●逸失利益の意味を知りたい
●逸失利益はどんなときに請求できるか
●逸失利益の計算方法が知りたい
●弁護士が逸失利益を増額させる仕組みが知りたい
●逸失利益については弁護士に依頼すべきか知りたい
といった悩みはありませんか?
このページでは,交通事故の逸失利益についてお困りの方に向けて,逸失利益とは何か,逸失利益はいくら請求できるか,逸失利益の対応は弁護士に依頼するべきかなどを解説します。
目次
逸失利益の意味
逸失利益とは,交通事故がなければ得られたはずの収入が得られなくなった分の損害をいいます。
例えば,交通事故前には500万円の年収があった場合,交通事故によって全く仕事ができない状態になってしまうと,事故後の年収はゼロですが,このケースは年間500万円の逸失利益が発生することになります。
また,同じく年収500万円の人が14級の後遺障害等級認定を受けた場合,その後の年収は5%減少するとみなされるのが交通事故の運用となっています。そのため,14級の後遺障害になったケースでは年間25万円の逸失利益が発生することになります。
逸失利益が請求できる場合
逸失利益が発生するのは,大きく分けて後遺障害が残った場合と死亡事故の場合の二通りです。
これらの場合には,交通事故がなければ得られたはずの収入が事故によって得られなくなるため,逸失利益が発生することになります。
ポイント
逸失利益は,交通事故が原因で得られなくなった収入
逸失利益が請求できるのは,後遺障害が残った場合と死亡事故の場合
後遺障害逸失利益の計算方法
逸失利益は,収入のうちどの程度の割合が,どの程度の期間失われるか,という計算方法で算出されます。
簡略化すると,「収入の減額分」×「減額期間」となるところです。
例えば,年間100万円の減額が30年続くのであれば,100万円×30=3000万円という具合ですね。
もっとも,将来の減額分も一括で支払われることに配慮する必要があるため,具体的な金額は以下の計算式で計算されます。
後遺障害逸失利益
=「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」
以下,各項目の内容について解説します。
①基礎収入
逸失利益により減額してしまう前の収入額を指します。計算の基礎となる収入というべきものです。
通常,基礎収入には事故前年の収入を採用します。事故前年と同程度の収入が将来に渡って得られた可能性が高いとみなし,逸失利益を計算するというわけですね。
事故前年の収入を確認するための資料は,給与所得者の場合は勤務先の源泉徴収票,事業所得者の場合は確定申告書や所得証明書が挙げられます。その他,事故直前から仕事を開始した場合などは,事故直前の収入額をもとに年収を概算する方法を取ることもあります。
②労働能力喪失率
後遺障害によって労働能力が低下した割合を指します。労働能力が低下した割合に応じて,収入額も減少するとみなし,逸失利益を計算します。
労働能力喪失率は後遺障害等級によって決まりますが,具体的な喪失率は以下の通りです。
1級 | 100% |
2級 | 100% |
3級 | 100% |
4級 | 92% |
5級 | 79% |
6級 | 67% |
7級 | 56% |
8級 | 45% |
9級 | 35% |
10級 | 27% |
11級 | 20% |
12級 | 14% |
13級 | 9% |
14級 | 5% |
例えば,1級は労働能力喪失率が100%となるため,基礎収入額の100%,つまり全額が収入額の減少とみなされます。また,14級は労働能力喪失率が5%のため,基礎収入額の5%が収入額の減少とみなされることになります。
このように,「基礎収入」×「労働能力喪失率」によって後遺障害による年収の減額分を計算することができます。
③労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
労働能力喪失期間
労働能力喪失期間とは,労働能力の低下が生じる期間を指します。逸失利益の計算では,私たちが労働能力を有するのは67歳までとみなされるのが一般的であるため,労働能力喪失期間は,原則として以下の期間となります。
労働能力喪失期間
=67歳-症状固定時の年齢
症状固定時に30歳であれば37年,50歳であれば17年ということになります。
もっとも,症状固定時に67歳の間近であったり,67歳以上であったりすると,上記の計算式では適切な期間を割り出すことができません。そのため,「67歳-症状固定時の年齢」と平均余命の半分を比較し,後者の方が長い場合には後者を労働能力喪失期間とします。
そのため,厳密な計算式は以下の通りとなります。
労働能力喪失期間
=「67歳-症状固定時の年齢」か「平均余命の半分」のいずれか長い方
ライプニッツ係数
「年収の減少分」と「労働能力喪失期間(年数)」が分かれば,これらをかけ合わせれば逸失利益が計算できるように思えます。
例えば,年収500万円,労働能力の喪失10%,喪失期間5年であれば,以下の計算で逸失利益が出せそうです。
500万円×10%×5年
=50万円×5年
=250万円
これは,毎年50万円ずつ,5回に分けて受領するのであれば,適正額である可能性が高いでしょう。
