●脳の傷害に関する後遺障害等級にはどのようなものがあるか?
●脳の後遺障害等級の判断基準は?
●後遺障害等級認定を獲得するためのポイントは何か?
●後遺障害等級認定が難しい場合は?
●脳の後遺障害については弁護士に依頼すべきか?
という悩みはありませんか?
このページでは,脳の後遺障害等級についてお困りの方に向けて,脳の後遺障害に関する類型や判断基準,弁護士依頼の要否などを解説します。
目次
脳の損傷における症状
脳の損傷は,交通事故で頭部に衝撃が加わった結果,脳挫傷という形で発生することが多く見られます。
特に,自動車の乗車中でなく,歩行中や単車や自転車の乗車中など,事故の衝撃が頭部に直接及びやすい場合に,脳へのダメージが生じる可能性が高くなります。
脳に損傷を負った場合の症状としては,意識障害,手足の麻痺,頭痛,吐き気といったものや,記憶力,意思疎通能力,判断力,感情のコントロールなどに影響が生じる,いわゆる高次脳機能障害が挙げられます。
ポイント
脳の損傷は,頭部外傷に伴う脳挫傷を原因とする
症状は,身体機能への影響に加えて高次脳機能障害がある
脳の損傷に関する後遺障害の類型と判断基準
脳の損傷に関する後遺障害等級としては,以下のようなものが挙げられます。
脳の損傷に関する後遺障害等級の主な類型
①高次脳機能障害
②外傷性てんかん
③遷延性意識障害
④神経症状(脳挫傷痕に関するもの)
【高次脳機能障害】
頭部外傷の影響で,認知機能,行動制御能力,記憶能力などに制限の生じる後遺障害です。
等級 | 基準 |
1級 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
2級 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの |
3級 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの |
5級 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
7級 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
9級 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
【外傷性てんかん】
脳の中枢神経が損傷したことにより,神経細胞に異常が生じ,発作が発生する障害です。発作の頻度や程度に応じた後遺障害等級の定めがあります。
等級 | 基準 | 具体的な要件 |
5級 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 1ヶ月に1回以上の発作があり、かつその発作が転倒する発作等(※)であるもの |
7級 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 転倒する発作等が数ヶ月に1回以上あるもの又は転倒する発作等以外の発作が1ヶ月に1回以上あるもの |
9級 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの | 数ヶ月に1回以上の発作が転倒する発作等以外の発作であるもの又は服薬継続によりてんかん発作がほぼ完全に抑制されているもの |
12級 | 局部に頑固な神経症状を残すもの | 発作の発現はないが、脳波上に明らかにてんかん性棘波(きょくは)を認めるもの |
【遷延性意識障害】
遷延性意識障害(せんえんせいいしきしょうがい)とは,脳挫傷の影響で意識が戻らない状態,いわゆる植物状態になった場合です。
具体的には,治療にもかかわらず以下の6つの症状が3か月以上続いた場合,遷延性意識障害の診断対象になるとされています。
①自力で移動できない
②自力で食事ができない
③糞・尿の失禁がある
④言葉を発せても意味のある発語ができない
⑤意思疎通がほとんどできない
⑥眼球が動いたとしても何も認識できない
等級 | 基準 |
1級(要介護) | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
【脳挫傷痕】
MRI等で脳挫傷痕の存在が認められ,頭痛や神経痛等の症状を引き起こす場合です。
等級 | 基準 |
12級 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
後遺障害等級認定を獲得するポイント
脳の損傷に関して後遺障害等級を獲得するために重要なポイントとしては,以下のような点が挙げられます。
①事故直後の意識障害
高次脳機能障害は,事故後に一定期間の意識障害があったかどうかが重要な判断要素の一つとなっています。
具体的には,以下の基準が用いられています。
要件 | 具体的基準 |
①6時間以上のこん睡状態 | JCS3桁又はGCS8点以下 |
②1週間以上の意識障害 | JCS1~2桁又はGCS13~14点 |
【JCS】(数値が大きいほど重篤)
数値 | 状態 |
0 | 意識清明 |
【Ⅰ桁】 | 刺激しなくても覚醒している状態 |
1 | 大体意識清明だが、今ひとつはっきりしない |
2 | 見当識障害がある |
3 | 自分の名前、生年月日がいえない |
【Ⅱ桁】 | 刺激すると覚醒する状態 |
10 | 普通の呼びかけで容易に開眼する |
20 | 大きな声または体をゆさぶることにより開眼する |
30 | 痛み刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すと辛うじて開眼する |
【Ⅲ桁】 | 刺激しても覚醒しない状態 |
100 | 痛み刺激に対しはらいのけるような動作をする |
200 | 痛み刺激で少し手足を動かしたり、顔をしかめたりする |
300 | 痛み刺激に反応しない |
【GCS】(E・V・M 3つの合計値が小さいほど重篤)
【E】 | 開眼 |
4 | 自発的に眼を開けている |
3 | 呼びかけにより眼を開ける |
2 | 痛みにより眼を開ける |
1 | 眼を開けない |
【V】 | 最良言語反応 |
5 | 見当識あり |
4 | 会話はできるが混乱 |
3 | 発語はできるが不適当 |
