付添看護費・将来介護費はどのような場合に認められるか?
入院中の看護をした場合にはいくら請求できるか?
将来介護費が請求できる場合は?
将来介護費の計算方法が知りたい
通院や通学に付き添った場合には補償を求められるか?
交通事故で要介護認定を受けた場合に補償してもらえるか?
といった悩みはありませんか?
このページでは,付添看護費や将来介護費についてお困りの方に向けて,看護費や介護費が発生するケースやその内容・金額などを解説します。
目次
付添看護費とは
交通事故における付添看護費とは,交通事故被害者が治療を受けている間,主に入通院に際して他者の付添が必要となる場合に,その付添のために発生する費用をいいます。
①付添看護費の種類
付添看護費としては,大きく分けて以下の3つがあります。
①入院付添費
→入院中の生活に際して付添を要する場合の付添費用
②通院付添費
→通院治療を受けるための移動や診察に際して付添を要する場合の付添費用
③自宅付添費
→治療期間中の自宅での生活に近親者などの付添を要する場合の付添費用
②付添看護費が認められる場合
付添看護費が認められる代表例は,医師から付添の指示がなされた場合です。付添を要するかどうかは医学的な評価・判断が必要な事項であるため,主治医が根拠を持って付添看護が必要である旨を指示するのであれば,付添看護費の発生は通常認められるでしょう。
その他,付添看護費が発生しやすいケースとしては,被害者が子ども又は高齢者である場合が挙げられます。
被害者が子どもであると,一人で入通院するのは現実的でないため,付添看護費の発生が認められるのが通常です。自賠責保険の基準では12歳以下の子どもについて付添看護費の発生が認められるため,12歳以下であるかどうかを基準とする運用が広く採用されています。
被害者が高齢者の場合,その生活状況や症状の内容を踏まえて,付添看護が必要かどうかが判断されます。一人で私生活を送ることや,一人で入通院治療を受けることが困難である場合には,付添看護費が発生しやすい傾向にあります。
③入院付添費に関する問題点
入院の場合,基本的に病院が適切な看護体制を設けており,看護師によるサポート以上に近親者の付添が必要とされることはあまりありません。そのため,看護体制が不十分でない限り,入院付添費が発生するケースは非常に限られやすいところです。
具体的には,被害者の年齢が非常に低く,親が付き添わなければ精神的に不安定となって入院治療に支障を来してしまう場合などが挙げられます。看護師による看護ではカバーできない部分について付添の必要がある場合に限り,入院付添費が認められるというのが一般的な運用です。
付添看護費の金額
付添看護費は,自賠責保険にも支払の基準のある損害項目です。そのため,いわゆる自賠責基準と裁判基準の金額がそれぞれ存在します。具体的には以下の通りです。
①入院付添費
自賠責基準では,1日につき4,200円と定められています。
裁判基準では,近親者が付き添いをした場合に,1日につき6,500円が認められるのが基本的な運用です。
②通院付添費
自賠責基準では,近親者の付添1日につき2,100円と定められています。
裁判基準では,症状や年齢を踏まえて近親者の付添を要する場合,1日につき3,300円を原則として認められます。
③自宅付添費
自賠責基準の場合,自宅の看護と通院看護が同様に扱われるため,通院付添費と同じく近親者の付添1日につき2,100円と定められています。
裁判基準の場合,具体的な金額はケースによりますが,自宅における近親者の付添は概ね1日につき8,000円ほどを上限額の目安に認める運用が多く見られます。
まとめ
項目 | 【自賠責基準】 | 【裁判基準】 |
入院付添費 | 4,200円 | 6,500円 |
通院付添費 | 2,100円 | 3,300円 |
自宅付添費 | 2,100円 | 8,000円ほどが上限額の目安 |
将来介護費とは
後遺障害が残ったことにより,被害者が介護を要する状況となった場合,その介護のために発生する費用を将来介護費といいます。
将来介護費は,一生涯必要となる費用のため,必然的にその金額は非常に大きなものとなります。一方で,介護を要する場合にしか発生しない費用であり,将来介護費が想定されるのは極めて重大な後遺障害等級が認定されたケースに限られます。
将来介護費の金額は,親族が行う近親者介護の場合と,業務として行う職業介護の場合とで変わります。職業介護の方が介護費用の日額が高くなるため,将来介護費の全体額も大きくなってきます。ただし,職業介護を要するとの判断は,近親者介護を要するとの判断よりもハードルの高いものであることには留意が必要です。
将来介護費が請求できる場合
将来介護費が認められるケースとしては,以下のような場合が挙げられます。
①介護を要する後遺障害の認定を受けた場合
交通事故の後遺障害等級には「介護を要する後遺障害」とそうでない「後遺障害」の2種類があります。このうち,「介護を要する後遺障害」は,後遺障害の内容として常時又は随時の介護が必要であることを前提とするものであり,将来介護費が認められる代表的なケースと言えます。
具体的な等級認定基準は以下の通りです。
等級 | 認定基準 |
第1級 | 1 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,常に介護を要するもの 2 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し,常に介護を要するもの |
第2級 | 1 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,随時介護を要するもの 2 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し,随時介護を要するもの |
この点,要する介護の内容は,食事や入浴,排せつ,着替えなど,生命の維持に必要な活動を指すのが一般的です。
これらの活動に対して,誰かが常に近くにいて介護する必要がある場合,「常に介護を要する」と評価され,呼ばれれば介護する必要があるという場合,「随時介護を要する」との評価になりやすいです。
②類型的に介護を要する後遺障害等級の場合
要介護でない後遺障害等級であっても,類型的に介護を要しやすいものがあります。
