●上肢・手指の後遺障害にはどのようなものがあるか?
●上肢・手指の後遺障害の判断基準は?
●上肢・手指の機能障害はどのように判断するか?
●等級が認定された場合にはいくら請求できるか?
●上肢・手指の後遺障害については弁護士に依頼すべきか?
という悩みはありませんか?
このページでは,上肢の後遺障害についてお困りの方に向けて,上肢の後遺障害に関する判断基準,等級認定された場合の賠償額などを解説します。
目次
上肢・手指の後遺障害の種類
上肢とは肩や腕のことを指します。交通事故の結果,骨折や脱臼が生じるなどすると,治療を尽くしても事故前の状態には戻らず,後遺障害の対象となることがあります。
上肢及び手指の後遺障害としては,以下のものが挙げられます。
上肢の後遺障害
欠損障害 | 上肢の一部分を失ったことに関する後遺障害 |
機能障害 | 関節(肩関節・肘関節・手関節)の動きに制限が生じたことに関する後遺障害 |
変形障害 | 上肢の骨折部が曲がったまま癒合するなどした結果,変形が生じたことに関する後遺障害 |
手指の後遺障害
欠損障害 | 手指の一部分を失ったことに関する後遺障害 |
機能障害 | ①手指の関節の動きに制限が生じたことに関する後遺障害 ②手指の一部を失ったうち,欠損障害に該当しないものに関する後遺障害 |
後遺障害等級の判断基準(上肢の欠損障害)
①両上肢を失った場合
等級 | 基準 |
1級3号 | 両上肢をひじ関節以上で失ったもの |
2級3号 | 両上肢を手関節以上で失ったもの |
②1上肢を失った場合
等級 | 基準 |
4級4号 | 1上肢をひじ関節以上で失ったもの |
5級4号 | 1上肢を手関節以上で失ったもの |
③具体的な認定基準
「上肢をひじ関節以上で失ったもの」
以下のいずれかの場合
1.肩関節において、肩甲骨と上腕骨とを離断したもの
2.肩関節とひじ関節との間において上肢を切断したもの
3.ひじ関節において、上腕骨と橈骨及び尺骨とを離断したもの
「上肢を手関節以上失ったもの」
以下のいずれかの場合
1.ひじ関節と手関節との間で切断したもの
2.手関節において、橈骨及び尺骨と手根骨とを離断したもの
(「障害認定必携」より引用)
後遺障害等級の判断基準(上肢の機能障害)
①上肢の用を全廃したもの
等級 | 基準 |
1級4号 | 両上肢の用を全廃したもの |
5級6号 | 1上肢の用を全廃したもの |
「上肢の用を全廃したもの」とは,以下の場合を指します。
三大関節(肩関節・肘関節・手関節)の全てが強直(※)している
かつ
手指の全部の用を廃している
※関節が可動性を失い,動かなくなった状態
②関節の用を廃したもの
等級 | 基準 |
6級6号 | 1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの |
8級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの |
「関節の用を廃したもの」とは,以下のいずれかの場合を指します。
1.関節が強直したもの
2.関節の完全弛緩性麻痺またはこれに近い状態(※)にあるもの
3.人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの
※「これに近い状態」とは,自動の可動域が10%程度以下になった場合を指します。
(例)健側の可動域が150度の場合,患側の可動域が15度以下であれば関節の用廃となる
③関節の機能に著しい障害を残すもの
等級 | 基準 |
10級10号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
「関節の機能に著しい障害を残すもの」とは,以下のいずれかの場合を指します。
1.関節の可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの
2.人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の1/2分の1以下に制限されていないもの
④関節の機能に障害を残すもの
等級 | 基準 |
12級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの |
「関節の機能に障害を残すもの」とは,以下の場合を指します。
関節の可動域が健側の可動域角度の3/4以下に制限されている場合
⑤可動域の測定方法
【主要運動】
関節可動域は,関節ごとに定められる主要運動の測定値を比較します。
上肢の三大関節の主要運動は,以下の通りです。
関節 | 主要運動 | 参考可動域角度 |
肩関節① | 屈曲(前方拳上) | 180度 |