2 | 発声はできるが理解不可 |
1 | 反応なし |
【M】 | 最良運動反応 |
6 | 命令に応じる |
5 | 痛みの部位を認識する |
4 | 痛みで屈曲反応(逃避) |
3 | 痛みで屈曲反応(異常) |
2 | 痛みで伸展反応 |
1 | 反応なし |
②脳損傷が画像上確認できること
脳損傷の存在を画像で確認される必要があります。できればMRIで,難しい場合はCTで,脳に器質的損傷が生じているかを早期に確認してもらうことが非常に重要となります。
重傷を負った救急治療の状況では,MRIの撮影がなされない場合も考えられますが,CTのみでは診断に不十分な場合も多いため,早めにMRIの撮影を受けるようにしましょう。また,脳損傷は事故後に時間をかけて進行を見せる場合も多いため,継続的に画像撮影を受け,経過の確認をしてもらうのが適切です。
これらの画像撮影を通じて,脳損傷が適切に確認されることは,後遺障害等級認定にとっても非常に重要なポイントとなります。
③脳の損傷を示す傷病名の診断
脳の器質的損傷を前提とする傷病名としては,脳挫傷や外傷性くも膜下出血,急性硬膜下血腫,びまん性軸索損傷といった傷病名が挙げられます。これらのいずれかに該当することを確認してもらった上で,診断名に明記してもらいましょう。
脳の損傷を前提とする診断名の存在は,後遺障害等級認定にとって非常に重要なポイントとなります。逆に,脳震盪などの比較的軽微な診断にとどまってしまうと,診断からは脳の損傷が判然とせず,後遺障害等級認定にとって大きな不利益となる可能性があります。
④高次脳機能障害に該当する症状
高次脳機能障害に該当する障害や主な症状は,以下のように整理されます。
障害 | 症状 |
①失語症 | なめらかにしゃべれない 相手の話を理解できない 字の読み書きができない |
②注意障害 | 作業にミスが多い 気が散りやすい |
③記憶障害 | 物の置き場所を忘れる 何度も同じことを話したり,質問したりする |
④行動と感情の障害 | 気持ちが沈みがちだ 突然興奮したり,怒りだしたりする 気持ちが動揺する |
⑤半側空間無視 | 片側を見落としやすい 片側にあるものにぶつかりやすい |
⑥遂行機能障害 | 行きあたりばったりの行動をする 一つひとつ指示されないと行動できない |
⑦失行症 | 道具がうまく使えない 動作がぎこちなく,うまくできない |
⑧半側身体失認 | 麻痺した手足がないようにふるまう 麻痺がないようにふるまう 麻痺がなくても片側の身体を使わない |
⑨地誌的障害 | 自宅でトイレに迷う 近所で道に迷う |
⑩失認症 | 物の形(色)がわからない 人の顔がわからない,見わけられない |
これらの症状が顕著に見受けられる場合,高次脳機能障害に該当する可能性が高いでしょう。
後遺障害等級認定が得られづらくなる事情
等級認定が得られなくなりやすい場合としては,事故との因果関係が問題になるケースが挙げられます。具体的には,以下のような事情が問題になりやすいところです。
①当初の診断内容
事故直後の診断内容が後遺障害の想定されない比較的軽微な内容であった場合,その後に何らかの症状が生じたとしても,事故との因果関係が否定されやすい傾向にあります。
②事故後,症状の発現までに期間経過があった場合
事故後には目立った症状がなかったものの,一定期間の経過後に初めて症状が出現した場合,因果関係の問題が生じやすいです。
必ず因果関係が否定されるというものではありませんが,以下のような要素をもとに因果関係を慎重に検討する必要が生じるところです。
因果関係の判断要素
・事故から症状発現までの期間
・事故態様,受傷の態様
・事故直後の症状
・事故後,発症までの症状経過
・画像所見の有無
・症状が発現することの合理性
③事故直後の症状が記録されていない場合
病院側の作成する診断書やカルテなどの書面に事故直後の症状が記録されていない場合,事故直後の症状が実際に存在したのか,という問題が生じ,ひいては症状と事故との因果関係が問題になることがあります。
このような問題を防ぐためには,できる限り綿密な相談や検査の上で,医師の先生に症状を十分把握してもらうよう努めることが適切でしょう。
④既往症がある場合
交通事故以前に脳梗塞を発症していたなど,脳の損傷が事故によるものかそれ以前の既往症によるものか判然としない場合,事故との因果関係が問題になり得ます。
既往症でなく事故による症状と言えるケースとしては,事故前後で症状が大きく異なる場合や,画像上の病変が著しい場合などが挙げられます。
脳の後遺障害については弁護士に依頼すべきか
脳の後遺障害は,その基準が測定値などで形式的に定められておらず,総合的な判断が必要となるため,等級認定を獲得するための対応も容易ではありません。また,障害の程度も大きく,想定される後遺障害等級も上位のものであることが多いため,適切な結果が得られた場合とそうでなかった場合の損害額の差は非常に大きくなります。
そのため,活動の難易度や結果への影響の大きさを踏まえると,弁護士に依頼し,適切な後遺障害等級の認定と損害賠償の獲得を目指すのは非常に有益でしょう。
脳の後遺障害については,弁護士への依頼をお勧めいたします。
交通事故における脳の後遺障害に強い弁護士をお探しの方へ
脳の受傷は,お身体への影響が強く,根気強い治療の必要な性質のものであることが非常に多いところです。
受傷された方やご関係者の方におかれましては,まず心よりお見舞い申し上げます。
脳の受傷については,その内容や程度によって複数の後遺障害等級認定の可能性があるため,適切な等級認定と十分な損害賠償を獲得するためには,交通事故に精通した弁護士へのご相談をお勧めいたします。
さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,1000件を超える数々の交通事故解決に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内いたします。
ご相談やお困りごとのある方は,お気軽にお問い合わせください。
お問い合わせ
法律相談のご希望はお気軽にお問い合わせください
※お電話はタップで発信できます。メールは問い合わせフォームにアクセスできます。