犯罪被害から時間が経過してしまっていると,既に証拠が散逸してしまっていて,捜査に必要な証拠の獲得が困難になってしまう可能性も否定できません
また,重要な証拠の一つが被害者自身の供述(お話)ですが,時間が経てば経つほど記憶の詳細は薄れ,不明確になってしまうのが通常です。そのため,自分の供述がより重要な証拠価値を持つためにも,できるだけ早い動きが適切です。

②提出先

基本的には,事件が発生した場所を管轄する警察署に提出するのが適切でしょう。

場所については,犯罪捜査規範におけるルール上は管轄警察署でなくても構いませんが,現実にその捜査を行う警察署が管轄警察署になることを踏まえると,管轄の警察署へ直接提出をする方が端的であり,確実です。管轄のない警察署での提出を試みた場合,被害届の受理を拒まれる可能性も否定できません。
犯罪捜査規範を踏まえれば,管轄がないことを理由に被害届の受理を断ることはできないので,誤りを指摘すれば被害届の受理が見込まれますが,自ら進んでそのようなやり取りをするメリットはあまりないでしょう。
管轄のない警察署へ提出した場合,その後に管轄警察署への捜査協力も発生するため,二度手間になるという問題点もあります。

また,警察官がいれば,警察署でなく交番に提出する選択肢もあり得ますが,基本的には交番への提出でなく警察署への提出が適切でしょう。
交番は人員や捜査の体制に限りがあるため,事件の内容や規模によっては具体的に捜査を行うことが困難である場合も考えられます。捜査を行うことができない場合に被害届を受理することも難しいというお話になりやすいので,交番への提出は避ける方が合理的でしょう。

③提出内容

一般的には,被害者が警察に口頭で被害の申告を行い,その内容を警察にある被害届の書式に記載する方法で被害届とすることが大多数です。
被害届の書式は,犯罪捜査規範に定められたものがあり,そちらを用いるのが通常です。

被害届の書式

被害届の記載事項としては,以下のものが挙げられます。

・被害者の住居,職業,氏名,年齢
・被害の年月日時
・被害の場所
・被害の模様(詳細な内容)
・被害金品(品名・数量・時価・特徴・所有者)
・犯人の住居,氏名又は通称,人相,着衣,特徴等
・遺留品その他参考となるべき事項

被害届の提出を試みる場合は,これらの事項をできる限り伝えられるようにした上で,警察署に相談するのが適切です。

④提出者

被害届の提出者に関する制限はありませんが,基本的には被害者本人が提出すべきでしょう。

被害届を受理した場合,警察は犯罪捜査を開始することになりますが,被害者の供述を聞くことができなければ捜査が進まないため,現実的に被害届の受理が困難になってしまいます。被害者本人が提出し,事情や内容を直接説明するのが円滑です。

なお,被害者が幼い場合や死亡している場合など,被害者本人が被害を説明できない事情があるケースでは,親権者や遺族などの関係者(代理人)による提出も差し支えないでしょう。

ポイント 被害届の提出
被害届の提出時期はできるだけ早く
被害届の提出先は「事件発生場所を管轄する」「警察署」が望ましい
被害届の提出内容は,被害届の様式に沿うのが通常
提出者は基本的に被害者本人

被害届を受理してもらえない場合

捜査機関の内部規則である犯罪捜査規範には,以下のような定めがあります。

犯罪捜査規範61条1項
警察官は、犯罪による被害の届出をする者があつたときは、その届出に係る事件が管轄区域の事件であるかどうかを問わず、これを受理しなければならない。

しかしながら,現実的に被害届の受理を拒まれる場合はあり得るところです。被害届を受理してもらえない場合の具体的な理由としては,以下のようなものが挙げられます。

①犯罪被害に該当するかが明確でない場合

被害届は,犯罪による被害の届出であることが必要です。そのため,被害届の内容となっている事項が犯罪でない場合は,被害届が受理されない可能性が生じるでしょう。

②金銭請求の道具として被害届を利用しようとしている場合

被害者が加害者に対する金銭請求(損害賠償請求)を目的としている場合,加害者への心理的圧迫の手段として被害届を利用する可能性が考えられます。被害届は,犯罪の事実を申告して捜査を求めるためのものであるため,金銭請求や金額交渉の手段でしかないと思われる被害届は受理されない可能性があります。