肩関節② | 外転(側方拳上) | 180度 |
肘関節 | 屈曲・伸展(※) | 145度・5度(合計150度) |
手関節 | 屈曲(掌屈)・伸展(背屈)(※) | 90度・70度(合計160度) |
なお,左右いずれも可動域制限が生じている場合,参考可動域との比較を行います。
肩関節の運動
肘関節の運動
【参考運動を用いる場合】
関節の運動には,主要運動のほかに参考運動があります。
可動域制限を判断する場合に参考運動を用いるのは,主要運動の可動域が基準をわずかに(=機能障害は5度,著しい機能障害は10度)上回る場合とされます。
関節 | 参考運動 | 参考可動域角度 |
肩関節① | 伸展(後方拳上) | 50度 |
肩関節② | 外旋・内旋 | 60度・80度(合計140度) |
手関節① | 橈屈 | 25度 |
手関節② | 尺屈 | 55度 |
後遺障害等級の判断基準(上肢の変形障害)
①偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの
偽関節とは,骨折した部位が変形癒合し,関節でない部分が曲がって関節のようになってしまった状態を指します。関節のようだが関節ではない,ニセの関節というべきものです。
偽関節に関する後遺障害は2つの種類があり,硬性補装具を必要とするかどうかにより区別されます。硬性補装具を要する場合,以下の等級に該当します。
等級 | 基準 |
7級9号 | 1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの |
「偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの」とは,以下のいずれかに該当する場合を指します。
1.上腕骨の骨幹部又は骨幹端部にゆ合不全を残し、常に硬性補装具を必要とするもの
2.橈骨及び尺骨の骨幹部又は骨幹端部にゆ合不全を残し、常に硬性補装具を必要とするもの
②偽関節を残すもの
等級 | 基準 |
8級8号 | 1上肢に偽関節を残すもの |
「偽関節を残すもの」とは,以下のいずれかに該当する場合を指します。
1.上腕骨の骨幹部等にゆ合不全を残すが硬性補装具を必要とはしないもの
2.橈骨及び尺骨の両方の骨幹部等にゆ合不全を残すが硬性補装具を必要とはしないもの
3.橈骨または尺骨のいずれか一方の骨幹部等にゆ合不全を残すもので、時々硬性補装具を必要とするもの
③長管骨に変形を残すもの
等級 | 基準 |
12級8号 | 長管骨に変形を残すもの |
「長管骨に変形を残すもの」とは,以下のいずれかに該当する場合を指します。
1.上腕骨に変形を残し、外見から想定できる程度のもの(=15度以上屈曲して不正癒合したもの)
2.橈骨及び尺骨の両方に変形を残し、外見から想定できる程度のもの(=15度以上屈曲して不正癒合したもの)
3.上腕骨、橈骨又は尺骨の骨端部に癒合不全を残すもの
4.橈骨又は尺骨の骨幹部又は骨幹端部に癒合不全を残し、硬性補装具を必要としないもの
5.上腕骨、橈骨又は尺骨の骨端部のほとんどを欠損したもの
6.上腕骨(骨端部を除く)の直径が2/3以下に減少したもの
7.橈骨又は尺骨(骨端部を除く)の直径が1/2以下に減少したもの
8.上腕骨が50度以上、外旋又は内旋で変形癒合しているもの
(「障害認定必携」より引用 再掲)
後遺障害等級の判断基準(手指の欠損障害)
①「手指を失ったもの」
等級 | 基準 |
3級5号 | 両手の手指の全部を失ったもの |
6級8号 | 1手の5の手指またはおや指を含み4の手指を失ったもの |
7級6号 | 1手のおや指を含み3の手指またはおや指以外の4の手指を失ったもの |
8級3号 | 1手のおや指を含み2の手指またはおや指以外の3の手指を失ったもの |
9級12号 | 1手のおや指またはおや指以外の2の手指を失ったもの |
11級8号 | 1手のひとさし指、なか指またはくすり指を失ったもの |
12級9号 | 1手のこ指を失ったもの |
「手指を失ったもの」とは,以下の場合を指します。
1.手指を中手骨又は基節骨で切断したもの
2.親指については指節間関節、それ以外の指については近位指節間関節において、基節骨と中節骨が離断したもの
(「障害認定必携」より引用)
②「手指の一部を失ったもの」
等級 | 基準 |
13級7号 | 1手のおや指の指骨の一部を失ったもの |
14級6号 | 1手のおや指以外の手指の指骨の一部を失ったもの |
1指骨の一部を失っていること(遊離骨片の状態を含む)がX線写真より確認できるものを指します。
後遺障害等級の判断基準(手指の機能障害)
①「手指の用を廃したもの」