しかし,症状固定後に一括で250万円を受領するとなると,利息の分だけもらい過ぎているという問題が生じます。
法律上,金銭は利息を生むものと理解されています。本稿執筆時の法定利率は年3%であるため,100万円は1年後に利息3%を含む103万円の価値になっている,というのが法律の理解です。
そのため,将来受け取るはずだったものを今受け取る場合,受け取った時点から本来受け取るはずだった時点までの利息の分だけ,早く受け取った方が得をしているという考え方になるのです。
そのため,一括で支払う場合,この期間の利息(中間利息)を差し引いた金額を支払うのが適切ということになりますが,この中間利息を差し引くために用いられる数字が「ライプニッツ係数」です。
ライプニッツ係数は,利息と年数によって定められますが,年利3%を前提とした5年のライプニッツ係数は「4.5797」です。これは,年利3%の場合に5年分を一括受領するのであれば,4.5797年分を受領すると5年後にちょうど5年分の金額になっている,という意味になります。
したがって,年収500万円,労働能力の喪失10%,喪失期間5年であれば,中間利息を考慮した逸失利益の金額は以下の通りになります。
500万円×10%×5年ライプニッツ
=50万円×4.5797
=2,289,850円
まとめ
逸失利益は,「収入の減額分」×「減額期間」で計算される
収入の減額は,「基礎収入」×「労働能力喪失率」
減額期間は「労働能力喪失期間」
一括でお金を受け取ると利息の分だけ得をしてしまうため,利息分を差し引いて計算するための数値が「ライプニッツ係数」
死亡逸失利益の計算方法
①基本的な計算方法
死亡逸失利益の場合も,基本的な考え方は後遺障害逸失利益と同じです。
つまり,ベースになるのは以下の計算式です。
逸失利益
=「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」
しかし,死亡の場合にはこの計算式をそのまま採用することはできません。それは,死亡事故だと死亡後には生活費が発生せずに済んでいるためです。
交通事故による損害額を計算する場合,交通事故によって得られた利益があれば,これは差し引かなければなりません。死亡逸失利益は,死亡後に得られなくなってしまった収入を指すものですが,死亡後は同時に生活費の負担がなくなるので,その生活費の分は交通事故による利益として差し引かなければならないのです。
具体的な死亡逸失利益の計算においては,「生活費控除」という形で行われます。生活費控除は,基礎収入のうち一定の割合は生活費として費消されていたはずであるとみなし,基礎収入から一定額を割り引く方法で計算されます。
例えば,独身男性の場合だと生活費控除率は50%とされます。基礎収入の50%は生活費で消えていたはずであるから,逸失利益としては支払わない,という考え方になるのですね。
したがって,40歳で年収500万円の独身男性が死亡した場合の死亡逸失利益は,以下の通り算出されます。
死亡逸失利益(40歳年収500万円の独身男性)
=500万円×50%×(労働能力喪失率=100%)×27年ライプニッツ※
※67-40=27年のため
なお,主な生活費控除率は以下の通りです。
①一家の支柱 被扶養者1人:40%
②一家の支柱 被扶養者2人以上:30%
③女性(主婦・独身・幼児等):30%
④男性(独身・幼児等):50%
ポイント
死亡逸失利益の計算では,死亡後に生活費が発生しなくなった点を考慮する必要がある
生活費が発生しなかった分を逸失利益から差し引くため,「生活費控除」がなされる
②基礎収入における特徴
死亡逸失利益の基礎収入における特徴に,年金収入も基礎収入の対象となることが挙げられます。
死亡すると年金の受給は終了してしまうため,死亡事故の場合は年金も「事故がなければ得られたはずの収入」に該当するのです。
後遺障害の場合は,年金が支払われ続けるため,このような問題は生じません。死亡事故に特有の問題ということができるでしょう。
また,年金収入者はほかの収入がない状況である場合が多いため,年金収入者の逸失利益は,基本的に死亡事故の場合にのみ発生すると考えられます。
③労働能力喪失率における特徴
死亡事故の場合,死亡後に労働できる可能性がないため,労働能力喪失率は必ず100%になります。そのため,死亡事故で労働能力喪失率,労働能力喪失期間という発想を取ることはありません。
以上を踏まえ,死亡事故の逸失利益は,死亡しなければ就労できたはずの期間について,得られたはずの収入から生活費を除いた金額を計算する,ということになります。これを計算式にすると以下の通りです。
死亡逸失利益
=「基礎収入」×(1-生活費控除率)×「就労可能年数に対応するライプニッツ係数」
なお,就労可能年数は,後遺障害における労働能力喪失期間と基本的に同内容です。
また,年金収入の場合は,その終期は生涯を遂げた時期となるため,平均余命まで健在であったとみなし,以下の通り計算します。
死亡逸失利益(年金)
=「基礎収入=年金収入額」×(1-生活費控除率)×「平均余命に対応するライプニッツ係数」
ポイント
死亡事故の基礎収入には年金収入が含まれる
死亡逸失利益の計算式は,「基礎収入」×(1-生活費控除率)×「就労可能年数に対応するライプニッツ係数」