③専ら警察官の裁量的判断である場合

多忙である,管轄違いである,被害者の言い分だけでは証拠不足である等,警察官が独自の理由で被害届の受理を拒む場合も考えられます。
これらは,被害届を受理しない理由とはなりません。多忙である場合はもちろん,管轄違いであっても受理するのが犯罪捜査規範の定めですし,捜査はまさに証拠を収集するものであるのですから,証拠不足を理由に捜査しないという対応に合理性はありません。

合理的な理由に乏しく,専ら警察官の裁量的判断で被害届が受理されなかった場合には,弁護士に依頼するなどして警察の対応を改めてもらうのが適切でしょう。

被害届提出後の流れ

①警察による捜査

被害届が提出されると,まず捜査が行われます。
もっとも,捜査の始まるタイミングや方法・内容はケースにより,また警察の担当課・担当官にもよるところです。

この点では,事件が放置されないかを特に注視するとよいでしょう。
被害届を提出しても犯罪捜査を行う義務が生じないため,犯罪捜査が行われないままズルズルと時間だけが経過していく可能性も否定できません。その場合には,捜査義務の発生する告訴の手段も含め,より慎重に対応を検討していくのが望ましいです。

また,捜査が開始された後は,事情聴取や実況見分といった捜査への協力を求められることが見込まれます。協力の義務はありませんが,捜査に不可欠な協力であるため,可能な範囲で協力するのが適切でしょう。

②検察への送致

警察が捜査を行った上で,被疑者や犯罪事実を特定すると,その内容を検察庁に送致します。逮捕した状態で送る場合はその身柄が,逮捕をしない状態(在宅事件)で送る場合は書類だけが(書類送検),それぞれ送致されます。

送致を受けた検察庁では,さらに捜査を尽くし,事件の処分を検討します。その過程で,被害者も担当検察官から話を聞かれるなどすることが見込まれます。

③起訴又は不起訴

検察官は,捜査を尽くした結果,被疑者を起訴するか不起訴にするか決めます。
起訴した場合は,裁判所による刑罰の判断の対象となり,不起訴となった場合には刑罰なく事件の手続が終了します。

④裁判

検察官が起訴した事件は,裁判所によって刑罰を判断する対象になります。
事件によっては,被害者も裁判所に出頭の上,証人尋問を受ける可能性があり得ます。もっとも,被害者が裁判に出る必要があるのは,否認事件などの限られた場合のみです。

被害届の取り下げ

被害届については,事後的な取下げを受け付ける運用がされています。被害届の取下げがなされると,被害者が加害者の処罰を求めないという意思であると理解されるため,加害者が刑事処分を受ける可能性は非常に低くなるでしょう。

なお,被害届の取下げは特に法律等に定めがないため,法的には被害届の取下げという手続は存在しません。実際の運用としては,被害者が被害届を出した後,そこで示した捜査や処罰の希望を撤回する意思表明の手段として,便宜上,被害届の取下げという形が取られています。

被害届を出したい場合には弁護士に依頼すべきか

被害届は,弁護士に依頼せず,被害者が自ら警察に相談して提出し,受理してもらうことも可能です。

もっとも,被害者が自分だけで警察に相談し,必要な対応を尽くし,適切に被害届を受理してもらうことは決して容易ではありません。特に,内容や経緯が複雑な事件や,客観的証拠が明確でない事件など,警察が円滑に対応できない可能性のある事情があるケースでは,被害届の提出に精通した弁護士への依頼が適切でしょう。

また,被害届が受理されなかった場合,断った警察の対応が適切だったのか,不適切で誤りを正してもらうべきなのか,という点は,法律の専門家による判断が望ましいところです。被害届の受理に難色を示された場合には,弁護士に相談等の上で適切な対処をするのが適切でしょう。

犯罪被害に強い弁護士をお探しの方へ

犯罪被害を受けた場合には,警察に捜査を依頼することが必要不可欠ですが,捜査を求めるための最も代表的な手段が被害届の提出です。
もっとも,被害届を提出しようと思っても,やり方を誤ると警察の協力を十分に得られない可能性があるため,弁護士に相談するなどして適切な方法で行うのが適切でしょう。

さいたま市大宮区の藤垣法律事務所は,刑事事件の経験豊富な弁護士が,専門的な知識・経験を踏まえて,犯罪被害にお悩みの方への最善のサポートを提案することができます。
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