具体例としては,高次脳機能障害が挙げられます。
高次脳機能障害は,重大なものであれば「介護を要する後遺障害」の1級又は2級に認定されることもあり,その場合は将来介護費が想定されやすいところです。もっとも,3級以下の高次脳機能障害であるからといって必ずしも将来介護費が発生しないわけではありません。過去の裁判例では,食事や更衣,屋外歩行などに見守りや介助を要する場合に,一定の近親者介護費を認めたものもあります。
他には,下肢の機能障害で歩行が不能となった場合や,視力障害で行動の監視が必要な場合など,介護を要する後遺障害には当たらないものの,一定の介護を要する類型の後遺障害等級であるケースだと,一定額の将来介護費が認められることがあります。
将来介護費の計算方法
①基本的な計算式
将来介護費は,以下の計算式で算出されます。
将来介護費
=「介護費の日額」×365日×「平均余命に対応するライプニッツ係数」
基本的な考え方は,1年分の介護費を日額×365で出し,これに生涯を遂げるまでの年数を掛け合わせる,というものです。もっとも,単純に「日額×365×平均余命の年数」としてしまうと,利息の分だけ金額が大きくなりすぎてしまうという問題があります。
法律上,金銭は利息を生むものと理解されています。本稿執筆時の法定利率は年3%であるため,100万円は1年後に利息3%を含む103万円の価値になっている,というのが法律の理解です。
そのため,将来受け取るはずだったものを今受け取る場合,受け取った時点から本来受け取るはずだった時点までの利息の分だけ,早く受け取った方が得をしているという考え方になるのです。
そのため,一括で支払う場合,この期間の利息(中間利息)を差し引いた金額を支払うのが適切ということになりますが,この中間利息を差し引くために用いられる数字が「ライプニッツ係数」です。
将来介護費の計算に当たっては,「日額×365×平均余命の年数」の金額から,利息分を差し引いた金額になる,との理解をすると適切でしょう。
②介護費の日額
将来介護費では,その日額が問題になりやすい項目です。
具体的には,職業付添人による介護が必要か,近親者付添人の介護が可能か,という点の区別によって,日額が異なります。
職業介護の場合はその実費(概ね15,000円~20,000円ほど)が日額となり,近親者介護の場合は1日8,000円ほどを日額とみなす場合が多く見られます。近親者介護よりも職業介護の方が日額は大きくなるのが通常です。
ポイント
①将来介護費が生じるのは,介護を要する後遺障害の場合や,類型的に介護を要しやすい後遺障害等級が認定された場合
②介護費の計算は「介護費の日額」×365日×「平均余命に対応するライプニッツ係数」
③日額は職業介護か近親者介護かによって異なる
子の付添のために休業した親への補償
先に解説した通り,近親者の入院付添費は1日につき6,500円とするのが裁判基準の運用です。入院に付添を要した場合,1日当たり6,500円が本人の損害として計上されます。
しかしながら,近親者が入院付添を行う場合,仕事を休んで看護をしているケースも考えられますが,入院付添費は休業による収入減少を補填するものではありません。現実的にも,1日当たり6,500円を超える収入があった場合だと,入院付添費を受領してもトータルで経済的にマイナスとなってしまいます。
この場合は,できるだけ早く相手保険会社に事情を伝えた上で,休業損害についても支払ってもらうよう交渉を試みるのが適切でしょう。なお,休業損害が支払われる場合,休業損害相当額と入院付添費のいずれか大きい方の金額が支払われるのが一般的です。
事故の受傷で要介護認定を受けた場合の影響
介護に関しては,介護保険における要支援・要介護の認定制度があります。
これは,支援や介護を受ける必要の程度に応じて,必要な介護サービスを国から受けられるというものです。
交通事故の損害賠償とは別の公的な援助制度であり,その種類は程度に応じて以下のように分けられています。要支援より要介護の方が重く,要介護5が最も重い状態となります。
要介護度 | 状態 |
自立 | 日常生活上の基本的動作を自分で行うことが可能 |
要支援1 | 介護予防のため何らかの支援を要する状態 |
要支援2 | 何らかの支援が必要だが状態の維持や改善可能性が高い状態 |
要介護1 | 手段的日常生活動作(服薬・電話等)に部分的な介護が必要となる状態 |
要介護2 | 日常生活動作についても部分的な介護が必要となる状態 |
要介護3 | ほぼ全面的な介護が必要となる状態 |
要介護4 | 介護なしには日常生活を営むことが困難となる状態 |
要介護5 | 介護なしには日常生活を営むことがほぼ不可能な状態 |
要介護認定を受けた場合,介護を要しやすいことの裏付けの一つとはなりますが,後遺障害等級との直接の関係がない点には注意が必要です。交通事故の損害として将来介護費の支払を受けるためには,別途交通事故の後遺障害等級認定を受ける必要があります。
なお,目安としては,要介護3以上の全面的な介護を要する場合に,交通事故の後遺障害としても介護を要する後遺障害の対象となる例が多く見られます。ただし,交通事故以前にも既に介護や支援を要する状況であった場合,要介護認定が交通事故のみを原因とするものではないため,要介護認定と後遺障害等級は必ずしも整合するとは限りません。
交通事故の看護費・介護費に強い弁護士をお探しの方へ
付添看護費や将来介護費は,問題になるケースが割合的に少ないため,漫然と請求をしても支払いを拒まれる場合が少なくありません。
看護費・介護費の請求は,費用が支払われるべきであること,その金額は請求する金額であるべきことなどを,個別の事件に応じて丁寧に指摘し,交渉を行っていく必要があります。
もっとも,現実に介護の対応をされながらご自身で行うことは非常に困難なものであるため,請求をご希望の場合には弁護士へのご相談をお勧めいたします。
さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,1000件を超える数々の交通事故解決に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内いたします。
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