等級 | 基準 |
4級6号 | 両手の手指の全部の用を廃したもの |
7級7号 | 1手の5の手指又はおや指を含み4の手指の用を廃したもの |
8級4号 | 1手のおや指を含み3の手指の用を廃したもの又はおや指以外の4の手指の用を廃したもの |
9級13号 | 1手のおや指を含み2の手指の用を廃したもの又はおや指以外の3の手指の用を廃したもの |
10級7号 | 1手のおや指又はおや指以外の2の手指の用を廃したもの |
12級10号 | 1手のひとさし指、なか指又はくすり指の用を廃したもの |
13級6号 | 1手のこ指の用を廃したもの |
「手指の用を廃したもの」とは,以下のいずれかの場合を指します。
1.手指の末節骨の長さの1/2以上を失ったもの
2.中手指節関節又は近位指節間関節(親指については指節間関節)の可動域が1/2以下に制限されるもの
3.親指について、橈側外転又は掌側外転のいずれかの可動域が1/2以下に制限されるもの
4.手指の末節の指腹部及び側部の深部感覚及び表在感覚完全に脱失したもの
(「障害認定必携」より引用 再掲)
②「遠位指節間関節を屈伸することができないもの」
等級 | 基準 |
14級7号 | 1手のおや指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの |
「遠位指節間関節を屈伸することができないもの」とは,以下のいずれかの場合を指します。
1.遠位指節間関節が強直したもの
2.屈伸筋の損傷等原因が明らかなものであって、自動で屈伸ができないもの又はこれに近い状態にあるもの
後遺障害に対する損害賠償額
後遺障害等級が認定された場合,主に後遺障害に対する慰謝料及び逸失利益が発生します。
もっとも,その金額は一律ではなく,計算基準や計算方法によって大きく異なります。保険会社は,弁護士がいない場合には自賠責基準を念頭に金額提示を行い,弁護士が入った場合には裁判基準を念頭に計算するのが通常です。
ここでは,弁護士の有無による損害賠償額の差異に関する一例として,以下のケースを題材に各基準の計算を紹介します。
【ケース】
症状固定時50歳,年収500万円,上肢の関節機能障害で10級10号認定
①自賠責基準
①後遺障害慰謝料
=190万円
②後遺障害逸失利益
=271万円
③合計
=461万円
②裁判基準
①後遺障害慰謝料
=550万円
②後遺障害逸失利益
=500万円×27%×13.1661(17年ライプ)
=17,774,235円
③合計
=23,274,235円
③差額
23,274,235円-461万円
=18,664,235円(約5倍)
あくまで単純計算の結果であるため,現実にこの金額が受領できるかは別問題ですが,少なくとも弁護士への依頼によって大きく増額する余地のあることが分かります。
上肢・手指の後遺障害は弁護士に依頼すべきか
①等級認定に際しての弁護士依頼
上肢や手指の後遺障害は,申請時の検査内容・診断内容が結果に直結することが多く見られる類型です。特に機能障害は,基本的に後遺障害診断書上の関節可動域の測定値をほぼ唯一の基準にして判断されるものであるため,申請を行う前に,さらには可動域の測定を行う前に,どのような等級の獲得を目指していくのかを明確にして手続を進める必要があります。
これらの進め方や判断に関しては,交通事故に精通した弁護士に依頼をするのが最も確実でしょう。弁護士に依頼し,適切な方針で適切な対応をしてもらうことにより,障害の程度を正確に反映した等級認定や賠償の獲得が可能になります。
②金額交渉に際しての弁護士依頼
具体例で紹介した通り,同じ後遺障害等級認定が得られた場合でも,その具体的な損害賠償額は弁護士の有無で大きく異なります。保険会社は,弁護士の有無で計算を異にする運用をしているため,十分な損害賠償額を獲得するためには弁護士への依頼が必要と考えてよいでしょう。
上肢・手指の後遺障害に強い弁護士をお探しの方へ
上肢・手指の後遺障害は,生活上の行動に直接影響するため,適切な等級認定と金銭賠償を獲得する必要が非常に大きいと言えます。
しかし,等級認定基準や賠償額を正確に把握して,その内容に沿って必要な対応を行うのは容易でなく,交通事故に精通した弁護士へのご相談が適切でしょう。
さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,1000件を超える数々の交通事故解決に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内いたします。
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