年金収入の場合は「年金収入額」×(1-生活費控除率)×「平均余命に対応するライプニッツ係数」
弁護士への依頼で逸失利益が増加する仕組み
弁護士に逸失利益の交渉を依頼すると金額が増加することには,いくつかの理由があります。
①自賠責基準と裁判基準の差額
交通事故の損害賠償には,自賠責基準と裁判基準があります。
保険会社は,弁護士がいない場合には自賠責基準を念頭に被害者へ賠償額を提示し,弁護士が入ると裁判基準を念頭においた金額計算に切り替える運用をしています。
ここでは,以下の具体的な例に沿って見てみましょう。
【例】
年収500万円,50歳,後遺障害10級の場合
【自賠責基準の逸失利益】
自賠責保険の場合,慰謝料と逸失利益を合計した金額の上限が等級ごとに定められており,計算結果が上限を超える場合,上限額の支払となります。
慰謝料と逸失利益の合計は,基本的に上限額を超過するため,上限額が支払われるものと理解して問題ないでしょう。
この点,後遺障害10級の上限額は461万円,うち慰謝料は190万円となっております。そのため,自賠責保険から支払われる逸失利益は以下の通りです。
自賠責保険の逸失利益(年収500万円,50歳,後遺障害10級)
=10級の上限額-10級の自賠責慰謝料
=461万円-190万円
=271万円
任意保険会社の立場としては,自賠責保険から出る金額のみを支払って解決できるのであれば,自社の負担がなくなるため,この金額での解決が最も有益ということになります。
そのため,任意保険会社が自社に最も有利な提案を行う場合,逸失利益を271万円として提示する可能性が想定されます。
【裁判基準の逸失利益】
裁判基準の逸失利益は,以下の計算式で算出されます。
後遺障害逸失利益
=「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」
この点,基礎収入は年収額の500万円,労働能力喪失率は10級の場合27%,労働能力喪失期間は50歳から67歳までの17年であり,17年のライプニッツ係数は13.1661となります(年利3%を前提とした場合)。
そのため,裁判基準の逸失利益を単純計算すると,以下の通りになります。
後遺障害逸失利益(年収500万円,50歳,後遺障害10級)
=500万円×0.27×13.1661
=17,774,235円
この金額は,実に自賠責基準の6.5倍以上です。
あくまで単純計算の結果であるため,現実にこの金額が受領できるかは別問題ですが,少なくとも弁護士への依頼によって大きく増額する余地のあることが分かります。
②労働能力喪失期間に関する保険会社の取り扱い
後遺障害の逸失利益に関しては,労働能力喪失期間が問題になるケースが多数見られます。
例えば,最も件数の多い14級9号の場合,労働能力喪失期間は概ね5年以内とされるのが一般的ですが,現実の解決に際して5年とするのかより短い期間とするのか,という点が争点になりやすい状況にあります。
この点,保険会社は,弁護士のいない場合,逸失利益を2~3年として金額提示することが非常に多く見られます。逸失利益を5年以内とする,といった運用を把握していない当事者の方だと,2~3年の提示が妥当であるかも判断は難しく,言われるまま合意することもあり得るでしょう。
しかしながら,喪失期間5年とした場合の逸失利益は,喪失期間2年の場合の約2.4倍になります。そのため,保険会社の提示通りに合意すると,逸失利益が2倍以上になる可能性を手放す結果になりかねないのです。
この場合,弁護士に依頼し,弁護士を通じて喪失期間5年とすることを念頭にした示談交渉を行うことで,逸失利益は大きく増加する可能性が生じることになります。
ポイント 弁護士への依頼で逸失利益が増える理由
自賠責基準と裁判基準の差額
労働能力喪失期間に関する交渉
逸失利益は弁護士に依頼すべきか
逸失利益の問題は,基本的に弁護士への依頼が適切でしょう。
逸失利益が発生しているということは,死亡又は後遺障害が存在するほどの重大事故であり,損害の規模が非常に大きいため,弁護士に依頼することによる増額の余地も大きい場合がほとんどです。
もっとも,いわゆる費用倒れのリスクが気になることも少なくないと思います。この場合,逸失利益について既に金額提示をお受けになっているのであれば,その内容をお示しいただきながら弁護士にご相談されるのが有力でしょう。
保険会社の提示内容を踏まえて弁護士にご相談いただければ,具体的な増額の可能性や弁護士費用との兼ね合いも含めて弁護士からのご案内が可能です。
交通事故の逸失利益に強い弁護士をお探しの方へ
逸失利益は,後遺障害に関する損害の中でも,金額・位置付けともに最大の問題になる項目です。
また,その金額は,就労や収入に関する個別の事情が反映されやすいため,交渉は専門家を通じて適切な方法で行うべきでしょう。
逸失利益が生じるほど重大な損害が発生している事件であれば,一度は弁護士にご相談されることをお勧めします。
さいたま市大宮区の藤垣法律事務所では,1000件を超える数々の交通事故解決に携わった実績ある弁護士が,最良の解決をご案内いたします。
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